霧雨が眠るように漂い、夕日の光をぼやかしている。赤く染まった校舎を背に、霧雨と汗で濡れながらも日々の鍛錬を怠らない陸上部員が輝いて見える。
弱々しく窓から流れる光の粒が逆行になり、団長席に座るハルヒや窓辺の長門の表情を見せないように映す。今日も平和な放課後だ。
因みに今日は書道部が休みのようでスペシャルゲストとして鶴屋さんが来ているが、やはりこの麗らかな日差しのなか、寝に来たようだ。
今日は趣向を変えて朝比奈さんとオセロをするが、ふむ、大して強くない。古泉よりは骨があるようだが。
暖かな空気が眠気を誘う中、退屈なゲームをすることが更に眠りを誘う。
――パタン
さて、今日も終了だ。今日は昨日の分も合わせて早寝するとするか。
途中までついてきた鶴屋さんは「暇だったら明日も寝にくるっさ〜」と言ってそこで別れた。
しかし、家に帰った俺に何故帰ってこなかったのか笑顔で執拗に問い詰める妹には閉口した。まあそれは別の話だがな。
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あなたは誰……?
あなたは何故、私に優しくしてくれるの……?
見返りを求めている……?
他意があるの……?
違う……
彼はそんな人じゃない……
お願い……
顔を見せて……
私に触って……
顔が見えない……
あなたは誰……?
定時アラームAM7:00起動
システムエラーチェック作動
デバッグ作動 エディケーション作動
システムの復元中...
視界良好 音声識別良好
反応作用良好 感覚機能良好
声帯機能良好 嗅覚良好
末端神経良好 ......
デバッグ終了 エディケーション起動完了
システムエラーチェック結果問題無し
起動...
不明な映像ファイルを発見
しかしエラー、ウィルスではない
これは……私の……夢……?
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今日は熟睡してしまったためか体内時計が起動せずに、みぞおちに妹爆弾を喰らってしまった。
野郎……その内に兄爆弾を喰らわせてやる……
朝の起きが不愉快だとその日一日が不愉快極まりないものになる可能性が高いという。
終わりよければ全て良し、という言葉もあるが、一年の計は元旦にありという言葉もある。つまり始まりと終わりは重要だと言いたいんだろう。
しかし確かに一年の計は元旦にあるようだ。朝から谷口と会ってしまった。これは不愉快だ。
「おはよ〜」
朝一番に見た親類以外の面が谷口だったためか、下駄箱で朝倉に会っても別になんということもなくまだ俺は不機嫌だった。
長門は完全に大丈夫と言ったがやはり俺はこいつに少しの不安がある。
自分を殺しかけたやつが笑顔で少年院から出てきた日には、誰だってぞっとするだろう。
俺がこいつに心を開ける日は、地球が縦一線に割れる日より後のような気がする。
「どうしたの? 不機嫌そうね?」
ふむ、お前も立場上、長門の妹みたいなもんだが、立ち振る舞い、特に起こし方を考えないと姉が不機嫌になるから気をつけろ。
「? なにそれ?」
なんでもないさ。
……しかし、そういえばお前はエラーが起きなかったのか? 長門は大変だったぞ。
「そうみたいね、でも私は大丈夫。情報統合思念体から嫌われてるから送られるエネルギー量が少ないのよ。」
さいですか。
「それにしても、ほんと偶然よね?」
なんだ、なにがだ?
「私もお祭り行ってたけど、八百年に一度の流星群の軌道上と情報統合思念体の電波エネルギーが重なるなんてそれこそ、無限分の一のような確率よ。」
……そういわれればそうだな……まあそうかとしか返事できんがな。因みにお前は誰とお祭り行ってたんだ?
「鶴屋さんと他諸々。」
ふむ、そうか。 ……長門にもSOS団以外にもっと交友を持つように伝えてやってくれ。
「長門さん、ああ見えて人並みに感情もあるし、実は淋しがり屋なのよ……? ……友達作らないのにもやっぱり、気に入った人以外嫌なんじゃないかしら?」
……そう……なのかな……?
