建物も、地面も、空も、薄ぼんやりと色彩を失ってしまったような不気味な場所。閉鎖空間。
不本意ながら俺はまたしてもこの灰色空間にご招待されちまったらしい。
自室のベッドにて、本日ハルヒにつきあって蓄積された疲労、名付けてハルヒ労を少しでも霧散させるために夢も見ずにグースカ寝ていたはずなんだが、いつのまにやら北高敷地内で横になってた。
ご丁寧なことに、しっかり制服に着替えさせられてるところまで、前回と同じだ。
そして今、俺の隣にいるのは
「いやぁ、今回は置いてきぼりにされずにすんでよかったですよ」
なぜお前なんだ、古泉。
「さて、なぜでしょうね。これも涼宮さんの望んだこと、ということでしょうか」
そうか……あいつも顔には出しちゃいないが、疲れ気味だったのかもしれんな。
頭の中が安土桃山時代の日本情勢並に混乱したあげく、薔薇色に染まりでもしなけりゃ、こんな望みは実行しないだろう。。
「では早速、ここから脱出する最終手段を実行しましょう」
もしそれ以上顔を近づけやがったら、お前が生徒会長を影で操る黒幕だってのをハルヒにばらしてやる。
あいつのことだ、3ヶ月は再起不能になるような罰ゲームを用意するだろうぜ。
「すみません。冗談です」
まったく、くだらないこと言ってんじゃねぇよ。大体原因はわかりきってるじゃねぇか。
「そうですね。この事態を収拾する鍵、それはこの『塔』にあることは間違いないでしょう」
俺と古泉は揃ってグラウンドに突っ立った巨大な円柱、『塔』を見上げた。
「『神人』が現れる気配は感じられません。おそらくですが、この『塔』がいつもの『神人』の代わりに該当する存在なのだと思われます」
てことは、この閉鎖空間をぶっ壊すためには、この『塔』をどうにかしなけりゃいけないわけだ。
にしても、この『塔』、石造りの円柱形って外観は、いかにも神の怒りのいかづちで崩れちまいそうなデザインだな。
「ここでこうしていても仕方ありませんし、とにかく中に入ってみませんか」
どうにもこいつの笑顔に付随する効果音が「ニコニコ」や「ニヤニヤ」じゃなく、「ワクワク」な感じがするのは俺の気のせいか?
なにがそんなに楽しいんだろうね、こいつは。
お前にとっちゃ閉鎖空間なんて、学校のトイレの個室以上に行き慣れた場所だろうに。
で、古泉とふたりして入った塔の中なんだが……
そりゃ、ねぇだろ……
そこは外から見たら円柱だったくせに、中は四角い部屋だった。
いや、そこはまだいい。
外は薄闇に染まってたってのに、ここには窓から夕日が差し込んでやがった。
100歩ゆずって、それもまぁ許そう。
机が等間隔に並べられた……まぁ、ぶっちゃけた話、1年5組の教室そのものな空間なわけだ。
誰がこんな悪趣味なもん作ったのかは知らんが、ここまでなら一言謝ってくれれば、笑って許してやらんでもない。
部屋の中央には髪の長い、北高女子生徒が笑って立ってやがった。
もう、ここまでくりゃわかるだろ。朝倉涼子だよ、くそ。
「ひさしぶり。元気だった?」
そいつはぬけるような笑顔でそんなことを言いやがった。てっきり第一声は「遅いよ」だと思ったんだがな……
「お前は誰だ?」
「やだ。朝倉涼子以外の誰に見える?」
「それ以外に見えないから訊いてんだよ」
朝倉はさもおかしそうに笑ってやがるし、俺はといえば朝倉と同じ空間にいるぐらいなら古泉とふたりでラブホテルで一晩過ごすほうがマシだと思えるぐらい、コイツが苦手だ。
どっちがイニシアチブを握っているかといえば、そりゃ完全に向こうだ。
「実物を見るのは初めてですが、あれが朝倉涼子ですか」
「そう。はじめまして、ハンサムくん」
古泉の言葉は俺への質問だったんだろうが、それに反応したのは朝倉だった。
「はて、あなたは既にこの世の者ではない、と伺っていたんですが、どうしてこのようなところに?」
結構余裕だなコイツ、と思わんでもない口調だが、いつものポーカーフェイス的スマイルに小さじ一杯ほどのシリアス成分が混入されている感じからすると、いっぱしに緊張はしているようだ。
いやだね、いつの間に俺は古泉の表情をここまで汲み取れるようになっちまったんだ。
いや、こんなことを考えてる場合じゃあない。問題なのは、朝倉だ。
朝倉のほうはというと、古泉の軽口に、自分の唇に人差し指を当てながら不思議そうな口調で返してきた。
「実をいうと、わたしもなんで自分が朝倉涼子なのか、わからないの。あなたにはわかる?」
そんな哲学的自分探し問答は俺にじゃなくシッダルタ王子にでもしてくれ。
こいつは一体なにを言ってるんだ?
