二度目の世界改変から四日後、俺はいつもと同じように学校に登校した。  
にやけ面の超能力 者曰く、やはりほとんどの人は改変世界の事は覚えてないらしい。ついでに、あの事故も無い事になっていた。  
「僕と長門さん、朝比奈さんはあの事を覚えています。涼宮さんはどうなんでしょうね」  
さあな。さっぱりわからん。  
「おや、一昨日のデート…いや荷物持ちの時に確認を取らなかったんですか? 」  
そんな暇無かったよ。駅でいきなり後ろから抱き付かれるわ、おそろいのコップは買わされるわ、ハルヒの家に引きずり込まれてあいつの親にからかわれるわ、無理やり泊まる事にまでなったんだぞ。  
おまけに夜中に目を覚ましたら、ハルヒが俺を抱き枕にして寝てるし。それから一睡も出来なかったからな。  
ま、楽しくないと言えば嘘になるがな。  
 
 
予鈴が鳴ったので俺はいつもの様に教室に戻った。そして一昨日俺を寝不足にした張本人に挨拶を交わす。  
「朝から古泉君と話すなんて珍しいわね。何話してたの? 」  
それはまあ、男同士の秘密だ。  
「ふーん。まあいいわ。  
それより、転校生が来るんだって。しかもこのクラスに」  
なんだ、また勧誘でもするのか?  
「そうねー、その人次第ね。この時期なら転校してきてもおかしくないし」  
だから親の都合だと前にも言ったろ。  
っと、教師と転校生が来たみたいだな。…ん?なんか見覚えがある気がする。いや、つい最近見たばっかりだ。  
「みんな、久しぶり。このクラスが忘れられなくて帰って来ちゃった。  
改めまして、朝倉涼子です」  
 
 
昼休み。今俺達はSOS団緊急会議(団長抜き)をしている。  
「朝倉涼子は統合思念体によって再生された。理由は二つ。  
一つは、あなたを甦らせた事が評価されたため。もう一つは、朝倉涼子の思考がかつてと変わってきてるため。インターフェイスが本来持つ事が無い感情と言う物を持っている事に思念体が気付き、実験の意味で再生された。  
おそらく、急進派の命令があったとしても、あなたに危害を加える事はしないと思われる」  
つまり、特に問題は無しか。まだ多少不安はあるが、長門の御墨付きなら大丈夫だろう。  
しかし、俺はまだ甘かった。いや、確かに命の危険は無かったさ。  
ある意味その事以上に頭を抱えるはめになったが。  
放課後いつもの様に部室に向かう俺。前はその事に愚痴を言っていたが、今の俺はそんな事はしない。  
今のこの日々が楽しいと思っているからな。さて、入りますか。  
部室には五人の人物がいた。ハルヒに長門、朝比奈さんに古泉。そして……何故か朝倉がいた。  
 
「キョン、遅いわよ。折角新入団員を紹介するのに」  
「初めまして、朝倉涼子です。皆さんよろしくね」  
と述べた後、俺にウインクをしてきた。  
「SOS団に入りたいって私に直談判してきてね。そりゃもうびっくりしたわ。  
普通の人はこの団に入りたがらないでしょ。  
まあ、朝倉さんの場合、他にも目的があるみたいだけど」  
えー、ハルヒさん、長門さん、朝比奈さん?どうして俺が諸悪の根源だと言わんばかりに睨むんですか?  
「ライバルが二人から三人になるけど、ここに入ってもらった方が動きもすぐにわかるし、なにより私の勘だと朝倉さんはたんなる元クラス委員長じゃないわね。  
ほら、優等生に限って実は裏であんな事をってのがあるじゃない」  
…ハルヒ、お前全てわかって言ってるんじゃないか?さあ正直に言いなさい、お父さん怒らないから、って誰がお父さんだ。  
 
「じゃあ、これからよろしくお願いね」  
そう言うと、朝倉は俺に抱き付いて来た。  
「会いたかったわ。ずっとあなたの事を忘れられなかったのよ」  
ふわりと長い髪からいい匂いが伝わって来る。直後、六つの針に刺された様な感覚が俺の背中に伝わる。  
「ちょっと、あまりキョンにベタベタ触らないで」  
「彼から離れる事を要求する」  
「私以外の人にデレデレしないで下さい」  
「別にそのくらいいいじゃない。本人が嫌がっているならやめるけど」  
計八つの光線が俺に浴びせられる。どうすりゃいい。  
とそこで古泉が助け船を出した。  
「実は来る日のためにゲームを考えていたのです。それを明後日の土曜日に前倒ししてしまいましょう。朝倉さんの歓迎の意味も含めて」  
八つの針が古泉に向かう。よくあいつは平然としていられるな。ともかく話を逸らしてくれて感謝する。  
「内容ですが、液体の蛇と言う人物が主役のゲームを知っていますか?あれは新川さんの実体験に基づいてゲーム化され…いや、なんでもありません。  
ともかく、あれと同じ様なものです。場所は鶴屋さんの所です」  
 
