いつもの放課後のSOS団の活動中の事だ。
日頃のフラストレーション溜まっていたのだろうか?
自分でも理解不能なイライラの全てを我等が団長涼宮ハルヒにぶつけていた。
俺が冷静さを取り戻した時にはもう部室にハルヒの姿は無く、背後に3つの憤怒のオーラを感じた。
俺は恐る恐るそのオーラがする方へ振り向いた。
その瞬間、いきなり長門が広辞苑の角で俺の頭を殴った。
なにしやがる!?と言おうとしたら今度は朝比奈さんがお茶入りの湯飲みを投げつけてきた。
それから逃げようとしたら古泉が俺の前に立ちはだかり俺の胸倉を掴んでこう言った。
「何やってるんですか!?今回の事はどう見てもあなたに全ての非がありますよ!今度こんな事したら閉鎖空間に置き去りにしますからね!!」
見事なジェット○トリームアタックだな。
いや、そうじゃない・・・
「何やってるのかだと!?それは俺自身が一番知りたいさ!!」
そう言って古泉の手を払いのける。
「どういう事ですか?」
「だから、自分でもなんであんな事しちまったのか分からねぇって言ってんだよ」
「長門さん、何か分かりますか?」
「何者かの介入は確認されていない。これは若者特有の若さ故の暴走だと思われる」
「そうなんですか。それなら安心しました」
「何言ってんだ?理由は何にしろお前達にとってマズイ事態じゃないのか?」
「まぁ、そうなんですが、あなたが意識的に涼宮さんを傷つけたのならアウトでしょうが、無意識でやった事ならまだ救いは残されています」
「どういう事だ?結果的にハルヒを傷つけた事には変わらないだろ」
「そうですが、無意識でやってしまったならまだ関係の修復は可能という事です」
「そうなのか?」
「そうです。あなたの努力次第ですがね。ね、長門さんに朝比奈さん」
「そう。恐らく今晩中にあなたに何らかの変化が訪れるがそれはあなたを脅かすものではないと推測される」
「キョン君、ちゃんと涼宮さんと仲直りして下さいね。仲直りするまでお茶は淹れてあげませんから」
「はい、分かりました。毎度毎度、面倒掛けて悪いな」
「そこはギブアンドテイクという事で今日はもう解散しましょう」
古泉のその発言で今日は解散となり家路についた。
家に着いた後は、ずっとハルヒの事を考えていた。
幾ら振り払おうとしてもハルヒの事が頭に浮かんできた。
なんで、あんな事しちまったんだろうな・・・
そんな事を考えながら寝床に着いた。
目が覚めた時、俺は白一色の世界に居た。
どこだ?ここは・・・
辺りを見回しても白一色だった。
すると聞き覚えのある着信音が聞こえた。
ポケットを漁ると俺の携帯電話が鳴っていた。
メールが来ていたので確認すると古泉からだった。
『目が覚めましたか?』
『あぁ、ここは何処なんだ?』
『そこは涼宮さんの日記の中です』
『日記の中?なんだって俺はそんな所に居るんだ』
『それは涼宮さんがあなたの事をもっと知りたい、自分の事をもっと知ってほしいと日記を書きながら願ったからだと長門さんは推測しています』
相変わらずムチャクチャだな・・・・
『で、俺はどうすればいいんだ?』
『とりあえず、日記の中の涼宮さんに会って下さい。後の事はお任せします。ではそろそろ限界の様なので失礼します』
お任せしますって言われてもなぁ・・・
どうすりゃいいんのか分からんが、ハルヒを探すとするか。
白一色の世界を歩く。
それは進んでいるのかどうかも分からない世界だった。
もうどれ位歩いたかね?
