前略。例によって毎週恒例の町内パトロールを終えた俺達ことSOS団は、  
例によって不思議が見つからず不満げにしている団長ことハルヒの憂さ晴らし、  
つまり思いつきにより長門宅に行く事となった。  
 
曰く反省会だの今後の方針を決める会議だの色んな建前を並べていたが、  
まぁようするに何もなく一日が終了してしまうのを惜しんでいる訳だ、こいつは。  
 
しかし、かくいう俺もすぐに帰るには少々物足りないと感じていた訳で、  
そういうのもたまには良いかなーそれに長門ん家も久しぶりだなーとまぁそんな感じだ。  
イエスマン古泉もまさか文句は言うまい。朝比奈さんも苦手意識はあるものの、一応了承してくれた。  
 
で、家の主である長門は「別に」のある意味予想通りと言えば予想通りの一言で許可してくれた。  
こいつに負担をかけるのは相変わらず気が進まないんだが、こんぐらいなら大丈夫…なのかね?  
 
中略。長門宅に到着した俺達は夕飯を食い、会議を2分で終了させ、適当にゲームで盛り上がり、  
そして俺の携帯が鳴り親にどやされ、そこで既に夜の10時だったという事に気付いた。  
さて、今から帰るのも面倒だ。それに結構危ない。ハルヒも古泉も大丈夫そうだが朝比奈さんは別だ。  
ではどうするか? 言わずともがな、泊まるのである。発案した奴も言わずともがなハルヒである。  
 
以下略。ハルヒ補正かどうかは知らんが、とんとん拍子に全ての団員の外泊許可は下った。  
という訳で俺達はどこから出したか分からない五つの布団をしき、ごろーんと横になったのであった。  
 
 
 
「じゃ、電気消しますねー」  
 
朝比奈さんが声をかける。パチンという音とともに、部屋の照明が落ちた。  
ちなみに朝比奈さんも含めて、俺達はやっぱりどこから出したのか分からないパジャマを着ていた。  
サイズがぴったりなのは流石長門と言うべきか。しかしデザインまでお揃いなのは何やら気恥ずかしい。  
 
「ねえ有希、何でこんなにパジャマ持ってるの?」  
「…昔、人がいっぱい来て泊まっていたから。来客者用」  
「ふーん。それ、中学の頃とか?」  
「そう」  
 
長門のアドリブを聞き流しながら、まぁ大方いつもの宇宙パワーで生み出したんだろうと思っておく。  
 
では、ここら辺で俺達の位置関係を確認しておこう。  
俺達は二列に布団を敷いている。一列目、窓側から朝比奈さん、俺、古泉の順だ。  
二列目、同じく窓側。朝比奈さんの反対側に長門、そして俺の反対側はハルヒである。  
そして空いた六人目のスペース、つまり古泉の反対側にはどかしたテーブルが置いてある。  
 
…ところで、目が慣れて来ると部屋の様子が見えて来る訳だ。すると要らんもんまで見えて来る訳だ。  
例えばそう、俺の向かい側に居る超能力者とか。いつも笑顔が素敵な癒し系イロモノとか。  
布団に入ったままいつも通りニコニコしているお前だよ、古泉。こっち見んな、こっち見ながら笑うな。  
っていうかお前な、他に表情のボキャブラリーってもんが無いのか。いや、見せなくていいけど。  
 
「いえ、流石に寝てる時はどうしようもありませんね。寝言を口走らない事を祈るばかりです」  
 
俺も一緒に祈ってやるよ。変な事を口走ってくれやがったら暫くは寝れなくなるか夢に出て来るからな。  
「どうも」と困ったような顔を見せた古泉から、大急ぎで反対側の布団、朝比奈さんの方に目を移す。  
とてもじゃないが古泉の顔を見て寝るのはゴメンだね。それなら例え後姿だろうと朝比奈さんの…あれ?  
 
