「じゃあ死んで」  
俺が女の文字で書かれた手紙につられて、のこのこ教室にあらわれたところ、この朝倉の  
襲撃を受けてしまった。  
朝倉は俺を殺して、ハルヒの出方を見るっていった。  
 
しかし俺が死んだくらいで、世界の変革が起こるようなことをするものか。ハルヒと出会  
って、未だ3ヶ月もたっていないというのに…。  
こんなことを死ぬ間際に考えているなんて、俺もかなり変わった奴だな。この短い間に、  
ハルヒに感化されてしまったか…。  
 
そんなことを考えている間に、朝倉がナイフを構えて、ジャンプした。  
俺は避けることも動くこともできず…、  
──そのまま、俺の心臓に…  
──突き刺さった。  
目の前が次第に暗くなってゆく……  
 
 
…………  
 
………誰かの声が、  
 
……聞こえる  
 
俺の意識に、直接誰かが語りかけてくる。  
 
──ごめんなさい。あなたには悪いことをしてしまった。あなたは朝倉涼子に殺されてしまった。  
──わたしは、あなたにお詫びをしたい。……あなたにはわたしの命をあげる。  
 
……  
気がつくと、俺は自分の教室で立っていた。顔を動かして、辺りを見回してみても、さっきの  
ような空間はなかったし、朝倉涼子もいない。  
次に、俺は自分の体を見下ろしてみた。  
どこにも傷はない。心臓にもだ。  
では、あれは夢だったのか……。  
──いや、違う。あれは現実だ。実際に起こったことなのだ。俺にはさっきの感覚が、未だに生々  
しく残っている。  
 
では、なんだ。俺はいったい何故助かったのだ?  
わからない。ただ、死んだと思ったときに誰かの──あれは長門か──声が聞こえた。  
ひょっとして、長門が助けてくれたのか?  
以前、あいつの部屋に呼ばれて話をされたときは、何電波話をしてんだこいつ?とは思ったが、  
実際朝倉の襲撃を受けて信じざるを得なくなったようだ。  
 
わけがわからないが、教室にいては危ない。また同じ危険な目に遭うかもしれなかったからだ。  
‥・今日のところは帰ろう。  
 
SOS団活動の時間だが、今日ハルヒは憂鬱きわまりない顔だったから、おそらくないだろう。  
と、俺は、すでに赤らみ始めた夕陽を背に、帰途についた。  
 
こんな時間に帰れるなんて久しぶりだ。やっぱり高校生活は帰宅部といきたいね。  
しばらくのんびり歩いていると、俺は自分の制服の胸ポケットに違和感を感じ、まさぐって  
みると、メガネが入っていた。  
 
誰のだ?  
 
このデザインは、見覚えがある…。  
・・・・・・長門のものか。何で俺のポケットに入っているんだ?  
すると、  
──掛けてみて。  
また、俺の頭に直接聞こえてくる。これは──長門か?  
──そう。  
掛けるってメガネをか?  
 
──そう  
長門は、強い意志で言った。  
促されるままに長門のメガネを掛けた。  
その瞬間強い光とともに──俺のすべての感覚が消え失せた。残っているのは、考える力  
だけだ。  
俺の脳が、自分自身の体を動かせていない。俺の体の中で、自分自身を眺めているような、  
不思議な感覚だ。  
 
今、俺の意志とは無関係に、俺が角に立っているカーミラーを見つめている。  
 
俺じゃない!  
…ミラーに映し出されたその姿は、長門だ!!  
 
「あなたは朝倉涼子に殺されてしまった。だから、あなたにわたしの命をあげた。わたしと  
あなたは一心同体になった」  
ちょっと意味が違わないか、それ?  
だが、長門はかまわず続けた。  
 
「わたしのメガネをあなたが掛けると、あなたの体が再構成されて、わたしになる。意識上  
もわたしが体を支配することになる」  
じゃあ、俺の意識はどうなるんだ?  
 
「あなたは今の状態になる。この状態では、わたしの体を動かすことはできないが、わたし  
の視神経を利用して、見ることと、そして考えることは可能」  
お前の考えを知ることもできるのか?  
 
