人の噂も七十五日というけれど、それは75日間で噂にはならなくなるというよりも、むしろ75日間  
は他人の話題の俎上に上ることをじっと我慢しなければならないということだ。  
それは、ろくに面識もない連中から好奇の目で見られるわけであり、何か事を為すときには周囲の目を  
気にしなくてはならず、芸能人でもない1人の一般人としてはたまったものではない。  
そう、遺憾ながら今の俺がおかれている境遇がまさにそれである。  
俺は自らまいた種によって、周囲の目を気にしながら校内を歩かねばならない境遇になってしまった。  
 
 
 
先日、古泉の息がかかった悪役然とした生徒会長により、ハルヒの退屈しのぎのために仕組まれた文芸部  
無期限休部騒動。  
それを知って、これほどおもしろいことはないと嬉々としたハルヒは、50カラットのダイヤモンドもく  
すむほどの輝きで、その大きな瞳を煌めかせた。  
そして、SOS団の配下と言っても過言ではない文芸部の休部阻止のため、条件として指定された会報誌を  
発行することになった。  
俺はその会報誌への執筆を、鬼編集長と化したハルヒによって命ぜられた。しかも、こともあろうに恋愛  
小説を、だ。  
 
俺に恋愛小説を書けだなどというのは、ウナギに直立歩行をしろということと同じだ。つまりはありえな  
いし、俺にそれを求めてはならいない。  
そのあり得ないことを呻吟しつつ、古泉から助言だか茶化しているんだかわからないことを囁かれ、俺の  
脳みそから水分がなくなるんじゃないかと思えるほど絞り出した結果、完成したものが例の恋愛小説もど  
きであった。  
自分で言うのもなんだが、内容は決して恋愛とは言えないだろう。なにせ、小学生の妹の友人に誘われて  
一緒に遊びに行ったという他愛もない話だ。  
しかし、俺の書いた小説は、周囲の人間に予想をだにしないような様々な影響を与えてしまったようだ。  
もちろん、すでに語られたハルヒやその他のSOS団の面々のことではないし、わざわざここで述べる必要  
もあるまい。問題はその他の連中だ。  
 
会報誌発行期限のその日、印刷されて未だ湯気さえ立ち上りそうな状態のそれは、即日配布完了した。  
その翌日、教室に入るやいなや、憎しみとも羨望ともつかぬオーラを込めた視線が俺の体にぶつかって  
は自然落下するのを感じた。  
俺にそんな視線を向けた人間は2人。谷口と山根だ。  
「キョン。お前、かわいい小学生とデートしたっていう小説、あれ実話だろ?まったくお前はうらやま  
しいやつだぜ」  
「そ、そうなんだな。うらやましいんだな。キョン」  
谷口、山根、お前達はそこまで見境がないのか…。相手は小学生だぜ。しかも、ただ映画を見に行った  
だけで、デートだなんて勘違いも甚だしいぞ。  
 
すると谷口の奴は、まるで古泉のように肩をすくめ、  
「お前はなにもわかっちゃいねえ。いいか、今どきの小学生なんて、顔つきもスタイルも大人顔負け  
なんだぜ。そんな子とデートできるだなんて、試験で赤点を取らなかったぐらいにめでたいことなんだ。  
それなのに……キョン、お前は許さん!!」  
「俺も許さないんだな、キョン。僕だってだって、ミヨキチちゃんとデートしたいんだな」  
谷口め。まったく、どこから仕入れた知識だよ。俺の妹を見ている限り、大人顔負けだなんてありえん。  
寝言は寝てから言えってんだ。しかし谷口、その例えはよくわからん上に、お前の小ささをよく表して  
いるぞ。  
ただ、ミヨキチに関して言えば、的を射ていると言えなくもないが……。それは谷口には言わない。  
それから山根、お前はしゃべるな。この変態め!  
ミヨキチちゃんなどと、なれなれしい呼び方をするんじゃねえ。  
 
山根。  
……心の底から否定したいが、残念ながら俺のクラスメイトだ。  
こいつはアイドル研究部に入っているといったか。  
それが関係あるかどうかはわからないが、以前朝倉がいたときに、こいつはあろうことか彼女の匂いを  
かいでは恍惚の表情を浮かべるという変態的性行で、クラスの女子のみならず、俺たち男子をも引か  
せたという武勇伝? を持つ男だ。  
そう言えば、文化祭に俺と谷口・国木田の3人組で朝比奈さんのクラスが出店している焼きそば喫茶に  
お邪魔したのだが、山根が先客でいたっけか?  
……奴はウェイトレス役の女子生徒が通るたび、彼女たちの匂いを吸い込もうと犬か猫のように鼻をヒ  
クヒクと働かせていた。  
もし、朝比奈さんや鶴屋さんの匂いまでかいでいたら、教室から突き落としてやっていたところだ。  
……思い出していて、今更のごとくムカッ腹がきた。  
目の前にいるこいつをぶん殴りたくてたまらなくなりそうだ。  
よけいなことを思い出しちまったぜ。  
そう、本当につまらない記憶だ。業務用洗濯機で洗い流してしまいたいぐらいだ……。  
 