「わたしは言ってみれば、この一階の番人。それ以上でもそれ以下でもないわ。
だからわたしが朝倉涼子であることに、たいして意味はないの。きっと誰でもよかったんじゃないかしら」
誰でもよかった、だと。
この閉鎖空間をつくったのがハルヒなら、当然この朝倉をつくったのもハルヒってことになる。
なんでよりにもよって俺限定死刑執行人なんか選びやがったんだ。
「おそらく、あなたの苦手意識が強い影響を及ぼし、形となって現れてしまったんでしょう。
ここは涼宮さんの専用空間であるのと同時に、あなたを招待するためのゲストルームとでも言うべき空間でもあるわけですから」
おいおい、客をもてなすのに殺人鬼をあてがうホストなんて聞いたことがねぇぞ。
「それでね、わたしの役目はあなたたちにこの塔の説明をすることと、あなたたちの足止めね」
「それはありがたいですね。実は先程から誰かに詳しい説明を願いたいと思っていたんですよ」
おい、古泉。普通に受け答えしてんじゃねぇよ。
お前は見たことねぇからいまいち実感が湧かないのかもしれんが、こいつは俺を2度も殺そうとしたデンジャーなやつなんだぞ。
「どのみち現状の把握は必要なことですし、ここはひとつ乗っておくことがベストな答えだと思いますよ」
……ふぅ。わかったよ。
というかもう、朝倉の相手は全面的にお前がやれ。俺の神経はこいつと顔をあわせてると、金ヤスリで削ってるかのごとく磨り減っていくんでな……
「この塔は全部で5階建て。
それぞれの階にはひとりづつ番人がいて、あなたたちはそれを全員退けて最上階にいかなくちゃいけないの」
そう言うと朝倉は視線を俺たちから自分のうしろへと移動させた。
そこには
「あれが2階に通じる階段ね」
窓を突き破るようにのびる階段があった。
普通に考えりゃ、あの階段を進めばグラウンドへと自由落下するはめになるはずなんだが、細かいことを気にするのはよそう。
心の余裕ってやつは俺の財布の野口英世のように有限だ。いつ大量に消費することになるかもしれんのだから、節約しておくにこしたことはないのさ。
「それでね、あなたは最上階に囚われてる妹さんを助けないといけないの」
なに!?なんでそこで俺の妹が出てくる!?
