「情報統合思念体が、私の処分を検討している」  
二人きりの部室で、いきなり長門は、俺にそう告げた。  
「……なぜだ?」  
「私の活動が著しく観察任務から逸脱し、涼宮ハルヒに対して干渉を行っていると判断された。統合思念体は、私の処分のためにインターフェイスを派遣するだろう……私の情報結合を解除するため」  
俺は黙った。処分のためのインターフェイス。  
「……怖い」  
長門は俺を見つめている。  
すっ、とその目を伏せると、スカートのホックに手をかけ、パサリ、とスカートを床に落とした。  
シンプルな白い下着が露になる。  
「抱いて欲しい……あなたに」  
 
「断る」  
俺はきっぱりと言った。  
長門は、動揺したような表情になる。  
「なぜ……?私のことが嫌い?」  
「ああ、おまえのことは大嫌いだ」  
俺は、一つ呼吸をして、続ける。  
「朝倉、涼子」  
処分のためのインターフェイスは、お前のことだろうが。  
 
目の前の少女は、冷たく沈黙していた。  
「いつから……気付いていた?」  
俺は吐き棄てた。  
「初めからだ。一年間も一緒に居たんだ……違和感ぐらい気付くさ」  
「ふぅん……」  
長門の姿をした朝倉は、ぺろりと舌を出す。一瞬、その姿が光を放つと、そこにいるのは朝倉涼子の形をとった。長い髪、セーラー服、冷たい笑顔。  
「で、どうするの?」  
俺はドアに向かって一歩、足を引いた。  
「逃げるんだよ」  
俺はドアに向かって駆け出した。  
だが、三歩も行かないうちに、俺の足が固まり、俺は床に倒れこんだ。  
 
「ぐっ……」  
体が動かねえ、またか、反則だ。起き上がろうにも、体は凍りついたように動いてくれない。俺は朝倉を睨みつけるが、朝倉は意にも介さずに、冷たい笑みを浮かべている。  
長門の姿から戻ったものの、スカートは脱いだままだ。白い下着に、白い靴下、上はセーラー服という格好で、谷口ランクAA+の美少女委員長は近づいてくる。谷口ならば狂喜しそうなシチュエーションだが、俺は冷や汗を流すばかりだ。  
なんといっても、こいつは殺人鬼で、俺を殺しかけた。それも、二回もだ。  
俺の顔に浮かぶ恐怖の色を察したのか、朝倉涼子は小首を傾げて微笑んだ。  
「大丈夫。今回の標的は、あなたじゃないもの。うふふ、長門さん、愛しのあなたが捕らえられていると知ったら、きっと飛んでくるわ。……さて、それまで、私はあなたで遊ばせてもらおっかな?」  
「……どうするつもりだ」  
「ふふ」  
朝倉涼子は喜色を浮かべ、俺の傍に膝をついた。  
「レイプしてあげる」  
 
