「まあどうぞ…安物のコーヒーですが……かけてください。  
 さて、涼宮さんが神のような力を持ち始めたのは、凡そ三年前と言われています。涼宮さんが中学一年生の時です。  
 しかし僕が勤める機関にも、長門さんの主である情報統合思念体にもその原因は分かっていません。  
 元々何か不思議な力を持って生まれた人間の能力が、些細なことで増大するということはよくあります。  
 科学的な根拠などありませんしそれを証明するのは情報統合思念体であっても不可能ですが、それが実際に起こる以上否定は出来ません。  
 ……涼宮さんは元来思い込みの強い人でした。  
 何か自分の割に合わないことが起きるとすぐ考え込んだり世界を創造しようとするのは我々が身を持って体験しています。  
 そういった理由から、三年前のある時に何かとても危険或いは悲しい体験をし世界を一度作り直したのではないかと思われます。  
 これらを調査することは我々機関にとって有力な情報を得られる結果になると期待されています。しかし僕は……  
 いや、なんでもありません。気にしないでください。  
 上で“危険或いは悲しい体験”と言ったのは、涼宮さんが今この世界を造り出した本人だとしたならば危険或いは悲しい体験をした証拠になっているからです。  
 例えば涼宮さんが嬉しい時に世界を造り出したなら、それは“この嬉しい時間が何時までも続けばいい”と考えるはずです。  
 従って涼宮さんが危険或いは悲しい体験をして世界を造り出したならば“暇でもいいから平和な世界が欲しい”と願うと思われます。  
 今は確かに平和です。従って涼宮さんは危険或いは悲しい体験をして世界を造り出した可能性が極めて高いのです。  
 なんでしょうか……? ……いえいえ、あなたが平和かどうかは涼宮さんにとって関係ありません。今確かに涼宮さんは平和なのです。  
 それがあなたの身を犠牲にしていたとしてもね。まあ堪えてやってください。  
 ……コーヒーがすっかり冷めてしまいましたね。もう一杯熱いのを如何ですか?」  
 
 
 ――――1――――  
 
 ふん、なにこいつ? 女の子一人にラブレター渡すのに顔真っ赤にしちゃって、バカみたい。  
 こんな公衆の面前で話聞いてあげてるんだから、さっさと言いなさいよ。私まで恥ずかしいじゃないの……  
 
 「あ、あの……そのその……それで……ぼぼぼ僕とお付き合いして……」  
 「いいわ、一緒に帰るわよ」  
 
 話が終わりそうにないもの。全く男のくせに一文字喋るのに何回嚼んでるのよ。情けないわ。  
 
 「えっあああの……! もももしかして、そそ、それはお付き合いしていただけるって……ままままままままさかそんな!!」  
 「……もういいわ!! アンタ馬鹿じゃないの!? もうついて来ないで、声も聞きたくないわ!!」  
 
 ほんっと男なんて皆バカしかいないのかしら!! せっかく付き合うって言ってやったら今度はワケわかんないこと言って……  
 もう最悪ね。これからは男に話しかけられても無視しようかしら。  
 
 涼宮ハルヒは東中に通う女子中学生だった。  
 昔から奇想天外な事ばかりを追いかけ、その異質な行動や言動からハルヒには友達はおろか近寄る者はいなかった。  
 ただそのレベルの高い容姿から、蛍光灯に群がる虫のような男は後を絶たなかった。結果は上にあるが、だいたいそんなもんだ。  
 
 “本当にあった怖い話”や“UMA”なんてものは殆どが話題性を狙ったヤラセだということはとうに画面の前のアンタも分かっているだろう。  
 しかし人間の思い込みとは得てして、素晴らしいものだ。いもしないものを見たと思い込んで人に話すやつなんてたまにいるだろう?  
 それがエスカレートするにつれて、段々とそういったビジネス性のあるライアーに対する執着が強くなる。  
 その最上級が、涼宮ハルヒなんだ。  
 
