どうも、僕です。  
唐突で申し訳ないのですが、悩みがあります。  
 
ここ最近で僕が三枚目キャラになってしまいつつあるようです。  
 
自分ではミステリアスな雰囲気を漂わせる二枚目のつもりだったのですが。  
何処でどう間違えてしまったのやら。  
 
まぁ、誰しも自分のことを客観的に見ることは無理ですからね。  
そこで僕は考えました。  
あの人ならきっと嘘偽りのない客観的な意見を聞かせてくれるのではないか、と。  
 
 
 
『某超能力者の憂鬱』  
 
 
 
そんなこんなでSOS団の部室です。  
この場には長門さんしかいません。  
そう、地球外生命体こと情報思念統合体の対人間コミュニケート用インターフェースである長門有希さんです。  
彼女ならばワールドワイドなんて目じゃない、それこそ宇宙的な観点から判断出来る筈。  
 
そしてそれこそが僕の求める答えに間違いないっ……!!  
 
グッと拳を握り締め気合いを入れた僕に無関心なのか、長門さんは身じろぎ一つせずに変わらず椅子に坐って本を読んでいます。  
そんな彼女の態度に腹を立てるわけでもなく、むしろ言い知れぬ後悔を感じ始めていましたが、ここまで来て引き返せるわけでもないので僕から話を切り出します。  
 
「すみません、急に呼び出すような形になってしまって」  
「いい」  
「ありがとうございます。そう言っていただけると恐縮です」  
「そう」  
「実を言うと前々からあなたとは話がしたいと思っていまして」  
「そう」  
「……あの、他のSOS団の方々はどちらへ?」  
「帰った」  
 
……なかなかに強敵ですね。  
先程から膝の上の本から顔をあげようとさえしてくれません。  
反応があったのは僕が部室に入ってきたのを確認した時だけです。  
更に返答は全てワンフレーズ。  
話し相手が僕ではなく彼ならば、少なくとも本から顔をあげる位はしてくれるでしょうに。  
 
う〜ん、長門さんは分かりにくいようで実はわかりやすい人ですね。  
 
考えてみれば、僕と長門さんが二人きりだなんて初めてかもしれません。  
いつもならSOS団のメンバーがいるわけだし、こうやって落ち着いて長門さんを眺めることなど出来なかったことです。  
 
うん、やっぱり可愛いですね……。  
 
僕だって超能力者とは言えど同時に一男子高校生なわけで、異性に興味がないわけでもありません。  
 
学校のアイドル朝比奈さん、黙っていれば間違いなく美少女の涼宮さん、無口属性にはたまらない文芸少女の長門さんと彼が羨ましすぎる環境です。  
更には朝比奈さんの友達の鶴屋さんや、実は長門さんの仲間の喜緑さん、クラスメイトに隠れ人気の阪仲さんとも懇意にしているといった日にはもう、羨ましいを通り越して殺意さえ涌いてきますね。  
やれやれ。  
 
とはいえそこが彼の彼たる所以ですから、一方的に責めるわけにもいきませんが。  
それに僕もそんな彼に惹かれている一人ですし。  
勿論、友人としてですよ。  
 
 
「用件は?」  
 
おっとすみません、思考が彼方へ飛んでしまいました。  
二人きりなんて浮かれている場合じゃなかったのでしたね。  
気を取り直して当初の目的を果たしましょう。  
 
「最近僕のキャラが三枚目になりつつあるような気がするのですが、そこのところどうでしょうか?  
あなたから見て僕はどうですか?  
大丈夫です。覚悟は出来ています。  
是非ともあなたの、客観的かつ率直な忌憚なき意見をお願いします……!」  
 
最後はどちらかというと懇願の響きを伴ったそれになってしまったような気がしなくもありませんが、ここは黙って長門さんの返答を待ちます。  
 
 
 
「……面白い人」  
 
 
 
 
――その後はどうやって家に帰ったのか覚えていません。  
余りの衝撃に頭の中が真っ白になってしまった僕ですが、気付けばベッドの上で寝転がっていました。  
 
 
長門さん、あなただけは信じていたのに……。  
少しも面白そうじゃない顔で面白い人って言われましても……。  
嗚呼、やっぱり僕は三枚目になってしまったのですか。  
 
確かにいつも脳天気な笑顔でいますけど、こうみえても陰では苦労しているんですよ。  
 
例の大規模な閉鎖空間が発生した時は勿論全力でバックアップしましたし、文化祭の時の映画だって与えられた役割をそれなりにこなした自信はあります。  
 
いつぞやの野球大会だってホームランで貢献しました。  
文芸部の機関紙発刊の時だって夜も寝ずに書き綴りました。  
孤島の時も雪山の時も合宿の準備で陰ながら頑張ったというのに……。  
笑顔の裏側には人知れぬ努力が隠されているというのにっ……。  
 
こんな仕打ちとは、あんまりです。  
 
 
なんでこんなことになってしまったのやら。  
 
大体、彼もはっきりしないのが悪いんですよ。  
僕が何回か涼宮さんと付き合ってはどうか?と提案しているにも関わらず、いつも呆れたような顔ではぐらかすし。  
最近では受け流しのスキルまで身に付けてきて、なんか悔しいです。  
お互い意地っ張りなんですよね。  
端から見ていると、もどかしくてしょうがないったらありません。  
一度なんてそれこそ言葉の通り二人だけの世界に旅立って、そこでナニかしてきた癖に往生際が悪いってもんですよ。  
 
……まぁ実際あのままだったら僕を始め、悲しむ人が大勢いたでしょうから、戻ってきてくれて嬉しかったのは否定しませんが。  
 
ただ、そこまで想い想われている仲だというのに本人たちが認めないものだから、余計質が悪いです。  
今時中学生レベルの恋愛を繰り広げられましても、見ているこっちが恥ずかしくなってしまいますね。  
 
彼の口癖ではありませんが、やれやれ、ですよ。  
 
 
……なんだか愚痴だらけになってしまいましたが、僕だって今の日常が気に入ってないわけじゃありません。  
 
いつも通りのSOS団メンバー。  
変わらぬクラスメイト。  
愛すべき世界が今日も、今この瞬間も続いているのだと思うと涙が出そうになります。  
 
……我ながら似合わないセンチメンタルな気分になってしまいました。  
 
もう、寝ることにしましょう。  
 
*  
 
今日も無事朝を迎えられました。  
寝起きの頭にはやはり砂糖とミルクたっぷりのコーヒーに限りますね。  
しかし昨日は考え事をして遅くまで起きてしまったので、けだるさが抜けません。  
 
超能力者とはいえ、ご飯を食べますし、夜は寝ますし、朝は眠いんです。  
 
誰に言うでもなく実に高校生らしいことを呟きながら、ナチュラルハイキングコースの途中で彼を見つけました。  
おやおや、こんな時間に登校ですか。まったく呑気なものですね。  
今日は妹さんに起こされなかったのでしょうか?  
あんまりのんびりしていては遅刻してしまうというのに。  
まぁこうして彼の後姿を見ている僕も人のことを言える立場じゃないんですが。  
 
 
 
さて、ではそろそろ変わらぬ日常に戻るとしますかね。  
 
僕は先を歩く彼に追いつくべく少し早足で近づき挨拶しました。  
 
 
 
 
「よう、キョン! 相変わらずしけたツラしてやがんなぁ!」  
 
 

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