朝倉は手早くブレザーのボタンを外し、俺のシャツをはだけると、舌を這わせてきた。  
気持ちわりい。不快感が全身を駆け抜ける。  
「やめろ!」  
俺の必死の叫びに、朝倉はちょっと顔を上げて上目遣いになった。  
「楽しんだら?せっかくこんな美少女とエッチできるのに」  
「ふざけんな、お前なんか大嫌いだ。気持ちよくなんかならねえよ、俺の体からどきやがれ」  
「あら、威勢がいいわね。ふふ、いつまで持つかな?」  
朝倉は体を起こすと、首元から下に向かってセーラー服に指で線を引く。その軌跡が光を放ったかと思うと、一瞬ののち、セーラー服はパラリと前が切られて開いた。  
一緒に白いブラも前が切断されて、朝倉の大きな胸があらわになる。二つの乳房は、白く揺れて、小さめの乳首がつんとしている。乳首は薄いピンク色をしていた。  
朝倉は、白い靴下とパンツだけという姿で俺の上に馬乗りになる。飛び乗ったひょうしに、朝倉の形のいい大きな胸がたわわに弾んだ。  
「どお、これでもキョンくんは興奮しないの?」  
朝倉は俺のベルトに手をかけ、ズボンを下ろすと息子を引きずり出した。俺の頭は完全に冷えている。恐怖と朝倉への不快感で、興奮するどころではない。元気がない息子の姿に、朝倉は、ちょっと落胆した様子だ。  
「言っただろ。不快だから早くどけ」  
朝倉は自分の胸を見ながら、両手で胸を揉みながら呟く。  
「もお……胸には自信があったのにな。まあ、いいわ。」  
朝倉は高速の呪文を唱えた。  
俺の息子が急に立ち上がる。ちくしょう、朝倉の呪文のせいか。俺の意志とは無関係に勃起していく息子を、朝倉は満足そうに手に取った。  
「うふ、おっきい。それじゃあ、入れさせてもらおうかしら。」  
朝倉涼子は、白いシンプルな下着に指をかけると、しゅるりと脱ぎ下げた。薄めの茂みが露になる。  
「ほら、見える?」  
朝倉は淫乱な目つきで俺を見ると、自分の指でそこを広げて見せた。ピンク色に口が開いている。ちゅぷ、と自分の指を舐めて、そこを弄くってみせる。しっとりと湿り気を帯びたそこを俺に見せ付けて、朝倉は俺の息子を手に取った。冷たい笑みを浮かべて俺を見る。  
「女の子に犯されるのって、どんな気分?」  
やめろ、くそ、動けない。  
朝倉は俺の息子を、自分の股間にあてがい、導いていく。朝倉のそこは既に熱く、とろとろに濡れている。奥まで入っていく感触があり、朝倉涼子は、はぁ、と気持ちよさそうに吐息を漏らした。  
「……んはぁ……奥に入ってる……ふふ、じゃあ、動くね」  
俺の上で朝倉はゆっくりと腰をくねらせ始めた。  
「ううん……はぁっ……あっ……」  
少し上気した表情で俺を見つめる。俺が睨みかえすと、指を一本咥え、上目遣いになってひどく媚びたような表情を浮かべた。  
「んっ……ねえ、ほんとうは……んっ……まえからキョンくんのことが好きだったの……」  
俺は黙っている。  
「あんっ……んくっ……私の気持ちとは無関係に、統合思念体の意志で操られていたの……あふっ」  
目を軽く閉じながら、朝倉は腰をくねらせるのを少し速めた。薄っすらと胸元に汗が浮かび、朝倉涼子の白い肌の上に小さな玉を作る。  
「お願い……信じて……こうしてキョンくんとエッチがしたかっただけなの……あうんっ」  
ふうっ、と息を吐いて、朝倉は俺に熱っぽい視線を向けた。とろけたような目で俺を見る。  
「好き……」  
朝倉が俺の顔を覗きこむ。  
「……キスして、いい?」  
 
俺はなるべく冷ややかな声が出るように言った。  
「それ以上寄るな。お前の舌を噛み切るぞ」  
朝倉はぺろりと舌を出した。  
「なんてね、うーそ」  
朝倉涼子はくすくすと笑い出した。  
「うふ、ばれてたか……さぁて、そろそろ、キョンくんをイカせちゃおうかな?」  
朝倉は腰をおもいっきり動かし始めた。下半身に重い感覚が溜まっていく。朝倉が腰をくねらせるたびに、大きな乳房がぷるぷると目の前で揺れ、朝倉涼子は大きな喘ぎ声を漏らした。  
「ああんっ……っはああぁ、あん、あん、あん、あん……んくうぅっ!」  
「ぐっ……」  
俺は下半身に力を入れて、それを堪えようとする。くそ、こんな奴に、馬乗りになられて、しかもイカされてたまるかよ、ちくしょう。  
「あんん……いいのよ、ガマンしないで。ほぉら、ね。きもちいいんでしょう?……あは、あはははっ」  
朝倉は喜色を満面に浮かべ、汗を流して腰を振っている。長い髪が大きく揺れながら、朝倉の裸体に纏わりついた。俺と朝倉の結合部分は、朝倉の動きにあわせて、ぐちょ、ぴちゃ、と卑猥な音をたてる。  
「ほら、ほら、ほらっ……いいんでしょっ、イっちゃいなさいよ!」  
朝倉がひときわ大きく腰をくねらせ、熱い奔流が耐え切れずにほとばしる。  
「つうっ!!」  
「あっはああああああっっ!!あつぅいっ!なかで、なかでドクドクいってるぅっ!!」  
朝倉が叫んだのと、灰色の壁になっていた教室の入り口に、亀裂が入るのとが同時だった。  
「……っ!」  
俺は首をそちらに向ける。  
小さな人影が立っていた。  
長門有希が。  
 