間もなくしてチャイムが鳴った。
後ろのやつが寝息をたてているため自然と眠くなり授業に手がつかない。しかも寝てて注意されるのは俺だけときたもんだ。
……やっぱり一年の計は元旦にありだな……
がやがやと騒がしい休み時間に谷口がわいた。いや、よって来た。
「キョン……お前プレイボーイを通り越してもうプレイボールだな……」
おお、遂に俺もクラスチェンジしたか。しかしお前の発言の意味不明度も日に日にクラスチェンジしているようだな。
なんだプレイボールって? 日本語以前の問題だぞ。
「つまりお前は、やる男から、やる玉になったんだよ! このキョン玉が!」
なんだその名前=性器のような呼び名は。俺が何をしたって言うんだ? お前が損することを進んでやるほど人生を棒にふった覚えはないぞ。
「だってお前、今日は朝倉と……」
お前は俺が女子と話すのが気に入らないのか。
「当たり前だろ? ああ、俺も朝倉と……」
分かった分かった、古泉を貸して……いや、あげるから性欲処理にでも使え。金曜にはちゃんと燃えないゴミに捨てるんだぞ。
「分かった、金曜だな」
ああ。なお、手足を縛って口に何か詰めておくとベストだ。
……ふう、谷口とこんな会話をしなきゃならないのも、授業になにか物足りなさを感じるのも、朝の無気力感のせいなんだろう。
全く、我が妹よ。お前は将来立派になるか派手に殺されるかのどちらかだぞ。
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「キョン君っ、たまには一緒にお弁当食べるっさ!」
ああ、夏の終わり、昼休みの教室に流れる空気がなんと清々しいことだろう。雲と青空のコントラストが窓辺の席から美しく注がれる。
適度に照りつける日射しが窓枠の縁に反射して教室の天井に独特な形の光を照らしている。
周りには弁当を開く者もいれば学食のパンを食うものもいる。学食で食う人も多々いるようで、何人かずつ友達のグループを引き連れて食堂に向かうようだ。
「キョン君、そのスモークチーズおくれにょろ。」
「へ? あ、ああいいですよ。」
ふむ、こうして見ると男女で教室で弁当を開いてるやつなんか普通いないんだな。ましてや学年違いの男女などもっての他だ。
なんとなく谷口が俺をプレイボールなどと呼ぶ理由も分かった気がする。
まあこの分だと明日には俺はプレイステーションにでもなっているんだろうな。
しかしとにかく、鶴屋さんの笑顔を見て食うメシはうまいし、鶴屋さんと一緒に弁当食うなんてのはなんか優越感がある。
ちょっとだけ気分がよくなった気がするな、今なら谷口に古泉を引き渡すのは拒めそうだ。
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――――――――――
――ガチャ
長門……だけか。
「……涼宮ハルヒが今日の活動を休みにした……」
なに? 俺は聞いてないぞ。しかし珍しいな、ハルヒが休みにするなんて。
「恐らく私の身を案じてのこと……」
……だろうな。ああ見えて中々優しさのある奴なんだな。
しかしその優しさの1%でもいいから俺に配分してくれれば、俺はもっと自由に生きられるというのに。
「今日は私とあなただけ……二人だけ」
そうか、と言われた所すぐに済まないんだが、俺も帰る。今日は虫の居所が良くないんでな。
「……そう……」
ああ、じゃあな、長門。
夕暮れの迫る空が、燃えるような赤で日本を包む中、校舎はひっそりと沈んでいて昼間の面影すら残していない。その中を俺は歩いていた。
どんな完璧な人間でさえ一度も物忘れをしたことがないということはないだろう。なら、完璧には程遠い俺が忘れ物をするなんてごく自然だ。
そんな言い訳をかましながら何時も部室に向かった。その部室で俺が見たのは……
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―――――――――
時間の感覚や場所の認識が曖昧だ。俺は今が何時でどこにいるのか完全に分かっているが、何故俺が今そこにいるのかが解らないっていう様な感じだ。
完全に白い壁紙、装飾性の欠片も感じられないテーブル、何の物音もしないDK、年相当に見合わない柄の布団、そこに横たわる小さな少女。