「だってここは夢の中のようなもの。あなたが目を覚ますためには、妹さんに起こしてもらわなきゃいけないじゃない」
ちょっと待て。俺は妹に起こされなきゃいつまでも惰眠をむさぼるような自堕落な人間じゃないぞ。
毎朝あいつが俺の目覚まし時計がわりをかってでているのは…その…あいつの趣味みたいなもんだ。
「なるほど。読めましたよ」
なんだよ、古泉。なにが読めたっていうんだよ。
「涼宮さんの意図がです。
普通の人はなんの理由もなく怪しい塔をのぼったりしません。
そこには動機付けというものが必要であり、囚われのヒロインの救出というのはまさにうってつけです」
わかるような、わからんような……
第一なんでそのヒロインとやらが俺の妹なんだ?朝比奈さんとかのがハマリ役じゃねぇか。
「それでは涼宮さんとしても困るんですよ。
おそらくこの塔の最上階で待ち構えているのは涼宮さん本人とみて間違いないでしょう。
ただ助けを待つだけの囚われのヒロインという退屈な役柄を涼宮さんが演じるはずもありませんから。
とはいえ、あなたに助けてもらえるヒロインなどというおいしいポジションを、朝比奈さんや長門さんにあてがうのは問題がある。
だからあなたの妹さんなんですよ。
フィクションにおいて囚われの妹のために兄が奮戦するというのは、わりとありふれていますからね」
そういうのは次回作の映画の中ででもやってくれよ、出来れば俺抜きでな。俺はお前ほどバイタリティにあふれちゃいないんだ、ハルヒ。
「お話は終わった?じゃあ、始めましょうか?」
もう、お約束のように朝倉の手にはごついナイフが握られていた。
俺は
「古泉!すまん!」
「え!?」
謝りながら古泉の体を朝倉に向かって突き飛ばし、同時に階段に向けて走り出す。
おお、朝倉のやつ、迷わず古泉の喉もとにナイフを突きつけやがった。危ねぇやつだ。
だが、そのナイフは喉に吸い込まれる前に、赤い光に弾かれた。
予想通り、ここなら古泉は選ばれしエスパー戦士状態になれるようだ。
「古泉!俺がハルヒをどうにかするまで、そいつの相手を頼む!」
「ちょっと!?さすがにひとりでTFEIの相手は荷が重いのですが!?」
知らん。俺は古泉の悲鳴を無視して階段をひた走るのに全力をかたむけた。
さて、グラウンドに命綱無しでダイビングするということもなく、俺は無事2階にたどり着いた。
そこもまた、俺にとって見覚えのある姿をした場所だった。
障子の和紙ごしにやわらかい日差しが透ける落ち着いた色調の和室。
間違いない。いつか映画撮影の際にお邪魔した鶴屋さんの自宅内に瓜二つだ。
ということは、当然この階の番人は
「やぁやぁ。キョンくん、待ちかねたよっ!」
好物のハンバーグが食卓に並んだときの子どものような満面の笑みで俺に声をかけてきたのはもちろん鶴屋さんだった。
「キョンくんたち、またおもしろそうなことやってるねぇ。というわけで、あたしと勝負だよっ!」
「鶴屋さん。どうにか黙って俺を通してもらえませんかね……」
「いやぁ、それは無理っさ!あたし、ここの番人だからねっ!ハハハ」
鶴屋さんが相手かよ……こりゃ勝てねぇよ。
とはいえ、どうにかしなけりゃいかんのだよなぁ……
「さて、キョンくん。どんな勝負にしよっか?キョンくんはゲーム得意らしいから楽しみさ!」
おや?
「俺に勝負の方法を決めさせてくれるんですか?」
「うんっ!キョンくん、いつも頑張ってるから、お姉さんサービスしちゃうよっ!」
しめた!これなら俺にも勝ち目がある!
鶴屋さん相手じゃ正直なにやったって勝てる見込みなんてなさそうだが、唯一俺が鶴屋さんを負かすことのできる勝負方法がある。
俺は即決した。
「鶴屋さん。にらめっこをしましょう」
まさに瞬殺と呼ぶにふさわしいあっけなさだったことは言うまでもない。
「あっはは。キョンくん。顔、おもしろすぎ!3日はこれだけで戦えるよっ!」
3階に通じる階段上、なぜか俺についてきた鶴屋さんはすこぶるご満悦のようだった。
俺の顔ってそんなに愉快ですか?