「別に許してもらわなくてもけっこうだ」  
もはや、こいつらの相手をしていても仕方がないと思い、2人が喚く中、完全無視で席に着き授業に  
臨んだ。  
だが、これがいけなかったのか、数日後俺に関するおかしな噂がちらほらと聞こえるようになった。  
なんでも、俺が件のミヨキチと付き合っているという根も葉もない噂だ。  
実は会報誌を配布したことにより、ミヨキチの名はそれを読んだ生徒の間でも知られるようになって  
しまっていたのだ。  
だが、小学生と付き合っているだなんて冗談じゃない!  
俺は古泉と違ってノーマルであり、ペドフィリアではないのだ。  
すぐさま全校生徒に猛烈に否定して回りたい気分だが、ムキになっては噂を流した奴がほくそ笑  
むだけだ。全て黙殺しよう。  
 
──これは間違いなく、噂の発信源は谷口か山根だ。  
……山根には関わりたくないから無視するとして、谷口の奴にはそれ相応の罰を受けてもらわねば  
ならんな。  
谷口には奴が行った数多の女への告白数とその玉砕数、それにその他諸々を我が校の面々に全て  
つまびらかにしてやる。  
 
しかしながら、面識のない連中ならともかく、ハルヒをはじめとしてSOS団のメンバーが、こんな馬鹿  
げた噂話を信じるわけがない……よな?  
 
 
 
「キョン!あんた、ミヨキチって子と付き合ってるって話を聞いたんだけど、ホント?」  
今日は一言も言葉を発さなかったハルヒが、放課後俺が部室のドアを開けると同時につかみかからん  
ばかりに接近し、先の一言を放った。  
……ハルヒの奴、信じていやがるぜ。  
「おいおい、俺が小学生に手を出すわけないだろ?」  
すると、俺の発言など華麗にスルーして、どこからか一枚の写真を撮りだした。  
「キョン、この子がミヨキチよね」  
と、確かに写真に写っている微笑みを浮かべたミヨキチを指差した。  
「おい、こんなのどこで手に入れたんだ?」  
「みくるちゃんよ。彼女があんたの妹ちゃんに頼んで借りてきたの」  
 
すると、すでに部室にいた他の3人もその写真をのぞき込む。  
「あたしも妹さんに写真を借りたときに見ましたけど、小学生とは思えないぐらい大人びていて素敵で  
すねー」  
朝比奈さんは、その愛らしいお顔に笑みを浮かばせていながら、声は雪山で吹雪が吹きすさぶように冷  
え冷えとさせていた。正直怖い。  
「おやおや、あなたもなかなか隅に置けませんね。よもや光源氏計画でもお立てになったんですか?」  
俺をあんな母性に飢えたプレイボーイと一緒にするな。お前はせいぜいスマイルをひけらかしていりゃ  
いいんだよ。  
ところで今思いついたんだが、お前の通り名は『スマイル安売王』なんてどうだ?『ハンカチ王子』に匹  
敵するほどのセンスのなさだが、それが逆に味があって良いだろう?  
「残念ですが、それは丁重にお断りさせていただきます」  
だろうな。  
 
「………」  
長門は写真を見ると、ほんの一瞬彼女の目に走査線が走ったように感じた。  
だが、漆黒の色をしたその瞳からはなんの感情も読み取れなかった。  
 
「やっぱり、きれいな子ねぇ。とても小学生にはみえないわ。でもあんた、ポニーテールなら相  
手が小学生でも見境なしなの?」  
思わずお茶を吹き出してしまった。何を言っているんだ? こいつは。  
その写真のミヨキチは、いつもはお下げ髪なのだが、たまたまポニーテールをしていたのだ。  
「だからそんな噂は、アホの谷口がばらまいたデタラメだって言ってるだろ!」  
俺はむせかえりながらもハルヒに抗議した。  
しかし、ハルヒはふぅんと言って口をとがらせ、あまり信用していない様子だ。  
 
すると、朝比奈さんがおもむろに口を開いた。  
「じゃあ、あたしもポニーにしてみようかな。どう思う? キョンくん」  
はあ、それはいいですね。是非お願いします。  
俺は朝比奈さんのポニテ姿を想像してみた。  
──正直、たまりません。  
「そ・れ・は、どういう意味かしらぁ? みくるちゃん」  
口元を引きつらせて笑みを浮かべたハルヒのひと睨みで、朝比奈さんは『なんでもありませぇん』  
といってしおしおと縮こまって、そして黙り込んだ。  
 
「ちょっと、有希。あなた、なにうしろ髪をさわっているの?」  
「……別に」  
「ひょっとして有希も髪を伸ばしてポニーにしようって言うんじゃないでしょうね?」  
「……それは検討に値する」  
「なっ……!」  
 
「では、僕もポニー……」  
「うるさい、だまれ」  
古泉のボケ? を最後まで言わせず切って捨てた。  
ちょっと寂しそうだが、放っておこう。  
 
その後、俺はハルヒに弁解をくどくどと続け、やっと納得してくれたようだ。  
というか、何で俺がハルヒの誤解を必死で解こうとしているのか、自分でもわからん。が、それ以上は  
考えたくもない。  
 
