アニメは信じなくなっちまった途端熱が冷めちまったが、特撮だけは熱が冷めるのはチョイと遅かった。  
しかし、熱が冷めちまった途端、俺はそれらから学んだ物を全て忘れ、アレコレ悪事を働いた。そんな  
俺を更正させたのは、俺が憧れたヒーローでも教師でもなく、皮肉にも『悪の組織』としか言い様の無い  
連中だった。奴等は俺に注射器を一つよこした。帰った俺は、早速それを打った。すると俺の体は服を破り、  
バッタの怪物へと変貌した。  
普通、そんなものを見れば恐怖するだろう。俺も恐怖したさ、最初のウチはな。  
バッタ男になった俺の力は普段の何倍にも跳ね上がった。しかもそれはクスリで変身してから効果切れまで  
の3時間限定だった。俺はその力に溺れた。毎夜クスリで変身し、裏の世界で徹底的に暴れまわった。どんな  
大勢でかかってきても、俺はそいつらを全部片付けた。ヒョイと腕をひねってやれば簡単に相手の腕は千切れた。  
大地にひれ伏す相手を踏みつければ、そいつの上半身と下半身はいとも簡単に離れ離れになった。何人手を  
掛けたか、今じゃさっぱり思いだせん。  
しかし、クスリを使い続けていくうちに俺の体はクスリを使わなくても変身できるどころか、変身しなくても  
常人以上の力が出せるようになっていた。その時俺は始めて気づいた。俺は実験台にされていたのだ。  
俺は怒った。俺は再び現れたクスリ売りをシメ上げ、そいつらのアジトへ連れて行かせた。俺はそいつらのアジト  
で徹底的に暴れまわった。クスリを打ち立ての奴等なんかに負けるわけが無かった。力任せに首を引きちぎり、  
顎を裂き、骨もろともミンチにしてやった。気がつけば奴等は一人残らず死んでいた。俺に殺されていた。それ  
でも、俺の体が元通りになる事は無かった。身も心もズタズタになった俺は、雨の町を死んだ目で歩いていた。  
そして、変身による副作用なのか、俺は疲労の余り、その場に倒れこんだ。  
 
誰も手を差し伸べてくれない、誰も近寄ろうとしない。この世がいかに恐ろしいか、この時俺はよく理解した。  
このまま死ぬのも仕方ない。俺はそう思った。そしてふと、ヒーロー達が俺に教えたものを全て思い出した。  
何故、忘れてしまった?何故、こんな道を走った?もう、今となっては分からない。こうやって後悔したまま、  
俺は死ぬのか。まぁ、次に産まれたときは、こんな道に走るのは辞めよう。俺は薄れ行く意識の中、最後にそう決めた。  
目が覚めると、俺はベッドの上で寝ていた。病院かと思ったが、天井の色が茶色かったので、違うとすぐに分かった。  
「よぉ、気がついたか?」  
声のする方を向くと、そこにはどこか愛嬌のある初老の男がカウンター越しに立っていた。  
「アンタ、一体何者だ?それとココはどこだ?」  
俺は真っ先にそのオッサンに訊いた。するとそのオッサンは  
「命まで助けてやって、こうして手厚く看病してやったってのに・・・最近の若いのは  
どうしてこう礼儀ってもんを知らねぇのかねえ・・・・俺は平山 勝、ここは俺の経営する  
バイクショップ兼喫茶店「章太郎」だ。」  
と答えた。礼儀知らずで悪かったな。しかし、どうりでコーヒーの香ばしい臭いがすると思った。  
「どうだ、一杯飲んでみるか?タダでいいぞ。」  
すると平山のオッサンはカウンターに座った俺の前に煎れたてと思われるコーヒーを差し出した。  
コク、と一口飲む。静かにカップを置く。うん、ウマイ。今まで結構な数のコーヒーを飲んで  
きたが、このコーヒーが一番ウマイ。  
「そうかい、そう言ってもらえるとうれしいよ。」  
平山のオッサンはそう言って豪快に笑い飛ばした。年のワリには元気そうなオッサンだ。  
 
