トンネルを抜けるとそこは雪国だった、というのは情緒があっていいのだが、今俺のおかれている  
状況は尋常ではない。なにせ、朝目が覚めたら隣にハルヒが寝ていたんだから……。  
幸いハルヒは、まだへの字口をしたままグースカ眠っていた。  
だが、この状況をどうすればいいんだ?──下手すりゃ、俺は明日の朝日を拝むことはできなくなり  
そうだ。  
 
 
昨日の夜、すなわち金曜日は、両親と妹が旅行に出たため、つかの間のひとり暮らしを満喫していた。  
家族が帰ってくるのは日曜日の夕方だということで、普段ではできないような、宅配ピザをひとりで  
食ってみたり、全裸で家の中を徘徊してみたり、大音量でエロDVDを鑑賞してみたりと、俺は考えら  
れる限りに好き放題やっていたのだが…。  
だが、断じてここに誓いたい。家族がいないのをいいことに、彼女を自分の部屋に連れ込むようなま  
ねはしていないと。  
しかも恐怖の団長ハルヒだぜ。朝比奈さんなら喜んで迎え入れるが……。  
…しかも、昨日は誰1人として家には呼んでいない。  
 
「たわば?」  
なんだ、その秘孔を突かれたやられ役のようなうめき声は?  
だがまずい。ハルヒが起きてしまった…。  
ハルヒは起きた瞬間、現在の状況が把握できていない模様で、しばらく焦点が定まらなかった。  
だが、しだいに状況を認識できるようになると、徐々に肌に朱がさし、ついには首筋まで真っ赤に  
なった。  
「な、な……。なんであんたがここにいんのよ!!あたしに何をしたの?あたしの部屋に忍び込ん  
だのね?この変態!」  
ドコッ、ドガッ、ガスッ  
ハルヒのめちゃくちゃな攻撃に、防戦一方の俺。  
「落ち着け、ハルヒ!よく見ろ、ここは俺の部屋だ!」  
「じゃあ、あんたが連れ込んだのね?いやらしい!」  
もはや、何を言っても激昂しているハルヒにはまるで効き目がない。  
 
そして、ハルヒが俺にアッパーカットをしようとした瞬間、足がもつれて2人ともベッドの下に倒  
れ込んだ。  
……なんだこれは?  
冷静に状況を確認してみよう。  
俺たち2人はなぜか外出用の服装をしていた。俺はハーフパンツをはいていて、ハルヒはミニスカ  
ートだ。  
それはひとまず置くとしても、俺の右足とハルヒの左足の膝から下が癒着していて、まったく外れな  
かった。  
 
「ちょっと、離れなさいよ。痛、痛いわね。どうして?なによ、全然外れないじゃないの」  
「完全にくっついているな。どうすんだこれ?」  
「あたしに聞かれたって知らないわよ。あんた、なんとかしなさい」  
そこから数分間、俺たちはあらゆる方法で癒着した足の引き剥がしをを試みたが、まったくビクとも  
しなかたった。  
ただの徒労に終わった。  
 
 
「おい、ハルヒ。ちょっともよおしちまったから、トイレに行かせてくれ」  
「はあ?勝手に行きなさいよ」  
「お前とくっついてるんだから仕方ないだろう。やむをえん、ついてきてくれ」  
問答をしている場合ではなかったので、俺は強引にハルヒの手を引いてトイレに連れ込んだ。  
これではまるで変態だ…。  
「ハルヒ、見るなよ」  
「見ないわよ!そんなの」  
そんなのよわばりか。いや…深くは考えるまい。  
ハルヒは顔を真っ赤にして目をつぶり、ついでに耳をふさいだ。  
 
用を足し終わり部屋に戻ったが、すでに2人ともこれまでの騒動で疲労困憊だった。  
とりあえず、2人で今後についての協議を行ったが、はかばかしい答えは見つからなかった。  
決まったことといえば、当分様子を見ると言うことだけだ。つまり普通の生活をしようということだ。  
すでにこの状態が普通ではないのだが、それは気にしないことにしよう。  
だが、今日が平日ではなくてよかった。学校にこの状態で登校したとすれば、後々どんな噂が巻き起  
こるかわからん。とくに谷口にからかわれることは、無限の苦しみだ。鶴屋さんはケラケラ笑いなが  
ら、祝福しそうだが……。  
 
 
外出することは、誰の目にとまるかも知れず、それを気にしながらの行動というのも心苦しい。  
これは、今日は残念だがこのまま家でじっとしているしかないだろう。  
しかし、相手はハルヒだ。じっとなどしているわけがなかった。鰹は一生休まず泳いでいないと、  
呼吸ができなくなるそうだが、それと一緒だな。  
「キョン!忘れていたわ。今日は不思議探索の日よ。早く行かなくちゃ遅くなるわ」  
「おい、今日はこんな状態なんだぞ。行けるわけないだろ?電話で断ればいいじゃないか」  
「そういうわけにはいかないわ。我がSOS団恒例の行事よ。中止なんてとんでもないわ」  
何でお前はそんなに嬉しそうなんだ。俺たちはくっついて行動しなくちゃならんのだぞ。  
だがそれが嬉しいだなんて、間違っても思ってくれるなよ。  
 