さて、3階だ。
階段をのぼりきったそこには見慣れたドアがあり、それを開くとこれまた見慣れた部屋がそこにはあった。
SOS団部室だ。
そして窓際に音もなく座る小柄な人影。
「………」
長門だよ。
勝てるわけがねぇ……
だが、よく考えてみりゃさっきの鶴屋さんにだって勝てるわけがなかったわけだし、1階の朝倉にだって勝てるわけがなかった。
おい、ハルヒ。これ、完全にゲームバランスが狂ってるぞ。もっとしっかりとしたデバッグをしやがれ。
「なぁ、長門。悪いが見逃しちゃくれないか?」
「駄目」
ああ、そうだろうな。まったくどうしたもんかね。
「おやおや、キョンくん。今度は有希っことにらめっこをするのかな?」
やめてください、鶴屋さん。
長門が俺の顔面体操で表情を変えるわけがないし、同じく長門が俺を笑わせられるとも思えん。
おそらく世界でもっとも低レベルなサウザンドウォーズが勃発することは間違いない。
長門に勝てる方法か。なにかないか……
そう思案しつつ俺は部室内をキョロキョロと見回した。
するとだ、俺の目にあるひとつのものが飛び込んできた。
……これは使えないか?
「長門」
「なに?」
長門は俺と階段との中間位置に身を置き、俺の声に耳を傾けた。
「あそこに福笑いが貼ってあるだろ?」
「………」
俺が指差し、長門が顔を向けた先には、冬休みの合宿で製作した団員の噴飯ものの福笑いが貼りだしてある。
不公平なことにハルヒの分だけはない。くそ。
「あっはは!いやぁ!いつ見ても有希っこの福笑いはおもしろいねぇ!」
ナイスです鶴屋さん。ここで笑いだしてくれるとは。
案の定長門の注目が俺から鶴屋さんに移った。
長門は合宿のときも、なぜ自分の福笑いが鶴屋さんの爆笑をかっていたのか、不思議がっていたからな。食いついてくると思ったぜ。
長門は無表情の中にも興味津々な感情を瞳に込めて鶴屋さんの笑顔を凝視している。
「………」
「いやぁ、そんなに見つめられると照れるねぇ!わははっ!」
俺は長門の意識から俺の存在が消える一瞬の隙をついて階段に転がりこんだ。
偶然というか、なんというか、長門と鶴屋さんをかみ合わせるのに成功した俺はとうとう4階へとやって来た。
消去法で考えるとここの番人は朝比奈さんだろう。
だとすれば、俺のとるべき方法はただひとつだ。
見慣れたドアをあけ、3階とまったく同じデザインの4階に踏み込む。
「キョンくん。ここではあたしがお相手…って、あれ?」
俺は番人の顔も見ず、階段へと全速力で走った。
「え!?あの、キョンくん?」
すみません、朝比奈さん。
あなたに俺の阻止が出来るとは思えませんし、俺としてもあなたを勝負事で負かすなんて残酷な真似はしたくありません。
ここは心を鬼にして、無視させてもらいます。
「キョンくーん……」
情けない声をあげる朝比奈さんに申し訳ない気分になりつつ、俺は一気に5階へと駆け上った。
5階。やっとゴール地点だ。
そこはグラウンドのど真ん中にしか見えなかった。
いつの間にか塔から脱出したわけじゃないぞ。
5階がそういうデザインなんだよ、非常識なことにな。
そしてそこには腰に手を当てて仁王立ちするハルヒと、椅子に縛り付けられた妹がいた。
「キョン。よくここまで来られたわね。一応褒めてあげるわ」
お前、そういう悪役セリフ、似合うなぁ。来年の特撮ヒーロー戦隊の悪役幹部に立候補したらどうだ。
「ここまで来たからって気が大きくなってるようね。でも、このあたしは他の雑魚とは一味違うわよ」
「キョンくーん。たすけてー」
妹よ。助けてと言いながら、やたら楽しそうな良い笑顔なのはなぜだ?
