- * -  
「朝倉涼子はあなたとほぼ同じ存在。情報思念統合体のインターフェース」  
「朝倉涼子は涼宮ハルヒの近くにいるわたしを殺す事で、涼宮ハルヒの出方を見るつもりだった」  
「わたしをここへ呼び寄せたのはその為。でも朝倉涼子は失敗した」  
「わたしは念のため、あなたをここへ呼び寄せるよう手を打っておいた。あなたのノートはわたしが預かっている」  
「あなたのノートの取り方は非効率的。要点を押さえていない。改善が必要」  
 余計なお世話だ。  
 
 話がそれたがつまりアレか。朝倉は宇宙人で、長門は朝倉に殺されかけたと。  
「そう」  
 で、それをさせない為にこうして俺に説明している間も  
「もう、だめ、意識が、情報が、崩壊、しちゃ……ああああああああんっ!」  
 ……両腕を休めずに朝倉を攻め立てている訳か。  
「未だに理性では信じたくはないが、俺に宇宙的パワーがあるのは納得した。オーケイ、わかった、認める。  
 それで長門、俺の力で朝倉を気絶させる事は可能か。可能ならやり方を教えてくれ」  
 このまま話をすすめるには、正直眼のやり場も耳の立て場もズボンの状態も大弱りだ。  
 
 
 悶え続けていた朝倉に軽く手を触れて気絶させる。  
 気絶した後の朝倉の表情がもの凄く安らかに見えるのは、はたして俺の気のせいだろうか。  
 長門は朝倉から両手を開放し、つづいて俺に空間修正の方法も教えてくれた。  
 
「基本は同じ。全ての事象を情報として扱えばいいだけ」  
 長門の指示に従い、異空間化していた教室を元の状態へと戻していく。  
 自分でしている事ながら改めて驚きを隠せない。一体何でこんな事ができるんだ俺は。  
 その間、長門には朝倉の衣服を整えさせた。流石にそっちは俺の管轄外だ。  
 
 
「話を聞きたい。とりあえず場所を変えよう。この状態も含め、教室じゃ色々と問題が多い」  
「了解した。わたしの家に……あっ」  
 どうした。何かまだ困ったことでもあったか。  
「……眼鏡が無い」  
 長門がそう言って顔に手を置く。言われてみれば、先ほどから眼鏡をしていない。  
 眼鏡は教室の隅に落ちていた。レンズは無事だがフレームが曲がりきっている。  
 こんなのを修復とかもできるのかなと考えながら眼鏡を覗いてみたが、視界が殆ど変わらなかった。  
 
「ん、この眼鏡……もしかして度なしのダテか?」  
「入ってない。わたしの視力に問題はない」  
 あっさり認める。しかし長門は何でダテ眼鏡なんてしているのだろうか。  
 俺が聞くと長門は少しだけ顔をうつむかせ、小さく答えた。  
「……視線が、苦手」  
 
 そういえばコミュニケーション下手だとか言っていたな。  
「それはすまなかった」  
 慌てて視線を外す。だが長門は逆に俺に視線をぶつけてきた。  
「あなたは大丈夫、外さなくていい」  
「そうか。……でも長門。眼鏡がない方が、お前には似合ってるぜ」  
 俺には眼鏡属性も無いしな、最後にそう付け足した。  
 
 
- * -  
 俺は朝倉を背負い、長門と共に家へ向かう。  
 教室で俺が朝倉を背負い、長門が何故か俺の腕に軽くしがみ付いた姿を、何だか陽気に奇妙な歌を歌いながら現われた谷口に  
目撃されたりもしたが、俺は先ほど覚えた気絶攻撃を食らわせる事で事なき事を得た。多分。  
 
