「キョンくんキョンくん、お風呂壊れたから今日は銭湯だってー」
妹がお風呂セットを持って部屋に乱入してきた。一日くらい入らなくたってどうでもいいんだが…
「そんなこと言わずい行こーよ」
そんな妹に引っ張られて着いたのが銭湯。 煙突のそびえ立つ古風な感じだ。 ハルヒがいたら「いかにも幽霊とかがいそうな雰囲気」なんて言いそうだな。
「いかにも幽霊がいそうな雰囲気だわ」
そうだな。 …って俺は即座に真横を見た。そこには洗面器片手に不適に微笑むハルヒが居たんだが、何でお前がいる?
「何でって、ウチのお風呂が壊れたから仕方無しにここに来たのよ。 昔はよく来てたしね」
「さぁ、早く行くわよ。 妹ちゃんはこっちね。 一緒に垢舐めを探すわよ」
そんなもん探して出てきた日にゃ閉店だろう。 と心の中でツッコミを入れながら俺は『男』と書かれた暖簾をくぐった。
「おやぁ、誰かと思えばキョン君じゃないかいっ! こんなとこに来るなんて珍しいねっ!」
暖簾をくぐってなんと鶴屋さんだ。 いつもと変わらぬ十万ミリワットの笑顔を見せて番台に立っていた。
「風呂が壊れましてね。 でも鶴屋さんもここで何をしてるんですか?」
「見ての通り店番にょろ。 たまにこーやって立たせてもらってるのさっ! おぉ、ハルにゃんと妹ちゃんも一緒かい。 でも家族割引は無いんだよねぇ」
反対側を見てさらにテンションが上がったようだ。
「あ、キョン、あたしの分も払っといて。 妹ちゃんはこっちに任せといていいから」
「お、おいっ」
妹の「ハルにゃんとお風呂ー、ハルにゃんとお風呂ー」という声が遠ざかるのを確認してサイフを出した。 やれやれ、妹の世話料として払っとくか。
「じゃあ特別に3人で500円っさ、 あ、ロッカーのカギはちゃんと持っといておくれよっ」
俺はサイフから野口一人を取り出し鶴屋さんに献上した。
「あいよっ、500円のおつりっさ。 今日はお客さんが妙に少ないからがっつり入れるからねっ」
鶴屋さんの笑顔に何か不思議なものを感じ俺は脱衣所に向かった。
脱いでいる最中に鶴屋さんが番台から乗り出して、「眼福だねぇ」などと冗談を飛ばしてたのは置いといて、俺は風呂場の扉を開けた。
「こらっ、走らないの、コケるわよ。 あ、その前にまず体を洗って。 ほらこっちに来て…」
などという声が壁を隔てた向こう側から聞こえてくる。 これは200円じゃ足りんな。 後でハルヒにはジュースでも買ってやるか。
俺は蛇口の前に腰かけ、体を洗うかと思い石鹸を取り出したところで湯船から声をかけられた。
「おやおや、こんなところで奇遇ですね」
古泉のニヤケ面が湯船に浮かんでいた。 という事はだ。
「あ、みくるちゃん! それに有希もいるじゃない。 奇遇ねぇ」
ここまでくると奇遇じゃなく何かハルヒ的な力が原因だと思うが…
「そうですね。 でもこれくらいですむならこちらとしてもありがたいですね」
それなら俺の家の風呂の修理代を出してくれ。
「それは流石に… おっと僕はこれで失礼しますよ。 男の長湯はみっともないですからね」
そう言って古泉は湯船から上がる。 おい、前くらい隠せ!
とりあえず一通り洗い終わり、俺も湯船につかることにした。 ふぅ、一日の疲れが吹っ飛ぶな…
「みくるちゃん、まった胸がおおきくなったんじゃないの? ちょっともませてよ」
「ふえっ、す、涼宮さぁーん や、ちょっと、あ…」
「ほら、じたばたしないの。 あ、妹ちゃんもさわってみる? 大きいわよー」
「わーい、さわるー」
わーい… じゃねぇだろ。 ハルヒの奴何やってんだ。
「ちょっと有希。 あなたも端っこで本を読んでないでこっちに来なさいよ それにお風呂の中ではバスタオルをとりなさいよ」
長門の奴、こんなところにまで本を持ってきてるのか?
「そうそう、それでいいのよ ところでみくるちゃん。 何食べたらこんなんになるのよー 教えなさい」
「ひやぁぁ、ふふ普通ですよぉーっ」
「嘘ね。 普通の生活でこんなんになる訳ないわ。 早く教えないと…」
「あっ、いやっ…」
朝比奈さんが妙に色っぽい声を出し始めたところで、妙に感覚が不安定になった。 朝比奈さんの声にめまいを覚えたわけではなく、典型的な……
俺のめが、さめたのは夜も遅くの10時半。
いつの間にか服を着てたり、腰の辺りが痛かったりするが、鶴屋さんの言うところによると、
「あたしがのぼせた後ここまで運んだんだけどさっ、運ぶ時に落としちゃったんだよ。 ゴメンっさ!」だそうで。
何か脱力感を背負いながら俺は帰路に着いた。 明日、動けるのか? コレ…
終?