「ふゃいっ!」  
「おおうっ!?」  
 
朝比奈さんが居ないのに気付くのと、俺の布団に柔らかーい圧力がかかるのはほぼ同時だった。  
ぼふんと非常にいい感じの感触が布団越しに伝わる。朝比奈さんだ。暗いので転んだらしい。  
照明を落として大分経った筈だったんだが、まだ戻ってなかったみたいだ。  
 
うーむ、スイッチに一番遠い窓側の人に照明を頼んだのは失敗だったか。朝比奈さんなら尚更だ。  
いやしかし俺としては成功だ。大成功だ。素晴らしい。朝比奈さん、俺の掛け布団になってください。  
 
「ごごごごごごめんなさいキョン君!」  
「ああいえ、大丈夫ですよ。それより朝比奈さんは?」  
「はい、大丈夫れすぅ…」  
 
また立ち上がろうとしたのだが、結局諦めた朝比奈さんは、四つん這いになって布団に向かっていった。  
いちいち扇情的で参ってしまう。念の為聞いておきますが、まさかわざとじゃないでしょうね?  
 
 
「キョーンー…」  
 
おっと、こっちも不味い事になっている。地獄の底から響くような低い声の方を向けば、  
なまじ勢いがあるだけ閻魔様よりよっぽど怖いであろう涼宮ハルヒその人が居た。ったく、何だよ。  
 
「何だよ、じゃないわよ。アンタこそ何よ。鼻の下伸ばしちゃって、みっともない」  
 
流石に時間帯が時間帯だという事は理解しているらしく、幾分か小声でケチをつけてくるハルヒ。  
 
「伸ばしてなんかない。と言うかだなハルヒ、  
 何でお互い寝てるのにさも俺の表情が見えるような事を言うんだ」  
「だって分かるもん、私。キョンの表情なんて足し算より簡単に分かるわ」  
「へいへい、頭の良いこった…」  
 
ちなみにその理屈なら俺も頭が良い事になる。何故ならハルヒの表情だって俺は手に取るように  
分かる訳であり、考えるにあいつは膨れっ面ながらも得意気な、実に分かりづらい複雑な顔に違いない。  
朝比奈さんと俺が仲良くしてるのが面白くないのだが、俺の表情が読めるというのを自慢したいのだ。  
 
はっきり言っておこう。そんなんちっとも自慢できん。誰が羨ましがるんだそんなつまらん芸。  
そういえば長門の表情を見るのも数学の方程式よりは簡単なんだが…いや、単に得意不得意の問題か?  
 
「お二人とも仲が良いですね。以心伝心とは流石です」  
「そこ、寝言は言わないんじゃなかったのか」  
「僕はまだ寝ていませんが」  
「じゃあ言い方を変えてやる。寝言は寝て言え」  
 
いちいち話しをややこしくしないでくれ、お前は。  
 
 
 
一時間ほど経っただろうか。時計すらないこの部屋では、時間を確認する事は出来ない。  
携帯を使えば良いんだろうが、真っ暗な部屋であの光はちょっと目立つ。他の奴らに悪いよな。  
 
ところで、部屋の中は静まり返っているかと言えばそうでもない。  
時折外を通る車の音然り、誰かが鼻をすする音然り。誰もいびきを立てていないのは幸いか、はて。  
 
もう皆寝ちまったのかな? あまり気は進まないが、取り合えず古泉の方を確認してみる。  
古泉は俺に背を向けて横になっていた。それはそれで構わないんだが、息の音すらしないのは何だかな。  
寝てるんだか寝てないんだか分からん。いや、断じて奴が気になる訳じゃないぞ。  
まぁ…強いて言うなら、普段絶対に見せる事のない奴の素顔を拝んでみたい気もするが。  
 
ええい、話を変えよう。寝てるんだか寝てないんだか分からないのは長門も同じだ。視界の端、  
ちょっと見えにくいが、足元の向こうにちょっこり膨らんだ布団がある。あいつの小柄で華奢な体だ。  
とは言えあいつに限って言えば有事の時はすぐさま起きるだろうし、  
そもそもその有事が起きる予兆の段階で起きちまうだろうな。特に気にする必要はない、か。  
 
さて、問題は朝比奈さんだ。愛くるしい我らが癒しの女神は、吐息一つ一つにすら殺傷力を持っていた。  
どうやら完全に寝てしまっているらしい。「くー」と半端じゃない即死系の魔法の呪文を連発してくる。  
MP切れしないのだろうか。いや、寝ているから常時回復状態なのか?  
 
