今俺は長門と縁日に来ている。長門に誘われたのだ。
一万五千四百九十六回も縁日に来てたらもう飽きたんじゃないか? と聞いたら
「あなたと二人だけで行ったシークエンスは1度もない」
だそうだ。
なんだそりゃ? と思わないでもないがなんだかんだ言っても相手は谷口的美的ランクAマイナーの女の子である。
そんな娘と二人きりで出かけるというのはなかなか魅力的なシチュエーションなので俺はいそいそと出てきたのだ。
二人で人ごみを掻き分けるように歩いていると不意に長門が手をつないでくる。びっくりして長門を見ると
「はぐれないように」
前を向いたままそう言う。
心なしか頬が赤くなっているような気がするのは多分人ごみの熱気にあてられたせいだろう。
俺は長門と手をつないだまま露店を見て回った。
「何か食いたい物はあるか? あれば買ってやるぞ」
そう言ってやると長門は旺盛な食欲を見せ、焼きイカ、リンゴあめ、チョコバナナと次々に露店を陥落させていく。
いつも長門には世話になっているのだから今日ぐらい何でも買ってやるさ。
やがて一つの露店の前で長門の足がふっと止まった。わたあめ屋の前だ。
わたあめのできる様子を不思議そうにじっと眺めている。
長門も妙な物に興味を持つもんだな。
「……雪に似ている」
なるほど、雪ね。確かに似ているかもしれない。
「食べるか?」
しばらく考えていたがやがてこくん、と小さく頷く。俺は長門に一つ、自分に一つわたあめを買った。
そんなこんなでぶらぶらしているうちにふと気づけば縁日の会場からずいぶん外れまで来てしまった。
あたりはだいぶ暗く、縁日のざわめきが遠くに聞こえる。
上を見ると満天の星空だ。長門の親玉もこの星空のどこかにいるのだろう。
長門がつないだ手にぎゅっと力を入れてくる。こんなところじゃもうはぐれようもないと思うのだが。
でも俺が長門に聞いたのは別のことだった。
「なあ、長門。」
「なに?」
一緒に星空を見上げていた長門が俺に視線を移してたずね帰す
「今日は楽しかったか?」
しばらくの間長門は黒ビー玉のような瞳で俺を見つめ続ける。やがて夜空に視線を戻しながら答えた。
「わりと」
「そうか」
そして俺たちはいつまでもじっと星空を眺め続けた。