「皆さん、突然のことですが、このクラスの担任である岡部先生が、検査入院をすることにな  
りましたので、これから2週間お休みされます」  
 
朝のホームルームの時間が過ぎても、担任の岡部がやって来る気配がなかったため、クラス  
中が騒然としていたところ、そこへやって来たのがまず滅多に教室に来ることはないであろ  
う、この学校の教頭だった。  
教頭が教壇に立ち、皆を静めると、早口で今回の珍事について話し始めた。  
 
頭の禿げ上がった、いかにも小うるさそうな教頭の話を聞いていたクラスの連中は、話がまだ  
終わっていないにもかかわらず、めいめいに推論を言い合った。ある者は不治の病に冒された  
と言い、またある者は夜逃げをして行方不明だと言い、あるいはクビになったという。  
残念ながら、これはどうひいき目にみても、担任の窮状を心配しているというふうではなかった。  
こういったときに、己の日頃の行いや、人望の有無がはっきりと出るのだ。  
俺は多少、ハルヒという存在感だけは太陽の数百倍に匹敵するであろう女子生徒の、陰に隠れて  
しまった感のある、このクラスの担任に同情していた。  
 
「まだ話は終わっていません。最後まで聞くように」  
教頭は、かまびすしい生徒たちをやっとの思いで黙らせると、コホンと一度咳払いをし、皆を  
見回した。  
「ええ──それでは、岡部先生の代わりに、2週間という短い期間ですが、臨時にこのクラス  
の副担任になっていただく先生を紹介します」  
 
教頭が、入ってくださいと教室の外に呼びかけると、1人の女性が入ってきた。  
その瞬間、クラスの人間全員が『あっ』と息をのんだ。なんと、岡部が長期不在になることに  
不謹慎にも目を輝かせていたハルヒでさえも、だ。  
俺はどうしたかって?決まっている。俺はバカみたいに唇を半開きにして臨時副担任の女教師を  
見つめていたのさ。だが、あまりに長い間アホ面をしていたせいで、後ろのハルヒから刺すよ  
うな視線とともに頭をこづかれたほどだ。  
 
それにしても、彼女の容姿は以前会った朝比奈さん(大)に勝るとも劣らない。またスタイル  
も抜群で、どこぞのファッションモデルだと言われたとしても疑う余地がないぐらいだ。  
そして年の頃だが、24,5ぐらいといったところか。  
それに加えて、そのまま流せば腰まで届くであろう彼女の髪は、後ろで結んで下へ流していた。  
いわゆるポニーテールというやつだ。  
まさに完璧だ。天は彼女に二物も三物を与えたもうたのだ。  
しかし、よくもこんな女性が、臨時とはいえ一県立高校のしがない教師になろうと思った  
もんだ。  
よほど教育に情熱を燃やしてでもいるのだろうか?だとすれば、日本の教育の未来は明るい。  
喜べ、未だ見ぬ後輩たちよ。  
女教師はいいものだ!  
 
だが、もう少し歓喜の思いに浸っていたいところだが、このあたりでそろそろ収めておこう。  
でないと、後ろの奴のオーラ、というより殺気が膨れあがりそうだ。  
それにしてもまったく、なんでこいつは俺のスケベ心に対して、そんなに鋭いんだ?  
「キョン、あんた顔がニヤケすぎよ。まったくいやらしいわね」  
お前は後ろから俺の顔が見えるのか?まさか心眼に目覚めたなんて言うんじゃないだろうな。  
「あんたの顔を見なくたって、仕草でわかるわよ。デレっとしちゃって」  
などと、遺憾にも、長年連れ添った夫婦のようなことを言い出した。  
 
ただ、彼女についてひとつ気になったのだが、彼女の自分に対する絶対的な自信を示している  
その双眸が、俺の知っている誰かのそれとよく似ているということだ。誰だかは言わないが……。  
それと、彼女が自己紹介の途中に、こちらをちらりと見、そしてにっこり微笑んだような気が  
したが、まあ俺の自意識過剰だろう。学校きっての問題児のハルヒを見ていたのかも知れんしな。  
 