 
 「……はぁ〜あ」  
 人がちらほらと池の水面に映って、暫くして枠外に消えていく。そこに石を蹴り込んでみると水面はゆらゆらとし、僅かな景色を歪めた。  
 ため息はつけばつくほど幸せが逃げていくって言うけど、そんなの私は信じないわ。現に今だって私は……  
 
 
 ……公園で一人で不思議探索なんてしてる人間が、幸せな訳がないわね……こんなことしても何も起こらない……そんなこと分かりきってるのに……  
 
 「ちょっとちょっと……あれ、涼宮ハルヒよ」  
 「ほんとだ……いっつも一人でなにしてるのかしら?」  
 「あんまり関わらないほうがいいわよ……ちょっと頭ヤバいらしいよ……?」  
 
 他愛も無い話題を口からつくように、友達を両脇に抱えた女子が私の事を話してる。  
 うつ向いて池を眺めて、聞こえないフリをしてるうちにやがてそれも池の枠外に消えた。  
 
 「……なによ……友達がいないのの何が悪いのよ……」  
 
 友達なんて作ろうと思えばいくらでも……やめよ……泣きたくなってきた……  
 
 「……今日は何もナシね……帰りましょ……」  
 
 
 ――――2――――  
 
 「砂糖はいりますか? いりませんか、クリームは入れたほうがいいですよ。ブラックは胃に悪いですから。  
 ……何処まで話をしたか忘れてしまいましたね。 確か……ああそうだ、ここからはあなたに関する話です。  
 単刀直入に言うと、あなたは過去に涼宮さんに会ったことがあるんです。勿論三年前の時点でです。  
 ……あ、それは違います。ジョン・スミスの話は関係ありません。いや、これを調べるのには正直苦労しましたよ。  
 係った費用だけで日本の借金が返せるかもしれませんよ……? ……アハハ、本気にしないで下さい。冗談ですよ、冗談。  
 それで、あなたは涼宮さんに会った記憶はありますか?  
 ……ありませんか、まあ、あなたは顔を見てはいませんからね。解らないのも、無理はないですよ。  
 しかしそれも幸せかもしれませんね。この時に顔を見ていたらあなたは今ここにはいませんからね。  
 よおく思い出して下さい。三年前の中旬頃です。涼宮さんと違って、あなたがようやくクラスに馴染んできた頃じゃないですか?  
 あなたは、さして友達も多くはありませんが、上級生にイジメられることもなく平和に過ごしていたはずです。  
 思い出せませんか……? きっとあなたには、とても辛い記憶ですよ……?  
 おっと、おかわりですか? ミルクティーもありますが……そうですか、残念です。ではまた熱いやつを……」  
 
 
 
 「な……なに……? わ、私が何をしたっていうの……?」  
 泣きじゃくる顔なんて見たくないものね、例え他人の顔でも嫌だわ。情けない。  
 自分が今までしてきたことが自分の身に降りかかっただけじゃない。自分がされたら嫌なことばかりしてるのはどっちよ!?  
 「別に陰口なんて気にしないわ、でも机を水浸しにされるのなんて我慢できない」  
 「そ、そんな……私そんなこと……」  
 手が濡れてるじゃない。それに私が来た時にはアンタしかいなかった。ドコに“私はそんなこと”なんて言える余地があるのよ?  
 
 
 涼宮ハルヒは嫌われものとしても有名だった。授業中は寝てばかりいるくせにHRの決め事などは起きている。  
 自分の理想に遥か遠い提案をクラスの誰かが出すと、またいらん悪評をついてクラスをいつも盛り下げる。  
 29対1のような戦いでも怯む事なく、名指しでクラスメートを批判するという行動は、全校はおろか、教師陣からも不評だった。  
 それでも、中々的を射てるハルヒの批判には対抗できるやつがいなく、明らかなイジメなどは無かった。この日までは……  
 
 
 「アンタ以外に誰がいるって言うのよ!? こんな子供じみた真似して恥ずかしいと思わないで反論するなんて頭おかしいんじゃないの!?  
 机を水浸しにするなんて頭の悪そうな考え。私が気に入らないっていうなら正面から言えばいいじゃない!!」  
 そんな度胸もないなら黙って過ごしてりゃいいのよ、私から関わることなんてないんだから。  
 「ちが、違うの……! 手が濡れてるのは、なんとなく机に触っちゃったからで……拭こうと思って……」  
 「また言い訳するの!? もういいわ、机早くアンタの取り替えなさいよ!! ほら早く!!」  
 「ち、違……うっ……ううっ……」  
 気の小さそうな女に限ってこういう姑息なやり方をするものよ。自分のやったことは自分で始末しなさい!  
   