まあ、いい。これでやっと最後だ。
しかも閉鎖空間のグラウンドのど真ん中で正面にはハルヒだ。
なにをすれば解決なのか、誰にだってわかる。はぁ……
「ハルヒ。今度からはもう少し疲れない方法でお願いしてくれ。そのほうが助かる」
「な、なに言ってんのよ」
なに言ってんの、もないもんだ。そんなに顔真っ赤にしやがって。なにを期待してるのか、バレバレだぞ。
俺の羞恥心という名のブレイカーもそろそろ限界だ。
俺はハルヒの肩を掴むと……その……えーい!例のやつをまたやったんだよ。悪いか!
これで終わりだ。
終わりだと思ったんだがなぁ……
「はて、どうして僕たちはここに逆戻りしているんでしょう?」
俺がききたい。
俺と古泉は塔の正面に舞い戻ってきていた。
「ところで古泉、朝倉相手によく無事だったな?」
「ここが彼女の情報制御下でなかったのが幸いでした。なんとか防戦一方であればしのぎきれる実力差にとどまってくれましたよ」
そうか……情報制御下ってのになると、あいつ金縛りとかも使ってくるしな。お手上げだよ……
それにしてもどうしてだ?俺はハルヒをどうにかしたぞ?
「………
わかりましたよ」
どういうわけだ。説明してみろ。
「たしか聞いたことがあります。『塔』は26回のぼらないと真のエンディングを迎えられないんです」
………
それ、でまかせの裏技だろ……
「そんなことは関係ありません。涼宮さんが『塔』というものがそういうものだ、と思えばそれが真実なんです」
じゃあ、俺達はあと25回この塔をのぼらにゃならんのか……
「頑張ってください」
お前もな。
「「やれやれ」」
俺と古泉は揃って肩をすくめた。
さて、ここから先は少しはしょらせてもらう。
のぼったよ、26回な……
不幸中の幸いといえるのは、さすがに途中から番人のみんなも飽きたのか、俺の妨害をしなくなったことだな。
そうはいっても5階建ての塔を26回のぼるんだぞ!
つまり130階建てのビルをエレベーターなしで屋上までのぼるようなもんだ。
よくも俺は死ななかったものだ、というか死んだほうが楽だったんじゃないか?
古泉の野郎は必ず1階でリタイアしやがるし。もう朝倉、襲い掛かってこねぇじゃねぇか!
最後のほうになると、朝倉と並んで笑顔で俺のことを見送るようになりやがった。
もういい。お前等そのまま付き合っちまえ。うさんくさい笑顔が似合う者同士お似合いだ……
そして、26回目のハルヒとの白雪姫ごっこの後、『囚われのヒロイン』は自分の手であっさりロープを解き、立ち上がった。
「知ってます、キョンくん?『塔』を26回のぼると真のボスがあらわれるんですよ」
そういって俺の目の前にあらわれたのは、妹ではなかった。
白い長袖ブラウスに紺色タイトスカートといういでたちの美女。
朝比奈さん(大)だった。
とはいっても俺の驚きは小さいもんだった。
なんせここに10数回来たあたりから、妹が座っていた椅子には朝比奈さんが座るようになってたからな。
「えーっと、なんでです?」
「キョンくん。初恋の相手が目の前で他の女性とキスするシーンを26回も見せ付けられて、いつまでも子どもでいられるほど女の子は強くありませんよ」
勘弁してください……
「さぁ、キョンくん。たっぷり可愛がって、骨抜きにしてあげますからね……」
いや、あの、マジ勘弁してください……
いつのまにやら俺は自室のベッドの上で目を覚ましていた。
なんつうか、ある意味天国というか、ある意味地獄というか、そんな目にあって気を失っちまったら、ここにいた。
えーっと……夢ってことでいいんだよな。
うん、夢に違いない。
だってそうだろ?どうやりゃ、このちんちくりんの妹が将来朝比奈さん(大)になるんだよ。
この妹が
この妹?
おい、我が妹よ。なぜ俺にしがみついて寝ている?
しかも俺の左頬を思いっきり頬張って……
「うーん…キョンくん、はげしすぎ……」
なんだ、その不穏当な寝言は!?
さっさと起きろ!
そしてどんな夢を見たのか知らんがただちにその記憶を抹消しろ!
「キョンくん…もっと…」