 
そして、時間の経過と共に日が傾き、下校時間を迎え、気力体力共に限界に近づいた俺はやっとのことで、  
自宅にたどり着いた。  
すると、自宅で待っていたのはいかにも待ちかまえていたといった風な妹の姿だった。  
「キョンくん、お帰りなさい。ちょっと話があるんだけどいい?」  
……ああ、俺もお前に話があるんだ。  
 
「キョンくん。去年、ミヨキチと映画を見に行ったこと、本に書いて学校のみんなに言いふらした  
でしょ?」  
──言いふらしたわけではないが……待て、何故お前が知っている。どこから聞いた?  
「もちろんみくるちゃんだよ。何を隠そう、みくるちゃんは、あたしが放った公儀隠み…つ…痛ーい!  
舌かんじゃった……」  
涙目になる妹。  
まったく……覚えたての言葉を無理矢理使おうとするからだ。  
「テヘッ」  
ごまかすんじゃありません。  
──ところで、お前朝比奈さんにミヨキチの写真を渡しただろ? なんでそんなことをしたんだ?  
「うん、みくるちゃんがハルにゃんに頼まれたからっていって、写真を貸して欲しいってお願いされ  
たの。だから交換条件として、情報を教えてもらったんだ」  
ハルヒだけでなく、小学生の妹にまで良いように使われる朝比奈さん。憐れすぎるぜ……。  
しかし、何でハルヒがミヨキチの写真を見たがるんだろうな。  
 
すると妹は不敵に笑い、そんなこともわからないの? といった表情を俺に向ける。  
妹のくせに生意気だ。  
じゃあ、お前にはわかるのか?  
「キョンくんには教えなーい」  
今度はさも嬉しそうに、いたずらっぽい笑みを浮かべた。  
気に入らん。  
もうお前の話は終わりか? それなら部屋から出て行ってくれ。  
 
「ああん、まだだよ、キョンくん!ここからが本題なんだから」  
と、俺が追い出そうとするのをあわてて足を踏ん張った。  
俺が手を離すと、妹は再びベッドに腰掛け、俺の方に向き直った。  
「でね、ミヨキチに話したらね、すっごく怒ってたよ」  
あのミヨキチが怒るなんてよっぽどだな。  
確かに、小説に実名を出してしまった俺が悪いんだが……。  
今から謝りの電話をかけようか。  
俺が腰を浮かせようとすると、今度は妹が俺を押しとどめた。  
「待って、まだ話は続くんだから。──えっとね、ミヨキチはね、今度映画に誘ってくれたら許して  
あげても良いっていってたよ」  
 
本当か、それは?  
「うん。ここに映画のチケットがあるから、これでミヨキチを誘って。でも、キョンくんからちゃんと  
誘わなきゃだめだよ」  
後は若い者に任せて年寄りは退散するよ、といって妹は部屋に戻った。  
妙に用意が良いな。まるで、何十年も縁談をまとめることを趣味にしているお節介なおばさんのようだ。  
だが、これはありがたく使わせてもらおう。  
 
「はい、もちろんその日で良いです。わたし、楽しみにしています」  
俺は首尾よくミヨキチを誘うと、今週の土曜日に待ち合わせるということを決め、電話を切った。  
ミヨキチ、意外に怒っていなかったな……。いや、むしろ嬉しそうに思えたのは、俺のうぬぼれと  
いうだけではないだろう。  
だが、まあいい。喜んでもらえたのなら俺もおわびのしがいがある。なにせ、俺が一方的に悪いん  
だからな。  
 
 
日は飛んでその週の金曜日。俺はSOS団の部室で、古泉とチェスを打ちながら、穏やかな放課後を  
過ごしていた。  
「キョンくん。はい、お茶です」  
ありがとうございます。  
あれ?朝比奈さん髪型を変えましたね。よく似合っていますよ。  
朝比奈さんは、髪をうなじのあたりで髪留めでまとめてそのまま下に流すという髪型をしていた。  
ポニーテールではないが、これはこれで朝比奈さんに似合っていてとてもいい。  
 
すると、朝比奈さんは少し照れたように柔らかな微笑みを浮かべた。  
「キョンくん、ありがとう。うふ、ほめてもらえてうれしいです」  
朝比奈さんの神々しいお姿と、この笑顔。まさに至福のひとときだ。  
団長席にどっかと座って、こっちを睨み付けているハルヒの仏頂面も気にならない。  
ところで例のうわさ話だが、幸いにも75日を待つことなく、ほとんど霧消したようで非常にめでたい。  
その代わりに、長門に頼んで谷口の噂が速やかに広まるようにしておいたからな。  
長門によると、噂を広めようとした発案者は、やはり谷口だそうだ。それを支援したのが山根を筆頭と  
するアイドル研究会の面々らしい。  
実は長門も以前、山根から匂いを嗅がれるという被害を受けたことがあり、よほど腹に据えかねてい  
たらしく、今回俺が止めなければ確実に山根の存在はこの世から消えていたところだったのだ。  
長門の真の恐ろしさを垣間見た瞬間だったぜ……。  
 