結局俺たちは、移動手段にも困ることになり、やむを得ずタクシーを使う羽目になった。  
もちろん支払いは俺のポケットマネーだ。家計に優しくないぜ、ハルヒと行動すると…。  
そんなわけで、俺たちは2人くっついた状態で3人が待つ公園にやってきた。  
みんなの視線が痛いぜ。  
古泉はにやにやしながら俺を冷やかすような視線を向けてくるし、朝比奈さんはちょっと意外そうな  
表情をして、俺たちを見つめている。だがこの中で、長門の視線が一番きついような気がする。  
無表情には変わりがないが、普段よりは確実に20℃は低そうな視線だ。  
 
「みんな待った?遅れてごめんね」  
後は喫茶店に入り、いつものように打ち合わせとくじ引きを行った。いや、その前に誤解を生まな  
いため、まず俺とハルヒの現在の状況を説明しておいた。普通の人間なら誰も信じやしないんだが、  
俺以外の奴らはそもそも皆普通ではないからな、あっさり信用してくれた。  
 
次はくじ引きだ。くじ引きと言っても、俺とハルヒは離れられないため他の3人がひいた。  
結果は俺とハルヒ、朝比奈さん。そして長門、古泉の組み合わせだ。  
俺たちが担当区域に向かう直前、古泉が小声でこう言った。  
「どうも今回のそれは涼宮さんの力のようですね。よほどあなたとくっついていたかったんでしょう。  
おそらくそれを外すためには、涼宮さんが満足するしかないのではないですか?」  
くっついていたいなんて、とんでもないことを言わないでくれ。頭が痛くなるぜ。  
それにどうやって満足させるんだ?閉鎖空間でやったことをやれと言うのなら、俺は拒否権を発動  
させてもらう。  
 
 
俺とハルヒは、歩くときも肩を組みながら、運動会のように二人三脚で進まねばならなかった。  
少し赤くなりながらも、やけにうれしそうに、そしてうかれているハルヒを見ていると、なに  
やら妙な感情が生まれそうだ。即座に打ち消したがな。  
朝比奈さんは、ひょこひょこと親に遅れないようについてくる、小学生の子供のようだった。  
あなたは本当に上級生ですか?放っておくと、迷子のお知らせがかかりそうな危なっかしさだ。  
 
そんなこんなで、そうそう簡単に不思議なものが見つかるわけでもなく、俺たちはなんの成果を  
得られないまま、帰途につくことになった。  
帰り際古泉は、  
「ひょっとして、涼宮さんは彼の部屋に泊まるのですか?」  
などと余計なことを言いやがった。  
なぜか俺のことを、朝比奈さんと長門が疑惑の目で見ているし、ハルヒなんてまた顔を赤くして  
るじゃないか。  
「不本意だけど仕方ないわ。こんな状態だものね。──キョン、あんたの部屋に泊まってあげる  
から、感謝しなさい。でも変なことしたら死刑だから」  
 
そんなことするか。俺はストイックな人間なんだ。  
「ふうん、でもそれって意気地なしって言うんじゃないの?」  
……おまえはどうして欲しいんだ?  
 
俺とハルヒは、帰りもタクシーに乗って家に帰った。残念なことに、俺の財布の中身は限りなく  
薄くなり、しかも心労を負うことで、俺の精神力は回復呪文を唱えることさえできない。  
ところでタクシーの運転手からは俺たちはそう見えているんだろうな。乗車中もくっつきっぱなしの、  
ラブラブカップルにでも見えているんだろうか?だとしたらなんと恐ろしいことだ・・・。  
そんな俺の懊悩にも頓着することなく、ハルヒは鼻歌交じりに窓の外を眺めていた。  
そして家の前に車を止めてもらうと、俺は料金を支払って車を降りた。  
 
自宅にはいると、ハルヒはソファーに座りながら、もじもじして落ち着かない様子だった。  
「ハルヒ、トイレに行きたいのか?」  
「違うわよ、バカ。ご家族の方はどうしたのかなって思っただけ」  
「ああ、両親と妹は明日まで旅行に行っているから、今日は誰もいない」  
そう答えると、ハルヒは赤くなって、ますます落ち着きがなくなった。  
「へ、へえ、そう。じゃあ、今日は2人きりなのね」  
このバカ。せっかく意識しないようにしていたのに、おまえが言うな。  
俺たちは妙な雰囲気になって、互いに押し黙ってしまった。  
 
