クリスマスイブの夜散々長門の部屋で騒いだ俺たちは
結局そのまま長門の部屋に泊まることになった。
長門は自分の寝室で、ハルヒと朝比奈さんは以前俺たちが3年間眠り続けたあの客間で
俺と古泉はリビングでという部屋割りだ。
よくまあ長門の部屋に布団が5組もあったもんだと思うが
長門のことだ、青いネコ型ロボットのポケットのような物を
どこかに隠し持っているのだとしても今更驚くほどのことでもない。
「夜這いをかけに来たら死刑だからね」
誰がお前のところなんかに夜這いしにいくものか。俺だってまだ命は惜しい。
「おやすみなさ〜い」
どうせ夜這いをするのなら朝比奈さんのところに行くほうがハルヒなんかより100倍はいいね。
さすがに他の団員がいるから実行はしませんけれど、二人っきりでお泊りだったら理性を保つ自信がありませんよ。
「おやすみ」
この宇宙人製アンドロイドにも睡眠は必要なのかね?
「おやすみなさい、よい夢を」
古泉と一緒だと俺の見る夢は全て悪夢になるだろうよ。
こうして俺たちはそれぞれの部屋に分かれていった。
ハルヒと朝比奈さんは布団に入った後も話し込んでいるようで、時々くすくすと笑い声が聞こえてくる。
長門はすぐに寝てしまったのだろう。寝室からは何の音も聞こえてこない。
もっとも長門が一人でぶつぶつ言っている声が聞こえてきたらそれはそれで怖いものがあるが。
古泉は俺となにやら話がしたそうだったが、俺にそんな気はないので無視してさっさと寝てしまった。
実際眠たかったしな。
夜中にふと気配を感じて目を覚ますといつものようにセーラー服を着た長門が枕元に立っていた。
まさかこいつは寝る時もセーラー服を着たままなんじゃないだろうな。
「どうした、長門」
「あなたにお願いがある」
そりゃいつも世話になっている長門のお願いならどんなことでも聞いてやりたいが、こんな夜中にいったい何の用だ?
「寝室に来て」
ちょ、ちょっと待て。寝室でっていったい……。
と俺が問いただそうとした時には既に長門は寝室に向かって歩き出していた。
仕方がないので俺もとりあえず後について長門の寝室へ向かった。
「で、お願いっていったい何なんだ?」
長門は何かを言い出そうと口を開きかけたが、また口を閉じてじっと俺を見つめている。
ただいつもと違うのは頭の中にある情報をどうやって言語化しようか悩んでいるふうではなく
長門にしてはとても珍しいことだが、こんなことを言ってもいいものかどうか悩んでいるような
そしてちょっと恥ずかしがっているような感じだった。
それでもやがて床に目を落としつつポツリと、いつもよりさらにひっそりと口にした長門のお願いを聞いた時
俺は危うく腰を抜かすところだった。
だってそうだろ? この宇宙人製万能有機アンドロイドがこんなことを言い出すだなんて
長門を造った本人だって想像すらしなかったに違いない。
「し、しかしだな、長門。ここでそんなことをしたら隣の部屋で寝ている連中が起き出して来るぞ?」
長門のお願いなら何でも聞いてやるつもりでいた俺でも、流石にこの状況を他の団員たち
特にハルヒなんかに気が付かれたらとんでもないことになることぐらいは分かるので長門を説得してみることにした。
しかし俺が心配するようなことぐらい長門にはすでに想定済みだったらい。
「大丈夫。今この寝室は私の情報制御下にある。どんな音も振動も外部に漏れることはない」
それはつまりあれかい? 以前朝倉が俺を襲った時に朝倉が教室に対して施したやつのことかい?
「そう」
そう、って長門よ。それじゃ音や振動だけじゃなくて俺も外に出られないって事にならないか?
これじゃお願いというよりほとんど脅迫だぞ?
「………………だめ?」
どことなく悲しげな雰囲気をたたえた闇色の瞳でじっと俺を見つめる長門。
俺は元々長門のお願いならなんだって叶えてやるつもりだったし
ここまで周到に準備をされたら今更逃げるわけにもいかない。
実際に逃げられそうにもなかったしな。
そこで俺は長門のお願いを叶えてやることにした。
………
……
…
「はぁはぁはぁ。な、長門よ、少し休憩にしないか? もう足腰が立たないし流石に体が持たん」
「そう」
1時間近くも休み無しで続けられたら誰だってこうなるだろ?
もっとも長門はいつもとまったく変わらない無表情で息を乱すどころか汗ひとつかいていない。
見た目は人間とまったく同じようだが内部構造がどうなっているのか非常に興味があるところである。
おそらくものすごい食欲を発揮して食べた物を余すところなくエネルギーに変換して
宇宙人的な技を使うときのために蓄積しておくような構造になっているのだろう。
だとしたらこのぐらいのエネルギー消費など長門にとってはまったく何の負担にもならないのではないだろうか。
そして今回の長門の欲求は食欲並にに尽きることがないようで10分も経つと
「そろそろいい?」
と声をかけてきた。俺はあまり大丈夫といえるような状態でもなかったが
珍しくも長門が積極的であり、それはそれでとてもいい傾向だと思ったので長門の求めに応じてやることにした。
それにしても分からないのは、なぜ長門はこんなことに興味を持ったのか? そしてなぜ相手として俺を選んだのか?
でもそんな疑問も長門の無表情ながらもどこか楽しげな顔を見ていたらどうでも良くなってきた。
そして俺はまた長門とハレ晴レユカイを踊りだすのだった。