で、ついでのついで、最後のオマケ。勤めて気にしないでいようと思っていたあいつはどうなんだか。  
反対側に居るから、様子を確認するにはちょっと体を起こさなきゃならんのだが…いや、やめよう。  
どうして俺がそんな事をしなければならんのだ。いびきをかいてないだけ良いのさ。それで十分だ。  
 
ああ、十分だ。十分だってば。だからさ、俺の布団がモゾモゾしてるのは余計なんだってホント。  
 
「……おい」  
 
声を、かけた。布団の中のそれは俺の呼びかけにいったんピタっと止まったが、  
また何事も無かったかのように活動を再開した。もそもそと布団を押しのけて上がって来る変な塊。  
 
まさか。  
 
よせ、ハルヒ。いやハルヒなのか? ああ待て、確認しよう。古泉は居た。長門も居た。  
朝比奈さんに至っては完璧に夢の中だ。じゃあ誰が居ない? ああ、俺か。何だ、俺じゃないか。  
…やめよう。現実逃避は良くないな。いやしかし。待ってくれ、実はここ閉鎖空間なんじゃないのか?  
 
賭ける。そろそろ膝元まで上って来た柔らかい感触があの天上天下唯我独尊娘でない事に。  
実際天上天下唯我独尊娘な時点でもう確定的にあいつなんだが、そこは最後の希望、頼みの綱だ。では!  
 
ガバッと起き上がりクワッと目を見開きパッと布団を見たらペタンとなっていてドサッと俺は倒れた。  
 
「早ぇよ」  
 
涙を堪えてそう呟くのがやっとだった。もう間違いない、こいつはハルヒだ。何やってんだよオイ。  
お前な、これは何て言うかその、既成事実…ああ違う、禁則事項だ。いよいよパニックに陥っている。  
 
そんな俺の思いは露も知らぬであろうハルヒは、とうとう布団から首を出して俺に並んでしまった。  
ふぅーと一つ息をつき、俺に向き合う。こいつにしては妙なキョトンとした顔だった。いや、何だよ。  
 
「何してたの?」  
「お前が言うか」  
 
ハルヒとしては俺が突然起き上がった事を言いたかったんだろうが、生憎それは俺のセリフだ。  
そしてそのハルヒはこの非常識極まりない領海侵犯行為を特に気にした様子はない。  
親の顔が見てみたいとはこの事だ。しかし色んな意味でこいつの家に乗り込む勇気はなかったりする。  
 
「キョン。お泊りの王道と言えば?」  
 
例によって俺の事などどうでもいいらしいハルヒは、突拍子のない…いや、状況に合っていると言えば  
一応は合っている質問をして来た。幾分ズレているがな。で、こいつはどんな答えを求めてるんだかね。  
 
「…夜更かし、か」  
 
勿論俺には分からんので、当たり障りの無い答えを返しておく。それにフンと鼻を鳴らしてハルヒは  
「まぁ正解ね」と答えた。何やら満足そうで言葉に詰まる。凄いな俺、当たってたのか。  
いやそれ以前にお前は何がそんなに楽しいんだ。人の布団に潜り込んどいて…って、ちょっと待て。  
 
「ひょっとしてお前、ここで一晩過ごすつもりか?」   
「いいじゃない、ケチね。みくるちゃんはすぐに寝ちゃったし、  
 有希は寝てるのか起きてるのか良く分からないし。古泉君だって迷惑だと思わない?」  
「俺は良いのか」  
 
理不尽すぎる閉鎖社会の構造に異を唱える。ハルヒは押し黙り、暫く上手い反論を考えていた。  
が、当然俺の反論は正当なものであり、ちょっとやそっとの理屈じゃひっくり返らない。  
反論の糸口が見つからないハルヒは顔を赤くし、目を回し、口をパクパクさせ、やがてキレた。  
 
「あーもう、キョンは雑用だからいいのよ! それとも団長の決めた事にケチつける気!?」  
「分かったから怒鳴るなっ、これで他の奴らを起こしちまったら元も子もないっ」  
 
