「映画第二期製作…思ってより資金が必要ね」
ハルヒはパソコンのデスクから立ち上がるとそう言った。突然なんだ?なにか余計なもんでも吹き込まれたのか?
「私はもっと派手に爆弾が大爆発するとか決死の空中ダイブとかカーチェイスのシーンとか
観客の度肝の抜くものを撮りたいのよ。やっぱ一期を上回るにはこれくらい必要よね? キョン?」
とハルヒはとんでもないことをいいだした。
朝比奈さんがビクッと反応している。
いくらハルヒの行動に寛容になった俺でもこれにはさすがに反論しなくてはならない。
なぜならその危険なことに巻き込まれるのは大概、朝比奈さんや俺や他の同級生である。
第一、そんなこと一介の高校生にできるわけないだろう
「冗談よ。いくらあたしでもみくるちゃんにそんな危険なことをさせたりしないわよ、ねーみくるちゃん」
ハルヒは後ろから朝比奈さんに抱きつくと顔をすり寄せた。朝比奈さんは苦笑気味だ。
それより他の俺たちはどうでもいいのだろうか。あえてつっこみはしないが。
「でもどっちにしろ資金は必要よね。文芸部として支給されるお金じゃちっとも足りないのよ」
ハルヒはそう言うと、既に冷えていた俺のお茶を一気飲みして
「ということでこれから資金を調達しに行くわよ!みんな付いて来なさい!」
なんとか杯があるらしく物凄い人の数だ。いったいどれくらいいるんだ?
というより、どう考えてもここは未成年立ち入り禁止だろう。
俺たちはいま競馬場の中にいる。そこ、通報するなよ。
古泉、なんか言ってやれ。
「僕が涼宮さんに意見するなんてことできると思いますか」
そうだったなお前はハルヒの従順なる忠犬なんだった。
「おいハルヒ、ここは18歳未満立ち入り禁止だ。おまえもわかってるだろ」
「ばれなきゃいいのよ、細かいことを気にしてたら身がもたないわよ」
朝比奈さんがびくびくしながらついてきている。
「本当に大丈夫でしょうか〜」
大丈夫じゃないでしょうね。普通ならどう考えても追い出されてる。
…がさっきから長門がぶつぶついっている。なにか情報操作をしてるんだろう。
めちゃくちゃだな、もう。
とうとう馬券売り場までやってきてしまった。
「私はやっぱ単勝一点ばりがいいと思うのよね」
ということで部費として支給された2万円のうち1万5千円が10レース 6番ハレハレユカイに託された。
なんでそんなにあっさりと決めてしまうんだ。今後の部の運命がかかっているんだぞ。
5千円がなぜ残っているのかというと、
俺が少しくらいは今後の活動費ということで残しておけと、どうにかハルヒを説得したためである。
こんな事態に翻弄されるのが決まって俺と古泉と長門だ。
古泉はちょっと深刻そうに
「負けることは許されないでしょうね。涼宮さんは負けることが…(ry
彼女にまた頼んでみましょう。利害が一致するはずです」
と長門歩み寄り、何かこそこそ耳打ちをしている。
長門はそっとうなずくと俺の方を見た。
もしかして俺の許可を待っているのか?
「仕方ない。長門、今回のレースだけ6番の馬を一着にしてくれ。後のレースはズルしなくていい。
俺が無理矢理にでもハルヒをつれて帰るから」
「そう」
長門はそっと頷くと観戦用スタンドの方向へ向かった。
神様、未来人様許してください。こんなことするのは一回きりですから。
さぁー下準備も整ったし、団長さん、俺たちも見に行くか。
「そうね!…って有希は? もう行っちゃたの?
あの子、本にしか興味を示さなかったのに……やっと新しい趣味を見つけたのね」
ハルヒはグッとこぶしを握りながら言った。
それは違うと思うぞハルヒ。
いよいよレースが始まる。次々とパッドクを周回してきた競争馬が各ゲートに入っていく。
すべての競走馬がゲートに入った。いよいよスタートだ。
ガッシャン!
ゲートが一斉に開かれる。
俺たちが運命が託したハレハレユカイは1、2、3…8番目の位置にいる。
これからどんな逆転を見せてくれるのか楽しみにしていたが
第一第二コーナーを回るうちにどんどん抜かされていき現在……えーと
馬が固まっているためよくわからないが後ろから数えた方がはやい。
「あ〜もう、何やってんのよ! 負けたら死刑だからね」
――そしてその順位のまま第三第四コーナーを曲がった。
俺もさすがにやばいんじゃないかと長門をチラッと見る。
すると長門は
「大丈夫。既に処置は完了している。――ブーストモード――」
そうか、なら安心だな…と目を戻すと、ん?
すごい追い上げてる!
