走る 走る 走る。  
 電話をかけるべき相手には全てかけた。  
 朝比奈さん、古泉、ハルヒ。  
 あとはただ部室に向かって走るだけだ。  
 
 長門の手を握り締めて。  
 
 
 
 
− 涼宮ハルヒの団円 −  
 
 
 
 
「…涼宮ハルヒの力が弱まっている」  
 ああ、気付いてたさ。  
「…情報統合思念体は、自律進化の可能性を涼宮ハルヒの中に見出す事は出来なかった」  
 そうか、そいつは残念だったな。  
「…私の存在意義は消失した」  
 …  
「…私は」  
 …  
「あと37分で情報連結を解除される」  
 
 それが納得できないんだよっ!!  
 
 もう月が真上にくる時間だ、校門はとっくに締まっている。  
 金網を長門をおぶったまま不恰好に乗り越え、部室棟へ走る。  
 くそ! 37分後じゃなかったのかよ! もう長門の足の先が消え始めてる!  
「…37分後に完全に消滅する、という意味だった」  
 こんな時まで冷静でなくてもいいんだよ! 泣いたっていいぐらいのにお前って奴は!  
 古くなった廊下をダンダンと鳴らし、俺達が初めて出会った場所へ、  
 俺の最後の希望の場所へ。  
 ―残り29分。  
 
「ハルヒ!!」  
 いつもはハルヒがぶち開ける部室のドアを、派手な音を立てて今夜は俺が蹴破る。  
「なによバカキョン! こんな時間に全員呼び出して!」  
「間に合いましたか…」  
「な、長門さん…」  
 古泉は状況を把握してるな。説明の手間が省けた。  
 朝比奈さんは、悪いがこの場合後回しにさせてもらおう。  
「なんなのよ大事な話っ…て…、ちょっと、有希…どうしたのよ…」  
「……」  
 いいかハルヒ、よく聞いてくれ。  
 上手く言葉に出来ないかも知れないし、情報の伝達に齟齬が発生するかもしれない。  
 だが頼む、聞いてくれ。 そして信じてくれ。  
 
 
 ハルヒに真実を告げるのは2度目だったが、俺は同じ言葉を繰り返した。  
 そして、あれから起った数々の事件の真相や、ハルヒの本当の力、情報爆発、情報統合思念体、機関、未来、そして長門の運命も。  
 後半、俺は泣きながら語った。みっともなく叫びながら。  
 消えていく長門を抱きかかえながら…。  
 
「長門が、消えちまう… 消えちまうんだ… 長門っっ… 」  
 
 ―残り10分。  
 既に長門は腰から下が光の砂となっていた。  
 
「……泣かないで」  
「長門…、俺は、いつだってお前に…お前に助けてもらって…、俺は何もお前に返してやれないのに…こんな、…違うだろ、こんな終わりって…」  
 頬を撫でる長門の指先が光の粒子になっていくのが判る。  
 畜生! 消すんなら俺も一緒に消しやがれってんだバカやろうっ!!!!  
 
「古泉君、みくるちゃん… キョンの言ってる事、本当…なのね…?」  
「ええ、本当です。こんな時に隠し立てするほど、僕は情に薄い男ではありません。 彼女には…長門さんには僕も、何度も手を貸していただきました…」  
「本当です…信じてください。 私には何の力もなくて証明も出来ませんけど…本当に、本当に、本当なんです…。 ああ…長門さんっ!」  
 長門の両腕が消えていく…。  
 ―残り3分。  
 
「キョン…、あんた、有希のこと…」  
 ああそうだよ。  
 こいつはいつだって俺を守ってくれてたんだ。  
 どんな危険な事からも守ってくれてたんだ。  
 自分が死にそうになるような時だって、俺のことだけを…。  
 その感謝の気持ちが愛に変わったって不思議な事じゃないだろ?  
 