自己紹介も終わり、副担任──といっても、本来の副担任がいなかったため実質担任代理だが──  
になった彼女の授業を受けての感想を一言で言うと、彼女はたぐいまれな才女だ。というのは授業  
でも、合間に聞かせる雑談でも、言葉の端々にあらゆる学問や事象に深い洞察と造詣が垣間見られ、  
しかも他の教師よりも、はるかに教え方が上手だったのだ。追加効果として、怠惰な生徒までをも、  
学習の意欲に燃える生徒に変化させたことも、ポイントが高い。  
実を言うと、俺もこんなに授業を楽しいと思ったことは、これまでの人生で一度もないと断言できる。  
ただ、この教え方も、誰かに似ているような、いないような……。さて、どうなんだろうな。  
そして当然のことながら、彼女の授業と自身が備える容姿は、その日のうちに、おそらくこの学校の  
大半の生徒を熱烈な信者に変えてしまった。また、その約半数の生徒に自分の容姿への失望感を抱か  
せることにもなった。  
 
それからこれは余談だが、彼女の出現により、学校の人間誰もが、もはや岡部の境遇に対して、同情  
の念を抱く者はいなかった。  
しかも体育の授業は、他の教師がカバーしているため、誰も彼を必要としていなかったのだ。  
俺は、その存在の意義を問われかねない今は亡き岡部に対して、憐憫の情を抱かざるを得なかった。  
 
その日の最終授業が終わった後、ショートホームルームがつつがなく終了し、波瀾の1日がようやく終わ  
りを告げた。  
いや、まだだ。俺にはSOS団という、生徒会指定の要注意変態集団への参加が義務づけられていたのだ。  
ハルヒはもうとっくに部室に向かったな。あいつは放課後の到来とともに、まるでドライアイスが昇華  
したかのように忽然と消え去っていたからな。  
さて、俺もそろそろ行こうかね、と誰もいなくなった教室を後にしようとすると、誰かが教室に入って  
きた。そして、その人物は、ひとり教室に残っている俺にこう言った。  
 
「キョン君、あなたはまだ部室には行かないの?」  
誰あろう、なんと本日から我がクラスの副担任になった美人女教師だった。  
だが待てよ、何で俺を名前で呼ばずにニックネームで呼ぶんだ?  
「あの、先生。何で俺のニックネームを知っているんですか?」  
彼女は一瞬あわてたが、すぐに取り繕い、  
「それは──あなたたちが有名だからなのよ。あなたとわた…じゃなくて涼宮さんは、この世界  
では知らない人がいないほどの有名人だから…」  
そんな……、俺は一方的にハルヒに巻き込まれただけだってのに、俺たちは教育界にその名が轟く  
ほどの有名人になってしまったのか……。  
 
俺は一方的な戦犯宣告に、言いようのないショックを受けつつ、気を取り直して彼女の方に向き  
直った。  
「それで──先生は何をしにここへ?」  
それはねと言いながら、俺の顔を見つめ、  
「この時代の…じゃなくて、あなたにこうしたかったから」  
と言って、突如俺の頭を彼女の両腕の内側に閉じこめた。  
一瞬、何をされたのかわからなかった。  
俺の顔には、彼女のふくよかな部分が押しつけれられ、窒息の危機が訪れていた。  
…こんな間抜けで、幸せな死に方もないがね……。  
先生、あまりそうされると、俺のいろいろな部分が嬉しい悲鳴を上げているんですが…。  
 
何とかこの状況を抜け出そうともがいているが、そんなことはお構いなしに、さらに俺を抱きし  
める力が強くなった。  
すると、廊下から誰かの足音が聞こえてくる。やばい…が、俺は動くことも声を出すこともままな  
らない。  
足音が近づき、そして扉の前で音が止まった。  
ガラッ  
「WA・WA・WA、忘れ物〜」  
このタイミングにまた谷口か?なんて間の悪い奴だ。  
「あれっ?キョン!」  
 
国木田かよ!!  
 
国木田はこの状況を見て、3秒間硬直した後、哀愁を漂わせた瞳で俺を見つめ、  
「……お邪魔みたいだね。…ごゆっくり!…僕というものがありながら!」  
などと、わけのわからないことを喚きながら、走り去っていった。たぶん錯乱していたんだろうな。  
まさか、古泉と同類だなんて言わないでくれよ。アブノーマルは古泉だけでたくさんだ。  
 
すると、彼女はようやく俺を解放してこう言った。  
「キョン君、あなた人気者ね。女の子からだけでなく、男の子にも人気があるのね」  
なんの人気ですか?ていうか、女からも人気があったためしなんてありませんよ。  
それより、何で俺にこんなことをしたんですか?  
「ふふふ、あなたにこうしたかったから」  
彼女は、いたずらっぽい笑みを浮かべながらそう言った。  
全然答えになってない。  
「まあ、いいじゃない。わたしは気にしないから」  
少しは気にしてください。ていうか、俺が気にするんです。うわ、まったく聞いていない。  
 