 そして現在。  
 
 
「……ぁ……んっ……くふぅ、ぁあっ!」  
 全裸にされた朝倉は、再び長門によってたっぷり攻め立てられていた。  
 
 長門の口は朝倉の耳たぶから首筋へゆっくりと流れ落ちつつ、要所要所で吸ったり軽く噛んだりし、そのたびに朝倉からは切ない声と吐息が漏れる。  
「だ、吸う、のはダ……メ……」  
 そのまま形の整った二つの胸に対し、長門は名を表すような白い指で、腕の両脇からゆっくりと撫で回すように登山を開始させる。  
 そのうち片方の手は登山軌道を離れ、ヘソを通ってわき腹、腰へとゆっくり降りていった。  
「ひゃうんっ、ぞ、くぞく、する……よ。なにこ、れ……」  
 双丘の頂、朱に染まるニップルを人差し指で軽く回し押さえ、二本指で小刻みに摘み、そのまますっと胸を横断して対なる頂へと移す。  
 腰まで降りた指はそのまま股下まで走る関節の括れを伝い、そのまま茂みに突入かと思いきや、股下から膝へと指を下ろして太腿の内側を撫で始めた。  
 朝倉から流れ出る音は既に言葉にならず、もはや抵抗らしい抵抗も見せていない。  
 刺激が与えれる度に全身を小刻みに震わせながら、長門に対して全てを委ねていた。  
 
 ……などと官能文庫さながらの冗長で猥雑な表現回しを使い、俺なりに冷静な判断で状況解説してみたつもりだがどうだろうか。  
 いや、既に俺の思考に淫靡な霞どころか濃霧がかかっているのはわかっている。  
 しかし俺も先日ようやく高校生となり、大人の階段を北高への坂道と共に登り始めた健全な精神を持つ男子だ。  
 学年でもトップクラスの容姿を持つクラスメイトの美少女が、同じくトップクラスの部活仲間の美少女と、  
手を伸ばせば届きそうな目の前であられもない痴態に耽る姿をこれでもかと言わんばかりに見せ付けられて  
それを沈着冷静に眺める事ができるヤツがいたとしたら、そいつは悟りを開いた聖人君子か、ホモか、あるいは古泉のどれかだろう。  
 もちろん俺は聖人君子でもホモでもましてや古泉でもないので、その何ていうか色々と持て余している状態となっている。  
 
「まだダメ。服を脱いで、気分の高揚を維持」  
 そんな俺の悶々とした気持ちを察したのか、長門は犬におあずけを教える飼い主の如く視線で「待て」と命令してきた。  
 仕方ないのでこちらも全裸になって正座し、気分を高揚させて悶え待つ。ワクワクテカテカとでも唱えてようか。  
 長門が必死に朝倉のヒットポイントを削る間、どうしてこんな現状になっているのかを振り返ることにする。  
 そうだな、長門の家についたあたりからでいいだろう。  
 
 
- * -  
 長門の家に上がり、まずはコタツをどけて空間を確保する。そこへ朝倉をおろすと、俺はこの部屋を情報管轄下に置いた。  
 俺にある未来人の属性はダテではないらしく、俺は朝倉より桁違いどころが次元違いと言えるほどハイスペックなインターフェースなのだと長門は言う。  
 どれくらい凄いのかと言うと、この時代の情報思念統合体ぐらいならガチンコ勝負もできる程に進化しているのだとか。  
 どれくらい凄いのか全くもってわからない。  
 ただまあ、そのインターフェースの劇的進化の理由がアイツでない事を心から願いたい。  
 
 
 朝倉の情報思念統合体との連結も含めほぼ全ての能力を封鎖してから覚醒させる。  
 今の朝倉にできることは一般人と同じような事だけだ。  
「お手上げ。流石は上位種ね。それとも、あなたが特別なのかな」  
 朝倉もわかっているらしく、台所から包丁を持ち出すとかいった抵抗をしようともしなかった。  
 
 俺は改めて朝倉と長門から今回の凶行について説明を受ける。  
 朝倉は三年前からハルヒを監視していた。  
 だがハルヒが思ったほど変化を見せない事に、朝倉も直接的上にいる思念体も苛立ちを覚える。  
 そこで朝倉は自ら事態を動かそうと、今回の長門強襲を行ったという事だった。  
 
