『君とは一度こうして話してみたいと思っていた。涼宮ハルヒに選ばれた人間だからというのも確かにある。
だがそれ以上に気になるのは監視員からの報告だ。古泉も含め、情報端末装置や未来外交官までもが、涼宮ハルヒと
同等に君という存在を重要視していると言うではないか』
「はぁ、そりゃどうも」
古泉一樹の突然の消失後、俺はとある人物と話していた。『組織』のトップである。
とあるルートで頂いた携帯電話を通話モードにした途端コールがかかり、数回目のコールで繋がった途端にこれだ。
自己紹介も挨拶もなし。どうやら直通どころか俺専用の回線だったみたいだ。
「それで、一体どうすれば古泉を俺らの監視役に再任してくれるんですかね。ダメならダメってはっきり言ってください。
こっちも襲撃準備とかが必要ですんで」
『三つ、君に問いたい。その答え次第で我らの方針は決定する』
全ては俺次第って訳かよ。できれば平和的に解決したいんだが。大体俺なんかの意見で世界規模の組織が方針を
決めちゃっていいのか。長門もそうだが何でもかんでも俺に世界の存続レベルの決定権を委ねるのはどうかと思うぞ。
『一つ。君は、一体何者だ』
生憎と自分探しの旅はした事が無いのでコレだという模範回答は用意していない。だが言うなれば俺は良心回路なんだろう。
宇宙人や未来人や超能力者や神様が変な方向に走るのを押し止める為のね。
俺自身を含め、全員が笑って楽しめるレベルまで事態を収拾するために東奔西走する役目、それが俺なんだろうよ。
作戦参謀とはよく言ったものだ。何せ提督は進む方角しか決めてくれんからな。
『それだけかね』
知らん。ハルヒやみんなが妙に俺に色々振るからには俺に何かあるのかもしれないが、俺には理由は全くもってわからん。
さっきも言ったが、いくら団の良心回路とはいえ、何でもかんでも俺に決定権を委ねるのは一体何故なのかと逆に俺が
聞きたいぐらいだ。お宅の古泉なら無意識的にだとか言いだすんだろうが、無意識にと言われても無意識なんで俺には
判りようも無い。
『なるほど。報告通り自覚なし、という訳か』
その報告を俺にも教えてくれ。そうすれば俺も自覚できるだろうよ。
『二つ。涼宮ハルヒとは、一体何者だ』
進化の可能性だとか時間断層だとか、えっと組織じゃ確か神様だったか? まぁどいつもこいつも色々好き勝手に
論文発表できるぐらい深く真剣に考えてるようだが、俺からすればハルヒを表す言葉は宇宙でただ一つしかないと思うね。
つまり、それ以外は全て無駄な考えなのさ。ドゥユーアンダースタン、アンタはわかるかい?
