もしも神様ってのがいるのならそいつはとんでもなく気まぐれで
とんでもなく性悪でとんでもなくぶっとんだ脳ミソの持ち主に違いない。
方向としては斜め上に。
まぁ神様ってのに脳ミソがあるのかどうかは定かでないが。
少なくとも宇宙人でも未来人でも超能力者でもましてや異世界人でもなんでもない、
常人凡人一般人だと自負している俺なんかには想像もつかないことを平然とやってのけるわけだ。
そこにシビレないし憧れもしないぞ。
……なんてことを考えてみたら、まるでどこぞの団長様そのものじゃないかと気付いた。
古泉のいうことをまんま素直に信じるならば
俺の想像した神様ってのも当たらずしも遠からず、というか正しく的中。
ど真ん中だ。凄いぞ俺。ちくしょうめ。
当たっても何も貰えないどころか更にダウナーな気分になれるとは
ハルヒ主催の籤引きより酷いぜ。
ハズレでもアルファベットチョコが貰えた分アッチの方がまだマシってもんだ。
アレは長門の仕込みだったっけ?
まぁ古泉の話なんてあいつが超限定的な超能力者であること以外は
到底信じていないからどうでもいいんだがな。
とにかく、そんないるのかいないのかもはっきりしない上にロクでもないこと
間違いなしの神様のおかげで苦労するのが俺だってのは避けられないことらしい。
コレは朝比奈さん流に言うならば「規定事項」ってヤツなのかね。
などと現実逃避に走る俺を責めるなら責めろ。
天災は忘れた頃にやってくると言うが、涼宮ハルヒと言う名の人災は忘れる間もなくやってくる。
息つく暇もないとはこのことだ。
せめて朝比奈さんが俺の為に淹れてくれた甘露に一口位口をつける時間をくれ。
さて、俺の眼前にはハルヒと朝比奈さんと長門とついでのついでの、も一つついでに古泉がいる。
ここは今や我が家と同じ位と言っても過言ではない程に勝手知ったる部室だ。
いやSOS「団」だから「団室」か?
いやいやだがしかしここは正式には文芸部の部室だから
我等SOS団が間借りしているとはいえ名称としては部室で構わないのか?
……と、また話が逸れそうなので仕方ないが現実に戻るとしよう。
そう、ハルヒと朝比奈さんと長門と古泉がいるのだ。
いつものSOS団の風景だ。
名誉顧問の鶴屋さんも二度も俺の命を狙った朝倉も怪しい依頼を持ち込んできた喜緑さんも
いけ好かない生徒会長もペットのルソーが変な奴に寄生された阪中も
アホの谷口も悪友の国木田も最高学年になるのに一向に落ち着きがない俺の妹も
古泉の機関とかいうワケ分からん団体の仕事仲間の新川さんも森さんも多丸氏兄弟も
ハンドボール一筋の担任岡部も唐突に姿を現す朝比奈さん(大)も
ENOZの皆さんも哀れな被害者コンピ研部長氏も今はいない。
面子的にはいつもの五人のSOS団だった。
「よーし!皆集まったわね!じゃあ今週の不思議探索についてだけど、
これだけ色々やっていながらいつも何も見つからないのはいくらなんでもおかしいわ。
で、私はよくよく考えてみたのよ。
もしかしたら不思議の方があたし達に気付いちゃったのかもしれないわ。
宇宙人や未来人や超能力者や異世界人だってバカじゃないんだからこれだけ嗅ぎ回られたら気付くわよね。
私としたことが迂闊だったわ……ねぇ、そう思わない?みくるちゃん?」
これだけの長台詞を噛むことなく一気にまくしたててビシッと朝比奈さんを指差す。
これこれ人を指差しちゃいけませんと習わなかったのかお前は。
「ふえっ!?あっ、は、はい!」
「ちょっと!ちゃんと聞いてたんでしょうね!?」
「あ、あのっ……」
可哀想に朝比奈さんは茫然としていたところをいきなり指名されてオロオロと狼狽えている。
ええ、とか、あう、とかまともな答えになってない声を出して
助け船を求めるかのように上目遣いでチラリと俺の方を見る。
ああ、大丈夫です朝比奈さん、あなたは俺がなにがなんでも命に変えても守りきりますから任せて下さい
――なんて意志と決意を込めて見つめ返したものの
既に朝比奈さんはもう一人の男団員古泉にも同じように顔を向けていた。
古泉のヤツめ覚えていろよ。
そんな下っ端が去り際に言う負け台詞のようなことを
心の中で吐きながら呪詛を籠めて古泉を睨みつけてやった。
が、いつものハンサムスマイルとついでにわざとらしく肩をすくめて返された。
やれやれじゃねえよ。
くそっ次のオセロの時には牛定石を使って盤上を白一色に染めてやる。
勿論決め台詞は「俺はオセロがしたいだけ」だ。
おっとまた話が逸れた。
「……」
隅の椅子に座っているヤツは言っているんだか言っていないんだか分からない三点リーダを発しながら
ほんの一瞬だけ目を上げるものの、撲殺事件現場に落ちていれば即座に凶器と判断されるに違いない
分厚いハードカバーの本に目を戻す。
掠め見た本の題名は「宇宙人未来人超能力者異世界人と遊ぶ方法論」だった。
をいをい、そんな本が流通しているなんて一体全体この世はどうなっちまってるんだ?
