「遅いよ。」  
窓から差し込む西日で照らされた如来のように美しい笑顔。  
俺を手紙で呼び出した張本人、それは誰であろう朝倉涼子だった。  
俺はあまりに意外な人物であったことに戸惑っていたが、誘うように手を振る朝倉に従い  
彼女の立つ教卓へと近づいた。  
「お前か・・・」  
「・・意外みたいね」  
「何の用だ?」ぶっきらぼうに言った。目が・・合わせづらい  
「そんな冷たい言い方しないでよ、女の子から放課後の呼び出しっていえば分  
かりそうなものだけどな?」  
「・・・えっ」これは・・古くから言われるあのタナボタっというやつか!  
「付き合って欲しいのよ、わたしと。」  
「・・・」  
「現状維持してるだけじゃジリ貧みたいだったから・・」  
「何のことだよ」  
「だってどんどん涼宮さんと仲良くなっちゃうんだもん・・・ごめんね、気持ちは分かってるのに、こんなこと言っちゃって  
 困らせるだけ・・だよね、わたしの入り込む余地なんかない・・わね」  
「涼宮とは全然そんなんじゃないんだ」って言う声には動揺が現われてたのが  
自分で分かった。おい俺、あの朝倉に告白されてんだぞオッケイしかねえだろ。  
でも・・正体不明のアンチテーゼと格闘しながら躊躇していた。正直、ハルヒに惹かれていなくもなかった  
「じゃあなぜわたしと付き合う気にはなれないのよ・・」  
「それは・・・」  
「やっぱ・・・ずうずうしいわね、あんまりしゃべったこともないのに」  
「いやそんなことは、そんなことはないと思う」  
「不本意だけど・・ふんぎりがつかないなら、既成事実を作っちゃえばいいと思うの」  
そうゆうと朝倉はセーラー服のリボンをほどき胸をはだけさせた。朝倉の肌があらわになる。  
逆光で夕日の光が後光のように朝倉のなだらかな肩から注ぐ。  
「お、おいちょっと待てよ」そういいながら俺の心臓は高鳴っていた。  
「ごめん、わたしへんたいっぽい・・かしら。」  
「えっ・・いやそうじゃない、断じてそうじゃない!ただ俺のほうの心の準備が・・」  
「きょん・・くん」朝倉と俺の間合いがぐっと縮まる。  
その時。突然俺と朝倉の間に見慣れた顔が現われた。  
「空間封鎖が甘い」長門は無機質にそういった。  
一方の朝倉は平静さを欠いていた。ってそりゃそうだわいきなりだもん。というか・・・ちょっと空気嫁、長門よ  
「邪魔する気?指示以外でどう動こうがわたしの勝手じゃない!」  
「あなたの行動は涼宮ハルヒに情報フレアを誘発させる可能性がある。  
 それは現在の観察継続の指示にそぐわない。」  
「観察してたからこそよ・・彼女を観察していて分かったのは、 思うが儘に生きることの大切さ。  
 事実、そうすることで彼女は情報統合思念体の進化の可能性をはらむ存在になった。」  
「あなたと彼女とは違う。インターフェースが情動行動をとるのはただのエラー」  
「あなただってそうやって自分を押し殺してばかりはいられなくなるわよ。  
 だいたい情報空間を封鎖なんかしてないのにあのタイミングであなたが入ってきたのはなぜかしらねえ」  
「・・・行動中止を要請する」 長門はわずかに表情をこわばらせたが読経のように応答する。  
「いやだと言ったら?あたしの情報を解除する気?」  
こくりと長門がうなずいた。なんだ・・この電波な会話は・・いい雰囲気だったんだがちょっとしらけてきたぞ  
「あきらめられるわけないじゃない!」 下着姿の朝倉が俺に抱きつく。だが胸の感触を堪能する間もなく長門は言う。  
「理解したと思うけど、朝倉涼子も私も前に私が述べたインターフェイス。  
 そして彼女は涼宮ハルヒに情報フレアを起こさせようとしている敵。」たしかに前こいつが言った話を鵜呑みにするなら  
朝倉と俺が付き合うことがハルヒに影響を与えてしまえば世界がやばいこと?になるんだろう。  
ということはハルヒも俺のことが好きだということに!?そうか・・・なんだか面倒なことになっちまった  
もし朝倉がそれを狙いでやっているなら、ただハルヒを傷つけるために俺と付き合おうとしているなら・・・  
目的が何であれ俺は利用されているだけってことになるわけで気分が悪い。しかし朝倉が本当に俺のことを好きなら  
ハルヒに気を使わなきゃならないから交際をあきらめろって長門が頑固親父みたいなことを言ってることになる。  
・・・もし後者の場合、ハルヒのご気分で世界がどうなるのか俺にはよく分からないが、俺はそれが付き合わない  
理由になるとは思わない。  
 