だが、そんなこととは関係なしに、この日はこのまま穏やかに過ぎそうだと思った頃、  
「ねえ、みんな。明日は恒例の市内探索をするわよ」  
ハルヒはなんの前触れもなく、突然一方的に団長命令を言い渡した。  
時間を伝えようとする団長を押しとどめて、横から口を挟む。  
「すまん、ハルヒ。俺には明日用事があるからパスさせてくれ」  
いくらハルヒの命令でも明日はまずい。絶対に断らなければならん。  
「なあに、キョン。明日、来ないっての? いったい、なんの用事なのよ」  
「そ、それはだな。──そう、明日は親戚を地元で案内しなきゃならないんだ」  
「ふぅん? そう。でも本当は、あのミヨキチって子とデートするつもりだったりしないでしょうね?」  
「……そんなわけはないだろ」  
実に鋭い。背筋に冷たいものが走ったぜ。  
「それじゃあ、しょうだないわね。──じゃあ、明日はキョン抜きで行いましょう」  
ミヨキチと会うのは隣町だし、ハルヒ達とかち合うことはないだろう。  
 
 
 
明けて、翌日の土曜日。雲一つない晴天だ。やはり、春はいい。気分が穏やかになるぜ。  
現在、俺は待ち合わせ場所である隣の市の駅前で待っている。  
ここは、例の北口駅から2駅で来ることが出来、支線も接続する中規模程度の駅だ。  
駅前には、一世代前といったようなショッピングセンターがあり、本日の目的である小さな映画館  
もそこにひっそりとあった。  
今日はそこで映画を見ようというのだ。  
妹によると、今そこでやっている映画がミヨキチの見たいものだそうだ。  
 
──それにしても、このようなところで待ち合わせなくとも、家に遊びに来るのだから一緒に行け  
ばいいと思ったんだが、それじゃ雰囲気が出ない、という妹のダメ出しでこのようになった次第だ。  
 
「お兄さん、お待たせしてすみません」  
ミヨキチこと吉村美代子は、電車を降り改札を出て、足早に俺のいる場所へとやってきた。  
いつも礼儀正しい彼女である。こういったところを是非、妹に見習わせたいものだ。  
ちなみに、お兄さんとは俺のことだ。  
悲しいことだが、俺の妹でさえ兄とは呼んでくれない。しかし、ミヨキチはいつも俺のことをお兄  
さんと呼んでくれているのだ。本当にいい子だぜ、ミヨキチは。  
 
「いや、別に待っていないし、時間前なんだからそんなに気にしなくて良いよ」  
それでも、申し訳なさそうな表情をしているミヨキチ。だが、そんな表情もひどく愛らしい。  
今日の彼女は、以前一緒に行ったときよりも少し大人っぽい服装だ。センスもよく、朝比奈さんや  
ハルヒのファッションにも引けを取らない。  
髪型もポニーテールで、言うことなしだ。って、小学生相手に俺は何を考えているんだ?  
俺は突然湧き出た感情をあわてて振り払い、ミヨキチを連れて映画館に向かった。  
 
その道すがら、  
「今日は誘っていただいて、本当にありがとうございます」  
「いや、君が例の小説騒ぎに関してめっちゃ怒っているって、妹に言われてね」  
「え? わたし、別に怒ってなんかいませんけど。……それは、恥ずかしかったのは確かですけど。  
でも少し嬉しかったですし……」  
「怒っていなかったのか? でも、妹が映画に誘ったら許してくれるって言ってたんだけど……。  
それから後の方が聞こえなかったけど、なんて言ったんだ?」  
ミヨキチは頬を朱く染めると、小さくかぶりを振って、  
「な、何でもありません」  
そして、続けてこう言った。  
「そ、それと、わたしを映画に誘ってくれたら許すなんて、そんなえらそうなこと絶対に言いません!」  
 
──謀ったな、あいつめ。  
 
考えりゃ、ミヨキチの言うとおりだ。彼女がそんなことを言うはずがない。  
──ということは、最初から妹が仕組んでいたのか。そして俺は、間抜けにもそれにまんまと乗せ  
られてしまったわけだ。  
やけに手回しがいいなとは思ったが──そこに気がつくべきだったな。  
だが俺はあの時、妹にミヨキチを怒らせたことを告げられそれに気が動転してしまい、そこまで考  
えが至らなかったのだ。  
そこを巧みについてくるとは……あいつには謀略の才があるな。  
 
俺が妙に考え込んでしまったことに不安を覚えたのか、ミヨキチがおずおずと、  
「あの……今日はもう取りやめましょうか?」  
そう言い、立ち止まってしまった。  
俺はあわてて、彼女をフォローするため、  
「今日は君へのお詫びも兼ねているし、俺だって楽しみにしていたんだ。取りやめるなんてことは必  
要ないさ」  
と言い、映画館への道を急いだ。  
 