「ところで、あなたこれからSOS団に行くんでしょ?ならわたしも連れて行ってくれない?」  
なんだ、この転換の速さ。通常の3倍だ。赤いお人もびっくりだ。  
それにしてもなんと酔狂なお人だ。あんな、存在自体が放送禁止になりそうな団体に、わざ  
わざ飛び込もうだなんて。  
だが、SOS団の名を知っているということは、我々の華々しくも恥ずかしい、武勇伝の数々をご存じ  
なのだろう。  
それを知りながらとは、本当に奇特な人だ。  
「それは本気ですか?それなら止められませんけど…。でも言っときますけど、どういうことになっ  
ても、責任は負いかねますよ」  
彼女は微笑みながら、しかし軽くかぶりをふり、  
「だいじょうぶ。そんなこと絶対言わないから。ほら、早く行きましょう」  
俺の手を取り、スタスタと引っ張って行った。  
しかしこの行動、誰かにそっくりなんだよな……。  
 
彼女は俺を引きずりながら、とうとうSOS団の部室までたどり着いた。幸い誰にも俺たちの姿は見られ  
ていないが、こんな状況を見られれでもすればまずいことになりそうだ。教師と生徒だからな。  
そんな俺が呻吟していることには斟酌せず、彼女は俺の手を握ったまま、部室に立ち入った。  
「こんにちはー。あ、でも1人は初めましてかな。今日はキョン君に連れてきてもらったの。涼宮さん、  
あなたたちの活躍はよく知っているわ。だから、わたしもあなたたちに参加させて欲しいの。それと  
これからしばらくの間、わたしを臨時顧問にして欲しいんだけど、いいわよね」  
彼女はマシンガンのように、自分の用件を一方的にまくし立てた。  
無理もないが、団長をはじめとして、団員の面々は、この突然の訪問者の行動と言動に唖然として、  
誰1人として声を上げられない。  
もちろん長門は無表情のままだが、ちょっと驚いているようだ。まあ、長門の表情が読み取れるのは  
俺ぐらいのものだろう。これは誇ってもいいね。  
 
しかしそれもつかの間、俺の手をこの女教師が今も握っていることを認識すると、部室の温度が一挙  
に10度ほどは上がった。  
そして怒りとも嫉妬ともとれる、炎のようなものが燃え上がったような気がした。  
『ボッ』  
『ボッ』  
『ボッ』  
『ボッ』  
ん?4つ?  
続いて、俺たちを睨み付けた。  
ハルヒ、朝比奈さん、長門、古泉……。  
 
って、古泉、お前もか!  
おい古泉。そんな目で俺に意味深な視線を送るな。ていうか、なんのサインだよ!  
それと、俺はノーマルだからな。こら、俺の後ろに立とうとするな。  
 
この膠着状態の口火を切ったのは、団長のハルヒだった。  
「あ、あんたたち、いつまで手を握りあってるのよ!…先生もそろそろいい加減にしてください。  
キョン!あんたも手を離しなさい」  
すると、先生は何事もなかったかのように、俺の手を離すと、ハルヒの方に顔を向け、  
「涼宮さん。あんまりキョン君にツンツンしていると、彼に愛想尽かされちゃうわよ。もうちょっ  
と微笑んでみなさい。そうすればキョン君も素直になってくれるわ」  
何を言ってんですか先生!素直になるってなんのことですか?それに、火に油を注ぐようなことを……!!  
だが、意外にもハルヒは耳まで真っ赤にして、  
「そんな。あ、あたしは別にキョンのことなんか……」  
あとはゴニョゴニョと言って、聞き取れなかった。  
珍しきかな。ハルヒがしおしおと、真っ赤になりながら俯いてしまった。  
こんな女の子らしい反応をするハルヒなんて、初めてだ。  
 
いかん。俺は不覚にもハルヒに萌えてしまった……。しかし、これは皆には内緒だ。  
 
話を変えよう。ところで、先生。あなたはこの団の顧問になるって言うんですか?  
「ええ、そうよ。こんなおもしろい存在、他にはないもの。わたしの勤務はわずか2週間だけど、  
せめてその間ぐらいはあなたたちと関わりたいわ」  
他にはないって、そりゃそうだ。こんなイカレポンチな団体が他にあってたまるか。もしそんな  
ものがあったら、俺はまっ先に反対の署名運動を立ち上げるね。  
しかし、彼女の提案をこの連中が認めるわけがないと思うんだが……。  
 