「そういやお前さん、まだ名前を聞いてなかったな。なんて名前だ?」  
オッサンの問に俺は即答した。  
「俺?俺は島本 亨。周りからはキョンって呼ばれてる。」  
「ほぉ、キョンか。変わったあだ名だな。しかし、何であんなところにあんなカッコして  
ぶっ倒れてたんだ?」  
その問いにどう答えるか、俺は考えた。  
事実を話しても信じて貰えないだろうし、仮に信じてくれたとしても、警察に通報するか  
ビビッて逃げ出すだろう。だが、あんな状況じゃどんな嘘がつけるか・・・一人悩む俺に  
「黙ってちゃ分かんないだろ。どんなこと言っても信じてやるし、ビビりもしねぇよ。」  
とオッサンは言った。  
俺はオッサンに全てを話した。変な奴等のクスリで自分が変身出来る体になった事。人を  
何人も殺してきた事・・・事実を洗いざらい喋った。俺が話し終えたとき、オッサンは  
眉間にシワを寄せていた。そして俺は最後にこう言った。  
「・・・で、その時気づいた。自分のしてきたことがどんなことか。そんで決めたわけだ。  
もうどうにもできねぇけど、せめて、残りの人生はまともな生き方しよう。ってさ。俺の事、  
軽蔑するかい?警察に通報するかい?」  
するとオッサンは  
「・・・本当にそう思うのなら、俺は軽蔑もしねぇし通報もしねぇよ。」  
とだけ言うと、またコーヒーを継ぎ足してくれた。俺はそのコーヒーを一口飲んだ。気のせいか、  
さっきよりもウマかった。  
それ以来更正した俺はオッサンの元に足を運び、前から憧れていたバイクについて教えて貰ったり、  
コーヒーの煎れかたを教えて貰ったりした。そして、それまでアリにも劣っていた脳を鍛えなおし、  
晴れて北高に入学することとなった。  
 
俺は今まで悪事を重ねてきた自分を改め、真面目な高校生活を送ろうと思った。勿論、自分の正体を  
隠し通そうとも思った。正体がバレたら即刻退学どころか殺されそうだからな。そして入学式当日。  
俺は一人の女と出会った。涼宮ハルヒ。奴はこう言った。  
「ただの人間には興味ありません。宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたらあたしの所に来なさい。以上。」  
クラスは沈黙に包まれ、なんともいえない空気が漂った。  
それから数日、ハルヒは別に何かするわけでもなく、無口でクールな女子高生という感じだった。  
しかし、男子がいる中で着替えをおっぱじめたり、日替わりで髪形を変えたりと、その奇行は修まらなかった。  
そしてある日、俺はハルヒに話し掛けた。  
「なあ、入学式のときの自己紹介。どこまで本気だった?」  
俺の問いにハルヒは  
「どこまでって・・・全部に決まってるでしょ。」  
と答えた。すると、今度はハルヒが俺に問い掛けた。  
「何、アンタ宇宙人?未来人?異世界人?超能力者?」  
俺は即答した。  
「いや、俺はそのどれでもない。ただの元ヤンさ。」  
するとハルヒは  
「元ヤン?つまんないわね。何で更正する気になったの?」  
と言った。  
 
しまった。墓穴を掘った。本当の事なんて言える訳が無い。言ったら何をされるか分からん。どうすんのよ俺、どうすんのよ?  
「黙ってないで何か言いなさいよ!何か言えない訳でもあるの!?」  
図星だよ。本当の事言ったらお前に解剖されそうで嫌なんだよ。そんなこんなで黙りつづけたあげく、授業が始まり、結局  
うやむやになってしまった。  
放課後、俺はいつものように「章太郎」に訪れ、平山のオッサンにその事を話した。  
「そうか・・・面倒な事になったなぁ。」  
俺の話を聞いたオッサンは渋い顔をした。すまん、オッサン。  
「なぁに、気にするこたぁねえさ。しかしその子、宇宙人やら何やらを見つけて何をする気なんだろうな?」  
オッサンのその言葉を聞いた俺も、その事が気になった。  
そして翌日、教室へ入った俺を待っていたのはハルヒの尋問だった。  
「さあ、キョン。何で更正する気になったか答えてもらうわよ!」  
超ハイテンションのハルヒに、俺は言った。  
「その前に、お前は宇宙人やら何やらを見つけてどうする気だ。解剖でもすんのか?」  
するとハルヒは  
「そんな失礼なことするわけ無いじゃない。一緒に遊ぶのよ!」  
ハァ?遊ぶ?  
「そうよ!そして私たちと友好関係を結ばせるのよ!」  
お前は親善大使にでもなるつもりか。第一、宇宙人はみんな言い奴とは限らんぞ。ショッカー首領とかバルタン星人のように  
地球侵略を狙っていたり、チグリス星人やキルギス星人みたいに地球人の宇宙進出をよく思っていなかったりするかもしれん。  
それに、超能力者だって帝王バンバやガイゼル総統みたいな奴がいるかもしれんし、未来人だって23世紀人のようにゴジラの  
代わりにキングギドラを作り出そうとする奴もいるかもしれんぞ。異世界人だって、ベーダー一族やヤプール人みたいな  
のもいるか分からんぞ。  
「大丈夫よ。それにアンタ、ヤプールもベーダーも異世界人じゃなくて異次元人じゃない。」  
あ、そうだ・・・って何故分かる!?  
 

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