ほどなく俺たちは映画館に到着し、入場するため入り口へと立ち入った。  
幸い今回の映画は12禁でないので、ミヨキチの年を気にする必要はない。  
だが、なぜかもぎり役の係員は、前回俺がミヨキチと一緒に行動したときのような微笑ましそうな  
表情ではなく、どちらかというとカップルをうらやむような眼差しをしているように感じた。  
そりゃ、もう一年経つわけだからな、ミヨキチも前回より大人っぽさを増したようには感じるが……。  
 
映画の感想は平均的な出来といったところだな。  
ミヨキチは例によって、出演している俳優が目当てらしく、満足してくれたようで良かった。  
映画館を出ると時間は昼時で、俺たちは駅近くにあるピザとパスタの専門店に入った。  
ここで意外だったのは、この店の特徴として量が多いということがあったのだが、俺はともかくと  
してミヨキチも出された料理を残すことなく平らげてしまったことだ。  
まあ、彼女は成長期だからな、食べる量が以前と違っていても驚く必要はないのかも知れない。  
 
すると彼女は、俺があまりにも見つめていたことが気になったのか、照れながら  
「あの、わたしの顔に何かついているでしょうか?」  
と聞き返してきた。  
「ああ、ついているな。きれいな目と、かわいらしい口が」  
などと口走ってしまい、ミヨキチを真っ赤にさせてしまった。  
俺としたことが……。よもやこの口からあんなセリフが飛び出すとは──俺自身が信じられん。  
朝比奈さんにさえいったことがないのにな。  
不覚だ。  
すると、いかにもバカップルを見ているような他の客の視線が痛々しい。  
いや、小学生相手にこんなことを言ってしまったのだから、変質者扱いか……。  
結局、ほどなくしてその店を出る羽目になってしまった。  
 
店を出た後は、ショッピングセンターの専門店街を2人で回って楽しんだ。  
そして俺たちは、電車に乗って帰途についた。  
俺は電車に乗っている間、しばしの思索に耽っていた。  
だが、考えをまとめることも出来ないうちに電車は北口駅に到着した。  
そこで俺は思索を取りやめて、  
「駅前に自転車を置いてあるから、家まで乗せていくよ」  
といい、ミヨキチと一緒に改札を出て、階段を下りた。  
階段を下りきったとき、隣にいたミヨキチが突然硬直した。  
彼女は、ある方向を見て驚いているようだ。  
俺もその視線の先をたどってみる……。  
 
……絶句した。  
 
──ハルヒ達だった。  
俺は今、生涯最大の失敗をしたことに戦慄を覚えた。  
本日、SOS団の市内探索が中止されたわけではないのに、俺はうっかり失念してしまっていたのだ。  
相手は小学生のミヨキチだから、それほど恐れる必要はないのだが、ハルヒに嘘を吐いている分、  
俺としては立場が弱い。  
 
俺たちは隠れることも、今来た道を引き返すことも出来ず、ハルヒが睨み付ける中を死刑台に向かう  
死刑囚のごとき心情で、ゆっくりと公園に向かった。  
「キョン!あんた、今日は親戚を案内するって言ってたんじゃないの!?」  
ええと、これはだな……。  
うまい言い訳が考えつかない。  
「なのに、そのめちゃくちゃきれいな人は誰? その人とデートしてたんでしょ」  
……??  
きれいな人? この子はミヨキチだぜ。──ハルヒだって、写真を見て知っているはずだ。  
少なくとも小学生に対して表現する言葉じゃない。  
 
「なにも言い返すことが出来ないようね」  
というより、俺にはハルヒの言っている意味がまるっきりわからない。  
「キョン!今度じっくりと理由を話してもらうからね。みんな、もう今日は解散よ!」  
そう言い捨てると、ハルヒは肩を怒らせ、ドスドスというような擬音が聞こええそうなほどの勢いで  
駅の改札へと向かった。  
他の3人もそれぞれ帰って行いった。朝比奈さんと古泉は俺を非難するような目を向けながら……。  
長門はミヨキチを一瞥したが、まるで感情を示さなかった。  
 
「すみません!こんなことになるなんて……。しかも涼宮さんを怒らせてしまって……わたし、なんと  
いってお詫びしたら良いかわかりません」  
ミヨキチは俺に謝罪の言葉を述べた。  
彼女が何故ハルヒのことを知っているのか、などはこの際どうでもいい。  
しかし、ミヨキチには責任はない。責めを受けるべきは俺だけのはずだ。  
「いいえ、わたしが浮かれてあんな姿をしたから、涼宮さんを怒らせてしまったんです」  
あんな姿? それはいったいどういうことだ、と尋ねようとしたが、ミヨキチは『ごめんなさい』と  
言って、手で顔を覆いながら走り去ってしまった。  
 
後に残された俺は呆気にとられ、その公園で10分以上も立ち続けた……。  
 
 
 