「あら、長門さん。なにしにきたの?いま、私はキョンくんとお楽しみの最中なんだけど」  
そういいながら、達した朝倉の腰はビクビクと震えて動いていて、振動が息子を通して伝わってくる。  
「……彼は嫌がっている。すぐ止めるべき」  
長門が、一歩踏み出す。  
「うん、それ無理。だあって、キョンくんは……」  
朝倉は腰を浮かせて、俺から自分を引き抜く。  
ぽた、ぽた、と白い液体が、朝倉涼子の陰部から零れた。  
「私でイっちゃったんだもの!」  
あははははっ、と笑う朝倉。長門の表情は一瞬苦痛に歪んだ。  
「長門、来るなっ、罠だ!」  
俺は長門に叫んだ。  
しかし、その瞬間には、長門は弾かれたようにこちらへと走っていた。  
一瞬で、触手のようなものが四方から伸びて、長門の両手足に絡みつく。  
「……っ!」  
触手は長門を吊り上げ、長門の四肢を引っ張る。長門は磔にされたように空中で動きを止められた。  
「長門っ!」  
叫ぶ俺に、朝倉涼子が再び馬乗りになる。  
「ねえ、キョンくん。長門さんなんてほっといて、もう一回エッチしましょう?ほら、キョンくんの、あんなに出した後なのに、こんなに元気……あんっ」  
「やめろ、朝倉っ」  
朝倉は構わずに腰を沈める。くそ、こいつの狙いは、長門を逆上させることなんだ。  
「あっはぁっ!すごおぉいっ……気持ちいいよぉっ、キョンくん!!」  
「……嫌」  
吊るし上げられた長門の目から、一筋涙が流れた。  
「あははっ、長門さん泣いてる……んあああっ、キョンくん、いいよぉ、もう一回、涼子の中にだしてぇ!」「……っ!!」  
長門の両手が輝く刃の形になり、長門は旋回して触手を断ち切った。長門が床に着地する時には、  
朝倉は俺の息子から引き抜いて、靴下だけ履いた格好のまま、後ろに跳び退っていた。  
「あらあら、その腕、まるで化け物ね。愛しの彼の前なのに」  
長門は俺に向かって高速で呪文を唱える。俺の呪縛が解ける。  
「じっとしてて。あなたの周りにシールドを展開。そこにいれば安全」  
朝倉が右手をかざすと、空中に無数の槍が出現した。  
「あなたが機能停止しなければね。構成情報をそいつを守るのに使いながら、いつまでもつかしら?それに、ここは私の情報制御空間だもの。ここでは私が有利……死になさい」  
その言葉と同時に槍が一斉に放たれ、長門を襲う。長門は何本かを迎撃しつつ、すばやく身をかわしながら朝倉に接近する。朝倉は、両手を輝く刃に変えて、長門に振るった。それを長門は自分の刃で受け止める。俺はそれをただ見ていることしか出来なかった。  
「これならどう?」  
朝倉の白い胸の谷間から、にゅる、と刃がのぞく。とっさに長門は飛びすさるが、追撃して伸びてくる朝倉の胸から生えた白刃に、右頬を切られた。鮮血が長門の頬からほとばしる。  
「構成情報の過剰変更は危険。……もとの姿に戻れなくなる」  
血をぬぐいながら長門が言う。  
「ご忠告ありがとうね。でも、もう元の姿なんて必要ないの。どうせ、あなたを機能停止したら、私というインターフェイスは消滅するもの。そのためだけに、統合思念体に再構成されたんだから」  
朝倉の右腕が、さらに形を変えていく。刃から何本も触手がはえてきたかと思うと、触手から触手を生やして増殖しながら長門に迫っていく。  
 
「私は機能停止されるわけにはいかない」  
長門は触手を片っ端から断ち切るが、切られた触手は、うねうねと朝倉涼子の形となり、次第にその数が増えていく。朝倉涼子は群れをなして、長門に襲い掛かる。  
と、一体が俺のほうに近づき、白刃を煌かせて突進してきた。  
パン  
と音がして、目の前の空間で何かが弾ける。シールドが……破られたのか?  
「案外脆かったわね。……あなたも、これでさよなら。死んで」  
朝倉涼子が刃を振り上げる。  
「……くっ!」  
俺は一瞬目を閉じかけた。その瞬間だった。  
制服姿が視界を塞ぐ。  
長門が飛び込んできたんだ、俺をかばって。  
ずん  
長門有希は、その小柄な体を、朝倉の刃に肩からへそまで切り下げられた。  
そのまま俺の腕に倒れこむ。  
「長門っ!!」  
長門は、俺を見て、微かに口を動かした。声が聞こえない。  
「長門っ、だめだ、死ぬなっ!!」  
長門の体が微かに光を放ちだした。  
「長門、まて、死ぬなよ、有希っ!」  
長門が口を動かす。  
……さよなら  
長門は、俺の腕の中で、重みを失い――  
 