 俺は、長門が、好きだ。  
 
「……最期にその言葉を聞けて嬉しい」  
 ああ、スマンな…俺は口下手なんだ…長門…。  
「……知ってる、そしてあなたが誰よりも優しい事も」  
 お前が俺のことを大切に思ってくれてたの、俺だって知ってるぞ…。  
「……ありがとう。 あなたと、皆と、出会えた奇跡に、感謝したい……」   
 ああ、そうだな…。  
「……大好き」  
 ああ、俺もだ…。  
 
 ―残り0秒。  
 
 俺の両手にぬくもりだけを残して  
 
 長門 消しt  
 
 
「冗談じゃないわ」  
 
 
 刹那、世界がグレーに変わる。  
 
 これは、いつか古泉に見せられた…。  
「…閉鎖空間のようですね、それも超超特大のようです…大きすぎて範囲が特定できないほどの…、直径が太陽系、いえこれは…この銀河をはるかに超えている…」  
「ふぇぇ!? な、なんなんですかここ!?」  
 
「みくるちゃんが未来人で、古泉君が超能力者、そして有希が宇宙人で、あたしが神様…?」  
 
 地響き。  
 
「折角おもしろいことになったって言うのに、有希が欠けるですって…?  ふふ、ふふふふふふふふ…」  
 
 地響き。 地響き。  
 
「   冗   談   じ   ゃ   な   い   わ   ! 」  
 
 どこか遠くで、とんでもなく大きな爆発音。  
 
「……過去に例のない情報爆発を確認」  
 な、長門!? 長門なのか!!??  
「……体組織を構成する情報の最連結を確認……これは情報統合思念体の意志によるものでは無い…」  
 
 俺の手のひらの中に一粒だけ残っていた光の粒が、急激に輝きを増す。  
 そして…  
 
「……再構成……完了」  
 長門!!!!  
「……また…会えた…」  
 こんな時、惚れた相手を抱きしめられない奴なんて男じゃないよな?  
 
「有希! 情報なんとかっていうあんたの親玉に伝えなさい! 有希は絶対に消させない!! SOS団団長のこのあたしが絶対にさせないってね!! 自律進化の可能性!? そんなもん他人に求めないで自分で考えなさい!!」  
 力強く長門を指差す我らが団長。次に朝比奈さんをビシリ。  
「みくるちゃん! 悪いけど未来には当分帰らせないわ! 次元断層の原因とやらはあたしが責任を持って調べるって上司に伝えなさい!!」  
 そして古泉へ。  
「古泉君! 悪いけどあたし目覚めちゃったわ! でも安心して、この世界を悪いようにはしないから!! ちょこっと楽しく彩るだけよ!!」  
 最後は俺に。  
「それとキョン! あんたは… あんたは…… 」  
 なんだ、何でも言ってくれ。  
 長門が戻ってきてくれれば俺はなんだってするぞ。  
 
「あんたは有希と死ぬまで仲良くしなさい!! 別れたりしたら本当の本当に! 絶対に死刑なんだからっ!!」  
 
 
 全てが  世界が  世界の色が  音を立てて変わっていく  
 
 ハルヒが泣いていた。子供みたいに。  
 理由は、まあ間違いなく俺なんだろうな。  
 立ったまま泣いているハルヒに長門がつつと近づき、その身体をそっと抱きしめた。  
「……ごめんなさい。 本当は私だけ消えるつもりだった」  
「…有希ぃ…ひっく…」  
「……彼はそれを良しとしなかった、彼の気持ちが私を変えてしまった」  
 ハルヒが長門の肩に、長門がハルヒの肩に顔をうずめる。  
「……あなたに辛い思いをさせるとわかっていたのに……ごめんなさい」  
「…いいのよ…いいの…、あたしは団長だもの…強い子だもん…。それに…」  
 ハルヒが顔を上げ  
「…辛いのは、あたし一人じゃないもん…」  
 抱き合う2人に飛び込んでいったのは、すでにぐしゃぐしゃに泣いている朝比奈さんだった。  
「ふわぁぁぁぁん! ふわぁぁぁぁぁぁぁぁん!! 告白してもいないのにふられちゃいましたぁぁぁぁぁぁ!!」  
 すいません、朝比奈さん、ホントにすいません。  
「…有希も辛かったよね。ゴメンね、あたし全然気付いてあげられなくて…」  
「……いい、気付かれないようにしていたのは、私の意思……」  
「ふわぁぁぁぁんながとあさぁぁぁぁん!!!」  
「……2人とも。ごめんなさい。」  
「ふぇぇぇぇん! 私たち友達ですよね!! ずっと友達ですよね!?」  
「……うん、友達」  
「恋の勝者と敗者がこんなに仲のいい女友達なんて、世界にあたしたちだけよ!」  
「……ありがとう」  
 泣き笑い。  
 長門、お前も泣いてるんだな。  
 ハルヒ…本当にありがとう…。  
「ふんだ! 振られた相手に感謝される覚えは無いわ!」  
 まったくお前ってやつは…。  
 