そこで、おとなしくなってしまったハルヒに代わって、副団長の古泉が口を開いた。  
「いいんじゃないですか。先生のように優秀で理解のある方が我がSOS団の顧問になれば、なかなか  
心強いですよ」  
意外な答えだ。だが、俺の考えが正しければ理解できるか…。まあ、まだわからんがね。  
「さっすが古泉君。あなた、わかってるわね。副団長だけのことはあるわ」  
どこかで聞いたことのあるセリフだ。  
じゃあ、長門はどう思うんだ?  
「別にかまわない」  
なら、朝比奈さんは問題ないですよね。  
「はいぃ、わたしはどっちでもかまいません」  
あとは、ハルヒか。こいつが一番の問題だ。どうだ、ハルヒ先生を顧問にしていいか?  
「キョン、あんたやけに熱心ねぇ。でも、まあいいわ。短期間だし、先生のお話もいろいろと聞いて  
みたいし。顧問になってもらいましょ」  
 
満場一致をもって、ここに先生のSOS団臨時顧問への就任が決定した。  
 
それから毎日、先生は放課後SOS団の活動に顔を出し、ハルヒと難解な話──未来人の朝比奈さんが  
驚嘆する内容の──をしては盛り上がっていた。また、俺たちにとっても、彼女の話は興味深いこと  
が多かった。それに、他の生徒たちと違って、先生を独占できるという優越感も至上の喜びだった。  
 
ただ、いくつかの問題があった。SOS団の活動中、先生が急に俺の腕を組んで、ハルヒを怒らせてみたり、  
今度は腕をほどいて、替わりにハルヒを俺の腕に絡ませて、ハルヒの顔を赤くさせたりと、俺の心臓を  
止めかねないようないたずらをした。どういう意図があるのかわからないが…。さらには、この先生は、  
どこからかコスプレ衣装を調達してきて、朝比奈さんのみならず、長門もターゲットにしたのだ。ナー  
ス服、ミリタリー、猫耳メイド、巫女、ミニスカウェイトレス、女教師等々、もし谷口がコスプレ長門  
を目撃すれば、AマイナーからA+へ2階級特進しそうな勢いだった。  
かくいう俺も、yukiフォルダを作成したほどだ。しかし部室のパソコンではまずいだろうから、メモ  
リに移して自宅でじっくり鑑賞するつもりだ。これがあれば、俺はあと10年は戦える。  
 
だが、そこまでならまだよかったんだが、今度は俺たち男子部員に目を向けてきた。俺は古泉と一緒に  
メイド服を着せられたのだ。しかも古泉の野郎はうれしそうにして猫耳まで装着してやがる。だが、  
俺には一生心に刻まれる恥辱だった。このまま窓から飛び降りて死にたい気分だ。  
おいハルヒ、たのむからその写真を部室で飾るのはやめてくれ!  
とんだ暴君だ。俺には、パワーアップしたハルヒがもう1人増えた気分だ。  
だが、それでも6人で行う活動は楽しいものだったんだ。  
 
そんな楽しい日々も、彼女の勤務期間最終日となり、終わりを告げることとなった。  
そして、俺はずっと持ち続け、ほぼ確信に近づいた疑問を解き明かすべく、先生を放課後の教室  
に呼んだ。  
彼女は、笑みをたたえながら、俺の前にやってきた。  
「ここに呼び出すってことは、もうわたしの正体に気づいているんでしょ?」  
「そうですね、あなたの数々の行動や言動を見れば見るほど、確信するようになりました」  
「そう。じゃあ言っちゃうわね。あなたの考えている通り、わたしは涼宮ハルヒよ。ただし今か  
ら8年後からやって来たの」  
「まず聞いていいですか?何故この時代に?」  
「そうね、まず一つはこの時代にやってきて、もう一度みんなと会いたかったからかな。この時  
代が一番わたしにとって楽しかったしね。それにこの時代、わたしとあなたがまだ素直になりき  
れてないときだったから、ちょっと距離を近づけるお手伝いをしようかな、なんて思ったから。  
それにこの時代の素直じゃないあなたを見ておきたかったから」  
よけいなことはしないでください。これは聞かない方がよかったな。  
 