 ――放課後  
 
 「……フゥ」  
 今日もくだらない授業と、もっとくだらないHRがやっと終わったわ……帰らないと……  
 ……明日からもっと早く学校に来てみようかしら……現行犯を捕縛なんていいわよね……  
 ……あの女子まだこっち見てるわね、そんなに私にしたことが自分の身に起きたのが不満なのかしら……? 初めからしなきゃそんな思いしなくてすむのに……  
 
 
 ――ガラッ  
 
 「……アンタ……涼宮ハルヒよね」  
 三人組の女子生徒が入ってきた……あれは確か……よくいう不良グループっていうやつね……  
 ひとりじゃなにもできないくせに威張りちらしちゃってみっともない。  
 「そうよ」  
 「……アンタ、今日あの娘に机濡らされたとか言ってたわよね?」  
 「それがなによ」  
 「実はアタシら、今日ちょっと早く来てさ……あの娘が心配して、アンタの濡れた机拭こうとしてたの見たのよね……」  
 なによ? なに言ってんのよ……コイツラ……まるで計画してたみたいじゃない……まさかそんなの……  
 「……!! じゃあアンタ達がやったんでしょ!? いい加減に……」  
 
 ――パンっ!!  
 
 鈍い痛み……なに……?  
 叩かれたの……?  
 
 顔を上げると、アイツラのいう“あの娘”で私の言う“気の小さそうな女”がいた。  
 
 「だから……だから、私じゃないって言ったじゃない……!! こんなの……酷すぎるよ……絶対許さないから……!!」  
 
 私のじゃない机にその娘の涙が落ちた。クラッとめまいがした。夕焼けが目の前を赤に染めるのが見える。  
 私が悪かった……なんてもう言えないわ……これでもう、これで……  
 私の机を燃やそうが靴を隠そうが公認になってしまった……  
 
 「ほんとアンタ最低ね……聞きしに勝るクズだわ」  
 
 それでもアンタ達は許さない……!!  
 
 ――ガッ  
 
 
 
 …………  
 
 「私が教師になって初めてだ!! 女子生徒の暴力事件など!! 涼宮、お前自分で何したか分かってるのか!?  
 椅子で同じ女子の頭を殴りつけるなんて、下手したら死んでしまっていたんだぞ!!」  
 なんなのよ……私が全部悪いっていうの……! だってアイツラは私の机を……それにあの娘を……  
 「だって私はアイツラに机を……!!」  
 「そんな証拠がどこにあるんだ、どこに!? もう病院に送ってしまったが、後であの女子達に話を聞けばわかることだ!!  
 涼宮、お前はもう帰れ!! 少なくても一ヶ月は学校に来なくていい!!」  
 ちょっと待って……わ、私が停学……? 私だけ……? な、なんで……なんでよ……!?  
 
 
 ――帰り道  
 
 明日から停学、毎日休みよ、喜びなさいよ、私。  
 「…………ハァ」  
 どんな顔してお母さんに会ったらいいのよ……私が停学だなんて……もう電話で聞いてるわよね……  
 ……もう、なんなの……? 私に友達がいなかったから私が悪かったの……?  
 机を水浸しにされるのは私が悪かったの……?  
 でも……少なくとも、あの娘は……私が……悪かった……のよね?  
 もう……死にたい……  
 