「あたし自身の意思か、上からの介入かはわからないわ。でもね、そんなのどうでもいい事なの。  
 変化の無い対象を常に監視し、一定間隔で『変化なし』で埋め尽くされた報告を、この三年あたしは毎日毎日飽きもせずに出し続けた。  
 ……もう、うんざりなの」  
 そう最後に呟いた時、俺はコイツを知ってから初めて、朝倉涼子の真の表情というのを見たような気がした。  
 それはいつもの取っ付き易い姿でないが、それでも俺はその表情の方に好感を持った。  
 命令とか事態の改変とか色々言っていたが、結局の話、コイツは日常に退屈していたんだ。  
 そしてコイツもハルヒのように気づいたんだ。  
「事態が動かないのならば自分で動かせばいい」って事に。  
 
 
 つーか、もしかしてSOS団を思いついたハルヒの、あのエウレカ叫びが今回の原因なのだろうか。  
 俺は聞くのが怖くてその質問を口に出さない事にした。  
 
 
 朝倉が宇宙人だとかは正直どうでもいい話で、結局は誰にも被害が及ばなければいいと俺は思っている。  
 なので俺は朝倉に事態の凶行を止めるよう進言してみた。  
「うん、それ無理。だってインターフェースは操り主の命令には逆らえないもの」  
「朝倉涼子の管轄者が急進派である限り、朝倉涼子の存在は危険を伴う」  
 残念ながら俺の平和的提案は反対二票であっさりと否決されてしまった。  
 操り主の意思が変わらない限り、朝倉は強行的に走り続けるという事か。  
 
 ……ん、待てよ? つまりそれはもしかして『こういう事』なのか?  
 
 
「朝倉、これは興味本位で聞くんだが。もしお前に対しての全ての指令が外れたら、お前何がしたい?」  
「え?」  
「ハルヒの監視も他の指令も全くなし。情報思念統合体への報告とかを行う必要も無しだ。  
 お前の行動は完全に自由で、勝手気ままに動いて構わない……ってなったら、お前は何がしたいんだ?」  
 現状が退屈と言うことは、つまり退屈だと思う現状と比較する「退屈でない何か」があると言う事になる。  
 それが一体何なのか、俺は聞いてみたくなった。  
「んー……もしそうなったら、一つしてみたい事があるの」  
 してみたい事?  
「ええ、あたしの知る、宇宙で一番楽しい事。でも何かはナイショよ」  
 そうか。お前にもあるんだな、そんな事が。  
 その言葉を聞いて、俺は先ほど思いついた突拍子も無い『こういう事』を打ち明けてみた。  
 
 
「俺の能力、情報思念統合体、インターフェース。俺よりも宇宙的な事に詳しいだろうお前らに尋ねるんだが。  
 つまりこの問題って『朝倉の操り主が情報思念統合体の急進派』なのが問題なんだよな。  
 だったら……『朝倉の操り主を俺にする』なんて事は可能だと思うか?」  
 
 流石にこんな事を言い出すとは思っていなかったらしい。朝倉も長門も言葉をなくしていた。  
 いや長門は普段から言葉が無いが、それでも普段より眼を少しだけ見開いたその表情を見れば驚いているのがわかる。  
 
「思念体が生み出したあたしのプロテクトを破って、アドミンネーム……つまり操り主をあなたに変更して、  
更に思念体が解除できないぐらい強力な情報保護プロテクトを掛け直せば、一応可能かな。うん」  
 勤めて明るく朝倉が教えてくれた。  
 なるほど、つまり不可能ではないんだな。  
「……ねえ。まさか本気だなんて事、ないよね?」  
 流石に雰囲気がわかったのか、朝倉が笑顔を落とし真剣な表情で聞いてくる。  
 どうもさっきの案はインターフェースなりの冗談だったらしい。  
 長門もまたいつに無く厳しい表情でこちらを見ていた。  
「成功確率は極めて低い。最悪ケースを想定した場合、朝倉涼子のデータ改変中にマスターから逆改変を行われる可能性がある」  
 だったらそうされないよう、成功率を上げる方法を考えようじゃないか。  
 幸いここには思念体と張れる存在が三人もいるんだからな。  
 
「わたしはただの人間。現地協力者にすぎない」  
 ……それが今のところ一番謎なんだよ。  
 知識といい体術といい、悪いが俺なんかよりよっぽどインターフェースっぽいぞ、長門。  
 って言うか宇宙人より面白い立場にいるんじゃないか?  
「それは、気のせい」  
 
