「古泉、最悪の事態が発生した。方法は問わない、対象を緊急避難させろ!」
授業中、無理やり屋上に呼び出されたかと思えば、指揮系統を完全に無視した鶴屋からの一方
的な命令だ。話し方も凄く真面目な感じだ。
「わかりました、特例避難措置を適用します。ですが独断専行をするからには、現状を教えて頂き
たいものですね」
いつもの異様な大らかさを完全にかなぐり捨てた鶴屋の様子に、古泉は命令に従うつもりらしい。
それでも、勝手に自分の判断で対象を隔離する保険のつもりか、ただの好奇心からか、理由
を聞き出そうとする。
「時間が惜しいが、仕方ない。…いま純ちゃんから、対象の機密が漏れたと連絡が入ったんだっ」
「何を今更。涼宮さんの情報なら、主要国の首領クラスや機関には随時通告していますよ。まさか、
○△◇に彼女のデーターが流出したとでも?」
「ばかっ、あそこだって彼女の情報をとっくに知ってる。でも将軍様より偉い人がいるんじゃ体制
が崩壊するって理由で無視してるよ!」
訳わかんないって感じの古泉に、鶴屋は噛み付くような勢いで顔を近づける。
「宗教家んとこに、ハルにゃんの情報が流れちゃったんだよっ」
「…えぇっと指導者層が反発しているとか、原理主義者が動きを見せているのですか?」
ばちーん、と古泉の頬をひっぱたく鶴屋。
「イスラムは預言者が現れたって、キリスト教は新たなセイントだって騒いでるよ。イスラムもカト
リックも、原理主義たちはハルにゃんに布教して自分とこに引っ張り込む計画で頭はいっぱいさっ。
仏教なんて、弥勒菩薩が降臨したって言って、木魚叩いて念仏唱えてる!」
痛そうに、赤くなった頬をさする古泉。
「それなら過激な行動に出そうも無いではありませんか」
そういって、恨みがましく鶴屋をにらむ。
そんな古泉を見て、信じられないってふうに溜息ついてから、彼女はネクタイ掴んで締め上げた。
「まだ分かんないのかいっ。教祖さんたちにハルにゃんの情報漏れちゃったのさっ!」
…すこし間があいてから、古泉はポリポリ頭を指で掻く。
「はぁ、教祖さまたちですか…あまり危険な印象がなくて、その、どう対処して良いのか…」
ゲショっ! と、グーで古泉ぶん殴る鶴屋さん。話し方もいつものとおり乱れてる。
「訳わかんない説教して、意味ない治療して、鶏の生首の首輪して、ヤギとか豚とか家畜生贄にし
て、犬とか猫とかペットなんかも生贄にして、女信者は必ず犯して、男信者も必ず犯して、宇宙人と
か信じてて、未来人とかも信じてて、超能力とか使えるって信じてる、めがっさ危ない奴らなんだよっ
!」
最後の超能力信じてる危ないやつって…と、殴られた痛みも忘れて呆れる古泉。
自分の立場知ってるのか、こいつ。いくらなんでも酷いって言おうとしたとき、
「ああっ、来たにょろ!」 と悲痛な叫び。
校外の道路には、いつの間にかバスとかマイクロバスとかでっかい外車とか普通の国産車とか
ぼろっちいどっかの車とかが並んでて、校舎を取り囲んでる。
バタン、ギギー、ギシュッ、いろんな擬音を立てながら一斉にドアが開いて、御降臨なさる色取りどりの
教祖さまたち。
教祖さまの足元に赤い絨毯をひく信者たち、教祖さまの周囲で花びらを蒔く乙女たち、教祖さまに
かしずく美少年たち。
「ハルにゃん犯されちゃう。犯されて調教されて洗脳されて、あいつらの思い通りに世界を変えちゃう
。キョンくんも犯されて調教されて洗脳されて、ハルにゃん脅す人質になっちゃうよおっ」
すけすけ衣装の綺麗な女性信者はべらせた教祖さまが、好色そうに女性信者のお尻を撫でてる。
すけすけ衣装の美少年信者はべらせた教祖さまが、好色そうに美少年信者の股間を撫でてる。
白い薬をストローで鼻から吸ってる教祖さまや、なんか呪文を唱えてる教祖さまや、生贄を捧げてる
教祖さまもいる。
なんだか今にも校舎の中に進入しそうな感じの教祖さまたちアンド信者たち。
こいつらが涼宮さんを捕まえたら閉鎖空間なんかですむ筈ない。
世界の破滅カウントダウン、もう始まってます。
「警察と自衛隊呼ぶから、古泉くんはハルにゃんとキョンくんを避難させるのさっ」
鶴屋の声で我に返った古泉は、対象者ふたりを避難されるために、1年5組へ走り出す。警察と自衛隊
が教祖さまたちを止めてくれることを祈りつつ。
屋上の鶴屋は、警察と自衛隊なんかで、こいつら止まらないだろうなと、空を見上げた。