『伺おう。その言葉とは』
世界を大いに盛り上げるための涼宮ハルヒの団。通称SOS団。
涼宮ハルヒとは、そのSOS団の団長様だ。それ以上でもそれ以下でもそれ以外でもない。
SOS団団長こそがアイツの全てだ。俺の考えだが、きっとハルヒ自身もそう考えてるに違いないさ。
『確かに単純明快だ。……だが、それこそが絶対無二の真理なのだろうな』
意外と理解が早いな。軽く一蹴されるかと思っていたんだが。
『我々は君の事をも重要視していると言ったはずだ。我々とは違う意味で涼宮ハルヒの精神を誰よりも知る、その君が即答したのだ。
わたしには信じるしか選択肢はないよ。そしてそれが出来るからこそ、わたしが組織の頂点に選ばれたのだろう』
ハルヒによって、か。そう考えるとあんた達も大変だよなとは思うぜ。ハルヒのストレス解消に悪戦苦闘してるんだからな。
『確かに命がけだが、それでも君よりは楽だと思うがね』
うるせぇ。さっきの同情を撤回するぞ。
『では最後だ。君たちの、夢は何かね』
「夢?」
こりゃまたメルヘンな事を聞いてきた。何なんだ、その小学生の夏休みの宿題みたいなネタは。
『涼宮ハルヒは何処へ向かって歩いているのか。君は何処へと向かおうとしているのか。君たちの将来像は組織にとって、いやこの世界にとって重要な事だと思うがね』
なるほど。いつかは俺たちも高校を卒業する。その時にハルヒがごねたりしたら大変だし、ごねなくても総理大臣だとか言い出す可能性もある。いやもしかしたらハルヒ王国なんて国を地球規模で立ち上げるかも知れねぇな。ハルヒ銀河でない事を祈るよ。
『君の憂い通り、涼宮ハルヒの望む将来によっては世界が大いに変化する。我々組織もその未来像に合わせた方向性を決めねばならない。そこで参考として聞いておきたい。今考える、君たちの未来を』
将来俺とハルヒが何をやっているか、か。
仕方ないので俺は心に閉まっておいた取って置きの答えを教えてやる事にした。
俺が考える、俺たちの未来像。それは。
「──それは、禁則事項だ」
悪いな。未来事項はいつだって秘密なんだと、俺は未来人から教わったのさ。
『君の答えを元に検討させてもらおう。もちろん君の意思を尊重し、古泉の件も含めてだ』
そうかい、参考になったのかね? 参考になったって言うなら、一つ俺からの質問にも答えてもらえないか。
『伺おう』
許可が通ったので俺はずっと気になっていた質問をぶつけてみる事にした。
「簡単な質問さ。……お前、なんであんなにゲーム弱いんだ? なぁ、古泉よ」
数秒の空白の後、ふうという溜息と共に組織のトップは俺の知る柔軟な口調で返してきた。
『…………参りましたね、どうしてわかったんですか?』
実はわかっちゃいなかった。何となくそうかもと思ったから、ちょっとカマかけてみただけだ。
『そうなんですか? それにしては、あなたの声からは揺らぎのない自信というものを感じられましたが』
なら聞こう、古泉。もし逆の立場で俺がトップとか名乗って話をしたとしよう。その時、お前は俺だと見破れる自信が
あるんじゃないのか。
『そうですね。相手があなただとして、僕はそれを見破る事ができるかと言われれば答えはイエスでしょう。
ですが、それは僕がずっとあなたを調査し、また信頼しているからです。失礼ですが、あなたがそこまで僕の事を
信頼しているとは思いませんでしたよ』
今回の件で、SOS団員はお互いの事を信頼しろと名代からお達しがあってな。それよりも電話の相手がお前だとわかった事で
逆にわからない事が一つ発生した。
『何でしょう』
古泉。お前もしかして本当に組織のトップなのか? それともこんな状況になってしまい、それでも俺を信じれるか試しただけか?
『その答えはどうしても聞きたいですか?』
そうだな。いかした答えを期待するぜ。
『あなたの期待にそえればよろしいのですが。では僭越ながらお答え致しましょう』
古泉はそこで一息空けると
『──それは、禁則事項です』
……わかった。もういいからとっとと戻って来い。でないとハルヒに頼んで除名させるぞ。
もう宇宙的神秘も未来的騒動もお前には教えてやらん。
『それは困りますね。あなたの認識どおり、組織の役割などは脇に置いておいて、僕という個人は宇宙や未来という世界にも
人にも大いに興味があります。了解しました。一時間以内にはそちらに到着すると、涼宮さんにお伝えしておいてください。
あぁ、それと』
電話を切ろうとしたタイミングで古泉が話を続けてくる。何だいったい。
『あなたに感謝します。僕がそちらに戻れるのはこの電話の、そう、誰でもないあなたのおかげなのですから。これは大きな
借りですね』
そうか借りか。だったらいきなり借りを返してもらおう。
『僕にできる事なら何なりと』
お前が俺といい勝負出来そうなゲームを持ってこい。
今までの休みの分、しっかり勝負して貰わんとな。