すると、この空気を変えようとハルヒが  
「じゃあ、そろそろ晩ご飯つくりましょうか」  
「ハルヒ、お前がつくってくれるのか?なんなら出前を取ってもいいけど」  
「あのねぇ、ちょっとひとり暮らしになったからって、そんなのばかり食べてたら、すぐに体を  
悪くするわよ」  
むう、ハルヒにしてはまともなことを言っている。それにこいつの料理は天下一品だからな。  
 
ハルヒのつくった夕食は確かにすばらしかった。こいつはなんでこれほどに多才なんだと、  
俺には驚く他はなかった。  
食後しばらくくつろいでいると、再び頬を朱く染めたハルヒがおもむろに口を開いた。  
「キョン、あたしお風呂に入りたいんだけど」  
「おいおい、入れるわけないだろ。今日ぐらい我慢しろよ」  
「そんな、あんたは女の子にお風呂に入るなって言うの?あたしは汗をかいてお風呂に入らない  
なんて、絶対許せないわ。いいからお風呂の用意しなさい」  
 
状況を説明しよう。只今俺は、服を着たままタオルで目隠しをされて脱衣所にいる。  
その俺の横で、ハルヒが服を脱いでいるというわけだ。  
ハルヒが着替える衣擦れの音がなまなましく、妙な想像をかき立てる。こら俺の脳みそ。よけいな  
ものを想像するな。  
当然ながら、俺は服を脱がせてもくれない。ハルヒが湯を使っている隣で、俺はぬれそぼりながら  
ハルヒの入浴につきあい、そして彼女の奏でる音を細大漏らさず聞いていた。  
「キョン。妙な想像してないでしょうね?」  
「するか、そんなこと」  
したけど・・・。  
 
「ねぇ、キョン。気持ちいいわよ。あんたも入る?」  
俺をこんな目に遭わせておいて、勝手なことを言うな。  
「俺に服を着たまま湯につかれというのか?なら俺も服を脱ぐ。・・・・・・こらハルヒ、止めるな」  
「ちょっと、キョン。少し落ち着きなさい。服を脱ぐな!」  
などと風呂場で暴れたりしたもんだから、当然ながら次はこうなるわけだ。  
ツルッ  
ドデーン  
 
その時俺の唇に柔らかい感触があった。これは不本意ながら、以前も味わったことのある感触だ。  
つまり、滑ってこけた俺の上にハルヒが覆い被さり、唇と唇がこんにちわというわけだ。  
屈辱だ。こんなお約束な展開なんて、3流ドラマのようだぜ。  
「キョ、キョン。あんた、なんてことしてくれたのよ!」  
ドゴッ  
逆上したハルヒが、俺のみぞおちにけりを入れてくれやがった。  
 
その瞬間、俺とハルヒをくっつけていた足の癒着部分が、めでたくも外れた。  
 
当然ながらハルヒから足が外れた俺は、そのまま浴室の壁と衝突した。  
「キョン、やったわ!!あたしたちの足が外れたわ!」  
 
その時、俺の目を隠していたタオルが外れて、ハルヒのいろいろな部分が見えたが、ハルヒは気づ  
いていないようだから当然俺は何も言わない。  
しかしあれで、ハルヒが満足したということなのか?まあ、それ以上余計なことは考えずにおこう。  
 
終わった。  
 
長かった一日が終わり、幸か不幸かハルヒが俺の部屋に泊まるなどというイベントが起こることも  
なく、俺は玄関口へとハルヒを送りに行った。  
 
 
だが、おれはあのことを聞かないと、今日は寝られない。  
「おいハルヒ、ちょっと聞きたいことがあるんだがいいか?」  
するとハルヒは顔を朱くして、目を潤ませ、  
「な、なによ・・・・・・」  
 
「おまえ…、風呂にはいるとき、足がつながっている状態でどうやってショーツを脱いだんだ?  
まさか、ヒモ・・・・・・」  
 
「このバカキョン!!」  
ズガンッ  
 
気がつくとハルヒはもういなかった。  
 
しかし、これで落ち着いて明日が迎えられそうだ。  
その日の夜、俺は疲れもあってか、いつもよりやや早めの就寝となった。  
 
………  
……  
…  
目が覚めた。昨日と違って気持ちのいい目覚めだ。  
俺はゆっくりと横を向いた。  
 
……今度は古泉が隣で寝ていた。  
血の気が引いたぜ・・・。これもまたハルヒの仕業か?  
 
「こら、古泉、お前は何をやっているんだ?即刻ここから出て行け。俺は野郎と一緒に寝る趣味  
なんてないぜ。聞いてんのか、おい」  
 
すると古泉はニコリと微笑み、  
 
「そのセリフ、幼なじみが照れ隠しで言っているようにお願いします」  
 
 
END  
 

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