12/  
 
「う〜ん、それは急展開だねぇ。  
でも、ミヨキっちゃん、すごい、すご〜い。  
キョンくんを彼氏って言い張るなんて、どうしちゃったの〜?」  
昨日一日悩んだ末、結局私は、親友の家に相談に来ました。  
 
「お兄さん、怒ってないかな?  
突然、変なこと言って、呆れられちゃったかも・・・」  
 
「う〜ん、一昨日の夜、帰ってきてからず〜っと、どよ〜んって感じだけど、  
別に怒ったりはしてなかったよ」  
やっぱり私のせいで、お兄さん困ってるんだ・・・。  
 
「どうしよう。嫌われ、ちゃったかな・・・」  
私は、あんなことを言ったことを、全力で後悔し始めていました。  
 
「めっ! 駄目だよ、ミヨキチ。せっかく強気になったんだから、  
このままドンドン押してかなきゃ。ドンドン、ドンド〜ンって。  
キョンくん、昔から押しの強い女の子には、弱いんだからっ。  
私が、わがまま言っても、ず〜っと言い続けてると、結局言うこと聞いてくれるし、  
ハルにゃんなんか、いっつも押しっぱなしだよっ!」  
そうだ、ハルヒさんのこともあったんだ・・・。気が重い。  
 
「ほ〜ら! 落ち込まないの〜。ガンバレ、ミヨキチ!  
ハルにゃんにも、ガツゥ〜ンって言えたんでしょ?  
それなら、キョンくんになんか、お茶にょこしゃいしゃいだよ!!」  
 
「くすっ、何それ、言えてないよ〜」  
私は、久しぶりに笑えました。やっぱりこの子は、私の親友です。  
 
 
「ほらほら、せっかく面白くなってきたんだから、頑張らなきゃ!」  
面白く・・・?  
 
「え、え〜と、別に、キョンくんたちがじれったいから、後押ししてるとか、  
鶴屋さんの言うとおりだとか、そういうのじゃないんだからね。  
う、うん、気にしないで。さっ、キョンくん、そろそろ帰ってくるよ。  
まだ、心の準備がいるでしょ? ねっ。」  
何やら、慌てた彼女に追い出されてしまいました。  
いまの発言はいったい・・・。  
 
 
 
お母さまにもご挨拶して、門を出たところで、二匹の猫を見かけました。  
逃げる三毛猫。追う黒猫。  
あっ、捕まった。観念した様子の三毛猫さん。  
 
押して、押してっか・・・。ドンドン。  
 
 
13/  
 
翌日の午後、短縮授業の学校が終わった後、急いで家に帰って荷物を置き、  
バスを使って彼の高校まで行くことにしました。  
 
 
でも、いざ学校まで来てみると、急に弱気になってしまいます。  
校門の前までは、「強気に、強気に。押して、押して」と呪文のように唱えてきたけれど、  
ここから先の一歩が、どうしても踏み出せません。  
 
おまけになぜか、下校途中の男子生徒が、私の顔をちらちら見てくるので、更に落ち着かない。  
なんで、そんなにこっちを見るんでしょう? 小学生がこんなところにいるのは、珍しいからかな。  
 
 
そんな風に、校門の前でうろうろしていると、最近聞いたことがある声に、呼びかけられました。  
あっ、あの時の変な男の人だ。  
 
「ねえ、キミ。だ、誰かに用事かな? よ、呼んでこようか」  
思ったよりまともな人のようです。でも、まだちょっと怖くて、私はうまくしゃべれません。  
 
「こ、怖がらないで。ねっ。この前はゴメンよ。ちょ、ちょっと、どうかしてたんだ。  
用事があるのって、キョ、キョンにかな?」  
どうして分かるんだろう? あっ、そうか。  
私、この人の前で、彼の・・・お兄さんのことをか、彼氏って。  
 
 
しばらく、お互いに黙っていたけれど、  
男の人は、私の顔をじ〜っと見つめてから、  
何か覚悟を決めたような顔で切り出してきました。  
 
「・・・キョンのことが、好き?」  
何か答えようとして、混乱していた頭が、更にパニック。  
何も答えられません。  
 
「僕もね、好きな女の子がいたんだ。とっても美人で、優しい子だった」  
突然、悲しげな口調になりました。いったい何の話でしょうか。  
 
 
「最初は、見ているだけでいいと思ってたんだ。  
僕みたいな奴が、どう頑張ったって、彼女とは釣り合わない。  
そんなことは分かってるから、陰からずっと見ているだけで、十分だと思ってた」  
彼の言いたいことは、少し分かります。  
私も、年齢を理由に、お兄さんのことを諦めようと思ったことはある。  
いまだって、正直心が揺れているんです。  
 