「それは不可能。わたしは情報統合思念体ともコンタクトをとる。それは常人では理解  
不能。たとえ、わたしと融合したあなたでも。もちろん通常の思考状態でも不可能」  
 
そうか、まだ完全に理解できたわけじゃないが、俺が死んでしまったことと、お前が助け  
てくれたことはわかった。  
ところでな、学校はどうするんだ?お前は自分のクラスにいられないだろう?俺と融合し  
たんだから。  
「大丈夫。わたしのバックアップを置いておく。それが、わたしのかわりをする」  
 
そうか。ところで、そのバックアップはそいつ自身の意志で動くのか?  
「普段はそう。でもわたしの意志を同期させて、わたしが動かすことも可能」  
そうかわかった、といっておこう。でないと俺の頭が混乱しそうだ。  
さて、こんなところで突っ立っていないで、後は家に帰ってからじっくりと考えたいな。  
 
再び歩き始めた長門に聞いてみる。もちろん今の姿は長門のままだ。  
おい長門、どっちの家に帰るんだ?  
「わたしの家。生活用品はそろっているから、あなたは心配しなくていい」  
待ってくれ。俺はどうするんだ?俺の家に帰らないと、家族が心配する。  
 
長門は、どこぞの宇宙刑事が変身にかかる時間程度黙考し…、  
「わかった。あなたはわたしと同棲していることにする」  
なるほど、それなら…っておい、長門。よけいまずいだろ、それは。  
「なぜ?」  
 
俺たちは高校生なんだぞ。普通の親ならそんなこと認めるわけないだろ?それにハルヒたち  
にバレてみろ。、恐ろしいことになるぞ。  
「大丈夫。わたしは気にしない」  
俺が気にするんだよ。  
 
「あなたの言っている意味は理解できる。しかし、現段階ではわたしの提案が合理的」  
なあ、長門。俺の家に帰ると何かまずいのか?朝倉がまた狙ってくるとでも?  
「朝倉涼子は、情報統合思念体に消去された。もう狙ってこない」  
じゃあ俺の家で問題ないじゃないか。  
なんでこいつは俺を長門のマンションで生活させたがるんだ?  
 
「…そう。あなたがそう言うのなら。でも、今日はわたしの家で泊まって欲しい」  
わかったよ。今日はそうするよ。なんでかわからんがね。  
 
それにしても今日の長門は押しが強いな。口数も多かったし、とてもあの無口な宇宙人だとは  
思えないな。ひょっとして今日しゃべった台詞を合計すれば、一ヶ月分ぐらいになったんじゃ  
ないか?  
 
俺がそんなことを考えている間も、長門は歩みを進めていた。どうやら、長門はマンションの  
近くの高級スーパーで、食料品を買い求めるつもりのようだ。店内に入ると長門はレトルトの  
カレー缶や野菜、そして総菜類をカートに次々と乗せていく。  
 
レジの会計をカードで済ませると、淡々とした足取りで、店を出た。  
いつも思うんだが、こいつの金はどこから出ているんだ?  
しかもさっき提示したクレジットカードは、得意客専用のプラチナカードだ。  
本当はこいつ、統合思念体以外の誰かパトロンでもいるんじゃねえだろうな。  
 
再び長門は、自宅マンションに向かって歩いている。今はもう5時を過ぎたところか、  
なだらかな丘陵であるこの土地は、水平線が見渡せる。そして、赤を帯びた夕陽が、海面を  
照らしていた。  
 
俺の意識は、今は長門の体の中で、外の世界を見ていた。  
それにしても不思議な感覚だ。まるでカンガルーの袋の中から外を見ているようだ。  
しばらくゆりかご気分を味わっていると、長門が住む豪奢なマンションに到着したようだ。  
 
長門は正面ゲートのロックを解除すると、中に入り、住人が降りたばかりで扉が開いているエレ  
ベーターに乗り込んだ。そこはいかにも高級マンションらしく、エレベーターの内装も他の建物の  
それとはまるで違っていた。だだ、狭いのが玉に瑕で、唯一の欠点と言えた。  
 
部屋に着くと、長門は買い込んだ食料を棚や冷蔵庫にしまい込み、お茶をテーブルの上に用意した。  
部屋の中は、以前招待されたときとほとんど変わることなく、非常に殺風景で、今も季節外れの  
こたつがリビングの真ん中に鎮座していた。これでは高級マンションの名が泣くというものだ。  
 