部室で倒れていた長門を此処まで担いで来たことは分かる。布団に寝かせたことも分かる。しかし俺が何故そうしたのか解らない。よく解らない。
仲間だから? 当然? いや、そんなことじゃない、気になるのは俺は長門を何故家に連れていったか、ではなく、長門は何故倒れていたかだ。
……言ってることが解りにくいとは思う。思うが、それだけリアリティを感じられずにいる状態にあって頭がよく働かないんだ。
そういうこと、たまにあるだろ、分かってくれ。
「長門……今度はなんなんだ……?」
例え説明されたとしても俺には理解出来ないであろう文章を倩と述べるということは十分分かってる。
しかし、聞かない訳にもいかない。長門が倒れること即ち日常、などといった状態を作り出したくはないからな。
「前回とほぼ同内容」
……来た。短文で有りながら全く解らない文章が。俺はこれ以上こんなことに関わりたくないといった風に話しかけた。
「そうか……しかし俺が鞄を取りに戻らなかったらどうしていたんだ?」
「……危険だった……」
俺はもう聞くまいとして立ち上がった。俺は元々こんな異常に関わる人間じゃないんだ。
朝比奈さんやハルヒががどうかしたなら助ける努力を必死になってするだろうし、谷口や国木田だって、もし死ぬとなれば悲しいだろう。
しかしそれは事故や怪我、病気といった俺達を取り巻く環境の中に存在し得る出来事での話だ。
宇宙や銀河といった日常と関わらないような話となったら別なんだ。
だから俺が出来る事は長門を此処まで連れてくる。それで終わりさ。後は俺がなにをしてもどうこう出来ることじゃない。
心配じゃないかどうかと言われたら、当然長門が心配だ。だが、手をつけられない問題に心配以外の何が出来るっていうんだ。
「じゃあ俺はこれで……また明日な……」
それだけ言って踵を返した瞬間に、ひんやりとした冷たい何かが俺の足首を掴んだ。
その掴んだ手を持つ長門は俺の足首を掴んだまま呟いた。
「不安……傍にいてほしい……」
長門と登校した朝二日目。俺は谷口曰くプレイステーションになっていた。谷口の思考を先読み出来るなんて、俺は脳が退化しているのかもしれん。
「長門さんと登校するのが日常になったら、長門さんも少しは人付き合いがうまくなるんじゃないかしら?」
皆が弁当を食ったり学食に行く中、朝倉は俺と机を対にして弁当を開いた。
「どうだろうな、しかし俺にそんな義理や義務はありゃしないぞ」
朝倉と一緒に飯を食うのは初めてだが、優越感どうこうよりも、俺が気付かない内に弁当に何か細工がされてるような気がして飯が不味い。
お前も鶴屋さんのように自然と幸せや笑顔を振り撒くようになればいいのにな。そうすりゃ俺はもっともっと自由になれる。
「どうして? 確かに義務はないけれど、あなたは命を救われじゃないの?」
お前が言うな、お前が。
「長門がいなきゃお前もいないさ。同じことだろ、それより」
「それより?」
「お前は昨日大丈夫だったのか? また流星群だか隕石だかがで長門がまた倒れたんだぞ?」
「……ほんと?」
ほんと……って、バックアップの割に何も知らないんだな。
「そうじゃなきゃ俺と長門が登校するなんてこと地球が割れても有り得ん」
「……昨日は私はなにも無かったわよ。流星群どころか流れ星一つ観測されていないわ」
「…………え?」
「おかしいと思わないの? 流星と情報統合思念体の電波が交わるなんて地球が出来てから60億年たって一回あるかないかなのよ?」
そう言われれば……昨日もそう言われた気がするな……
「じゃあ、もしかしてもしかしたらまさか……」
「その……まさかね」
――――――――――――
「はい、キョン君お茶ですょ〜」
いつもありがとうございます。今日もウエイトレス姿が素敵ですね。
「あ〜あ、つまんないわね〜……なんか面白いことないのかしら?」
お前が面白いと思う事が毎日起こったら、いつか地球は俺達を敵に回すぞ。
「そうですね……毎日こう暇ですと……」
おいおい古泉、油を注ぐな。油が飛んで被害を受ける割合は俺のほうが高いんだぞ。
「…………」
……今はまだ、行動を起こす時じゃない。こいつの無言がどこまで行くか、今日は注意しなければな。
「……暇ね〜……」
…………
「……すっごい暇……」
…………
「……もう、なんか面白いことないの?……」
……1時間もたっただろうか……
――ドサッ