「でも、彼女は突然いなくなった。本当に突然だったよ。  
転校の前日まで、そんな話は一切耳にしなかったからね。  
パニックになった僕は、担任に詰め寄った。彼女はどこに行ったのかってね。  
そしたらさ、カナダだって。しかも住所は分からないときた。  
絶望したよ・・・きっと、もう二度と会えない。そう分かったから」  
 
「・・・・・・・・・」  
 
「でもね、その時はショックだったけど、すぐに忘れられると思ってた。  
大好きなアイドルがいなくなっても、また別なアイドルを見つけて、ファンになればいい。  
そう思ってた。でもね・・・忘れられないんだ。どうやっても。  
その時、気がついたんだ。僕は、彼女のことが、本当に好きだったんだって」  
彼が、何を伝えたいのかはわかりません。でも、私は、いつしか真剣に耳を傾けていました。  
 
 
14/  
 
「後悔したよ。すっごく。僕は、気がつくのが遅かった。  
伝えれば良かった。伝えたい気持ちがあったのに・・・。  
でも、キミはまだ、いるんだろ? 好きな奴がいなくなったりしてないんだろ?  
僕の勘違いかもしれないけど、キミが好きなのは、あいつなんだろ?  
なら、行ってこいよ。キミは僕なんかと違ってキレイだし、きっと大丈夫さ」  
 
「・・・・・・・・・」  
 
「・・・ごめん、僕みたいな男に、こんなこと言われても迷惑だよね。  
なんか、興奮しちゃって・・・ごめんっ」  
 
最初は、変な人だと思ってたけど、正直、勇気づけられました。  
私が、言いたいこと。私が伝えたいこと。  
まだはっきりとは自信が持てないけど、何かが変わった気がします。  
 
 
「いえっ・・・ありがとうございました。私、行ってきます。」  
 
「・・・ようやく笑ってくれた。・・・こちらこそ、話を聞いてくれてありがとう。  
女の子とこんなに長時間向かい合ったのは、初めてかもしれない・・・。  
ねぇ、その笑顔、写真にとってもいいかな?」  
 
「・・・はい」  
 
 
会釈をして、その場を立ち去りました。  
彼は、呼び出そうか、と言ってくれたけど、  
私の方から訪ねるべきだと思ったので、それについては断りました。  
さあ、まずは、居場所を尋ねなくちゃ。  
 
 
 
*  
 
 
15/  
 
振り返ると、ものすご〜く恥ずかしいことをいってしまった気がする。  
でも、少しでも彼女の助けになったなら、良かったかもしれない。  
 
 
ぐふふ、それにしてもさっきの笑顔は可愛かったな〜。  
もともと写真を撮るために近づいたのに、あやうく本来の目的を忘れるところでした。  
これは、早く部室に持ちかえって大画面で観賞しなくては!  
 
 
部室棟に向かう足取りも軽く、僕は意気揚々と、部室のドアを開けました。  
そこにいたのは・・・えっ、嘘だろ・・・。  
 
「も〜、遅いよ。女の子を待たせるなんてぇ」  
 
朝倉涼子。僕の天使。えっ、えっ、夢?  
 
「どうしちゃったの? ぼ〜っとしちゃって。私が帰ってきても、うれしくな〜い?」  
そんなわけは、全く持ってありません。  
 
「いえいえいえいえ。と、と、と、とんでもないです。  
もの凄くうれしいです。ほんと、いま死んでも本望なくらいです。」  
ああっ、やっぱり美しい。  
 
「ほんとにぃ? うれしいな〜」  
ええ、僕もうれしいです。  
 
 
「・・・じゃあ、死んでっ」  
笑顔の朝倉さん。えっ。  
 
 
何度も夢見た、あの芳しい香りが、僕のすぐ傍から。  
ああっ、いい匂いだと、視線を落とすと、  
僕の胸にナイフが突き刺さっていた。  
 
そして、その横には、朝倉涼子の、残酷なまでに美しい微笑み。  
 
 
*  
 
 
16/  
 
「あなたの探している人物は、中庭の木の下にいる」  
予定通り、彼女は私に話しかけた。  
 
「ありがとうございます。でも、中庭・・・。  
どうしよう。私が入ったら、問題ありますよね?」  
 
「問題ない」  
 
「えっ、でも。先生とかに見つかったら駄目ですよね?  
あと、他の生徒の皆さんの目もあるし・・・」  
 
「問題ない。誰もあなたのことを"見えていない"」  
対象Yを中心に、認識阻害作動中。  
 
「えっ、えっ。それってどういうことですか?」  
 
「あなたの方から話しかけなければ、問題ない。行って」  
 
「は、はい・・・でもぉ」  
 
「行って」  
 
「は、はいっ。ありがとうございました」  
対象Yの移動を確認。  
 
感覚領域を広げる。対象Xは部室棟前通路を移動中。  
朝比奈みくるを連れ出さなくては。  
 
 
 
