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 長門さんと入れ替わるように朝倉さんがSOS団の活動に参加するようになって一週間以上が経ちました。  
 最初はびっくりしたけど朝倉さんは馴染むのがすごく早くて、まるでずっと前から一緒にいるみたいな錯覚がしちゃうくらいです。  
 朝倉さんはわたしが淹れたお茶を美味しそうに飲んでくれるし、色々感想も言ってくれるのでむしろ長門さんが居るよりも部室の空気が良くなる・・・、なんて言うと長門さんに怒られちゃうかもしれません。  
 と、とにかくここのところSOS団の活動は日常どおりで平穏な毎日が続いています。  
ああ、平穏と言うと少し誤解があるかもしれないですね。  
 それというのも朝倉さんが何かとキョン君に親しげにアプローチするから、涼宮さんが面白くないみたいでときどき二人が張り合ってちょっと怖い雰囲気になったりするの。  
 でもでも、それによって時空振が起こったりしてるわけじゃないし、世界が改変される心配もなさそうなので、あくまでもそう言った意味での平穏ですよ?  
 ちなみにわたしの上司からの指示は今のところ何も出てません。  
 今回の出来事は規定事項とも言われてないけれど、イレギュラーじゃないってことは確かみたい。  
 何もない以上私はじっと見守るしかないんだけど、朝倉さんのモーションがすごくてキョン君がたじたじになってるのを見たりすると、なんかちょっと切なかったり。  
 この前なんか学校の帰りに普通にキョン君と手を繋ごうとするんですよ?  
 あのときは涼宮さんがテレビで見た「ぷろれす」の「れふぇりー」みたいに早い動きで二人に割って入ったからなんとかうやむやになったけど、キョン君が朝倉さんになびいて二人が付き合っちゃったりするのかなぁ、なんて考えるとドキドキです。  
 はぁ・・・・・・、未来人のくせに先の展開が分からないなんてつらいなぁ。  
 
 
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 それはもういくら鈍感な野郎でもこれだけやれば分かるだろうというくらいのあからさまな好意だった。  
 それ以前は全くそんな素振りを見せてなかったはずだ。少なくともクラスメートの中で特別な扱いを受けた覚えはない。一体どういう心境の変化なんだろうね。女心と秋の空を地でいく変わりっぷりだぜ。  
 人気者の朝倉は常に取り巻きの中心に居るために、特定の誰かと二人で喋ってることがほとんどない。  
 その朝倉がちょっと時間ができたときにわざわざちょくちょく俺の傍にやってきて、楽しげに話題を振ってきたり世話を焼いてくれるのである。  
 襟を正してくれたり、目の横に付いた睫を取ってくれたり。  
 自分で言うのもなんだがちょっと特別だと思うぞ。これは。  
 変わったのは行動だけじゃない。  
 
「キョン君のこと好きだから。全然迷惑なんかじゃないよ。」  
 
「キョン君が喜ぶことをしてあげたいの。」  
 
 こんな言われる方が赤面してしまいそうな言葉をおくびも出さずに微笑みながら公然と言ってくれるのである。  
 そりゃあもう、最初は大騒ぎになったよ。新聞部の連中がインタビューに来るんだから、大スキャンダル扱いだ。  
 そう言えば古泉まで五組に顔を出してうろちょろしていたが、俺に声を掛けずに何をやってたんだ、奴は。何か嗅ぎ回っていたんだろうかね。  
 とまぁ、この話題は沸騰するように盛り上がったが、朝倉があまりに平然と振舞うので、 彼女に一抹の動揺も引き出せないことを知ると周囲も騒ぐだけ損だと諦めたのか話題は意外とすぐに下火になった。  
 