せめてカーテンと、ソファーがあれば印象はだいぶ違ってくるのだが・・・。  
長門は座布団に正座すると、ゆっくり自分のめがねを外した。  
 
すると、さっきと同じような一瞬の光の後、今度はさっきとは逆に、俺の全感覚が戻り始めた。  
そう、俺の意志で自分の体を動かしているのだ。体も長門の華奢なものではなく、俺の体だった。  
 
俺は狐につままれたような不思議な感覚が消え去る前に、尋ねてみる。  
「ところで長門。このメガネは変身装置か何かなのか?もしこれを失っちまったらどうするんだ?」  
──このメガネは物質の再構成プログラムを仕込んである。これがあなたとわたしが入れ替わる  
鍵になる。っしてこのメガネは、壊れても再構成すればいい。なくなっても別に困らない。  
 
そうか、一安心だ。某特撮番組のように、主人公が変身アイテムをなくしたら変身できないと  
いう制限はないわけか。  
 
「それからな、長門。トイレや風呂の時間は、互いに見えないようにできるか?できるんなら  
その方が良いだろう?」  
──それは難しくない。でもわたしはあなたになら見られても平気。  
 
なんてこと言うんだ。ちょっと想像しちまったじゃないか。  
俺はそんな恥ずかしい想像を否定すべく、あわててかぶりを振り、  
 
「そんなきわどいことを言うな。それに俺にはのぞきの趣味はないからな、見えないようにしてくれ」  
──わかった。  
言わない方がよかったかと、自分の正直さを半分呪いながら、煩悶した。  
 
話をいったん打ち切ると、俺は自宅に電話を掛けて、外泊許可を取り付けた。おふくろには国木田  
の家に泊まると伝えておいたから大丈夫だろう。  
 
俺自身の用件を済ませると、俺は再びメガネを掛けて、長門に姿を変えた。  
・・・なにか変身ものヒーローの主人公みたいだな。  
姿が変わるやいなや、長門は夕食の用意を調え始めた。今日のメニューは、レトルトカレーと、丸ご  
と一個使った豪快なキャベツの千切りだ。  
 
長門が台所に立って晩飯の用意をするという、非常にレアな光景を見ているわけだが、新妻のよう  
にというには、いかんせん色気と雰囲気に欠けた。むしろ、まるで工場の機械が調理しているよう  
だった。  
俺はひどく失礼なことを考えてしまった気がして、心の中で長門にわびた。  
 
「食べて」  
長門は、テーブルに食事を並べると、そう言ってめがねを外した。  
物静かで、何事も正確無比な自称宇宙人製アンドロイドは、その姿に似合わないような、豪快きわ  
まりない料理を俺にご馳走してくれた。  
 
そこに並んでいたのは、レトルト缶を丸ごと使った、富士山を仰ぎ見るような超特盛りのカレーと  
先に紹介した、キャベツ一玉まるごとの千切りだった。  
 
当然ながら半分以上は残った。俺は相撲取りでもなければ、プロレスラーでもない、普通の高校生で  
あって、とてもじゃないが食いきれるものではなかった。すると、後は長門が自分で食べると言った  
ため、俺は忙しくもメガネを掛けて、再度長門に変化した。  
 
長門にバトンタッチしたところ、淡々とだが、その体に似合わぬ健啖家ぶりを発揮して、残りのす  
べてを平らげた。  
俺の3倍以上食べるなんて・・・。長門は人智を越えた存在のくせに、えらく燃費が悪いんだな。  
なんて、現在の俺の状況から言えば、そんなことは些末な問題だが、考えずにはいられなかったんだ。  
 
やがて食事が終わり、今日何度目かのメガネを外す作業をし、俺の姿に戻ったが、長門のテレビの  
ない部屋ではすることもなく、まだ深夜と言える時間ではなかったが、俺はというか、俺たちは早  
々に寝ることになった。  
 
ふと気づいて、俺は寝る直前に長門に言い忘れていたことを伝えた。  
「長門、今日は助けてくれてありがとな。自分の命までかけてくれて、感謝しきれないくらいだ」  
 
──そう。でもそれはこちらの不手際。だからあなたは気にしなくていい。  
 
長門が照れているように感じたのは、俺の思い過ごしだよな。  
 
 
日の出の到来とともに、カーテンのないこの寝室には初夏の日差しが差し込み、いつもなら妹  
の突撃まで起きないにもかかわらず、俺は目を覚ました。だが、思ったより眠りが深く、疲れ  
はほぼ完全にとれたようだ。  
 