*  
 
 
17/  
 
長門さんに、急に連れ出された私の目の前には、  
今回の事件の発端になった男子生徒が倒れています。  
 
えっと、なんて名前でしたっけ?  
 
まあ、女の子をつけまわしたり、勝手に写真を撮ったりしたんだから、  
ある意味、自業自得なんですけど、これは一体どういう状況なんでしょうか?  
あの、そこに立ってらっしゃるのは、確か・・・。  
 
「パーソナル・ネーム朝倉涼子を構成していた情報の内、  
私にアクセス可能な領域に保存されていたものと、  
この男子生徒の記憶領域に残存する朝倉涼子のイメージとを組合わせたもの」  
 
 
えっと、それって・・・  
「大丈夫なんですか〜? 朝倉さんって確か、キョンくんを・・・」  
 
「問題ない。自立行動は不可能。あくまでも、彼女の姿形をした人形に過ぎない」  
 
「ふぇ〜。でもでも、ナイフで刺しちゃったりして、平気なんですか?」  
 
「それも問題ない。このナイフ自体には、何の殺傷力もない。ただ、意識を喪失させるだけ。  
男子生徒は、数分で意識を取り戻し、また刺される。その繰り返し」  
 
「あ、あの〜、な、何回くらい、繰り返すんですかぁ?」  
あれっ、何か黙っちゃった。  
 
 
「・・・15498回」  
え、えぇ〜。そんなに繰り返したら、神経がどうにかなってしまうんじゃあ。  
 
「冗談。しかし、翌朝までは繰り返す。明日の朝、やってきた部員に発見される手筈」  
 
「な、長門さん、結構・・・すごいこと、するんですね・・・」  
 
「?? 発案者はあなた。私はそれを改案しただけ」  
そ、そうでしたっけ? あれ〜、私そんなこといったかな?  
まあいいや。禁則、禁則。  
 
 
18/  
 
「でも、いいんですか? 長門さんのお仕事は、観察のはずじゃあ?」  
 
「いい。現在の私は、異時間同位体との同期を制限する代わりに、  
ある程度の自立行動を保障されている。  
男子生徒の行動は、涼宮ハルヒやその周囲によくない影響を及ぼすと判断した」  
 
「でも、それなら、何で最初にキョンくんが相談してきたとき、対処しなかったんですか?」  
そう、私には何にもできないけれど、彼女や古泉くんなら、何らかの対処はできたはずなのだ。  
 
 
「・・・・・・単にその時は、統合思念体の許可が下りなかっただけ」  
嘘ですね。私にも、それくらい分かってるんです。  
 
あなたも、知りたかったんですよね。私も、古泉くんもきっとそう。  
SOS団での毎日を、いまのバランスを大切に思いながらも、それが揺り動かす誘惑に克てなかった。  
 
嫉妬したり、喧嘩したり。彼の気持ちが気になったり。そういう感情に戸惑って・・・。  
長門さん・・・あなたはもう、普通の女の子なんですね・・・。  
 
 
「男子生徒の意識が戻る。下がって。われわれへの認識阻害を再起動する」  
ゆっくりと目を開く男子生徒。  
 
長門さんのことですから、彼にさっきの記憶を残すなんてことはしないでしょうけど、  
それでも、何回も何回も繰り返せば、あの夏のように、深層意識には刻み込まれるのでしょう。  
ちょっと厳しすぎるお仕置きだけど、もうあんなことはしないはず。  
 
 
窓の外に目をやる。  
「ねぇ、長門さん。彼女はどうするでしょうか?」  
 
「推測は可能。しかしこれは彼女たちの問題。私が言及するつもりはない」  
そうですね、長門さん。  
 
 
彼女たちは、どんな答えを見せてくれるんでしょうか?  
私は、背後に響く悲鳴を聞きながら、幼い少女の紡ぐ言葉に、想いをはせた。  
 
 
 
*  
 
 

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