 
- * -  
「朝倉涼子を心身共に消耗させ抵抗力を落とす。その上であなたの攻撃因子を朝倉涼子に注入し、改変を行う。  
 これが合理的、かつ最善の手段と思われる」  
 なるほど、それは合理的だ。  
 それで具体的にはどうすればいい。何せ宇宙人の力に目覚めて日が浅くてな。  
 何をどうしたらいいのかさっぱりなんだ。教えてくれないか長門。  
 お前がどうして布団を敷き始めたのかを含めてな。  
 
「あたしの事をどういう風に改変させたいか、その結果を思念して。  
 それで、あなたの存在全てが改変攻撃因子に変化するの。思念幅が広域であればあるだけ、そうね、  
人間の感覚で言うなら『強く』思念すればするほど、より強力な攻撃因子が構成されるわ。  
 後はその攻撃因子をあたしに注入するだけね」  
 なるほど、かなり具体的だ。  
 それで具体的にはどうすればいい。何せ宇宙人の力に目覚めて日が浅くてな。  
 何をどうしたらいいのかさっぱりなんだ。教えてくれないか朝倉。  
 お前がどうして制服を脱ぎ始めたのかを含めてな。  
 
「わたしが朝倉涼子を消耗させる。その後皮膚や血液、粘膜へ因子を接触させ、全身に吸収させるのが最も効率的。  
 あなたの全身から出る汗を朝倉涼子に触れさせるのも攻撃手段の一つ。  
 またあなたの唾液を飲ませる、体液を注入させる行為もまた攻撃手段となる」  
 
 ……はっはっはっ。なるほど、そういう展開か。  
 悪いな谷口、国木田。どうやら俺は朝倉と一足先に大人の階段を登ることになりそうだ。  
 恨むなら朝倉にこんな命令をした情報思念統合体の急進派を恨んでくれ。  
 
 
- * -  
「きゃふ、ふぁ、ぁ、ぁああああああーーーーーーーーっ!!」  
 朝倉の艶を大いに含んだ咆哮を受けて思考を戻す。  
 全身に珠玉のように輝く汗をかき、涙や涎やその他諸々を分泌しながら、激しく呼吸する以外の動きを見せなくなった。  
 こうして見ていると、インターフェースというのがウソに思えてくる。  
「……いぇ……っさぁ、ぁ……れ」  
 息なのか言葉なのかわからないメゾソプラノの音を出す朝倉を見つめ、長門はゆっくりと朝倉から離れてこちらに視線を送った。  
「準備完了」  
 ……そうか。ありがとうよ、その淡々とした態度に少し萎えたが、逆に冷静になれたぜ。  
 さて、ここからが真剣勝負だな。あらゆる意味でチェリーな俺がどこまでできるのか。それに朝倉の今後がかかっている。  
 一糸纏わぬ姿の俺は、一糸纏わぬ姿の朝倉にゆっくりと近づいて……  
 と。あくまで単調の雰囲気を崩さず、朝倉の艶美な芳香を纏ったまま、長門がすっと近づいてきた。  
 ちなみにコイツはタイ一つすら乱れていない完璧な制服姿である。なんだかなぁ。  
 
「萎えるのは問題。早急に起たせる必要がある」  
 そう言うなり俺の前に跪き、主に朝倉の甘露で濡れた両手を俺のいきり立つ注射器に添えてきた。  
「吸茎と手淫を施す」  
 
 その後じっとりねっとりしっぽりすっかりたっぷりのんびり長門に攻め立てられまくり、大人の階段を昇るどころか何かとんでもない  
精神的外傷を俺の心に刻み込みながらある種の抜け出せない深みに堕ちていく気分になったのはどうか気のせいだと信じたい。  
 
「準備完了。ターゲット朝倉涼子の管理構成プログラムへの改変ウィルスを速やかに挿入」  
 色んな尊厳を失くした気分になり泣きたい気分だがとりあえずギリギリのところで堪える。  
 で、つまり挿入ってのは、それはその、アレをしろって事だよな。  
「そう。あなたのそのたぎる陰け」  
 あ、いや語らなくていい。言いたい事は痛いほどわかるから。  
「そう」  
 長門はあくまで表情を崩さず、首を数ミリほど横に傾け大丈夫?といった感じで伺ってきた。  
 大丈夫だ、多分。  
 