「そんなことを意図してやってるんじゃないわ!」朝倉はそう言い放つと突如5メートルほど飛んで教室の角に降り立った  
人間技じゃ・・ない、インターフェイス・・・その言葉が俺の頭をよぎる。  
「あなたが意図していなくともあなたのエラーに急進派の情報思念体がたくみに介入してきただけ。  
 エラーを認識して行動を中止して。さもなくばあなたの情報の連結を解除する。」  
「しょうがないわ。かかってきなさい。わたしがエラーだというならわたしを倒せばいい、その代わりわたしも  
 全身全霊をかけてあなたの存在を否定してあげる!」朝倉の周囲の空間がぐにゃりと歪んだ・・渦のような歪みが  
朝倉の周りにいくつも生じはじめ、そしてそれが槍のように凝縮し長門に向かって飛び掛る。  
長門は飛来する槍を手のひらで受け、ちょうどドアノブを回すときのようにくるっと手首を回してそれを粉々に破砕  
する。腕を組んで長門をにらみながら背後の空間から槍をうみだす朝倉とそれを高速で破砕しながら間合いを  
つめてゆく長門。破砕しきれないものによる痛々しい裂傷も見える。ものものしいことになった。どっちが善玉なんだ?!  
間合いがつまるに従い短距離では速度がつかないためか槍の攻撃はほとんどあたらなくなっていった。  
ついに一足の間という時、朝倉は自分の腕を渦の中に献じて腕そのものを槍と化し長門に斬りかかった。  
斬撃を右にスライドしてよけた長門は俊敏に朝倉の間合いに入って腕の付け根を捕まえた。  
ガラスが砕けるような音がして槍が崩壊し、朝倉の細腕に戻る。  
「あなたはインターフェイス。人間のような感情はプログラムされていない。ただのエラーだと認識して修正すべき。」  
「嫌よ!」にらみあいがしばし続いた後、長門が提案するように言った。  
「そう・・ならあなたのエラーと人間の感情とが似て非なるものだとここで立証する。」  
「何ですって!」  
「いまから彼にむけて攻性プログラムを作用させる動作をとる。わたしは発動はしないけれど、発動する前に  
障壁が存在していない限り、発動した際彼は即死するから、もしあなたが人間的な感情で行動してると  
すれば万が一を考慮して彼の盾になろうとするはず、しかし急進派の情報思念体に付けいれられているだけなら  
情報思念体にとって都合のいい彼の死をあなたがとめる理由はないので万が一を期待してあなたを動かさない。」  
「俺にななにを」  
「わたし、守るから・・・絶対守るから!」  
「いくわよ」そういうと長門は手を複雑に組み替えながらぼそぼそと何かをつぶやき手の平を俺の眼前にかざした。  
「発動準備動作は終了した」  
「なんでよ・・・なんで動けないのよ!」朝倉はひざががくっとなって、へたりこんでしまった。うつむく顔には涙が見える。  
長門は俺に向けていた手を容赦なく朝倉の方にむけた。  
「いまならまだエラー修正だけで済む。」  
「嫌よ!わたしは・・わたしは彼がぁっっーーー」  
長門の手からぎらぎらした光が発せられ朝倉を包んだ。光の中にさらさらと砂のような物が舞いちり朝倉は消失した。  
「終わった。」  
「・・・・・・あさくら」  
「・・・・・・」  
「・・・・・なあ長門・・・お前、お前本当にこいつに人間らしい感情がなかったって言えるのか?!  
俺守れなくて泣いたんだぞ、こいつは!!」  
「それも・・」  
「それもまた思念体の戦略か・・・」  
「そう」  
「・・・・・」  
「・・・・・」  
「悪いけど・・・納得できそうにない・・・・長門よしばらく一人にしてくれ・・」  
「分かった・・・。」  
 
結果的にこれで良かった。  
エラーの苦しみから彼女を解放でき、彼に嫌われることでわたし自身のエラーも軽減されたのだから。  
そこでわたしは思った、もしわたしのこのエラーも急進派がわたしを利用するための契機にすぎなかったとしたら。  
人型に作られたわたしたちはわずかなエラーは人間性の発露と考えてそれを慈しむ。  
自分たちにとって唯一思念体の道具にされていない部分なのだから。  
その感情すら利用されているとしたら。  
 
わたしは人間であるかの夢を見せられ意図せぬ方向に操られるくらいなら、道具としての機能の遂行を選ぶ。  
固まりかけた決意を崩すかのように、まばゆい夕日の光がわたしの頬を熱くした。  
 
 
 

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