 俺の方も刺々しい視線を浴びることも徐々に慣れてきた。慣れりゃあいいってもんでもないような気もするが。  
 朝倉は実にあけすけなのだが、四六時中俺にべったりという単純なやり方ではなく、教室では今まで通りクラスメートとの付き合いもきちんとこなしていた。  
 ちなみに弁当も何度か作って来てくれたことがあるが、毎日作ってきてくれるのかというと、そうじゃないんだな、これが。  
 要約すると普段はあっさり、くっつくときはべったり。こんな感じ。  
 熟練した技巧派リリーフも脱帽の緩急のつけっぷりで、はたして自分の思春期が終わったのかすら自覚のない純な男心を存分に振り回してくれた。  
 おかげでここ一週間は心身ともに慌しくて何があったかのもよく思い出せないくらいだ。  
 あー、ハルヒはというとだな。そんな俺に対する朝倉の接近を妨害するのに腐心していた、ように思う。。  
 体育の時間マラソンでトップ集団を走る朝倉が俺に手を振ると、ハルヒはわざわざ朝倉の姿を遮る形で抜き去り、  
 家庭科の時間で作った焼きそばを朝倉が俺に渡そうとすると、  
 
「悪いけどキョンはそばアレルギーなの」  
 
 と、そば粉は関係ないのも問答無用で虚言を吐き、  
 俺のカッターシャツのボタンが解れているのに気づいて朝倉がスカートのポケットから携帯の裁縫セットを取り出そうとすると、  
 
「こんなものわざわざ縫い直すまでもないわよ」  
 
 と、ハルヒはピンセットを使って人知を超えた変態的な器用さで縫合してみせた。  
 朝倉は苦笑するばかりだったが、中間テスト前に山場を迎えることとなる。  
 
「キョン君。テスト勉強やってる?」  
 
 部室でハルヒと朝比奈さんを交えて盛り上がっていた黒○げ危機一髪が一段落して、お茶を啜ってしばし休憩してるときに朝倉が切り出した。  
 
「いや。直前にノートを見返すくらいかな。いつも通りだ」  
 
 台詞だけ切り取れば優等生の余裕の発言とも取れそうだが、実態は単なる怠け者の怠け言に過ぎなかったりする。  
 一学期の期末の順位は惨憺たるものだった。中間と比べて落差が激しかったこともあり、両親を納得というか説得させるのに一時間強も言い訳ともつかない弁解と今後の意気込みに熱弁を振るったのも記憶に新しい。  
 
「私で良ければ教えてあげるわよ」  
 
「勉強会! 良いわねぇ。久々のイベントじゃないの。明日からテストまでの一週間、中間対策勉強会を開くわよ。決まりね」  
 
 朝倉に被せる様に突然ハルヒが大声で提言した。  
 馬鹿でかい声を出すな。黒○げのおっさんがが驚いて飛び上がるじゃないか。  
 今の空気から察すると、どうも朝倉は俺と個人的にテスト対策勉強をしたかったようだが、ハルヒによってSOS団を巻き込んだ大勉強会に強引に書き換えられちまった。  
 まぁ、みんなで勉強会ってのも悪くないと思う。  
 
 帰宅前に用を足そうと男子トイレに入ると、古泉が鏡の前で髪を整えていた。  
 特に気にするまでもなく、俺は後ろを通り抜けて便器の前に立った。  
 西日が差し込んでいて、まとまりのない吹奏楽部の個人練習の音だけが辺りを支配していた。  
 丁度いい、気になっていることが一つある。  
 
「ほぅ。なんでしょう。」  
 
 最近どうなんだ? 忙しいのか。  
 
「・・・・・・ええ、それはまぁ、学生としてそれなりに充実した日々を送らせてもらってますが?」  
 
 鏡には口元をいつもより二割増しで歪める奴のニヤケ顔が映りこんでいる。相変わら会話を噛み合わせないやつだね。おまえは。  
 
 単刀直入に言おう。最近ハルヒの精神状態はどうなんだ。またあの妙な空間が発生して巨人退治にお前が奔走してたりするのか。  
 
「普段気にかけもしないのに、ここにきてなぜあなたが涼宮さんのことを心配しているのか興味惹かれるところが、まぁ今は置いておくとしましょう。」  
 
 髪をいじくるのを終えて俺の方を向き直ると、長い前置きから古泉はようやく本題に入った。  
 
「精神状態そのものは揺れてますよ。端的に言えば嫉妬ということになるんでしょう。しかし、閉鎖空間は発生してません。その傾向すらない。」  
 
 それはお前の想定通りなのか?  
 