しかし。正当な反論の一つや二つでハルヒが止まるなら、最初から俺はこの団に入っちゃいないのだ。  
 
 
 
「自分の枕ぐらい持って来なかったのか」  
「んー、潜って来る時邪魔になるから。アンタ、半分貸しなさい」  
 
あれよあれよと言う間に、ハルヒは俺の領地の半分を略奪してしまった。消費税みたいに枕まで込みで。  
つくづく思う。こいつが現代に産まれたのは不幸中の幸いだったのだろう。こんな奴が戦乱の時代か  
何かにでも産まれて、間違ってマトモな権力でも手に入れてしまった日には…想像するだけで恐ろしい。  
 
と、そういえば。ホラーかサスペンスじみて来た思考を打ち切り、ふと気付いた事を口にした。  
 
「ハルヒ、カチューシャどうした?」  
「寝る時にまでつける訳ないでしょ。ん、アンタ、あれ実はお気に入りだったの?」  
「んな訳ねーだろ」  
 
ニヤニヤ笑いのその中央、機嫌良さ気な唇から繰り出された阿呆な戯言を一刀両断する。  
「へー」と綺麗に曲がっていた口は、「ふーん」と奇妙に歪んだ。あれ、地雷踏んだか?  
 
「ふん、そういえばキョンってポニテ萌えだっけ。あーやだやだ、髪型でしか女を見れないのね」  
 
…そこまで言う。あのな、髪型はあくまで付加価値だ。本人を修飾するものであり本質じゃない。  
その修飾するものがポニーテールなら良いな、と言うぐらいの話であり、断じて髪型一辺倒ではない。  
 
ああ、でも。まぁ。  
 
「たまには、そういうのも悪くないんじゃないのか」  
 
事実、こいつの素の髪型は新鮮だ。艶の良い、柔らかそうな黒髪。ハルヒ、間違っても染めるなよ。  
 
「…馬鹿」  
 
そのままハルヒは俺に背を向けてしまった。やれやれ、ご機嫌取りの難しいお嬢様だ。  
 
さて、どうしたもんかね。姿勢はともかく、目の前にハルヒが居ると何やら手の置き場に困る。  
そういえば俺は寝る時、腕をどうしていたっけか。意識した事がないのでちょっと思い出せない。  
寝れるかなーと首を傾げつつ、取り合えず腕組をする事で落ち着いてみた。  
 
ハルヒもハルヒで落ち着かない様子だ。そりゃそうだろう、後先考えず人の布団に潜り込んだんだから。  
腕を組んだり解いたり、二の腕を掴んだり擦ったり。チラチラ俺の方を見るのはどうにかならんのか。  
 
「……おい」  
「っ! 何よ、寒いの!」  
 
つくづく意地を張るのが好きな奴だ。姿勢を変えては戻し、また違う姿勢になっては解く。  
そんな事を何度も何度も繰り返し、いい加減もう一度声をかけてやろうと思った時、  
突然ハルヒが振り返った。実に不満げな表情だ。俺が何をした。むしろお前が何かしてるんだろうに。  
 
「…アンタ、どうもしないの?」  
「何が?」  
「私と一緒に寝……ああ、うん、寒くないの!?」  
「だから静かにしろって」  
 
それより何を言いかけたお前。いや、寒くはないさ。お前のその視線を浴びてなければな。  
落ち着かないという事に関してなら同意だ。最後に女の子と寝たのはいつだったか。  
いや、別にそういう意味ではなくてだな。いつだったか妹と一緒に寝てやった事があるってだけの話だ。  
それにしたって随分前の話であって、もう事実上無いと言っても何ら差し支えはない。時効だぜ。  
 
「落ち着かないんなら落ち着かないって言え。曲がりなりにも男の布団に忍び込んだんだから」  
 
何言ってんだろうね俺も。案の定ハルヒは物凄い勢いで顔を真っ赤に染め、  
凄まじい勢いで俺の首を絞めて振り回した。二度も怒られた手前、声は出していない。  
しかし無言で男の首を布団の中で締め上げるというのは何かこう、絵的にも倫理的にも色々とヤバい。  
もう一度言おう。俺が何をした。ここは浮気現場かそれに順ずる修羅場の類なのか。  
 