「ところで、あなたが時間移動をしたっていうことは、団員たちの正体や、あなた自身の力にも  
気づいているんですね?」  
「そう、もちろん今は自分の力を自覚しているわ。いつそれに気づいたかは、残念ながら話せな  
いけど…。でも安心して、これからいろいろあるでしょうけど、あなたにとって悪い未来にはな  
らないから」  
「そうですか、最後の質問です。時間移動は未来人の手によって管理され、制限されているはず  
なんですが、どうやって説得したんです?」  
「それは簡単よ。もう少し大人になったみくるちゃんに真摯にお願いしたら、いいですよって言  
ってくれたわ。この学校に赴任する手はずも彼女がつけてくれたの」  
これはにわかには信じられないし、額面通りに受け取ってはいけない。  
「で、本当はなんと言って許可してもらったんですか?」  
 
「言わなきゃだめ?そうね、『もし許可してくれなかったら、あなたの未来は変わっちゃうかもし  
れないわよ』なんて言ったら、喜んで許可してくれたわ」  
それは完璧に脅迫だ。しかし、自分の能力を自覚したハルヒほど恐ろしいものはないな。今後気を  
つけよう。  
「それで、ええと、涼宮さんと呼べばいいんですか?」  
「ハルヒでいいわ。この時代と同じで。それに、いまのわたしの名字は涼宮じゃないの。キョン君、  
教えてあげようか?」  
断固としてお断りします。  
聞いてしまったら取り返しのつかない気分になりそうだ。  
「そう?でも心配しないでもいいわよ」  
どっちの心配だろう?他の誰かと結婚しているのか、それとも……いや、やめておこう。  
「わたしからあなたに言うことは、ひとつ、この時代のわたしは、まだまだあなたを困らせるかも  
知れないけど、見守ってあげて欲しいの。なんて、自分のことをこんな風に言うのも変ね」  
彼女はふふっと微笑んだ。  
俺はためらうことなくうなずいておいた。あんな危なっかしい奴を放ってはおけん。まあ、俺はあいつ  
の保護者みたいなもんさ。それ以外の意味はないぞ。本当に。  
 
ハルヒ(大)との話も終わり、場所を部室に移して、今日はSOS団の総員で、送別会を行った。  
もはや、部室は宴会場と化していた。さすがに酒類を持ち込むわけにはいかなかったが、ハルヒが  
調理室を乗っ取り、朝比奈さんと合作の豪華な料理が振る舞われた。しかも会場はコスプレパーティー  
の様相を呈していた。ハルヒ(大)は女医、ハルヒはバニー、朝比奈さんは巫女、長門はナース、  
古泉は……お前はいらん。悲しそうな顔をしてもダメだ。俺は男のコスプレなんぞ見たくはない。  
 
そして夢のようなひとときが終わった。  
ハルヒ(大)は残務整理と手続きのため遅くまで学校に残り、俺たちはこのまま別れることになった。  
最後にハルヒ(大)は『さよなら』と言って校舎の中に姿を消した。  
団員はそれぞれ学校を後にして、俺は結局ハルヒと肩を並べて帰ることになった。  
ハルヒはしばらく黙って歩いていたが、目をそらしたまま  
「ねえ、キョン。あんた、あの先生のこと好きだったんじゃない?怒らないから正直に言ってみな  
さい」  
 
俺が先生のことを好きだと言ったら、ハルヒのことを好きだというのと一緒じゃないか。  
こいつは知らないだろうがな。  
「いーや。単に憧れてはいたけどな。別に好きだったってわけじゃねえよ」  
それにな、と付け加え、俺は言おうか言うまいか少し躊躇したが、  
「俺の隣にいる奴だって、あと8年も経てば先生ぐらいの美人にはなるだろうからな。それを  
待った方がいいさ」  
なにせ同一人物だ。  
するとハルヒは頬を染めて、  
「キョン、ひょっとして……、それってあたしのこと……こら、キョンちょっと待ちなさい。今言った  
こと詳しく話しなさい」  
俺はこれ以上の詮索を避けるために駆けだした。  
 
その後をハルヒが嬉しそうに追いかけてくる。  
 
まだ、このままでいいさ。な、ハルヒ。  
 
 
後は余談だ。岡部は晴れて異常なしで病院を退院して、復帰後の初出勤で教壇に立った。  
だが、彼の復帰が結果的に美人女教師を追い出すことになってしまったことに代わりがないので、  
そこには生徒からの暖かい言葉のひとつもなく、気の毒にもブーイングの嵐だったことを付け加え  
ておく。  
 
 
終わり  
 

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