週が変わって月曜日。ハルヒは俺に理由を聞くと入っていたが、教室では一言も言葉を発さず、また  
SOS団の部室にも来なかった。  
俺はそこで、古泉にちょっと話があると言って中庭に連れて行った。  
いすに腰掛けると、古泉は少し非難めいた表情で言った。  
「実は昨日、久しぶりに閉鎖空間が発生してしまいましてね。しかし、神人の力が落ちていたため、  
なんということはなく閉鎖空間を消滅させることが出来たのは幸いでした」  
そうか、やっぱりあれかなのか?  
古泉は、テーブルの上に落ちていた木の葉を弄びながら  
「ええ、それしか考えられません。──まさかあなたがあのような軽はずみな行動をするとは思いませ  
んでしたが」  
それは親戚を案内すると言って嘘を言ったことは悪いと思うが、あの日はただミヨキチと遊びに行った  
だけだぜ。  
「はて? おっしゃっていることの意味が僕にはよくわかりません。あの日あなたと一緒にいた女性は  
どうみても涼宮さんや我々と同程度の世代だと思いましたが、違いますか?」  
どういうことだ? 俺は確かにミヨキチと一緒に行動をしていたんだぞ。それとも、俺が嘘を吐いてい  
るとでも言うのか?  
「あるいは」  
冗談じゃない。  
 
そこで、俺はやむを得ず、これまでのいきさつをかいつまんで古泉に伝えた。  
「どうやら、あなたの表情に嘘を言っている様子はないようですね」  
だから、そう言っているだろ。  
古泉、手で自分の顎を触りながらしばらく思案したのち、こう提案した。  
「これ、どうも僕とあなたの話に齟齬があるようですね。ところで今、僕の頭の中にふとある仮説が  
思い浮かんだのですが、どうも確証がありません。ここは事情を知っていそうな方に尋ねるというのは  
いかがでしょう?」  
奇遇だな。俺もある人物の顔を思い浮かべていたところだ。  
 
2人の意見が一致したところで、俺たちは再びそこに戻った。  
そう、長門が今もそこで本を読んでいるであろうSOS団部室だ。  
 
部室に長門はいた。だが、朝比奈さんは長門と2人でいることに息苦しさを感じていたようで、隅で  
編み物をしていた。  
「長門、ちょっと話したいことがあるんだが、いいか?」  
俺たちを待っていたかのように、今まで読んでいた本を閉じると、数ミリの首肯をした。  
 
「吉村美代子はわたしたちと同じ存在」  
なに?  
「それは、ミヨキチさんがあなたや喜緑さんと同じTFEIだということですか?」  
「そう」  
それは本当か? ミヨキチが……信じられん。  
「しかし、なぜです? TFEIは涼宮さんの周辺にいるのではなかったのですか?」  
古泉の発言から類推するに『機関』も把握していなかったということか。  
「情報統合思念体は、各派とも涼宮ハルヒのパートナーであるあなたを重要視していた。  
だから、あなたの関係者で一番害が及ぶ可能性のある存在にわたしと同じ存在を近づけた」  
それが妹で、そして親友であるミヨキチだということか。  
「それは護衛のためですか?」  
「……そう。そして監視」  
 
「それなら長門。他にもお前の仲間がいるのに、何でミヨキチが選ばれたんだ?」  
「吉村美代子はわたしたちの中で、一番人間に近い感情量を有している。……わたしとは比べられない  
ほどに」  
つまり、一番人間ぽいということか。  
だが、長門はそう言ったとき、少し悲しそうな表情に見えた。  
「だから、あなたの妹にも対応できると判断された」  
確かに俺の妹は喜怒哀楽がはっきりしているからな。  
あいつを受け止められるのは、残念ながら長門や喜緑さんでは無理だろうな。  
 
「そうですか、それを聞いて僕の仮説は正しいのではないかと思えるようになりました。ですが、もう  
一ついいですか? 彼女の本来の姿は、例の写真に写っていたものとは異なるのではないですか?」  
「そう、吉村美代子は、本来わたしと同じように北高の生徒として投入される予定だった。そして彼女  
の姿は涼宮ハルヒの年齢に合わせたものだった」  
2人の会話を聞いていても、俺にはまだピンとこなかった。だが、何かがわかりそうになっている。  
「吉村美代子は統合思念体による指令を受けて、自分の姿に関する視覚情報を操作した。そしてあなた  
の妹のいる小学校にやって来た」  
そうか、つまりはミヨキチの本来の姿は、ハルヒが土曜日に目撃した彼女がそうであり、普段の外見は小  
学生に見えるように、人間の脳に入る視覚情報を操作していたということ、か。  
 
 
「では、長門。例の土曜日、俺にはミヨキチがお前の言う小学生の外見にしか見えなかったが、いった  
いどういうわけだ?」  
俺がこう言うと、長門は一瞬だけ意外そうな感情を示し、ほんの少し考え、  
「……おそらく、吉村美代子はあなたの目にだけ、小学生の姿で見えるようにした。……理由はわからない」  
ひょっとして、長門が本当は理由をすでにわかっているんじゃないのか?  
なぜだかわからないが、俺にはそう思えた。  
しかし、これまでの長門の説明を聞いて、俺はやっと理解が出来た。あの日ミヨキチと行動していたときの  
周囲の不可解な反応が、である。  
つまりは、俺の目には小学生のミヨキチであっても、端から見れば朝比奈さんにも引けを取らない美少女  
の姿だったわけ……か。  
それを見たハルヒが妙な誤解をして、閉鎖空間を再び生み出してしまったわけだ。  
なんてことだ。  
いや、もはや言葉が出ないぜ。  
 