窓辺から音がした……来たようだ。あの長門の……“芝居”が……
――――――――――
「……! 有希っ!?」
「な、長門さん……!?」
「ふぇ……!?」
皆が驚くように、倒れた長門に駆け寄った。それを俺は制止し、長門の肩を抱き上げた。
「長門大丈夫か? 家に帰ったほうがいい ほら肩貸すから」
感情のない言い方をした為か、少し周りの空気に淀みを感じたが、この際それは問題ではない。
いつもの万能で恐怖を知らない長門の姿は無く、白く健気なイメージを具現化したような長門の姿があった。
「ハルヒ、今日は長門は休みだ。いいな?」
「ちょ、ちょっと……キョン……?」
「いいな? 俺は長門を送る、すぐ帰るからここにいろよ」
「え……あ……わ、分かったわよ」
――ガチャ
――パタン
みんなが、ハルヒがどんな顔して何を言ってたかなんて覚えてない。だか、多分覚えておかなくてもいいものだろう。
突き詰めるべきは只一点。
――――――――
もう見慣れた白く清らかな壁紙が、クール色の蛍光灯の光を眩しく映す部屋のなかに俺と長門はいた。
長門はまるで本当の貧血のように、顔を青ざめて、俺が分かるくらいの不安の色を目に写していた。
――カチャ
玄関の鍵を締め、布団に横たわった長門の傍に座った。
長門は制服を少し乱して、呼吸を整えるような素振りをして、ずっと俺と目を合わせなかった。
「長門……どうしたんだ?」
「前回と……ほぼ同内容」
長門の眉根が痙攣するように動いた。
「そうか、また隕石か流星が来たのか」
「……そう」
「場所は?」
「……?」
今までに無かった俺の突き詰めるような言動に、長門は少しだけ怪訝そうで、少しだけ不安そうな目をした。
「隕石だか流星群だかの軌道だ。どこから何処に言ったんだ」
「……それをあなたに答えても意味がないと思われる」
ゆっくりと布団から上体を起こした長門は、その大きな瞳を俺ではないどこか遠くに向けて答えた。
「“答える意味がない”ってことは、そのことは知っているんだな? それを聞きたいんだ、話してくれ」
「……あなたには理解出来ない……」
そうか、ありがとう。全て分かった。流星群どころか隕石も観測されちゃいないってな」
「…………!!」
「そこんとこどうなのか、聞かせてくれないか?」
「……朝倉涼子は私のバックアップ、情報統合思念体から電波を受け取る頻度が低い……」
「しかし隕石も流星群も観測されちゃいない、電波どうこう以前の問題だな」
「…………もし……」
「……?」
「……もしあなたが私のエラーを芝居だと思うなら……私が誰もいない部室で倒れていたことはどう考えるの……?」
「……そこは考えた……簡単なことさ。まずお前は俺が部室に忘れていった鞄を見た、お前はそれを俺が取りに来ると思ったんだ。」
「…………」
「……どうなんだ……?」
「……あなたが鞄を忘れたことに気が付かず帰ることも考えられる……」
「それもあるだろうな、しかし、お前が座っている席からは窓が見える。数分たっても俺が出てこないようなら、取りに戻ったと考えることもできるんじゃないのか?」
「………!」
「だから長門、お前はそう考えて……」
「……私の負け……」
明るい蛍光灯が長門の頭の上から光を注ぐ。そのため影になる長門の顔はよく見えない。
帰宅ラッシュも終わったのだろうか、外界の音は殆ど聞こえない。
「……一回目は本当に情報統合思念体の電波と流星群の軌道上の重なりで起きた……しかし、二回目以降は私の考えによる行動……」
――パンッ!!
手のひらに鈍い衝撃が加わる。長門の頬が目に見えて赤く染まる。
「どれだけハルヒや朝比奈さん、古泉……俺が心配したか分かってんのか!?」
「……ごめんなさい……」
「謝るくらいなら最初から……!! ……いや、抑、なんでこんなことをしたんだ……!?」
「…………」
「……黙って済まされはしないぞ……」
「不安、一緒にいてほしい」
「……それはお前がエラーを初めて起こした時の事だ、俺が今聞いてるのは何故芝居なんてしたかだ……」
「ふ、ふふ不安……あああ、ああなたに一緒にいてほほほほ、ほしいい」
「!!」
長門の引き付けを起こしたように漏れた声が耳に鋭く響いた。
考えることは山ほどあった。外はこんなに暗かったか? 壁紙は灰色だったか? そして……俺は足が動かない人間だったのか……?