「そんなわけで今度の探索の時は皆変装するのよ!」
「え、え、ふええっ!?へ、変装って私」
「大丈夫よみくるちゃん。みくるちゃんの分はちゃんと私が用意しておくから」
とウインクと共にサムズアップして朝比奈さんに向き直る。
「バニーとかナースとか巫女とかウェイトレスとか
着ぐるみはもうやったから今度は何にしようかしら……」
「え、え」
マシンガンのような話の流れについていけてない
朝比奈さんは既に頭の中がパンク状態なようだ。
ここは一つ俺が助け船を出すしかあるまい。
つーかいい加減現状を打破しないといかんだろ。
うん。頑張れ俺。
心の中で自分を叱咤する。
そうしないととてもじゃないがやっていける自信がなかったのはここだけの話しだ。
「え〜と、お前のしたいことはよ〜くわかったがやめとけ」
「なんでよっ!!!」
案の定ギンッ!と擬音が聞こえてきそうな程の目つきで俺を睨みつけてきた。
……長門が。
そう、そうなのだ。
今、目の前で腰に手を当てふんぞり返って天上天下唯我独尊ちっくな態度で
親の敵の如く俺を睨みつけているのはあの長門有希だった。
メガネは無い。
マンションのだだっ広いワンルームで俺にお茶を何杯も飲ませておもむろに
情報統合思念体の有機なんちゃらかんちゃらとか言い出した頃の長門はおろか、
最近の相変わらず無表情・無感情ながらも俺には微かに分かる程度に振り幅が成長した長門でもなく、
それを遥かに通り越して宇宙が百万回生まれ変わる程の時間を費やしても
ここまで変わらないだろうと思われる程の変貌だった。
ちなみに部室の隅で我関せずと本を読んでいるのは誰であろう、外見上は涼宮ハルヒその人だった。
つまりあの超人的変態的ハルヒパワーでハルヒと長門の中身が入れ替わったってことだ。
なんでこんなことになっちまったんだ、と鈍痛を訴える頭を抱えながら思い出す。
話は昨日の放課後まで遡る。
*
放課後、いつも通りSOS団は部室に集まっていたが、
そんな中俺の気分はマリアナ海溝よりも深く沈んでいた。
何故なら今日は星の巡りが最悪らしく、端的に言うとツイてなかった。
母親の怒鳴り声のような叫び声のような一喝で寝坊したことに気付き朝飯も食わずに
全力で自転車を駆りどうにかギリギリ間に合ったかと思いきや
途中の信号で引っかかり結局校門をくぐれたのは遅刻確定の時刻。
それでも少しでも早く着こうと廊下を走り慌てて教室に駆け込んだら
扉を勢いよく開けすぎてガラスを割り当然説教。
空腹を抱え、耐え難きを耐え忍び難きを忍んだ午前中の授業が終わり昼休みになり、
いざ弁当と感動の御対面を果たそうと思って勢い勇んで開けた鞄の中には弁当がなかった。
どうやら朝慌てすぎてお約束のように家に忘れてきたようだった。
落胆して学食に向かおうとしたら朝の扉の件で担任岡部に
呼び出され昼休みはまるまる説教で潰れた。
そんな状態で挑んだ五限目の体育では体力作りとの名目でひたすら校庭を
グルグル走り回らされ続けて逆に体力という城壁を削られた挙げ句、
六限目の数学で日付で指名するという悪癖を持った教師から集中砲撃を受けて
俺というちっぽけな駆逐艦は見事かつあっけなく撃沈した。
いつもなら谷口や国木田に愚痴を言って
少しはスッキリ出来たのだが生憎二人とも季節外れの風邪で欠席。
とまあこの世の全ての不幸を一身に背負わされたかのように
散々ヘコんでいた矢先だったのが背景にある。