 しかしこんな事になろうとはね。SOS団の三人が揃ってハルヒがどうのと言った時には、てっきりこの誰が望んだかわからない  
微妙に非日常系な物語は、ハルヒをヒロインにあいつの心の憂いと鬱憤を取り除くという、そうだな「涼宮ハルヒの憂鬱」なんて  
ちょっと投げやりなタイトルが意外にマッチするような話だと思っていたのだが、まさか朝倉がヒロインで「朝倉涼子の解放」という  
物語になろうとは、いったい長門以外の誰が気づけようってもんだ。  
 
 
 
「朝倉、最後にもう一度だけ聞きたい。……本当に、その、しちゃっていいんだな?」  
 既に精も魂も尽きかけぐったりとしている朝倉の傍により、視界に入るよう覗き込んで問いかける。  
 ヘタレと呼ぶなら呼べ。引き返せない第一歩を躊躇い無く踏み出せるなら、今頃俺は経験豊富な色男にでもなってるさ。  
 朝倉は部屋の天井を彷徨わせていた視線をぼんやりと俺に移し、その霞んでいる思考を何とか巡らせて答えてきた。  
「……うん、お願い。この退屈な日常を終わらせられるチャンスがあるんなら、あたしはそれにかける。  
 …………それにね」  
 それに、何だ?  
 息も絶え絶えに、隠す意思も無い形の良い艶やかな胸を上下させながら、朝倉が手をのばして俺を捕まえてくる。  
「……もう、限界なの。思考が狂って、エラーが起きてる……。早く……何とか、してっ!」  
 思いもがけない強い力で一気に俺を引き寄せる。バランスを崩して倒れこむと、朝倉はそんな俺をしっかりと抱きしめてきた。  
 
「はうあああああっっ!」  
 直後に朝倉が白桃色の声で叫びだす。なんだ、どこかに当たったか?  
「違う。あなたの全身にかく汗もウィルスの一環。朝倉涼子はあなたに侵食され始めた」  
 淡々とした解説が流れてくる。ところで長門、お前ずっとそこで見ているつもりか?  
「わたしはあなたをサポートする義務がある。あなたが失敗しないように」  
 あり難いんだか下手くそそうで心配だといわれてるのかわからないが、恥ずかしい事にはかわりなかった。  
「それと興味もある。わたしが同じ状況に陥ったとき、大いに参考にさせてもらう」  
 どんな状況だソレは。俺の問いにきっかり三秒待って  
「……初体験の時」  
 頬に僅かな朱をのせて、長門は小さく呟いた。  
 
 
 朝倉は俺を抱きしめながら、それだけで身体を小刻みに震わせている。  
 だがいつまでも俺のボディプレスを続けさせるわけにも行かないだろう。自分の下から横へとその身体をずらす。  
 そのまま抱きしめ返しながら軽く口づけ、そのまま舌で紅を叩いて開かせる。  
 舌を口内に差し込むと、朝倉は更に震えを増しながら、俺の舌と唾液を舐め取るように絡めてきた。  
 
 俺の体液全てがウィルスだったか。摂取量が多ければ多いほど改変効果が期待できる。  
 何て夢の様でいて恐ろしい設定だ。朝倉が俺の血液を全て吸い取るとか始めなかっただけ良しとしよう。  
「そんな……事、しないわよ。何となくだけど、あなたなら、何とかしてくれそうだから」  
 もの凄く恥ずかしい事を言われてしまい、照れ隠しに俺は朝倉の口内から耳タブを経由して首筋へと舌を動かした。  
 鎖骨のくぼみがどうやら朝倉のお気に入りらしい。甘噛みで鎖骨を咥えたり、舌でそっとなぞったりするたびに、  
朝倉は振動モードをオンにされたゲームコントローラーよろしく震え上がる。  
 
「くきゅんっ! も、もうだめ……満たされないの、思考が繋がらないのっ! なんなのこれ……おかし、くなる」  
 頭を振って未知の感覚に戸惑う。どうにか認識しようとするが、適切な言葉を見つけられないようだ。  
「それは多分、『切ない』という感情」  
「切ない……うん、そう。切ない……切ない、切ないな……切ないの……切な、い」  
 潤んだ瞳で見つめられ、桜色に染まった身体でそう言われて、それで我慢できるヤツは以下略だ。  
 既に長門によって決壊したダムのような状態なっているそこへ、俺の愚息をあてがう。  
 