「いいえ。野球大会の時のことを覚えていますか。」  
 
 俺が4番らしい働きをせずに期待を裏切り、試合にも負けそうになったときのことか。  
 
「そうです。あの時、端的に言うと涼宮さんは事が思うように運ばないということだけで閉鎖空間を発生しようとさせました。これを参考すると、今回の出来事は十分に閉鎖空間を発生させるに足りると警戒していたんですよ。」  
 
 古泉は蛇口を捻って手を洗い始めた。  
 
「しかし予想は外れた。よくよく考えてみると前提条件が間違ってたんです。」  
 
 いきなり結論に飛ぶな。考察から聞かせろ。  
 
「要するに前回と今回では状況が違うんですよ。野球大会のときは涼宮さんの自身の力で事態を好転させることは絶望的でしかなかったわけですが、今回はどうです?」  
 
 ハルヒは対抗心を燃やして朝倉とやりあってるな。  
 古泉は洗面台から両手を引き上げると、軽く水を切る。  
 
「そうなんです。涼宮さんは態度のはっきりしないあなたに苛つきながらも、どっちに転ぶか分からないこの勝負みたいなものを楽しんでるんですよ。」  
 
 前半はともかく後半のくだりは納得がいった。ハルヒがまた物騒なことをやらかしてなくて何よりだ。  
 古泉はきちんとアイロンが掛かった清潔そうなハンカチで手を拭う。  
 
「それは、今後のあなたの行動次第ってとこですかね。」  
 
 そう言いながらドアのノブに手をかけ、  
 
「通常友人ならば、ここで態度をはっきりさせろなんてアドバイスするんでしょうけど」  
 
 などと芝居がかった調子で去り際に一言付け加えた。  
 
「なにせわれわれは非常識な存在ですから、ね。」  
 
 古泉が姿を消した。  
 相変わらず噛んで含んで持って回った言い回しが大好きなやつだが、今回ばかりは奴の意見と忠告が大いに参考になったのは認めてやろう。  
 しっかし毎度の事ながら世界は平凡な高校生でしかない俺の言動に軽々しく命運を委ねてきやがる。  
 世界の意思とコンタクトが取れる方法を知らないか?  
 知ってる奴がいたら是非俺に紹介してくれ。男なら秘蔵の朝比奈さんの画像ファイルをCD‐Rで進呈しようじゃないか。  
 あいつにはもっと自分を大切にしろと、直接説得してやらなきゃならんと思うんだ。  
 
 
 SOS団による勉強会が部室で開催された。  
 テスト一週間前から部活動は原則禁止だが、正式なクラブとも認められていないこの集まりを咎める暇な教師もいないだろう。  
 実際に部室に見回りが来たことなんて一度もないしな。  
 朝比奈さんだけ学年が二年で教え合う相手が居ないため、ここは鶴屋さんにご登場願うことにした。  
 
「いつもの面子で勉強会? 面白そうじゃないのさっ。みくるのためにも是非参加させてもらうよっ。」  
 
 予想を全く裏切らないリアクションで突然のオファーにも鶴屋さんは快く応じてくれた。  
 しかし鶴屋さんをお迎えしたためにハルヒのテンションが逆に上がって、初日は終始騒いでばかりで遊んでいただけのような気がする。。  
 二日目からようやく勉強会の体を成してきた。鶴屋さんは要領のあまりよろしくない朝比奈さんのために日本史の暗記帳を作成し、上級生らしく古泉に理科総合を教えていた。  
しかしどうもその説明が珍妙で、  
 
「塩酸と水酸化ナトリウムを混ぜると食塩ができるのは、塩酸(Aさん)に塩基(縁起(エンギ))があったからなのさっ。だから出来上がった食塩のことを塩(縁)なんて呼んだりするにょろよ。」  
 