どうにかその日初の栄養として胃に届いた朝比奈さん印のほうじ茶も
流石に俺を癒しきるには足らなかった。
そんな俺に更に気分を落ち込ませるヤツがやってきた。
「……だから分かってんの!?キョン!!」
「はいはい分かってますよ分かったから……」
「はい、は一回でいいのよ!!」
いつも通りハイテンションなハルヒだ。
どんな話の流れでそうなったのかは正直覚えていない。
しかしいくらヘコんでいたとはいえ、俺がポロリと漏らした言葉が
こんな結果を招くと知っていたら今からでも朝比奈さんに土下座してでも
過去に連れて行ってくれるようにお願いして、俺にドロップキックの一つでも
お見舞いして黙らせてやりたいところだ。
いや、無理なのは重々承知の上だが。
なんたってその時の俺がそんなバイオレンスな経験をした覚えがないのだから
そんなチャンスは未来永劫訪れないのだろう。
ただ、そんなことを考えちまう位後悔してるってことだ。
やらなくて後悔するよりやって後悔する方が云々……ってのは今や立派に
俺のトラウマになってくれてやがる優等生委員長様々が言っていた言葉だったな。
この場合この言葉が全てにおいて当てはまらないのは俺自身が一番知っている。
しないでいい後悔を自ら招いている時点でやるもやらないもクソもない。
今回ばかりは自分に非があるのが明らかなわけだが、
かといってどうすりゃよかったのか皆目検討がつかん。
だからせめて一言だけ言わせてくれ。
やれやれ。
すまん前置きが長くなりすぎた。
要するに俺はかつて無い程に疲れていたんだ。
だから溜め息と共に言ってしまった。
普段の俺なら口が裂けても言わないであろう台詞を、な。
「なあハルヒ、お前は黙ってりゃ可愛いんだから、ちょっとは落ち着け」
「悪いが今日は疲れてるんだよ」
「お淑やかにしろ、とまでは言わんがもう少し慎ましくだな」
「こう言っちゃなんだが少しは長門を見習え」
最後の言葉が終わるまでハルヒはジッと黙って聞いていた。
一気に喋って流石に冷静になった俺が俯き加減のハルヒに不審を覚え近付いたところ、
ハルヒはノーモーションで俺の鳩尾に寸頸を喰らわし、
「キョンの大バカっ!!!!」
と一言だけ叫んで走り去ってしまった。
心なしか目が潤んでいたような気がするが、何せ俺は鳩尾に喰らった致命的な一発のおかげで
まともに動けるようになるまで回復したのが閉門時間ギリギリだったので
事実は果たしてどうだったのかよく分からない。
朝比奈さんはあたふたして、
古泉は相変わらずのニヤケ面でしかしいつもより焦燥感を滲ませて、
長門はやっぱり無感情なまなざしを俺に向けていた。
一応それなりに心配されつつもSOS団の四人で帰宅の路についた。
結局ハルヒは部室に戻ってこなかった。
*
で、次の日(つまり今日だ)流石に昨日のことは俺が悪いと思って朝一で謝ったのだが、
ハルヒは無感情な瞳で俺を一瞬見つめ返しすぐに窓の外に目を向けてしまった。
俺はといえばハルヒの無反応さに戸惑いを覚えたものの、単純にまだ怒っているのだろうと思っていた。
昼休みに改めて謝ろうとしたのだが、前の日の扉の件で再び岡部に呼び出されハルヒと会話することが出来ず。
仕方なく五限・六限をなんともいえないモヤモヤした気分で受けつつどうにか放課後になり今に至るわけだ。
目の前にはギャンギャンと騒ぐ長門と隅っこで静かに本を読むハルヒ、
という世にも奇妙な光景が展開されているこの状況。
一体どうしたらいいもんかね?