「朝倉、お前は力が使えないんだ。だから、痛かったらちゃんと言ってくれ」  
「うん。でも、あたしでも痛いのかな……わかんない……こーいうの、全然した事ないから……必要なかったから……」  
 そうか。  
「うん。でもね、優しくする必要も、そんな気遣いもいらない。……あなたは、ただ一つの事だけを、ずっと考えててね」  
 不意の言葉に驚くが、俺を掴む朝倉の手が小さく、でも強く俺の事を引き寄せてくる。  
 
「あたしを侵して……あなたの全てで、あたしの事を繋ぎとめて。…………お願い、いいよね」  
 俺は頷くと、ゆっくりと朝倉にその身を沈めていった。  
 
 
 思ったより痛くないのか、それとも朝倉なりの頑張りなのか、はたまた改変中でそれどころでは無いのか。  
「はあん、うっ、くううんっ! もっと、足りないのおっ! 何か熱い力が、全身で暴れてるのおっ!」  
 リズム的な動きにあわせ、リズム的に言葉を返してくる。  
 汗でにじんだ手を胸に触れさせるだけで、その激しさが更にはじける。深く舌を絡ませるだけで、その体温が更に上昇する。  
「ああっ、それ、いいっ! 何かが染みてくるみたいっ!」  
 今はただ朝倉の事だけを考える。というかそれ以外考えられない。  
 朝倉の舌が顔や首や胸板などを這いまわり、その軟らかくほんのり温かい身体は密着し、全身からは熱く甘い匂いを振りまき、  
何より俺の愚息が朝倉の中で表現不能の動きに包み込まれている。  
 
 キスをするたび、何処かに触れるたび、そして少しずつ漏らすたびに、朝倉の改変が行われていく。  
 改変を阻む激しい拒絶の壁。その合間を縫って、俺の事を小さく受け入れ続ける。  
 幾重の壁を地道に破り、ついに俺の思念は朝倉の中心に指をかけた。  
「凄い……これって何なの!? あたしの中の情報が連動する、連鎖していくっ! 暖かい何かで侵略されてるのッ!」  
 朝倉が強く抱きしめてくる。背中に爪が立てられるが、そんな痛みは完全に無視した。  
「切れそう……消えそう……消えたくないよ……こんな退屈なら消えたいって、思ってたのに……今は消えたくない。  
 もっと抱かれてたい、もっとこうしてたい、もっと色々してみたいのっ! もっと、もっと、もっともっともっと」  
 限界が近い。俺の欲求も、体力も、そして朝倉の思考も。動きを早く、そして深くして、朝倉を攻め立てた。  
「あ、もう、切れて、繋が、あ、あああぁ────────────────────っ!!」  
 その腕が、そして朝倉自身が俺を一際強く包み締め付ける。  
 それにあわせて俺も朝倉の奥深くでウィルスをぶちまけ、同時に朝倉の中心をしっかり掴みとった。  
 
 
- * -  
「……さっきから変なの。吹いたら飛んでいっちゃうような、小さく軽い羽毛が、こう、身体の中にたくさん積もってきて、  
重く感じるんだけど、でもそれが何だか心地良くって、大切にしたい……そんな感じ。ねぇ……これって、何なのかな」  
 隣で横になっている朝倉が聞いてくる。改変が成功したのかわからなかったが、その表情は極めて優しかった。  
 
「さぁな。でも、大切にしたいって思うんだったら、大切にしたらどうだ」  
「そうね。そうする」  
 そうしてゆっくりと目を閉じる。少しして、小さな寝息が聞こえてきた。  
 