「おこっとおっとおっとこと…!」  
 
わかんねーよ。  
 
「おと、男の布団ってアンタねぇ…何言い出すのよっ」  
 
ようやく俺の首から手を離したハルヒが、さっきよりも激しく目を回しながら反論する。  
俺はグェホグェホと咳き込み…たかったのだが、例によって五月蝿いので無理やり息を整えた。  
ハルヒの顔は赤い。俺の顔は青い。そして苦しいのは俺だけだ。軽くジト目で睨んでやる。  
 
「何とは何だ。っていうか、じゃあお前は一体ここを何だと思って潜り込んで来たんだ」  
「し、質問を質問でっ…」  
 
視線を緩めない。ぐぎーわなわなぷるぷると、擬音で表現すればそんな感じで震えているハルヒ。  
勿論俺も引かない。せめて首を絞められた分のお釣りは返してもらわんとな。  
やがて根負けしたハルヒは、布団の中に顔を埋めながらぽつりと呟いた。  
 
「キョンの…布団…」  
 
勝っ――何だと。  
 
「ここはキョンの布団の中で……キョンが居て…」  
「……」  
 
これは、その、何だ。裁判で死刑宣告の罪状を言い渡されているようなものか?  
俺の狼狽を余所に、顔の半分、それこそ目だけを出しながらハルヒは俺をじっと見つめ返してきた。  
それは恨めしそうというより、どこか恥じらいを多分に含んだ目だった。  
 
隠れている頬は果たして何色なのか。ひょっとしたら、俺と同じ色なのかもしれない。  
さっきハルヒの表情は手に取るように分かると言っといて何だが…ああ、分からんね、これっぽっちも。  
分からんってば。こいつの非人道的極悪面白ロジックなど俺の知った事ではないのだ。本当だって。  
 
とにかく何故か突然しおらしくなってしまったハルヒに、その場凌ぎでも何でも良いから話をする。  
 
「えーと…そうだ、寒くないか?」  
 
そうそう、こいつはさっき寒いだとか言ってたじゃないか。取り合えずこれで良いよな。  
いやしかし「寒い」と答えられたらどうするんだ? 暖めりゃ…良い…のか!?  
待て。いや待て。そうだ、毛布を出せば良い。長門には悪いがちょっと起きてもらおう。あいつの事だ、  
有事の際はすぐに目を覚ましてくれるさ。ああ、今現在この瞬間が正に有事だ。非常事態だ。  
 
しかしハルヒは俺の予想を裏切り、いやある意味こちらの想像する最悪の状況は回避出来たのだが、  
それでもやっぱり俺の予想を遥かに超えるICBMを、最速最良のタイミングで心臓に撃ちこんで来た。  
 
「ううん…やっぱり、暖かい」  
「――」  
 
神よ。いや、神はハルヒなのか? ああもうこの際誰でもいい。答えろ。これは何かの試練なのか。  
俺にどうしろと。一つはっきりさせておこう。乗り越えられる苦難を試練といい、  
そうでない苦難を受難と言うのだ。そしてこれは間違いなく後者なんじゃないのか、ええ!?  
 
「……」  
 
最初に「夜明かしに来た」みたいな事を言っときながら、  
ついぞハルヒは「おやすみ」の一言も言わずに再び向こうを向いてしまった。だからどうしろと。  
 
 
 
それから更に時間が経った後。当たり前だが俺は寝れない。実際この状況で寝れる奴など居る訳がない。  
ちなみに多分ハルヒも寝ていない。当然だ、俺が寝れなくてこいつが寝れる道理などある筈がないのだ。  
 
ちらりと窓の方を見る。布団を被った朝比奈さんの背中越し、窓の外は今だに真っ暗だ。  
深夜の3時ぐらい…か? まだ朝日は昇り始めておらず、白くぼやけた空は見えない。  
 