と俺が思案していると、
「この大バカキョン!ちょっと頭冷やしてきなさい!!」
SOS団長@長門がハルヒもかくや、その小柄な体の何処にあるんだって当然のように
湧いてくる疑問をふっ飛ばしちまう位に凄まじい力で俺を廊下に投げ出した。
「しばらく帰ってくんなっ!!!」
一方的に言い放って荒々しく扉を閉めた。
ご丁寧なことに鍵までかけやがった。
俺としてもハルヒな長門や長門なハルヒなど見ているだけでストレスと疲労がタッグを組んで襲ってくるに違いないし、
現状を冷静に考える為に部室の外に追い出されたのはそれこそ渡りに舟だったのでとっとと退散することにした。
で、やってきたのは古泉と話したいつぞやの中庭にある喫茶スペースだった。
とりあえず自販機で缶コーヒーを買って椅子に座る。
昨日と同じかそれ以上の疲労感を感じ思わずため息と共に零れたのを誰が咎められよう。
やれやれ。
「やれやれ、じゃありませんよ」
って独り言に割り込んでくるな。
「それは失礼しました」
そういって俺の向かいの席に腰掛けたのは予想通りというか当然というかやっぱり古泉だった。
爽やか度当社比80%減のしかし相変わらず腹立たしいニヤケスマイルで俺に話を振ってくる。
「さて、今回の件ですが、僕にとっては少し意外でした」
奇遇だな俺にとっても意外だ。
だが少しどころじゃないぞ。なんてったって元気ハツラツな長門だ。
俺の今後の人生がどれだけあるか知らないがあんな長門を見れるのは
この先どれだけ人生が続こうが有り得ないだろうしな。
例えばドジっ子じゃない朝比奈さんや笑顔のない真面目ヅラの古泉のように
宇宙が何巡しても鉢合えそうにないシチュエーションだ。
とここまで言いながら古泉が言いたいのは
そういうことじゃないだろうとなんとなく分かっていた。
「そうではありません。昨日の件で僕はてっきり閉鎖空間が発生すると思っていましたが、
昨日から今日にかけて閉鎖空間が発生したという報告を受けていないんですよ」
やっぱりな。何で分かるかって、そりゃ伊達にあのハルヒと過ごしてきたわけじゃないんだ。
申し訳ない位貧弱な俺の学習能力も少なくとも携帯の予測変換機能よりはマシな筈だ。
お前も面倒なバイトに行かずに済んでよかったじゃないか。
「ええ、おかげ様で。僕としましても昨日はてっきりいつもより大規模の
閉鎖空間で苦労すると思っていたのですが、正直拍子抜けしています」
なんだそりゃ。お前はどこぞの好戦的な戦闘民族か。
「まぁ、そんなことより今の状況は誰にとっても好ましいとは思えないのですが如何でしょうか?」
如何でしょうか?と言われてもそれは正しく俺も思っていたことでもあり思わず顎に手を当てて考え込む。
前に俺だけ異世界に放り出された時に感じた虚脱感や焦燥感は忘れていない。
俺を知らない何の力も持たないハルヒや古泉や朝比奈さん、
俺を知っているものの俺の知らない長門。
あの時に比べれば今の状態は小規模なものだ。
まぁ、ハルヒのように元気一杯な長門や長門のように落ち着いたハルヒも悪くない。
だがそもそもアレじゃハルヒじゃないし長門じゃない。第一俺の知っているSOS団じゃない。
「何と言いますか、今回は理由がはっきりしているので対処法もそれほど難しくなさそうです」
ほう。どうすりゃいいんだ。一応聞いてやる。
「簡単です。今回涼宮さんと長門さんが入れ替わってしまったのは間違いなく
昨日のあなたの発言が原因です。長門さんのようになれ、と。
まぁ、そこまで直接的な言い方ではなかったと思いますが、涼宮さんはそう捉えた。
しかし涼宮さんの性格からしてそのように振舞うことは無理でしょう。
それは本人が一番よく分かっていらっしゃるのでしょうね。そして散々悩んだ挙句出た結論が」
そっくり入れ替わればいいってことか。
俺が古泉の台詞をぶった切って結論を言ってやったら、何故か嬉しそうな顔で俺を見つめてきた。
やめんか気持ち悪いぞ。