 街路樹がネオンの光で美しく光る中、私は路地裏の廃虚の縁で泣いた。  
 
 「う……ううっ……」  
 
 そんな女の子に近づく影があった。黒いジャケットと殆どゴミのように破れたジーンズを、はきつぶした革靴の上に纏った、赤髪を染めぬいた男が。  
 
 「う……うぐっ……ぐずっ……」  
 
 「お嬢ちゃん……なにしてんだこんなとこで」  
 
 「……う……?」  
 
 「辛いのかい?……ほら、おいで……風邪ひくだろ」  
 
 「わ……私のことなんてほっといて……」  
 
 「いいからいいから、ほら、ちょっと奥にいくだけだよ……ここだと風があたるから」  
 
 私は朦朧としたまま、男の人の手をとった。かさついた手は如何にも武骨って感じがした。 「ああ、俺だよ俺、可哀想な女の子がいたんだ。車だしてくれるか? ……悪いな」  
 
 ――ピッ  
 
 いつの間にか、男の人は手に携帯電話を持っていた。話した内容は、なんとなく優しい感じがした。  
 
 「今から車持ってきて貰うから、家に帰ろうな?」  
 
 ……家に……!! イヤッ!! 家にはもう帰れない……私はもう……どこにも帰れないの……!!  
 
 「……よっぽど辛かったみたいだな……よっ、ほら」  
 そういいながら男の人は、ポケットから注射器を出した。  
 私はとったに怯んでしまったけど……よく見ると、あまり怖くはない……これがよくいう“ドラッグ”なのね……  
 「もう辛い思いしたくないんだろう? ほら、やっちゃえよ」  
 そういってゴムチューブを私の腕に縛りつける。ちょっと痛かったけど目は優しかった。  
 
 「……麻薬……」  
 
 ……私には帰る場所なんてないわ……私には頼る人なんていないわ……私には……  
 私には……これ以上失うものなんて……ないわ……  
 なにを怖がっているのよ……一思いにやってしまえば後は楽になれるってこの人も言ってるじゃない……  
 
 「いいのよね……私こんなことして……いいのよね……?」  
 
 「ああ……これ以上辛い思いがしたくないなら……さあ」  
 
 ――ツウッ  
 
 痛っ……腕に刺さってる……これを押せば私は辛くなくなる……なら私は……  
 
 ――チュゥ  
 
 あ……ああああ……  
 
 「いい子だ……そして、バカな女だな」  
 
 ……!!  
 意識も朦朧としない、目もくらまない、頭もはっきりしてる……明らかに何か変……麻薬ってこういうものなの……!?  
 でもこれだけはわかるわ……麻薬で身体が動かなくなるなんて、ない……!!  
 これは……なんなの  
 
 ――ガッ!!  
 
 痛っ……!!  
 
 側頭部に強い痛みを感じて見上げると、そこにはさっきの男の人の靴があった。  
 
 ――キキッ!  
 
 鋭くタイヤが擦れるような音がして路地裏の出口を黒いバンが塞いだ。中からがやがやと黒い男の集団がこっちへ向かってくる。  
 
 「弛緩剤だよ、辛い思いなんてしない世界へようこそ、お嬢ちゃん……ククク」  
 
 もう目が笑ってなかったし、私が何をされるのかも分かった……もう……  
 
 
 男達は凄まじいほど強い力で、仰向けに路地の段差に倒れた涼宮ハルヒの服を荒く千切っていった。  
 
 「イヤッ……あ……やめてェ!!」  
 
 ボタンが全て外れたホワイトシャツがウエスタンジャケットのようにハルヒの胸を隠した。  
 それを一人の男が両手で鷲掴みにして払い除け、ハルヒのブラのフロントフックを千切った。  
 声にならない叫びをあげるもハルヒは全く動けずに、何人もいる内のもう一人の男に、青いしましまのパンツ越しに膝を擦りつけられた。  
 
 「ああああっ……い……いやぁぁ……そこ、だ、ダメぇ……!!」  
 
 こんなのって……こんなのって……いくらなんでも……いやぁ……!!  
 
 ハルヒの言う“ダメ”など聞き入れずに男がハルヒの豊かで曲線を描く乳房をなめまわした。  
 ジャリジャリとする男の汚らわしい舌は、頂点の乳首の周りを何週も掻き回すようにしゃぶっていった。  
 
 「あ、あひっ! ああ……あ……やめ……ひっ!!」  
 
 自然と溢れる涙が目の前を鬱蒼とし、自分の身に起きている凄惨な出来事を少しずつリアリティから遠ざけていく。  
 
 ……誰か、助けて……!  
 ……誰かっ……!!  
 
 ……誰かって、誰……?  
 ……わたし……友達……いないから……誰も助けてくれない……よ……?  
 
 膝で電気アンマをかけられたハルヒの秘所が少しずつ蜂蜜のように甘そうな液で濡れていく。  
 一人がズボンを完全に下ろしてハルヒの頬を強く掴むと、強引に自分のモノを口に押し込んだ。  
 
 「うむぅ!! はむぅ……んふぅ!!」  
 
 男が、拙く性行為とは呼べないようなフェラをハルヒに強制する間も、他の男がハルヒのパンツに手を入れて、アナルを犯し始めた。  
 
 「ひふうっ!! ふぐ……ぐ……」  
 
 この人……お尻の穴に……指、入れてる……!? なによなによこれ……!? わ、私……気持ち、よく、なんか……!!  
 
 「ひぐぅぅぅ!!!!」  
 
 同時にハルヒの口に押し込まれた肉の固まりも、目一杯の精液をハルヒの柔らかい口の中に流し込んだ。  
 
 “一回目”の絶頂に達したハルヒを休ませることなく、男達は女の子特有の甘い匂いに興奮し、汚い性器を取り出した。  
 
 「お……お願いします……た、た、助けてください……お願い……!」  
 
 涙が溢れ落ちたハルヒの顔はもう恐怖と悲壮にくれた捨て猫のようだった。  
 
 「ああ、助けてあげるよ……辛い辛い日常からね……!」  
 
 赤い髪の男がそれだけ言うと、ハルヒの膣に肉棒を押し包んだ。ブチブチと歯切れの悪い音と男の笑い声とハルヒの叫声がコーラスした。  
 
 「ひぎぃ、い、いっ、あああああ!!!!」  
 
 ――ジュプ、ジュプ  
 
 なんともいえない液体がすれ違うような音が響きわたる。ハルヒの秘所も、アナルも、口の中さえも男の匂いに染まった。  
 
 「いっ、ひっ、はっ! はっ! はぁ!! ……あふっ!!」  
 
 あ……っあたしの……ぜんぶおかされて……みんなみんなおかされて……  
 ……なにうしなったの……? ……わたしなにもらったの……なにもってたの……?  
 ……もうわかんないよ……ごめんね……ぜんぶわたしがわるいの……なにもわかんないよ……ごめんね……ごめっ  
 
 「あっああああああああああああああ!!!!」  
 
 
 
 何度続いただろうか、失神してもおかしくない行為の中、ハルヒの目は虚ろに、ネオンの光る路地を見つめていた。  
 今が何時なのか、ここがどこであるのか、今日がいつなのかもわからなくなったハルヒの頭に電気が走った。  
 
 ……人が……見てる……  
 
 逆行で顔が見えない、学校の男子用の制服みたいな服を身につけて顔だけでこちらをみている。  
 かなりの距離があるためこちらが見えるかどうかは解らない。解らないけれども、ハルヒは腹に力を入れた。  
 
 「っ……お願いっ!! 助けてぇ!!」  
 
 ハルヒの大声に、腰を降って射精を促していた男達が一斉に路地を凝視した。  
 
 ビクッとしたように人影は肩をゆらし、そのまま……即座に……立ち去った……  
 
 「いや……いやよ……なんで……?」  
 
 ハルヒの虚ろな目が光を失いかけた。男達は安堵し、また行為を続けようとした。  
 
 瞬間  
 
 「いやああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアahhhhhhhhh!!!!!!!!!!!」  
 
 世界の砕ける音がした。  
 
 
 ――――3――――  
 
 「コーヒーにはクリームを入れてください……胃に悪いですからね……  
 ……人は辛い記憶と言うのをどうにかして忘れようとするものです……あなたに然り、涼宮さんに然り……  
 あなたが思い出したのは、いいことであるかどうかはわかりません。わかりませんが、真実だけは知って欲しかったのです。  
 涼宮さんが世界を造り出したのがお分かり頂けたでしょうか? 何故涼宮さんが今のような世界を造り出したのかを。  
 涼宮さんは……絶望の果てに、レイプされ……自我を崩壊したのです。勿論、今の涼宮さんではありませんよ。本当の世界の涼宮さんです。  
 話を聞いていて何となくは分かったでしょう? 今ここにある僕や長門さんや朝比奈さんがいる世界は、涼宮さんが造り出した世界です。  
 最後の最期にあなたに見捨てられた涼宮さんは、先程も言った用に、自我を崩壊してしまいました。  
 レイプしていた男達は涼宮さんの力をまともにくらって、内臓やらなにやらが粉微塵になって死にました。  
 涼宮さんは一日たって警察に救護されるまでずっと、全裸で蹲ったまま何かを呟いておりました……  
 これは推測ですが……涼宮さんは多分、現実を直視できずに、あなたに見事に助けられた世界を思い込んでいたのでしょう……  
 そしてあなたに介抱されるうちに恋に落ちるなどといった甘いストーリーを頭の中でずっと……  
 だからあなたはこの世界にいるのです。涼宮さんの恋愛対象として、あなたは少しずつ涼宮さんと……実際に親しくなっていっていましたしね。  
 
 ……つまり要約すると、本当の涼宮さんはレイプされ、見捨てられたことで自我が崩壊し、あなたに助けられあなたと恋に落ちる平和な夢を病院で見続けたのです……  
 その思い込みが更に膨れて、友達も、超常現象も欲しいと思い、とうとういまある世界を創造したわけです……我々も……ご理解頂けたましたか……?  
 ……信じられないのも無理はありません、しかし信じなければならないのです……!  
 あなたが今からこの世界を離れたら、あなたが現実の世界で涼宮さんに一生を捧げる義務があるのです……!!  
   
 まさか私も現実の世界の涼宮さんが目を覚ますとは思っていませんでした……目を覚ましてしまえばこの世界も崩壊です……  
 
 
 さあ……時が来るようです……あなた……いや、キョン君……手を繋いで下さい……長門さんも……朝比奈さんも……  
 どうか、僕の事を忘れないでください、みんなのことを、SOS団の事を……  
 あなたと過ごした日々を僕達は忘れません……何があっても……心が消えようとも僕は、長門さんは、朝比奈さんは……楽しかったと……  
 ……長門さんが泣くなんて初めて見ましたよ、かくいう僕ももう目の前がにじんで前が見えませんよ……情けないですね……  
 さあ、キョン君……今こそサヨナラの時です……涼宮さんを頼みます……そして僕達のことを忘れないでください……  
 ……来ましたよ……」  
 
 ――ガタガタッ  
 
 「オッハヨ〜みんな!! 今日は何するの!?」  
 
 
 世界が  
 
    消えていく  
 
         SOS団が  
 
    消えていく  
 
 長門  
         古泉  
    朝比奈さん  
 
   サヨナラ  
 
 
 
 ――ザアァァァァ  
 
 ――ガチャ  
 
 「……涼宮さん……ご面会です……」  
 
 「あなたは……?」  
 
 「あなたが助けてくれたのね……?」  
 
 「私は涼宮ハルヒ……」  
 
 「うん……うん……」  
 
 「いやっ! お願い、やめて……なんでもするから……助けてっ……!!」  
 
 「ごめんね……私が勘違いしてたの……ごめんね……」  
 
 「あなたはだあれ……?」  
 
 涙が  
     止まらなかった  
 
 俺はもうすぐ  
 
    十八才になる……  
 
 
 
 〈完〉  
 

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