目が覚めると、長門が買ってくれていたパンとインスタントコーヒーを朝食にして、身支度を調え、  
いつもよりかなり早めの登校と相成った。  
 
目的はSOS団のアジトに行って、状況の確認と、長門のバックアップを一目見てコンタクトをとる  
ことだ。だが、俺の今の事情は古泉にも最初は話さない方が良いだろう。いずれ折を見て話すか話  
さないかを決めよう。  
 
俺は学校に到着すると、すぐにSOS団の部室を目指した。長門のバックアップであるのなら、長門と  
同じく部室で読書に耽っているはずだ。そうだよな、長門。  
──たぶん。今のわたしのバックアップは、朝倉涼子と違ってわたしと完全一致している。誰も見  
分けがつかないはず。コピーとほぼ同義。  
 
俺は部室にたどり着き、ドアを開けた。  
・・・いた。長門だ。間違いない。  
 
「よう。長門・・・で良いんだよな」  
「そう。わたしは長門有希のバックアップ。もう1人のわたし」  
 
俺は中にいる、オリジナルの長門に話しかけてみた。  
「おい、なにかバックアップと話すことはないか?」  
──なにも。わたしとバックアップとはいつでも同期できる。言葉によるコンタクトは不要。  
 
そうだろうな。でもこれで一安心だ。  
「なあ、バックアップの長門。お前は、今俺の中にいる長門とは完全に性質が一致するんだよな」  
「そう。99%はそう。」  
あと1%の違いは何だ?  
 
「それは言えない。オリジナルに言うことを止められている」  
そう、か。わかった。長門にも言いたくないことがあったのか。  
 
「じゃあ、普段はお前を長門として接していれば良いんだな?」  
「それでいい」  
「オリジナルもそれで良いか?」  
──わかった。  
このとき1ミクロンほど、悲しい色が見えたような気がした・・・。  
 
そしてこの奇妙な同居生活は数ヶ月にわたって続いた。この間に、ハルヒと閉鎖空間にいったり、  
野球大会に参加したりと、いろいろなことに巻き込まれながらも、何とかそれを乗り越えた。  
 
もちろん俺の中にいて、時々メガネを掛けて俺と入れ替わる長門のことはSOS団の誰にもばれるこ  
とがなかった。  
俺も、バックアップの長門を、オリジナルの長門として普通に接していた。  
 
 
俺も長門も今の奇妙な共同生活を気に入っており、長門は感情を見せないながらも楽しそうに見えた。  
俺のうぬぼれかもしれんが・・・。  
それから主のいなくなった長門のマンションには、オリジナルの希望もあって、月に1回程度泊まる  
ようになっていた。  
 
 
だが、それが思いも寄らない騒動を巻き起こしてしまった。  
 
その日、まったくしゃべらなかったハルヒが、すべての授業が終わった後、俺を部室に連れて行って、  
こう言った。  
 
「ねえキョン。ちょっと聞きたいことがあるんだけど。いいかしら?」  
何かをためたような表情だった。  
「なんだよ。言ってみろ」  
「あんた。今日有希のマンションから学校に行ったんですってねぇ。朝帰りだなんて、どういうつもり?」  
しまった。見られてたのか。ハルヒの奴は、笑みを浮かべていない。  
「いや、あれは長門に勉強を見てもらってたんだ」  
咄嗟のいいわけとしちゃ、苦しかったか・・・。  
 
「へえ、勉強ね。勉強するのに泊まる必要あんの?いやらしい!」  
「そうじゃねえ。別にやましいことなんて何もしてないんだ。実は、長門の家族がたまたま来てた  
からな。そこでせっかくだから泊まっていってくれってことになったんだ」  
「ふうん、家族の方が来てたの?本当に?・・・まあそういうことならいいけど・・・」  
明らかに不審な顔だったが、なんとかごまかせたか。  
 
「長門、ちょっとまずいことになったな。これからはお前のマンションには行きづらくなっちまいそうだ」  
すると、わずかに考えた後、ほんのわずかな愁いを帯びた声で、  
──わかった。あのマンションは、バックアップに住んでもらうことにする。・・・・・・でも最後に明日泊  
まってほしい。  
「わかった。そうしよう」  
 
翌日夕方、俺の姿のままではまずいため、メガネを掛けて、長門の姿でマンションに入った。だが、今日  
の長門はまったくしゃべらず、俺の問いかけにも答えようとしない。それに、どこか沈んでいるような気  
がした。  
 
夕食が終わり、メガネをかけた長門の姿で、鏡を前にして話し始めた。俺に顔を見せるように、  
「情報統合思念体から、バックアップのわたしを、オリジナルの長門有希として運用すると連絡を受けた」  
な・・・んだと。なぜだ?じゃあ、お前はどうなるんだ?  
 