「いや、あなたも最初の頃に比べて随分と柔軟に対応出来るようになってきたと考えると
思わず微笑ましくなってしまいまして」
まあな。人間の環境対応能力ってヤツは侮れんものだ。
入学当初の俺がLV1で素手に布の服の武道家だったとすれば今の俺は黄金の爪を手に入れた状態だ。
その代わり敵多め素人にはおススメできない。
などと下らない事が頭の片隅をよぎったが、とりあえず積み上げられた経験値が圧倒的に違うってことだ。
そんな俺がなんといってもこのまま放っておくことなど出来ない。
出来るわけがない。
大体二人が入れ替わっただけで他のヤツらは違和感を感じているのだから、
こんな状態じゃ今はなんとか誤魔化せてもそのうち世界が歪みまくってしまうだろう。
というわけで俺と世界の利害は一致したわけだ。
「解決方法は……どうやら分かってらっしゃるようなので敢えて僕は言いません。ではよろしくお願いします」
それだけ言って古泉は意味深な笑みを浮かべながら去っていった。
その後姿をなんとなくボーっと見ながらもこれから俺がやらなけりゃいけないことに思いを馳せる。
古泉と話して一応の答えは出たものの、
それをそのまま素直にすぐに行動に移せるほど俺は直情決行型でもないし、
開き直って認めちまうがそれほど大層な勇気があるわけでもない。
だが、それ以上に許容できないことってのがあるんだ。
あの時俺はエンターキーを押したんだ。躊躇もせずにな。
つまり失いたくなかったんだ。今までの日常を。
積み重ねてきた日々を。築き上げてきた関係を。
そして今再び同じような立場に立たされている。
だったらやることは決まっているし躊躇っている場合じゃない。
俺は体中から、いや過去現在未来の全ての俺の異時間同位体とやらから
無理矢理引っ張ってきてやっと一人前になった勇気と行動力を発揮して
なんとか異常な状態からいつも通りのハルヒと長門に戻すことに成功した。
どうやったかって?
それはアレだ、そう、アレだ。禁則事項だ。
頼むから忘れさせてくれ。
ふとした瞬間に思い出したりしたら今度こそダース単位で拳銃が必要になるだろうし、
それだけじゃ足らず朝比奈さんに頼んで未来へ飛んで某青狸型ロボットから
地球破壊爆弾でも持ち出して俺が生きていたって足跡をこの世から殲滅しないと
やってられなくなっちまうだろうからな。
そんなこんなでどうにか今回の異常な事態は無事解決した。
そして今、目の前にはいつも通りの光景がある。
お茶を一気に飲み干し大声でワケ分からんことを捲くし立てハルヒと、
麗しいメイド服に身を包みいそいそとお茶を給仕してくれる朝比奈さんと、
安物のパイプ椅子に座りハードカバーの本を膝上に乗っけて黙々と読み続ける長門と、
予告通り真っ白にしてやった盤上を悔しげではなく笑顔で見つめる古泉がいる。
そしてなんだかんだ言いながらそれに安心して楽しんでいる俺も、だ。
おしまい。
後日談。
その日俺は疲れていたんだろう。
じゃなきゃ俺には学習能力というものが全くもって欠如していることを
これ以上になく証明してしまうし、なによりもなけなしの勇気は
先日の俺に全て持ってかれたから今の俺には一ミクロンたりとも残ってない。
にも関わらず言ってしまった。
「少しは朝比奈さんを見習え」
と。
昔の偉い人は言いました――時既に遅し英語でならtokisudeniososhi――などと
実にバカバカしいことを考え、実際アイツが聞いたら1000ワットどころか
この世に存在するありとあらゆる単位を無視して計測器の針を振り切ること間違いなしの輝く笑顔とともに
この世に存在するありとあらゆる罵詈雑言を浴びせてくるであろうことは想像に難くない。
かくて俺の目の前では朝比奈さんがハルヒに対してバニーの衣装を押し付け、
ハルヒは涙目でそれを必死に拒否しているというなんとも言い難い光景が広がっている。
今度は一体どうすりゃいいんだ?誰か教えてくれ。