朝倉のあの時と同じ感覚……今度はじわじわと長門が近づいてきて……もうなにがなんだか……
「ああああああああなたは、涼宮ハルルルヒやアアアサヒナミクルヤコイズミイツキト仲が良い……わわwatashiハ?」
「な、なにを言ってるんだ……? な、長門!?」
じりじりと長門が四肢をつき、よつんばいのまま近寄ってくるのが見える。
……危険な気がする……! だが俺は今、動けない……!
「ワwatashiハダレニモスカレナイ誰、誰にもaiサレナイ、デモ」
「アなたは優しくシてくれた……エラーヲヲコシタラ優しくしてクレタ」
「!!」
「キョウmokaeったら独りボッチ、ジャアエラーヲヲコソウ、カレガ優しくシテクレru」
「フアンダヨ、ヒトリハイヤダヨ、ジャアeraーを起こソウダイスキナカレガヤサシクシテクレルkara」
こいつ……いや、長門……お前の本当の理由は……
まさか……まさかというしかない……
……寂しかった……?
長門は俺のズボンとパンツを器用に下ろしてくる。俺は抵抗しない。何故だ?
長門が服を脱ぎ始めた。俺は何も言わない。何故だ?
そのまま長門は俺の股間に腰を下ろした。
「アッ、アッアナタハ優しくシテクレル……コンナフウニoオkikutE亜戦く」
そのまま
――ガタッ
俺は
「……一つ一つのプログラムが甘い……ってとこかしらね」
意識を失った
―――――――――
――一日後
本当のエラー因子……? お前も長門みたいに難しい言い方しないで、俺にもわかるように説明してくれないか?
「あのね、あなたは長門さんのエラーを芝居と思ったでしょ? でも実はそうじゃないの」
…………?
「あれは長門さんのエラーの芝居、つまり長門さんの中にあるエラー因子が起こした芝居だったの」
……つまり、長門がエラーを起こしたのは本当で、あれは長門のエラーが起こした芝居……訳がわからん……
「電波が流星群によって歪みを帯るなんて今までに考えもしなかったことだから、情報統合思念体も対処の仕方がわからなかったみたいなの
長門さんが安全に処理されたと思った歪んだ電波から来たら一部のファイルが、実は未処理のままになってたのよ
多分ファイルの内容は精神になんらかの変貌を起こすものだったと思うんだけど……詳しくはわからないわ
あなたが長門さんから何を聞いたのかは私にも解らないし推測もしないから、私が言えるのはこれくらいね」
…………よくわからないな、しかし……もしあの時にお前が来てくれなかったらどうなっていたんだ……?
「一生あなたはエラーを起こした長門さんと……でしょうね」
ゾッとしないな……
「まあ、長門さんを初めとしてみんなの記憶はある程度消したから、これからも普通通りに接してあげてね」
ああ。なんていうか、ありがとな。まさか今度はお前に救われるとはな。お前に対する好感度が少しアップしたぞ。
「フフッ、嬉しくないわよ。じゃあね」
――部室にて
「ほんっとつまんないわね〜……」
夕闇が校舎を照らす。世界が紅に染まったまま、退屈な時間は過ぎていく。
――パタン
「……もう時間ね、じゃ解散しましょ……」
夕闇が校舎を照らす。世界が紅に染まったまま、俺と長門だけが残された。
「長門、たまには一緒に帰らないか?」
「…………」
――コクリ
何が間違ってて何が正解だったのかなんてわかりゃしない。
長門は宇宙人だ。それ以前に一人の女の子だ。
それは宇宙人であろうがなんであろうが変わらない。
一人暮らしなんて俺はしたことがないから辛いのかなんてわからない。
でも、誰にも優しくされないでいたら辛いのは分かる。
俺に誰かに優しくすることなんて出来るのか?
解らないな。でも今はこれでいいと思ってる。
エラーやどうこうなら俺にはなにも出来んさ。
しかし、誰かが一人で辛い時には俺は一緒にいてやることができる。
「……家に来る……?」
「……そうだな、寄らせてもらうよ。お茶が飲みたいからな」
……なあ長門。
あの時の記憶はないだろうが、あれはお前の本心だったのか?
それともエラーが言ったことだったのか?
なんにせよ変わらない日々が過ぎるだけか。
〈完〉