俺達の姿勢は相変わらずだ。お互い寝返りの一つも打たない辺り、寝ていないという確信が強まる。  
たまに吐く俺の大きな呼吸で布団が上下する度、ハルヒの肩がピクっピクっと小動物のように揺れた。  
そこまで俺も神経質じゃないものの、やはりハルヒが気になって寝れないという点は同じである。  
 
それにしても。今更ながらに思うが、近い。俺とハルヒの距離は半端じゃなく近い。  
ちょっと頭を前にやれば、ハルヒの後ろ髪に顔を埋める事さえ出来る。  
そして一番不味いのは、どんどんその衝動が大きくなりつつあるという事だ。  
 
率直に言おう。これを認めてしまった日にはそこの窓から身を投げ出してしまいたいものなのだが、  
それほどまでの羞恥心をして抑え切れないほどにハルヒを後ろから抱きしめたいのだ。  
考えてみれば、そもそもハルヒはこういう事態を予想していたのだろうか?  
それとも、そんな事はまず無いだろうと踏んだ上で俺の布団に潜り込んで来たのか。  
 
…いや、確信がある。ハルヒはそれが嫌なら、まずさっきの時点で自分の布団に戻ろうとする筈だ。  
しかし、現に寝てもいないのにずっとここから動かない。それはつまり…良いって事だよな、ハルヒ?  
 
もう一度、息を吸う。もう駄目だ。例えそうでなくてもどの道俺が我慢出来そうにない。  
息を吐かずにゆっくりと動き出した。この数十分か、数時間か、一度たりとも動く事のなかった均衡。  
首を近づける。布団が歪み、枕が小さな音を立てる。当然それに気付かないハルヒではないはず。  
こいつはそれでも動かない。ハルヒは知ってて動かない。無言の肯定だ。肯定だが、肯定であるが故に。  
 
「寝てるなら、寝てるって言えよ」  
 
そんな矛盾した言葉を、溜め込んだ息と共に吐いた。その時、ようやくハルヒはみじろぎした。  
首まで染まった朱を俺に見られないように、肩をすくめて縮こまった。背中を丸め、俺から距離を取る。  
だが。だが、ハルヒは決して布団から出ようとはしなかった。再び腕を擦る音が、聞こえた。  
 
もし俺を拒むなら、ハルヒは「起きている」と答えるだろう。俺の言葉が聞こえていないのなら、  
そもそも寝ている筈だ。しかし現にハルヒは起きている。これはある種、確信犯のようなもの。  
そして「寝てる」と答えたのなら。寝ている奴を抱きしめたって、寝ているんだから分からないのだ。  
 
俺の、あるいは俺とハルヒの、最大限の譲歩。素直に「抱きしめていいか」なんて言える訳がない。  
これはあくまで寝ているハルヒに仕掛ける悪戯であり、俺もしらばっくれるし、ハルヒも知らない。  
だから俺は「寝てるなら、寝てるって言えよ」と尋ねたのだ。そして、ハルヒは、それを。  
 
「……寝て…る…っ」  
 
向こうを向いたまま、そう答えた。喉から搾り出すように、泣き声のように擦れた言葉で。  
お陰で俺の理性も擦り切れた。ああ、やっぱりこいつの表情なんて見なくたって分かる。  
泣きそうな顔で、顔を真っ赤にして、それでも意地を張って呟いたこいつが、どうしようもなく愛しい。  
愛しさの余り気が狂いそうだった。それでも衝動だけでハルヒを抱きしめるのは酷く悪い気がして、  
ゆっくりと、後ろから、腰に手を回して、抱きしめてやった。  
 
「…あ……ああ……あああ…」  
 
それだけで、ハルヒは喘ぎ声を漏らした。嬌声と共にハルヒの体がゾクゾクと震える。  
それを押さえ付けるかのように俺はハルヒを更に抱きしめて、後ろ髪に顔を押し付けた。  
ハルヒの背が仰け反る。仰け反ろうとするが、俺の腕に強く繋ぎとめられた肢体は動こうとしない。  
腰に回した腕に、ハルヒの手が添えられた。言葉こそ無いものの、「もっと強く」と訴えかけている。  
苦しくはないようだ。俺はそれに腕に力を入れるのではなく、俺の胸をハルヒに押し付ける事で答えた。  
 