「……わたしにはわかる」  
 どこからか小さな声が響く。  
 少なくとも俺の視界範囲に姿は見えないが、部屋の隅で途中からずっと正座していただろう、長門の声だった。  
「朝倉涼子は涼宮ハルヒとコンタクトを取る為、クラスに溶け込むよう人付き合いの良い性格をしていた。  
 だがそれは全て誰かがパターンとして作りあげたモノ。彼女自身のモノではない。  
 しかし、涼宮ハルヒのある一言が、朝倉涼子に『自分で考える』という行為を思いつかせた」  
 お前が何でその事を知ってるのかはわからんが、その一言って『無かったら作ればいいのよ』ってアレだよな。  
「そう。そして朝倉涼子は次々と『自分で考えた』。次々と思いついた。それが、彼女の言う『羽毛』」  
 ああ、そんなの俺にもわかってたさ。  
 でも朝倉が自分でその事に気づいた方が良いと思ったんだ。だから言わなかった。  
 
「それがいい」  
 長門は静かに肯定してきた。少しの物音と襖を開ける音がする。  
「その布団に三人は多い。わたしは向こうで眠る」  
 何から何まで本当に悪かったな、長門。  
「いい」  
 ゆっくりと襖が閉められる。隙間無く閉じられ部屋が闇に戻ったとき、襖の向こうから言葉が続いた。  
 
 
「──それに、わたしも堪能した」  
 
 ……何だか色々と眠れない気分に陥った。  
 
 
- * -  
 事の顛末を二つ語ろう。  
 まずは改変の結果だが、これは見事に成功したらしい。  
 
「マスター、ご主人様、ボス、主、お義父さん……どれがいいかな」  
 何の話だ。  
「だってあなたがあたしのマスターなんだもの。あなたが望むよう呼んであげるわよ」  
 今までどおりにしろ。頼むから俺をマスターと思うならこれ以上悩みの種を増やさないでくれ。  
 ……まあ、この三人しかいない時には好きに呼んでもらって構わないがな。  
 それこそお前が『自由』に決めるべき事だ。  
「うん、そうする」  
 
 
 そしてもう一つの顛末だが……。  
 
 
「涼宮さん、ちょっといいかな」  
 次の日の朝。  
 全く持って不思議が見つからず、登校するなり机に突っ伏し不機嫌オーラを振りまくハルヒに対し、  
何を思ったのか朝倉はコンタクトを試みてきた。本当に何を考えてるんだ、おい。  
 思ったとおりハルヒは一言も答えない。振り向きもしない。だが朝倉は気にも留めずに話を続けた。  
 
「あたしもSOS団に入部させてほしいの」  
 ……何だって? 今コイツ何て言いやがった?  
 俺が朝倉の言葉を理解できずにいると、ハルヒは相変わらず突っ伏したまま  
「志望動機」  
 本当驚いたね、そう一言だけ呟いて返した。  
 てっきり無視を決め込むと思っていたのだが、お前ら揃って一体どういう心境の変化があったんだ。  
 
「退屈だから」  
「ふぅん、そう」  
 かつてこんな殺伐とした入部申請風景があっただろうか。  
 少なくとも俺は知らない。制服を掴まれて部室へ強制連行された記憶ならあるけどな。  
 
「……放課後に文芸部よ」  
「うん、ありがと」  
 もはや天変地異の驚愕だ。ハルヒは朝倉の入団をあっさりと許可したのだった。  
 突っ伏したままの姿は変わらないが、そっぽを向いていたのが今は俺と朝倉に視線を投げてきている。  
「何? なんか文句あるの?」  
 いいや、全く無い。大岡裁き以上の名判決だと掛け値なしで褒めてやりたいぐらいだ。  
「ふん。退屈してんなら、不思議探しの人海戦術に丁度いいと思っただけよ」  
 
 朝倉はハルヒの横から俺の横に移動し席の傍にしゃがみ込む。  
 両手を組みながら立てひじを付き、憂鬱の取れた瞳をこちらへ向けてきた。  
「そういう訳で、これからよろしくね。マスター」  
 マスター言うな。それよりお前が言ってた宇宙で一番楽しい事って、SOS団の事だったのか。  
「そうよ。だってさ」  
 朝倉は軽く首をかしげ、いつもより半音ほど高い声で言葉を続けた。  
 
「SOS団より楽しい事、あなたにある?」  
 そんな朝倉の屈託の無い笑顔と入団を許したハルヒの寛大なる心に免じて、俺は何も答えなかった。  
 
 
 

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