 恐らく神人が暴れているのであろう止まらない地鳴りと変わっていく世界。  
 その中心が、たぶんこの部室なんだろう。  
 
「いいじゃないですか。少なくとも僕は嬉しいですよ」  
 どういうことだ? お前はハルヒが自覚を持つ事を恐れていたほうだろ?  
「あなたと長門さんが正式に交際を始めるということが決定し、尚且つ世界が崩壊せず、さらには涼宮さんの力が失われないとなれば…」  
「……偽りの仮面は、もういらない」  
「ふぇ? ど、どういうことですか?」  
 判っているのは長門だけか。  
「さすがですね長門さん、では…」  
 古泉はちょっとだけ目が赤いハルヒに正面から向き合うと、うやうやしく一礼。  
 そして…  
 
「涼宮さん。僕は以前からあなたに好意を寄せていました。  
 最も欲しかった席が惜しげも無く開いたようなので、  
 正式にお付き合いを申し込みたいのですが、いかがでしょうか。  
 恥ずかしながら当方エスパーなど嗜んでおりまして、  
 涼宮さんのお眼鏡に適うかどうか一考の価値はあるかと思います」  
 
 と、一気に捲くし立て告白しやがった。  
 ってか、お前。本気でハルヒのこと好きだったのか。  
 
「ええ、涼宮さんはとても魅力的ですよ。僕にとっては一番、ね」  
 告られたハルヒはといえば、おお、一丁前に目を白黒させてるぞ。  
「こ、こ、古泉君!? そのジョーク面白くないわよ!?」  
「これは困りましたね、ジョークではないのですが。」  
 お得意のヤレヤレのポーズ、かと思いきや、やおらハルヒをお姫様抱っこしやがった。  
「僕がもう、ただのYesマンでないことの証明をしましょう。折角閉鎖空間に皆さんが入れるというまたと無い状況なのですから」  
「え!? ちょ!! 古泉君!!」  
 困惑するハルヒを無視し、フワリと浮きあがり  
「しっかり掴まってて下さいね」  
「きゃわぁーーーーーーーーーーーーー!!!!」  
 ハルヒの悲鳴とともに、部室の窓から空高く舞い上がっていった。  
 
 古泉のヤツえらくはしゃいでるなあ。初めて空を飛ぶ相手にインメルマンターンはきついと思うぞ。  
 まあ正直に言えば、俺の知ってる男の中でアイツほど頼りになる紳士はいないからな。  
 ハルヒをしっかり受け止めてやる事だって容易にやってのけるはずさ。  
 男としてちょっと悔しいがな。  
 
「ぐすっ… 私は、本当にここに居ていいんでしょうか…」  
 いいんですよ朝比奈さん。  
 ハルヒのバカがこれから世界をめちゃくちゃにしちまいますから。  
 過去も未来も、そして現在もハチャメチャに自分勝手な世界に。  
 だから自分のしたいようにしていいんだと思います。  
「……関係者特権」  
 それだ長門。  
 だから任務とか未来とか関係無しに、朝比奈さんが居たいだけここに居て下さい。  
 これはその、友達としてのお願いです。  
「…キョンくん…」  
 朝比奈さんは一瞬だけ寂しそうな顔をして、でも次の瞬間には最高のエンジェルスマイルを返してくれた。  
「はいっ♪」  
 
 ドーン…  ドーン…  
 
 古泉が『力』で神人相手に『花火』上げ始めたみたいだな。  
 おお、ハルヒのヤツもう笑ってる。  
 古泉も声を上げて笑ってる。  
 朝比奈さんも楽しそうに笑ってる。  
 当然俺も笑ってる。  
 そして長門も  
 って長門! お前、今、笑ってる!?  
「……楽しいから」  
 そ、そうか! 楽しいよな! はははっ!! そうだよなっ!!  
 