 逆に分かりにくいような気がするが、あの人の頭の中では全体的にこんな感じで物事が関連付けられてるんだろう。  
 もっと聞き耳を立てていたいところだが、今の俺はそんな余裕すらも許されない。  
 ハルヒと朝倉に挟まれるという考えるだけで心労が祟りそうな座席配置で俺は数学の勉強を強いられていた。  
 俺が滞りなく問題を解いている間はまだいい。二人とも黙って自分の勉強を進めてくれるからな。そもそも、この二人は勉強会を開くメリットなんて何一つないはずだ。毎回トップを争ってる連中なんだから。  
 おっと、俺の脳内の限られたメモリ空間にはこんな余計なことを考える余裕など1ビットの隙間もない。  
 問題の解答に全力を傾けねば。  
 正直さっきのようないわゆる針のムシロ状態に陥るのは勘弁被りたい。  
 思い出すだけでも憂鬱になるが、どれだけの精神的負荷が俺にかかっていたかを理解いただくために敢えて回想を入れるとしようじゃないか。  
 
 数列をやっていた。ジャンルは数列だ因数分解を駆使せんと解けんという難儀な問題だ。 ご存知の通り因数分解はパズル要素の高くどの係数で括るかが肝なワケだが、直感で物事を考えるハルヒは、  
 
「だ〜か〜ら〜、(2ab+7)で括れば一発じゃん。式全体見りゃ一瞬で分かるでしょ。ビビッとこないの? あんた」  
 
 こねぇよ。  
 こんな感じで3段階くらいすっとばした解法を披露するばかりでさっぱり理解できん。アルバイトで小学生を教えてるそうだが、正直その小学生に同情するね。  
これに対して朝倉はあくまでも基本に忠実だ。  
 
「ふふっ。涼宮さんそれじゃ分からないわよ。長い式だけどよく見れば2乗がたくさんあるよね。残りの式で2乗の項を作って全部2乗にできないか考えてみようよ。」  
 
 こんな風に手順を追って教えてくれる。もちろん俺は朝倉の解法を支持した。例によってハルヒはアヒル口だったが。  
 しかし逆にハルヒの解法が役に立った例もある。  
 ハルヒはなぜか色んな独自の公式を一杯暗記しててそれを教えてくれた。  
 公式の利便性を覚えると一から問題を考えるのが馬鹿らしくなってしまうほどだ。  
 公式の意味をちゃんと理解していないとちょっとひねられると全然分からなくなると朝倉はいい顔しなかったがな。  
 邪道なのは分かっちゃいるが背に腹は変えられん。今から効率的に点数を稼ぐには出題パターンと公式を覚えた方が良いと判断してこのケースではハルヒを支持した。  
 例によって勝ち誇ったように腕を組んで大きくうなずいていた。忙しないやつだ。  
 と、まぁ要するに俺が間違えたり、つっかえたりするとその度に二人の方向性の異なる解答方針がぶつかり、俺は二択を迫られて胃を痛めるというわけだ。  
 よって俺は問題集と教科書を交えた三者で睨めっこをして、クロック数の低い頭脳をフル回転させて独力で必死に解答した。結局自分でやった内容が最も身についたような気がする。  
 勉強会とは名ばかりで俺にとってはただの自習だったというわけだ。  
 
 
「あ、キョン君。そこ、こうしたらもっと簡単にできるよ。」  
 
 朝倉はめざとく上半身を乗り出して俺のノートに書き込んできた。  
 瞬時に例のフローラルミントの芳香が流れてくる。  
 ふと視線を落とすと、手に届きそうな距離に朝倉の太ももがあるのに気づいた。  
 スレンダーな上半身に反して朝倉のももは妙にむっちりしてて肉付きがよいことを改めて確認した。  
 誤解されるのは心外なので説明しておくと、特段に俺がスケベなワケではない。健全な男子の間では誰もが知っているごく常識的なことだ。  
 野郎ならばまず目が行かない方がおかしいと断言してやってもいい。  
 朝倉のスカートの丈が普段よりも若干短いような気がするのは、更なる刺激を求めて脳が網膜にフィルターでもかけてるせいだろうかね。  
 血色が良くて色白の肌がほんのり桜色に色づいてて弾力性抜群であろうその太ももで膝枕でもしてもらった日には、目覚めるのを忘れるほどの勢いで爆睡できるんじゃないだろうかと順調に一人妄想の旅に繰り出したが、  
 