ぐしゃり、ぐしゃりと枕が潰れる。ふと、柔らかい感触を顎に感じた。ハルヒの首だ。  
髪に顔を押し付けすぎたようだった。それにしても。こんな所でも、こんな所まで柔らかい。  
 
「……いい、よな?」  
 
その首に、むしゃぶりつきたくなった。抱きしめるだけではとても足りない。  
ハルヒはやはり答えなかった。寝ているという前提なのだから当然か。  
しかし。それもまた無言の肯定であるという事を、今さっきお互いに認め合った。  
 
俺はハルヒの首筋を、唇で挟み込むように口付けた。髪の毛の隙間から覗く白い肌を貪ろうとする。  
仰け反ろうとしていたハルヒは、不意に襲って来た未知の感触に今度は背を丸めようと体を揺らす。  
勿論俺は離さない。唇で、舌で、歯で、何度も何度も下品な水音を立てる。  
 
「ひ、ぃ……は…んんぅっ!」  
 
後ろを一通り舐め尽し、右を、左を、鎖骨から顎までまた舐める。ハルヒは俺の舐め上げる首の  
反対側に逃げようとする。俺のパジャマの袖を握り締め、歯を食いしばり、目を瞑り、  
必死に声を上げないよう耐えている。その唇を、こじ開けてやりたいと思ってしまった。  
 
「あ、はぁ…っ、あ、あ!」  
 
いつだったか、ハルヒが朝比奈さんの耳にそうしたように、俺はハルヒの耳にかぶり付いた。  
中まで舌を入れてペチャペチャと舐める。何度か出しては入れを繰り返し、そして甘噛みしてやる。  
再びハルヒの背筋が震える。痺れているのは俺も同じだ。神経なんてとっくに麻痺していた。  
 
ハルヒの横顔が見えた。ハルヒは俺にされるがままの状況に羞恥を感じているのか、  
はたまたそれが悔しいのか、とうとうぽろぽろと泣き出していた。それでも俺の腕を離そうとはしない。  
決して嫌悪からの涙ではないと、俺に訴えかけるかのように。  
 
「――」  
 
こいつの泣く所なんて、当然一度も俺は見た事がない。だから余計にショックだった。  
…ああ、参ったねこりゃ。どうしてこいつは、こんなにも可愛く、愛しいのだろう。  
もう駄目だ。さっきも言った気がするがもう駄目だ。理由はどうあれ、俺はハルヒを泣かせた。  
こういうのはアレだ、責任取れだとかそういう話だろ? 例えそうでなくとも俺が責任をとってやる。  
いや、誰かに責任があったとしても譲らん。ハルヒを誰にも渡したくない。ハルヒを、俺の物にしたい。  
 
認めよう。くそったれ、俺はハルヒに心底惚れちまってるらしい。  
 
「…畜生」  
 
毒づき、しかし勝手に浮かんで来た笑みを噛み殺しながら、俺はハルヒの肢体から手を離した。  
「え…」と僅かに呟くハルヒ。安心しろって、やめる訳じゃないんだから。だからそんな顔すんな。  
俺はそのままハルヒをゆっくりとこちらに引き込む。そしてハルヒの背を、布団に落ち着かせた。  
体制を入れ替え、その肢体に覆い被さる。文句無しに押し倒した姿勢だ。途端、ハルヒは慌て始めた。  
 
「えっ、あ、これ、ちょっと、キョン……?」  
 
流石にもう寝てるふりなど出来ないらしい。赤いままの目を開けて、ぱたぱたと動き始める。  
それをさっきと同じように、体重をかける事によって押し殺した。既に顔は十分過ぎる程に赤い。  
俺だってそうだ。さっきから二人とも真っ赤になりながら行為を続けていたんだから。  
 
だけど、今からやるのは。そんな事よりよっぽど恥ずかしいに違いない。  
 
「ハルヒ、あのな」  
「っ!」  
 
ハルヒの首筋に顔を埋めたまま、そう呟く俺の声色から何かを感じ取ったのか。  
今まで一番大きく、ハルