その日、俺たちは何の変哲もないSOS団的活動をしてすごした。  
 
そこには俺たちの平和を乱す宇宙的異世界人も異なる時間平面から来た未来人も新たなる  
謎の組織も何も関係なかった。それはもうすでに終わった話だ。  
 
やりたいことも取り立てて見当たらず何をしていいのかも知らず時の流れに身をまかす  
ままのモラトリアムな高校生活に俺は戻っていた。当たり前の世界、平凡な日常。  
 
それでも俺は充分楽しかった。無目的に部室に集まり、完璧メイドにはまだ程遠いが、  
くるくると動く朝比奈さんを眺め、仏像のように動かないがこのところ若干表情らしきも  
のが浮かぶようになってきた長門を眺め、人畜無害な微笑みに時々青筋を立てる古泉を眺  
め、いつも大輪の花の笑顔を振りまくハルヒの顔を眺めているのは、ごく当たり前の日常  
で、それは俺にとって妙に満足感を与えてくれる学校生活の一部だった。  
あれだけの非日常を過ごしてきたんだ。  
しばらくはこんな日常的な時間がずっと続けばいいと思っていた。そう思うだろ? 普通。  
だが、思わなかった奴がいた。  
 
決まっている。涼宮ハルヒだ。  
そして、このとき事件はもうすでに起こっていたのだった。  
 
ハルヒは、団長席に座りパソコンでいつものようにネットサフィンをしながら、機関の  
慰安旅行から帰ってきた古泉のおみやげである温泉まんじゅうをぱくぱくと食べている。  
温泉まんじゅうはすでに一箱分消費されてしまったようだ。まったくよく食うねこの女は。  
というか、秘密結社的な機関が慰安旅行だと?それも温泉って一体誰のセンスだ?  
 
「ええ、新川さんが幹事でしたよ。彼が全てセッティングしてくれました」  
 
完璧執事はツアコンまでやるのか。浴衣で宴会する多丸兄弟や森さんそして司会進行する  
新川さんを想像して妙な寒気を覚えた。  
一応ハルヒには機関の慰安旅行とは言えないので別の言い訳をしていると補足しておく。  
しかしなあ、ツッコミどころは多いがそれ以上におみやげにまんじゅうばかりって、  
しかもこのSOS団のメンツで10箱は多すぎだろ……  
っていや全言撤回。  
読書をしながら3箱目に突入している食欲大魔王長門を見て俺は考えを改めた。  
 
「ホントこの温泉まんじゅうすっごくおいしいわ!いくらでもはいっちゃうもん。」  
 
かたや、空腹大王ハルヒはそう言いながらは2箱目を開封した。いつもこれだけ食べれば、  
女性として成長して欲しくないところまで成長しそうなものだが、ハルヒは相も変わらず  
スレンダーなボディーを維持していやがる。  
きっとこいつの胃袋はブラックホールか何かで出来ているのに違いない。  
ではその反対側にあるというホワイトホールはどこにあるのだろうかとそんなつまらない  
ことをを考えながらハルヒの満足げな顔を眺めていた。  
 
「みくるちゃんお茶!」  
 
「は、はいっ。ただいまっ」  
 
朝比奈さんは慌てた動作で「ハルヒ」とマジックで署名してある湯飲みに緑茶を注ぐと、  
お盆に載せてしずしずと運んだ。ちなみに湯飲みには「使ったら死刑!特にキョン!!」  
と但し書きが加えてある。それは俺に「使ってもいいわよ」と、暗に示しているのか?  
だがその手には乗らん。乗ったら最後どういう事になるか簡単に想像が付く。  
その禁断の湯飲みを受け取ったハルヒは、  
 
「やっぱりおまんじゅうには日本茶よね!」  
 
といいながら、温泉まんじゅうを一口かじり湯飲みを近づけてお茶の香りを吸い込むよう  
な動作をした時だった。  
唐突にハルヒの顔色がみるみる真っ青になっていく。  
 
「ん―――――――!」  
 
湯飲みを放りだし、口を両手で押さえ声にならない叫びをあげハルヒは脱兎のごとく部室  
を飛び出していく。  
なんだ?一体何事だ?  
俺と、カードゲームで対戦していた古泉は俺と同じように驚きの表情を見せているだけだ。  
てっきりワサビ入り温泉まんじゅうでも仕込んであったのかと思ったんだが違うのか?  
 
しばらくすると、さらに真っ青な顔をしたハルヒが扉にもたれかかりながら入ってきた。  
 
「どうしたんだ?ハルヒ?」  
 
俺は椅子に座ったままそう言った。  
朝比奈さんは「大丈夫ですか?」と言いながらハルヒに手をかす。  
 
「なんかわからないけど急に気分が悪くなって……ん―――――――!」  
 
また、口を手で押さえて掛けだしていくハルヒ。朝比奈さんが心配そうにそのあとを追い  
かけていった。  
ま、たぶん食いすぎだろう。  
ついに胃袋の中のマイクロブラックホールがついにパンクしちまったのか。  
いや、あいつのことだから何か拾い食いしてそれが当たったんだろうとそのときは、安易  
に考えていた。  
 
 
「もうだめ、今日はもう帰るわ……」  
 
ハルヒはの顔は真っ青と言うかもはや土気色をしていて、朝比奈さんに肩をかして貰い  
部室の入口でそう言った。  
 
「私が送っていきますね。ちょっと心配ですから……」  
 
朝比奈さんはそう言って、二人で部室を出て行った。  
こんな弱っているハルヒを見たのは俺もはじめてだ。  
ボツリヌス菌に当たったとしても自ら抗体を作り出し勝手に除去するような女だ。  
一体何があったんだ?  
さすがにこの俺も心配でカードをその場で放置し  
 
「やっぱ俺も送っていく」  
 
と言い部室を出ようとしたとき何者かの手が俺の右手をつかみ、俺を引き留めた。  
 
その手の持ち主は長門だった。何か知らないが長門の目がきつい。  
いや、何かしら侮蔑の表情があるような気もしないでもない。  
 
「どうした長門?」  
 
「……涼宮ハルヒの体内に別の遺伝子情報を持つ生命体の活動を観測した」  
 
長門は淡々と語るが、心なしか怒っている気がしないでもない。  
 
「まさか、新たな敵か何か仕掛けてきたって言うのか?」  
 
「……違う。  
 その遺伝子情報を解析した結果、通常の有機生命体ヒトと同じ遺伝子情報を持つ。  
 つまり、涼宮ハルヒの胎内に人の生命が誕生した」  
 
おい、それってまさか……  
 
「そう……涼宮ハルヒは妊娠している」  
 
な、なんだって―――――――!  
 
「……あなたに責任がある」  
 
そう言うと長門は俺をギロリとにらむ。  
ま、まて、俺じゃない。俺はまだ何もしていない!  
いや、キスぐらいはしたが俺の性知識が間違っているのか?  
最近ではキスとか手をつないだり肩を抱き寄せるように歩いただけでも、ひょっとして  
妊娠したりするのか?教えろ古泉!  
 
「ほう、これはこれは」古泉はそう言いながら目を細めるように微笑した。  
 
「いや、とりあえずおめでとうございますと言っておきましょうか?」  
 
だから違う!俺は全然知らん!俺はあいつとそう言う行為に及んだことはない!  
危うくそう言う雰囲気になりかけた事もあるが結局、俺が何も出来なかった。  
俺は据え膳すら食えない甲斐性なしのへたれだ!悪かったな。  
 
「つまりそれは、涼宮さんが他の男性とそう言う関係になり、  
 なんの予防もなく妊娠したと、そうあなたはおっしゃるのですね?」  
 
な、なんだ何が言いたい?  
 
「あなたも解っているはずでしょう?涼宮さんがそういう人ではないって事を。  
 もし万が一ですが彼女が望まず無理矢理とか、なりゆきでと言うこともあり得ますが、  
 そういう不埒な連中は涼宮さんが望まない限り彼女のまわりに現れることはありません。  
 彼女の力はそう言うところまで及んでいますから。  
 また、同時に貞操に関しても彼女が捧げたいと思う相手にしか捧げることはないでしょ  
 うね。意味合いが違いますがまさに鋼鉄の処女ってところですか」  
 
そう言うと古泉は俺の方を見て、ニヤニヤと笑いはじめる。だから何が言いたい?  
 
「おや、涼宮さんのお腹の子供はあなたとの子供じゃないとまだ言い張るのですか?  
 それ以外の可能性は有り得ないのですが?」  
 
だから俺はまったく知らん。  
大体まだ俺は童て……いや、女性とそういう関係になったことすらない。  
 
「ではもう一つの可能性を考えてみましょうか。  
 涼宮さんはあなたとの子供が欲しくなった。そう望んだことで妊娠した。  
 そうまるで想像妊娠が本当になった可能性もあります。  
 どちらにしてもおそらくはあなたの子供でしょう」  
 
もう勘弁してくれ。そんな馬鹿なことがあり得るわけがない。  
 
「……遺伝子解析の結果半分は涼宮ハルヒの、もう半分はあなたの遺伝子情報で構成され  
 ている。遺伝子的にもあたなと涼宮ハルヒの子供以外に考えられない。  
 だが、あなた及び他の人間の遺伝子が涼宮ハルヒに注入された痕跡はない。」  
 
おいおい、ハルヒ。お前は本当に処女懐妊してしまったって言うのか?  
進化の可能性、時空のゆがみ、神というお前の呼び名に新しく聖母《マリア》と言うのが  
加わりそうだぞ!それに俺は、いや俺たちは一体どうすりゃいいんだ?  
 
「あなたが責任を取るしかないでしょう」  
 
古泉がニヤニヤしながらそう言いきった。お前この状況を楽しんでやがるな。  
この妊娠が縁でハルヒと万が一結婚することになったとしても結婚披露宴にはお前は絶対  
に呼ばんからな!  
 
しかしこのまま、ハルヒ的能力によって俺は無理矢理、父親にされてしまわなければ  
ならないのか?何か方法は、と考えを巡らしているうちに俺は唐突にひらめいた。  
 
「そ、そうだ長門。ナノマシンをハルヒに……」  
 
そう言いかけて俺はやめた。長門と古泉の目が今までにない殺気を孕んでいたからだ。  
 
ああ、言いかけて俺も気づいたさ。それって堕胎すって事と同じだ。  
そして望まずに生まれた生命を親の都合だけで殺害する殺人者と同じ行為だ。  
そんな無責任野郎に俺もなりたくはない。  
 
だがなんなんだよ、このやり場のないもやもや感は!  
そうさ聞いたことがあるぞ。男親は自分の子供以外に有り得ない状況でも生まれてくるま  
でまったく父親になったと認識できないものらしい。しかもごく一部には生まれてきても  
まだ信じられず、遺伝子解析をする親もいるとか。  
俺みたいな状況になった父親はおそらく居ないだろうが、これは本能的なものに違いない。  
俺が納得できなくて誰が責められようか?俺は悪くない。ああ悪くないね。  
 
だが待て、ハルヒが自分のお腹にいる子供を俺の子だと解ったときどう思う?  
俺が無責任に、俺は知らない記憶にないと言い切れるか?いや確かに記憶にないのだが  
たぶんあいつは悲しむだろうな。口ではなんだかんだ言っても俺を頼っている、あいつの  
悲しむ顔をもう二度と見たくない。  
じゃあどうすればいいか答えは出ているだろうが!ええい!  
 
「わかった。長門がああ言ってるんだ。そういう行為が無くても俺とハルヒの子供に  
 間違いがないのは俺も認める。そして、ハルヒも子供も含めて俺が全て責任を取る」  
 
そう言うと古泉がフッと目を細めて笑い例の説明口調で語りはじめた。  
 
「あなたならそう言うと思っていましたよ。  
 しかし、問題が3つほどあります。まず一つめは涼宮さんは妊娠していると言うことを  
 知らないし、もし知った場合どう考えどう思うのかまったく想像が付きません。  
 とりあえず、そのことを涼宮さんが何とか理解し、あなたの子供だと認識できたとしま  
 しょう。でも次の問題はあなたと涼宮さんのご両親になんて説明するかですね。  
 僕たちはまだ高校生です。それをご両親が許してくれるかどうか?とりあえずそれも許  
 しが出たとしましょう。でも最後の問題は学生の身分で子供を育てながら生きていく、  
 それがどういう事になるか……」  
 
わかっている。全部わかっているさ。だがさっき一人で悩んだときに決心は付いた。  
 
「大丈夫だ。俺に任せろ!俺とハルヒなら絶対何とかなる。そう思うだろ? お前達も」  
 
俺がそう言うと古泉はいつものシリアスモードに微笑を蓄え  
 
「そうですね。僕もそう思います。  
 あなたと涼宮さんなら本当に何とかしてしまうでしょう。  
 そして微力ながら僕も手をかしますよ。おそらく朝比奈さんも長門さんも」  
 
といい長門のほうをふり返る。長門も無言でうなずく。  
ああ、心強いな。世界の危機を救った俺たちだ。子供一人くらいの面倒なんてどうってこ  
とないだろうさ。  
 
 
つづく  
 

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