だが、長門はまだ話は終わっていないようだ。  
「吉村美代子の処分、もしくは修正が検討されている」  
それはハルヒを怒らせて閉鎖空間を作り出したことで……か?  
コクッ  
 
「待ってくれ!長門。俺にとってミヨキチは妹のような存在だし、俺の妹にとっては親友だ。今、彼女  
を消されたら妹や俺の気持ちはどうなるんだ。それに、例え修正であっても、以前の彼女と変わってしまう  
んだろ?それじゃあ、消されることと変わりない。ハルヒのことは俺が責任を持って何とかする。だから……  
その処分を撤回するように伝えてくれないか?」  
長門は俺の顔をじっと見つめている。  
感情の乏しい長門にも様々な心の葛藤があるのか、複雑そうな表情に見えた。  
「……わかった。伝えてみる」  
そのとき、長門の表情はあくまで『無』でありながらも、なぜかいつもより普通の人間の女の子のように  
見えた。  
「……彼女がうらやましい」  
何か言ったか?  
「……別に」  
 
 
その日の夕方、ミヨキチが突然我が家に訪問した。  
ミヨキチが俺に用があると伝えたようで、妹は喜び勇んで俺の部屋に彼女を案内した。  
妹はミヨキチを案内すると、『ごゆっくり』といってドアを閉めた。  
気の回りすぎる妹である。というか何を勘違いしているんだ。  
ミヨキチは顔を赤らめながらも、幾ばくかの緊張感を保っているようだ。  
「お兄さん。今回はわたしを助けるよう長門さんに頼んでくださって、本当にありがとうございました。  
おかげでわたしはなんのおとがめを受けることもありませんでした」  
彼女は涙で目を潤ませながら、満面の笑みを浮かべて俺に感謝の意を伝えてきた。  
「そうか……よかった。君が無事で嬉しいよ。ところで、いまさらだが、君が長門の仲間だというの  
は本当かい?」  
 
「はい、わたしも長門さんと同じ、対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースです。  
長門さんから説明を受けられたと思いますが、全部本当のことです。──そして……これがわたしの  
本当の姿です」  
ミヨキチがそう言ったと同時に彼女自身の姿が変化した。いや、長門の言葉からすれば、俺の脳が彼  
女の姿を正確に認識できるようになったというべきか。  
俺は初めて現れた16,7才のミヨキチの姿にみとれた。ただ、みとれるしかなかった。  
 
彼女は長い艶やかな黒髪に、俺が見知ったミヨキチの面影を残した、潤んだ大きく黒い瞳をし、すっ  
きりと整った鼻梁に、涼やかな口元、白磁を思わせる白い肌をしている。もちろんスタイルも抜群に  
いい。  
ちなみにこれは蛇足だが、胸は朝比奈さんとハルヒの中間といったところか。  
ミヨキチは、かわいいというよりは美人という言葉のほうが似合っていた。  
おっといかん。あまりに見つめて続けたためにミヨキチが赤くなりながらこちらを窺っている。  
「あ、あのお兄さん?」  
俺と変わらない年頃の娘にお兄さんなどと呼ばれると、どう言っていいのかわからないほど動揺してし  
まうな。  
俺はこんな美少女と一緒に映画を見に行っていたのか……。まさに知らぬが仏というやつだ。  
ハルヒが勘違いするのも無理はない。いや、むしろ俺には不釣り合いだと思わなかったのだろうか?  
 
「一つ教えてくれないか? 何故あの時、俺以外の連中に君の本当の姿を見えるようにしたんだ?」  
これを聞いていいかどうか躊躇したが、今回起きた騒動の核心をつく疑問を口にした。  
すると、ミヨキチは顔を赤くし、何か聞き取れないほどの小さな声でつぶやいた。  
(……あなたと恋人に見られたかったからです)  
え? なんだって?  
「な、なんでもありません。すみません、このことについては話せないことになっているんです」  
つまり禁則事項か。そりゃ、しょうがない。  
そして彼女は感謝と詫びとして何でもお礼をしますと伝えてきた。別にお詫びも感謝もされることを  
したわけでもなかったが、あることを提案しておいた。  
ミヨキチは照れて、恥ずかしそうにしながらも承諾してくれた。  
 
最後にもう一度ありがとうございますといい、部屋を出て行った。ただ、まだ他にも言いたそうな逡巡  
と愁いを帯びた表情が印象に残っている。  
彼女は他に何を言いたかったんだ?  
 