つまり、あそこでかくれんぼ+鬼ごっこをやるのか。確かに、あそこはかなりの広さだし結構木も生い茂っているからサバゲーとかには絶好の場所だな。  
「ルールは簡単です。女性4人が鬼で、彼はそれから逃げる。まず彼が森に入ります。20分後、鬼は2時間の間で彼を見つけてもらいます。それぞれに小型カメラをつけてもらいます。捕まえたらその時点で終了。  
彼が2時間逃げ切ったら彼の勝ちです。次の日彼は1日限り団長です。しかし、鬼が彼を捕まえたら、次の日彼は捕まえられた人の物です。お持ち帰ろうが彼に何をしようが他の人は文句を言えません」  
…古泉。改変世界で殴られた借りを今返してもいいだろうか。  
「古泉君ナイスアイデアだわ!…別にキョンは関係無いけど、勝負と名の付く物には絶対負けないわ!みんなもそれでいいわね!?」  
賛成5、反対1でゲームは実行される事になった。……気の精だろうか、俺の貞操が危なくなりそうだ。  
 
 
さて、俺達は今鶴屋さんの家にお邪魔している。あの忌まわしいゲームを実行するためだ。  
俺としては行きたくなかったのだが、1時に現地集合だったにも関わらず10時に女性4人が家に押しかけ、引きずられる様に連行されるはめになった。  
まあぐだぐた言っても仕方ない。俺が逃げ切ったら全て丸く収まるだろう。  
「本当にそうでしょうか」  
古泉。元はと言えばお前がこんな話を振ったんだろうが。何他人事の様に話してるんだこの野郎。巻き込まれる俺の立場も考えろ。  
「それは申し訳ありません。しかし、あなたもどことなく楽しそうにも見えますが。迷彩服まで用意してますし」  
俺は勉強は手を抜くが、遊びには全力で取り組むんだよ。  
 
「彼女達の会話を盗み聞きしたのですが、お聞きになりますか? 」  
本来聞くべきではないのだろうが、今回ばかりは話が別だ。聞かせてもらおうじゃないか。  
「どうやら彼女達はあなたを捕まえた後の事を話していた様です」  
 
 
ここから放送禁止ワード、及び当人のイメージを壊す発言には『禁則事項』が入ります。  
御容赦下さい。By超能力者  
 
「全員あなたとの『禁則事項』が目的の様です。涼宮さんは甘い恋人同士がする様な『禁則事項』。長門さんはあなたが攻め重視の『禁則事項』。  
逆に朝倉さんは彼女自身があなたを攻める『禁則事項』。基本的には至ってノーマルな『禁則事項』です。  
最後に朝比奈さんですが、これは正直意外でした。  
あなたを『禁則事項』して『禁則事項』をした後、さらに『禁則事項』を続行。  
あなたが『禁則事項』をやめる様に懇願した場合、罰として『禁則事項』させながら『禁則事項』を追加。  
『禁則事項』が終了した後、朝比奈さんはまだあなたに『禁則事項』をしてその様子を見るんだそうです」  
……誰か俺の記憶を消してくれ。特に朝比奈さんの所を念入りに。  
あんな可憐な顔でそんな事を言っていたなんて思いたくねえ。  
 
俺の思いを余所に、無情にもゲームはスタートした。  
鬼が投入されてから30分が経過。俺の居場所は何処だと思う?実はスタート地点から歩いて2分の所だ。  
灯台下暗しと言うやつさ。ハルヒと朝比奈さんは既に遠くに行ったのを確認している。宇宙人二人を確認してないのが少し不安ではあるが。  
ん?待てよ。あいつらの能力を持ってすれば、俺が何処にいるかなんてお見通しじゃないか?  
「今回私と朝倉涼子は力を封印している。身体能力も涼宮ハルヒと同程度」  
そうか、それは良かっ――  
「…見つけた。目標を確保する」  
やばい、長門に見つかった。くそ、気配がまるで無かったぞおい。  
はっきり言おう。俺はハルヒより足が遅い。そして今の長門と朝倉はそれと同程度と言っていた。ぐんぐん差を詰めて来ている。こうなったら最終手段だ。  
「あ!あんな所に分厚い本が!」  
長門は無言で振り返り、俺の指をさした方に向かっていった。  
すまん長門。勝負って言うのは非情なのさ。  
 