 
 笑った。 心から笑った。 みんなで笑った。  
 
 
 世界が変わる瞬間の中で。  
 
 
 
「やぁっ! 今日はお招きありがとう!」  
 やあ鶴屋さん。お招きって、まだ廊下ですよ。  
 鶴屋さんも掃除当番でしたか。  
「いやーまったく初日からついてないよ〜。それにしても前々から只者じゃない集団だと思ってたけど、本当に只者じゃなかったんだねえ」  
 俺一人だけが只者ですけどね。  
 ってか、いいんですか? 今日から鶴屋さんもその集団の正式メンバーなんですよ?  
「はっはー♪ あたしは楽しい事なら大歓迎っ! それにみくるが側にいてくれるなら、それだけであたしは充分っさ♪」  
 おっとナチュラルにカミングアウトですね。いくら放課後で生徒が少ないとはいえ、往来でその発言とは。  
「小さい事気にしちゃいけないよ少年っ! 宇宙人とのカップルやエスパーと神様のカップルに比べれば、女の子同士のカップルなんてふつーふつー♪」  
 ははは、確かに。では部室に行きますか。  
「お〜う!」  
 
 
 コンコン  
 
「は〜い、どうぞ〜」  
 …もう何度この扉を叩いただろうな。  
 郷愁にも似た感情を胸に戸を開く。  
 物は多いけど小奇麗に整頓された部屋。  
 
 メイド服で働く朝比奈さん。  
「お掃除ご苦労様です〜」  
 にやけ顔でボードゲームしてる古泉。  
「どうですか? 今日は軍人将棋など」  
 団長席でふんぞり返るハルヒ。  
「おっそいわよキョン!」  
 そして、部屋の片隅で文庫本を静かに読みつづける、  
 俺が世界の崩壊と引き換えにしてでも失いたくなかった女の子…。  
 
「……遅刻」  
 
 悪かった掃除だよ、鶴屋さんもな。  
 って長門からの突っ込みは新しいパターンだな。  
「……日々変化を取り入れていこうと思った」  
 良いと思う、それも。  
「活動初日から遅刻とは、さすが鶴屋さんね、侮れないわ〜」  
 ハルヒは鶴屋さんを何か値踏みしているように見ている。  
「で、ハルヒよ。今日は新メンバーも入団して心機一転という所だが、何をするんだ?」  
 
 本当は、答えなんか最初から知ってる。きっと、この場にいる全員が。  
 
「オッホン! えー、集まってもらったのは他でもありません」  
「毎日集まってるじゃありませんか」  
「古泉君! 黙って! えー、本日付をもって鶴屋さんが正式に団員として入団します! はい拍手ー!」  
「「「「わー♪」」」」  
「ども!ども! 傷心のみくるを精神的にも肉体的にも癒す為に馳せ参じました! 以後よろしくっ♪」  
「ふぇ〜ん、心の傷をえぐってますぅ〜っ」  
「はい、しょっぱなから不穏当な発言しないで。 で、先日あたしを含めたメンバー全員の真の顔がはっきりしたり、有希が意外に積極的な恋愛をしている事にビックリしたりしました」  
「……それは今、関係無い」  
「ゴホン! そして世界が変わったり、人間関係が変わったりもしちゃいました!」  
 殆どお前のせいだろう。  
「  で   す   の   で   」  
 
 
 ― ここに『真SOS団』の結団を宣言します!! ―  
 
 
 
 長くなっちまったけど、最後にもうちょっとだけ。  
 
 長門の話によると、どうやら情報統合思念体はこのハチャメチャになってしまった俺達の世界に新しいアプローチを始めているんだそうだ。  
 そいつらは長門のポジションだった『監視役』と同じなんだが、もっともっとカメラを引いた視点、尚且つ全ての時間平面で俺達の活動を監視しているらしい。  
 
 付け加えておくと、そいつらの報告する事象は全て実際に起った事実で、  
 例えどんな結末になろうとも、SOS団がハッピーであるということに変わりはないとか。  
 そうだよな、長門?  
「……私とあなたが結ばれない事象も存在する。でもそれも一つの可能性」  
 どうやらそういう事らしい。  
 
 そいつらは不期的に集まっては報告会なんぞをしているようだ。  
 それが自律進化にどう繋がるのかは俺にはさっぱりわからないんだが…。  
 なんていったかな、そいつらの名前ってのが  
 
 
 
 
 
「……名無しさん@ピンキー's」  
 
 
 
 
 
 だ、そうだ。  
 
「……団長が緊急召集」  
 おっと、団長様がお呼びのようなのでそろそろ失礼しようと思う。  
 長門と付き合うようになって何が良くなったかって、罰金が半額になることだな。  
「……大切な人と全てを分かち合うのは、恋人の特権」  
 おおう、言うようになったな長門。  
 
 
 
 
 
 んじゃ  
そういうことで。  
 
 
 

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