次の瞬間には、光る粒となって空中に拡散していた。  
 
同時に、朝倉たちも光る砂になって崩れていく。  
最後に一体、俺の前に立っていた。  
朝倉涼子は、俺を見て冷たい笑みを浮かべた。  
「私の勝ち。長門有希の機能停止を確認したわ。さよなら、キョンくん」  
そう言うと、朝倉涼子の姿は空中に弾けた。後には光る砂が空中に漂い、そして、消えた。  
 
教室もいつもの部室に戻り、俺は一人そこに取り残された。  
俺は、ただ呆然と座っていた。  
 
 
 
部室の扉が開く。  
俺は喜緑さんが入ってくるのを、ぼんやりと見ていた。  
「……長門有希と朝倉涼子は消滅しました」  
喜緑さんは淡々と続ける。  
「長門有希の観察活動からの逸脱に、情報統合思念体は処分の決定を下しました。そのために、朝倉涼子を刺客として再構成したの。長門有希の消滅にともない、朝倉涼子はメモリから完全に消去されます。もう、あなたの前に姿を現すことはないでしょう」  
俺は黙っていた。  
「でもね、朝倉涼子の消去は出来るけど、長門有希の消去は出来ないの」  
「……」  
「観察任務を離れて、観察対象である涼宮ハルヒに接触しすぎたから。彼女の消滅は、涼宮ハルヒに重大な影響を及ぼすでしょう……穏健派である私たちとしては、それを看過はできない」  
「どう、するんです?」  
声が詰まった。喜緑さんは、にこりと笑った。  
「これは私の独断専行。情報統合思念体の判断とは、少し食い違うけれど……長門有希の情報操作能力を消滅させた上で、再構成しようと思うの」  
「それって……」  
「普通の女の子になるわ……。無口で、本が好きな、普通の少女に。記憶は残せないけど……」  
 
「さて」  
喜緑さんは、いたずらっぽく笑った。  
「眼鏡は、あるほうがいいかしら?それとも、ないほうがいい?」  
 
 
翌日。  
俺は深呼吸をして、部室のドアを開けた。  
「ちょっと、キョン、大変よ!有希が記憶喪失になったみたいっ。あたしのことも、SOS団のことも知らないなんて言うの!!」  
騒ぐハルヒをよそに、長門の方を見る。長門は、椅子にちょこんと座って、顔を赤くしていた。さっきから質問責めにあっていたんだろうな、きっと。  
「私です、朝比奈みくるです。ふえぇ、長門さん、ホントに忘れちゃったんですかぁ?」  
「ごめんなさい……私は……」  
「古泉一樹です。長門さん、この名前に心当たりはありませんか?」  
「聞いたことはある……九組……でも、会ったことは……」  
 
「長門」  
俺の声に、長門は顔を上げた。俺の顔を見て、顔がさっきまでとは違うように赤く染まっていく。  
「あなたは……知っている……」  
「ええっ、なんでキョンだけ!!」  
そこ、うるさいぞハルヒ。  
「図書館で……カードを……あなたが……お礼を……」  
ああ、分かってるさ、長門。  
長門は、真っ赤な顔をしていたが、やがて勇気を振り絞るようにして小さな声で言った。  
「言おうと思ってた……私は……あなたのことが……」  
俺は長門を抱きしめていた。長門の小さな体はびくりと震え、長門は身を堅くしていたが、やがて力を抜いて、俺の体に手をまわした。  
「あなたの……ことが……」  
長門はそれっきり口をつぐんでしまった。  
「こらぁっ!バカキョン!有希をはなしなさいっ」  
そう頭をぽかぽか殴るなハルヒ。いてえよ。  
俺は長門の体をはなした。長門は荒く息をついている。  
「長門……」  
なんと言えばいいだろう、記憶を失ったこいつに?俺は少し間をおいて、台詞を考えた。  
 
「長門、SOS団にようこそ」  
 
長門有希は、俺の目を見て微笑むと、微かに頷いた。  
 
 
おしまい  
 

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