ふう、助かった。何とか逃げ切ったらしいな。長門が本の虫で助かった。  
…なんか複雑な感じがするのは気のせいだ、そうに違いない。さて、息も整えた。少し歩くとするか。  
しかし、いい所だよなあ。秋になったら素晴らしい紅葉が見られそうだな。そういや、宇宙人にはこう、風情とか解るんだろうか。  
「そうねー、まあ色鮮やかだとかは思うわ」  
そうか、まあ人間と接していればいつか解る様に――  
「見つけたわ。目標拘束開始よ」  
魔人アサクラリョウコが現れた!  
つーかさっきもこのやり取りじゃなかったか!?  
逃げる俺。追う朝倉。やっぱり差を詰めて来ている。  
こうなったら、一か八か。  
「あ!あんな所にナイフがいっぱい!」  
「え?何処何処? 」  
すまんな朝倉。二度も殺されかけたんだからこれくらいはいいだろう。  
 
魔人アサクラリョウコから奇跡の生還を果たした。例えるなら、自分が光弱点の時にハマブースタ付き回転説法食らって生き残った時くらいに奇跡だ。  
しかし、あんなのに二度も殺されかけた俺って何なんだ?  
 
溜息をつく暇も無く、今度は朝比奈さんに見つかった。  
「あ、キョン君待って―へみゅ」  
あーあ、盛大にずっこけましたよ。普段の俺なら起こしに間違いなく行ったが、今回はやめておく。  
すみません朝比奈さん。勝負って言うのは禁則事項なんですよ。うん、意味がわからない。  
…決して、古泉から聞いた話に恐怖を覚えたわけじゃないぞ。  
本当だからな。  
 
まあ何というか、俺の1年ちょっとの間に鍛えられた第六勘は伊達では無かったらしいな。一番厄介な団長にまだ見つかっていない。  
このまま順調に行けばいいのだが。  
 
鬼が森に入ってから1時間50分経過。後少しでこの波乱に満ちたゲームも終わる。  
…俺の後ろに誰かいる。だからそいつを段ボールから出すな。まあ、こんな事をするのはこの森には一人しかいない。涼宮ハルヒしかな。  
俺が気付いてるのを気取られてはいけない。そうなれば最後、確実にハルヒの毒牙にかかっちまう。  
こいつの事だ、時間ぎりぎりに捕まえるつもりなんだろう。…よし、特に見通しの悪い所に出た。これはかなりのリスクだがやるしかない。  
ダッシュ!ダッシュ!スクランブル〜ダッシュ!  
「あ、こらキョン!待ちなさい!」  
誰が待つもんか。このまま逃げ切ってやる。そうすれば万事丸く収まるからな。  
「目標発見。行動開始」  
まずい、今の声で気付かれたか。だが二人ならまだ――  
「二人じゃないわよ、私もいるわ。目標拘束開始よ。今度は騙されないわ」  
くっ、三人だと!?しかし、残り時間は後二分のみ。これくらいなら逃げれるはずだ。  
しかし無情にも、俺の目は前方に朝比奈さんがいる事を伝えていた。  
 
 
残り時間ぎりぎりで俺はハルヒ達に捕まってしまった。その時のやり取りはこうだ。  
「うーん。誰が捕まえる?この際だから4人全員で捕まえた事にしない?あたし一人だったら多分逃げられてたし。  
それに、キョンの『禁則事項』をみんなで奪うってのもいいかも」  
「うん、それ賛成」  
「それでいいと思います」  
「…異議なし」  
何と貞操の危機は生命の危機に変化した!その後、鶴屋邸で俺は逃げられない様にぐるぐるにされた後、黒塗りのタクシーで長門のマンションに連行された。古泉、一生恨むぞ。  
 
マンションに着いた後縄を解いてもらったが、逃げ出せなかった。体が動かん。  
「さっきあんたに痺れ薬を有希が嗅がせたんだって」  
いや違う。長門、朝倉。お前らの仕業だな。こら、目を逸らすな。  
「さて、あんたの『禁則事項』をあたし達が奪ってあげる。感謝しなさいよ」  
いや、別に俺はどうでもいいっていうか逃げたい。よりによって初めての行為が集団逆『禁則事項』なんて勘弁だ。  
「もうあなたは逃げられない」  
「そうですよ、キョン君」  
「あなたの全てを奪ってあげるわ」  
ハルヒさん、どうして俺の顔にあなたの顔を近付けるんですか?長門さんに朝比奈さん、どうして俺のシャツを脱がそうとしてるんですか?朝倉さん、どうして俺の股間に手を置いているんですか?  
「キョン、いい加減に――」  
 
「覚悟しなさい!」  
「覚悟して」  
「覚悟して下さい」  
「覚悟したら? 」  
や、やめてくれ。お願いだ、一生のお願いだ。だから、だからそんな事――  
 
「うわあーーーー!!」  
 
 

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