彼女を玄関先まで見送った後、ニヤケた顔をしている妹の頭を小突いてやった。  
「キョンくん、いたーい。いいでしょ!あたしはミヨキチを応援しているんだから」  
なんのだよ。  
「それはねー、禁則事項だよ」  
だから、覚えたての言葉を使えばいいってもんじゃないだろう。  
誰の言葉かは明白だが……。  
 
 
 
翌日、ミヨキチを助ける条件を満たすため、俺は必死でハルヒの誤解を解くことになった。  
「なぁに? キョン。じゃあ、あの子が親戚の子だったというわけ?」  
「ああ、そうだ。あの時はあまりに突然お前達に会ってしまったもんだからな、気が動転して何も言えな  
かったのさ。お前だって、理由を聞くこともなく妙な誤解をしていただろ? あの時何か弁解したところ  
でお前は信用してくれたか?」  
 
「ご、誤解だなんて、あんたの何を誤解するって言うの? でも、まあそうかもね。あたしもちょっと  
勘違いしていたみたいだわ。なんにしたって、あんたがあんなきれいな女の子と付き合うような甲斐性  
なんてあるわけないものね」  
ほっとけ!  
ところでハルヒ、顔が赤いぞ。酒でも飲んだか。  
「うっさいわね、そんなの飲まないわよ。あたしが顔を赤くする理由なんてどこにもないわよ」  
そうかい。じゃあ、俺の見間違いかな。  
「そうよ、そうに決まっているわ」  
どうやら、ハルヒは機嫌を直したようだ。  
しかし、これで問題は解決したな。  
肩の荷が下りた気分だ。  
周りを見ると、長門は相変わらず黙読しているが、朝比奈さんと古泉はニヤニヤして俺たちのやりとりを  
傍観していた。  
後で古泉は『まるで、浮気の疑惑を必死で弁解している、妻に頭の上がらない亭主のようでしたよ』だと?  
勝手なことを言ってんじゃねえ。  
 
「ところでキョン。最近あんたに関する妙な噂がまた広まっているんだけど……」  
ハルヒはニヤリとした表情を俺に向けた。  
あの噂ならもう終わったんじゃないのか?  
「いいえ、別の噂よ」  
と言って、ハルヒはお茶を一杯ぐいっと飲み干すと、朝比奈さんにおかわりを要求しながら話を続けた。  
朝比奈さんは『はいはい』と言ってお茶を注ぎにかかったが、ハルヒのオーラに気圧されて、しっぽを引っ  
張られた某猫型ロボットのように体が停止した。  
 
「ねえ、キョン。あんた、この間教室で有希を押し倒していたっていう噂なんだけど、何か身に覚えが  
ある?」  
…………なに?  
……谷口の奴、腹いせのつもりか? なにもそんな時効ネタを今更持ち出さなくても良いだろう。  
 
それは全くの濡れ衣だ。なあ長門、俺が無実だと証明してくれ。  
「そうなの? 有希」  
すると、長門はあろうことか首をかしげた。  
おい、長門!何故否定しないんだ?   
俺の顔を、ギギギと潤滑油の切れた首振り扇風機のように団長席の方向に向けると、そこには怪しい笑顔  
をしたハルヒがいた。  
 
「キョン。どういうことなのかしら? そうねぇ、時間はたっぷりあるんだから、今日は洗いざらい話し  
てもらいましょうか」  
ハルヒはこわばった笑みを浮かべながら俺の席へとにじり寄った。  
「あー、ええとだな……」  
ここで突然だが、提案だ。誰でもいいから俺を助けてくれないか? 絶賛募集中だ。今ならダイナミック  
キャンペーン中につき、ハルヒをおまけにつけてやってもいいぞ。  
「キョン。あんた、有希に何かしたの? こととしだいによっちゃここから生きて帰れないわよ」  
ハルヒは、ゲームのラスボスのごとく絶対逃がさない、と言う目つきで俺の一挙手一投足を注視している。  
やれやれだ……  
 
 
ここからは後日談だ。  
あの日あの時、何が起きたのかは、もはや言うことはないだろう。  
いや、思い出したくもない。あれは永遠に忘却の彼方だ。片道切符で送り出したい気分だ。  
だが、心配しなくていい。幸いハルヒの誤解は解けたといっておこう。最終的に、だが……。  
結局のところ、長門が何故誤解を招く、どころか煽るような態度を取ったのか今をもってわからない。  
あいつが最近口に出すようになったジョークの一種かとも思ったが、俺には全然笑えない。むしろ、  
ハルヒによって生命の危機を覚えたほどだ。  
 
 
今日は土曜日だ。そして休日である。  
今俺は、あるターミナル駅で待ち合わせをしている。  
あの日、俺がミヨキチに出した提案とは、彼女と本来の姿で会えないかというものだった。  
 
そして俺は今日、ここで彼女を待っているというところだ。  
今回は前回の二の轍を踏まないために、現地集合・現地解散を厳守するつもりだ。  
 
俺が改札前で待ち始めて、5分も経たずに1人の女性が俺を目指して足早にやってくる。  
俺を呼び出して、正体を教えてくれた日に一度見たきりだが、彼女がミヨキチだ。  
いや、吉村美代子と言うべきか。  
彼女の輝かんばかりの笑顔と姿は、見るもの全ての脳裏に焼き付くんじゃないかと思えるほどだった。  
そのため、あの日見たことがあるにもかかわらず、俺は一瞬で彼女の姿に目を奪われた。  
否、俺だけでなく、周りにいた男どもの視線も彼女に釘付けだった。  
 
 
「お兄さん、お待たせしてすみません」  
 
 
おわり  
 

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