是非、万歩計を付けたかったね。
足が重くなり始めた時、白い世界でしゃがみこんでいるハルヒをやっと見つけた。
「こんな所で何やってんだ?」
うずくまっているハルヒが顔をゆっくり上げた。
「別に。あんたには関係無いでしょ」
「あんな事しちまってごめんな。ホントに済まないと思ってる」
俺は未だにしゃがみこんでいるハルヒに頭を下げた。
罵声か蹴りが飛んでくると思ったがハルヒは思いもよらない事を口にした。
「あたしに謝ってどうすんのよ?そんな事しても意味無いわよ」
「どういう意味だ?」
俺には何がなんだかさっぱり分からなかった。
「そのまんまの意味よ。あたしはハルヒじゃないから謝っても意味が無いって言ってるの」
「ハルヒじゃない?だったらお前は誰なんだ?」
「あたし?あたしはハルヒが日記に込めた想いよ」
目の前のハルヒが何を言ってるのか理解出来ない。
ハルヒは俺の顔を見て笑いだした。
「フフッ、あんたってホントに間抜け面なのね」
まるで始めて会った様な言い草だな。
「まだ信じられないって顔ね。いいわ、少し見せてあげる」
そう言うとハルヒは立ち上がり片手を俺の頭の上に置いた。
その瞬間、何かが頭の中に流れ込んできた。
「な、何を!?」
抵抗しようとするが身体が動かない。
「いいから、おとなしく目を閉じて。すぐに終わるから」
俺は言われるがまま目を閉じた。
目を閉じると、瞼の裏に様々な映像が現れた。
怒っているハルヒ・・・
憂鬱そうなハルヒ・・・
顔を赤くしているハルヒ・・・
落ち込んでいるハルヒ・・・
泣きそうなハルヒ・・・
笑っているハルヒ・・・
俺は、ハルヒの事分かっているつもりだったけどまだ何にも分かっちゃいないんだな・・・
するとハルヒが俺の頭から手を離した。
「どう?見えた?」
「あぁ、俺は何にも分かっちゃいなかった」
「そうね。でも、それが普通なのよ」
ハルヒはいつもからは想像も出来ない様な穏やかな微笑を浮かべていた。
「ハルヒ、それはどういう意味だ?」
「だーかーらー、あたしはハルヒじゃないって言ってんでしょ?」
「あ、あぁ、そうだったな」
すっかり忘れてたぜ・・・
「じゃあ、なんて呼べばいいんだ?名前を教えてくれ」
「あたしに名前なんて無いわ。ここにはあたししか居ないし、そんなのあっても意味ないもの」
「そうなのか?ここにずっと一人で寂しくないのか?」
「まぁ、たまに寂しいときもあるけどね」
そりゃ、そうだよな・・・
こんな何も無い世界で1人なんて俺には耐えられない。
「いい加減話を戻すけど、他人の事を全て理解してるなんて思ってもそれは他人の表面を理解しているに過ぎないの」
「そうなのかもしれない。でも、理解しようって努力する事は無駄じゃないだろう?」
「もちろん無駄じゃないわ。ん、そろそろ時間も無いみたいだから簡単に話すわね」
そう言われて俺は自分の足元から段々消えている事に気づいた。
「おい、これはどうなってるんだ?」
「聞いてるでしょ?ここはハルヒの日記の中なの。だからあんたも元の世界に戻る。それだけよ」
「そうか。で、俺はどうすればいいんだ?」
「その答えはもうあんたの中にあるでしょ?それをすればいいわ」
「あぁ、そうだな」
もう俺の全身が消えかかっている。
「じゃあね、バイバイ。あの子、今回はかなり落ち込んでたからよろしくね。しっかりやらないと死刑だからね」
「あぁ、分かってるよ。色々世話になったな、ありがとよ」
そう言って俺は白い世界から消えたのだ・・・
次に目が覚めた時は、いつものベッドの上だった。
あれは夢だったのだろうか・・・
そんな事はこの際どうでもいい。
あれが現実だろうが夢だろうが、俺がやらなくてはならない事は決まっているのだ。
いつもより家を早く出た俺は途中本屋に寄ってある物を購入した。
教室に着くとハルヒが不機嫌そうな面持ちで自分の席に座っていた。
俺は自分の席に着きハルヒに話掛けた。
「よぉ、相変わらず機嫌悪そうだな」
「そう思うならほっといてくんない?」
「そうしたいのは山々だが、1つ言っておかなければならない事があるから聞いてくれ」
「何よ?下らない事だったらぶっ飛ばすわよ」
「昨日はあんな事しちまって悪かったな。反省してる、すまなかった」
俺は深々とハルヒに頭を下げた。
「ちょ、いきなり何よ?いいから頭上げなさいよ!」
「許してくれるのか?」
「別に怒っちゃいないわよ。なんでいきなりあんな事したのかは気になるけど」
「あぁ、あれは若さ故の暴走らしい」
「はぁ?何言ってんの?訳分かんない」
「そうだ、正直俺にも訳が分からないんだ。でだ、俺の事をもっと分かってもらおうという事でこんな物を用意してみた」
俺は鞄から紙袋を取り出しハルヒに手渡した。
「何これ?開けていい?」
「あぁ、開けてくれ」
ハルヒが紙袋を開け、中に入っている物を取り出す。
「これ、日記帳?これで何するの?」
「あぁ、ハルヒ、俺と交換日記しないか?」
「何であたしがあんたとそんな小学生みたいな事しなくちゃならないのよ?」
「いや、ハルヒの事もっと知りたいし俺の事をもっと知ってもらおうと思ったんだが。嫌なら返してくれ。長門か朝比奈さんとやるから」
俺はハルヒから日記帳を返してもらおうとしたがハルヒは日記帳を手を放さなかった。
「わ、分かったわよ!仕方ないから付き合ってやるわよ」
「そうかい。それは嬉しいね」
こうして俺とハルヒの交換日記がスタートした。
この後、書く事に芸が無いとハルヒに散々怒られる事になるのは言うまでもない。
だが、これでもうハルヒの想いも一人白い世界で寂しい思いをする事も無くなるだろう。
なんたって、今は俺の想いも一緒に居るんだからな。
まぁ、日記の中の俺が今の俺と同じ目に遭っている様な気がしてならないのだが・・・
なんて事を今日も元気満タンの団長様に振り回されながら考えている。
終わり