「昨日あなたが、涼宮ハルヒを不機嫌にした原因はわたしにある。このままではまた涼宮ハルヒが、閉鎖空間と  
この空間の変換を行いかねないと、統合思念体は判断した。だから、バックアップの長門有希をオリジナルの  
長門有希として稼働させることにした。この部屋も彼女が住むことになる。そうなればわたしは消えること  
になる。でも大丈夫、あなたの命が失われることはない。心配しなくていい」  
 
馬鹿な。そんなこと納得できるかよ。バックアップをお前として動かすって言ったって、お前が消えることは  
ないだろ?俺にとっちゃ、お前こそが長門有希だ。他にはいない。  
 
「ありがとう。そう言ってもらえてうれしい。でも、もう決まったこと・・・」  
といってメガネを外した。  
 
・・・俺は歯がゆかった。こんなに長門を抱きしめたくてたまらないのに、それさえできないことに・・・。  
 
「それで、お前はいつ消えてしまうんだ?」  
──明日、昼の12時と同時。わたしの力と意識は、あなたの中から消える。  
俺は愕然とした。あまりの時間のなさに・・・。  
 
だが、時間が全くないわけではない。明日一番にできることをやろう。  
 
俺は翌日早く動くために、早めに眠ることにした・・・。  
 
 
だが翌日、俺は目が覚めると、とてつもない違和感に苛まれた。  
体の中にいるはずの長門を認識できない・・・。  
「おい長門!いたら返事をしてくれ!頼む・・・何か言ってくれ!」  
部屋中に叫び声が響いた。  
 
返事は何もなかった。そこで俺はあわててメガネを掛けてみた。だが、何も変化しない。鏡に映る  
姿は俺のままだった。  
そこではたと気がついた。長門の言っていた12時とは、今日の昼ではなく、夜のことでなかったか、と。  
 
そしてそれに気がつかなかった自分自身に、猛烈な自己嫌悪を憶えた。しかしもう取り返しがつかない。  
おそらく俺をこれ以上困らせないようにと、嘘をついたのか・・・。  
そうか、長門に嘘をつかれたのはこれが初めてだな・・・。改めてその事実に呆然とする。  
・・・こんなつらくて、そして優しい嘘を長門につかれるなんてな。  
 
そう考えた瞬間、俺は身支度を整え走り出した。一刻も早く学校に行くために。  
 
学校に着くとすぐにSOS団の部室に飛び込んだ。  
そこにはバックアップの長門がいた。俺は走って長門に近づくと、  
「おい、長門。頼む。統合思念体と連絡を取ってくれ。そして俺の中にいたオリジナルの長門を生き  
返らせてくれと頼んでくれ」  
 
「オリジナルの役目は終わった。彼女はもう無力な存在。いても何もできない」  
 
「そんなことはない。あいつはよくやってくれた。あまつさえ俺の命まで救ってくれた。そんな奴を  
てめえの都合で勝手に使い捨てにされたんじゃ、あいつがかわいそうだ。なんなら、ハルヒにすべてを  
ぶちまけてやって、統合思念体も超能力者も、未来人もいない世界をつくりあげさせるぜ」  
 
「・・・わかった。伝える。・・・でもオリジナルは幸せ。あなたにそんなに大事にされて」  
話も終わったので、教室に戻った。  
あとはあいつしだいだ。信じるしかない。だが、大丈夫だ。あいつも長門有希だ。信じるのに値する  
やつだ。  
 
昼休みに、中庭でくつろいでいると、突然俺の頭に聞き覚えのある声が響いた。  
──ありがとう。  
ひょっとして、オリジナルの長門か?生き返ったのか。  
──そう。あなたのおかげ。もう一度言いたい。ありがとう。  
 
じゃあ、これからはお前とずっと一緒なんだな?  
 
──そう。とてもうれしい。  
 
俺には長門が本当にうれしそうに感じた。  
 
 
おわり  
 

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