「・・・もう。どこ見てるのよ。えっち」  
 
 恥らうようにしおらしく非難する朝倉の声で一気に引き戻された。  
 正直怒ってくれた方が精神的に楽になれたような気がする。  
スカートの裾を軽く手で押さえながら眉を下げて頬を染める朝倉は朝比奈さんとは別ベクトルで凶悪なまでにかわいかった。  
 まずい。変な間を作ってしまうではないかと危惧したその刹那、間髪入れずにハルヒがテイクバックやや多めで俺の後頭部をノートではたき妙な空気を取っ払った。・・・・・・、ありがとうよ。  
 
 こんな感じでためになってるのかなってないのか良く分からない勉強会三日目が終了した。  
 ぞろぞろと連なって俺達以外誰も残っていなさそうな学校を後にする。  
 前からハルヒと朝倉、古泉と朝比奈さん、俺と鶴屋さんの三列体制で歩いていると鶴屋さんが肩口を人差し指で突いて来た。  
 
「涼ちんの勢いすんごいねぇ。キョン君が焦る姿なんてあたし初めて見たさぁ。」  
 
 恐縮です。  
 鶴屋さんはそこで声のトーンをぐっと落とすと、。  
 
「でもさ。気をつけなっ。言っちゃなんだけど涼ちんなんか考えてやってるよっ? 女の子同士だと分かっちゃうんだよねぇ。」  
 
 マジですか。いや、思い当たるところはなきにしもあらずってとこなんですがね。  
 
「あっはっはっ。分かってても身体が言うこときかないって? とにかく気をつけなよ? しょーねんっ。」  
 
 あくまでも明朗快活に言うと俺の背中を一発バシッと叩いて、朝比奈さんの横についた。 朝比奈さんは気配もなく現れた級友に目をくりくりさせてびっくりしている。  
 確かに鶴屋さんのおっしゃる通りだ。  
 色気に負けてすっかり思考を止めていたが、第三者の視点から判定すれば朝倉の豹変っぷりは普通と異常のボーダーラインすれすれの行動だと言える。  
 今一度冷静にならねばならんだろう。  
 しかし、そう都合よく俺の頭がクールダウンするのを朝倉は待ってはくれなかった。  
 いつも彼女と別れる交差点に差し掛かると、  
 
「キョン君、もし時間があるんだったら私の家で続きをやらない? あ、遠慮ならしなくていいよ。両親は長期出張で留守にしてるの」  
 
 こんな突拍子もない提案をぶち上げてくれた。  
 待て待て待て。色んな意味で心の準備ができてないぞ。  
 
「えーっと、だな。厚意は非常に嬉しいんだ・・・。しかし、二人きりというのはまずいんじゃないだろうか・・・・・・」  
 
 狼狽のあまり思わず目が泳いでしまう。泳ぎ着いた先にはハルヒの顔があって、  
 
「なっさけないわねぇ。行きたいなら行けばいいじゃないのよ。」  
 
 吐き捨てるように言って口元を堅く閉ざしたままそっぽを向かれた。針のように研磨された嫌悪感が身体を貫通しそうな勢いで伝わってくるぞ。  
 
「団長さんのお許しも出たことだし、いいじゃない。ね、いこっ?」  
 
 朝倉は期に乗じるかのように俺の腕を引き寄せて身体に密着させた。  
 すぐさま「アタタカクテヤワラカイ」と感覚細胞が忠実に伝令を返してくる。  
 朝倉の引っ張る強さは決して強くなかったが、俺は何かに囚われたように抗うことができなかった。  
 嗚呼、みんなの揃い合わせたような「やっぱり行くんだ・・・」的な諦めと蔑みを含んだ視線と苦笑が痛い。  
 これならまだハルヒみたいに突き放してくれる方が幾ばくもマシだと断言できる。  
 待ってくれ。違うんだ。俺はこんなヘタレなビッチ野郎じゃないはずだ。  
 朝比奈さんまでそんな目で見ないでください。  
 しかし、振り返るたびに確実にみんなの姿は小さくなっていった。  
 
 

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