まるでアナログ回線から光ケーブルに変えたかのごとくその速さはすさまじい。
あっという間にすべての馬を追い抜き、ハレハレユカイは一着となった。
「おっしゃー」
ハルヒが子供のように喜んでる。
「キョン見た? あの馬すごい追い上げだったわ。是非我がSOS団から賞を与えたいところね」
ああ見てたさ。しかしもうちょっと普通の勝ち方が出来なかったのか?疑問を感じてないのはハルヒくらいで
周りの観客はみなポカーンとしていた。実況の人も言葉が詰まったに違いない。
払戻金をみると1300円…
これは100円に対する金額で表示されてるだったな…
150×1300−15000=210000
残った5千円を合わして21万5千だ。そんな大金俺はまだ持ったことはない。
俺はこれからこの資金がどう使われてしまうのか考えていた……
――いや、それよりこのままハルヒが続投する! とかいいだすとまずい。
一刻も早く帰らなければ…!
辺りを見渡すとハルヒの姿はそこになかった。
慌てて3人と一緒に払い戻しのされる所へ向かう。
いないな…何処いったんだ。すると遠くの方から
「キョーンこっちこっち」
ハルヒが手を振っている、慌ててハルヒの元に向かって
「ハルヒ、もう十分だろ。20万もあれば……」
「じゃじゃじゃーん!」
とハルヒは何かを差し出した。
ん?これは?まじまじと見るとどうやらさっきの当たり馬券ではないらしい
それは単勝で3番 ゴッドノウズに18万賭けた馬券だった。遅かった…
「なんでまた買っちまったんだ?」
「私ね、ギャンブルには流れってもんがあると思うのよ。
うん、つまり今はいい流れがきてると思うのね。でも安心して。私は感に頼ったりはしないから
さっきのレースでこつを掴んだわ。絶対当たるからあんたは大船に乗ったつもりでいなさい」
パチンコ好きの親父みたいなことをいいだした。
仕方ない一応長門に言っておくか
「長門、もうズルしなくていいからな。一応はじめの軍資金は残ってるようだし(こんなとこは冷静だな)
ここはハルヒにも痛い思いをしてもらおうとしよう。そうでないとわからないらしい」
「わかった」
長門はそっと頷いた。18万は惜しまれるが…仕方あるまい
次のレース驚愕の事態が起きた。
なんとハルヒの買った馬券が見事当たってしまったのである。
払戻金は870円……計算したくない。誰か暇なやつがいたら計算してくれ。
「これはもう笑うしかありませんね」
唖然としてる俺に古泉が話しかけてきた。
「長門さんも今回はズルはしていないようです。
おそらくこれは涼宮さんの力のほうのようですよ」
「つまりあれか?ハルヒの自分が都合のいいように改変する能力がここにきて発生したというわけか」
「そのようです。最近落ち着いていたので大丈夫かと思っていましたが……
もう少し警戒しておくべきでした」
もうどにでもなれ。俺たちが話している間にハルヒはとっくに本日第三回目の大勝負に向かっている。
この際大金持ちになって人生を気の向くままに謳歌するのもいいんじゃないのか?
それも悪くない気がする。ハルヒなら俺たちの面倒を見てくれそうだ。
南の島で悠々自適の生活を送る。
なーんて夢のある話じゃないか
あは…
あはは…
あはははは…
……………………
………………
…………
――ゴンッ!!
突然あたまに衝撃が走った。なんだ?
「なにニヤニヤしながら寝てんの馬鹿、さっさと起きなさいよ」
まだ虚ろな目をこすって辺りを見渡すとハルヒが仁王立ちで俺を見下ろしていた。
ああ、そうか夢か…今日は土曜日。
俺は部室に一番最初に着いてしまい、することがなかったから寝ていたんだった。
当初いなかった他のメンバーもいつのまにか揃っている。
「まったく、今日は大事なミーティングの日なの、それなのに神聖なるSOS団の部室で
ぐーたら寝てるなんて団員としてのモラルと規律に反するわ」
そうかい。しかしとんでもない夢だった気がする。
ハルヒの一撃のせいで、もううっすらとしか覚えてないが。
「ではみんな揃ったみたいだし、これより第32回SOS団ミーティングを開始します!
みくるちゃん書記おねがいね」
「はいはい」
朝比奈さんは既にペンを持ってボードに書く準備をしている。
「今日は映画第二期の資金調達について話合うわ。文芸部として支給されるお金だけじゃ全然足りないのよね」
俺はビクッと反応してしまった。夢の内容がフラッシュバックしたからだ。
「なにキョン?なんか意見あんの?」
「え…あーそうだな資金集めか……高校生らしくアルバイトとかでいいんじゃないか?」
とっさに答えたが、これでいいんだろうか。
とりあえずハルヒがギャンブルに走らないように仕向けろ……
俺の脳がそう訴えていた。
「キョンにしてはまともなことをいうわね、うん……でも…それでいいわ
やっぱお金は汗水たらして得るもんよね」
朝比奈さんがボードに『資金集め−アルバイトに決定』と書き終えると
「じゃあ早速みんなを雇ってくれるようなところを探しにいくわよ!みんなついてきなさい!」
ふぅ、なんとか最悪な事態は避けられそうだ。
ん?ひょっとして他の団員にはない俺の能力ってこれなのか?
予知夢とかを見てそれが正夢にならないようにハルヒを誘導する、なんて役割なのか?
なーんてな、そんなことあるわけねぇ、俺は普通の人間……だよな?
もはや俺は断言できなくなっていた。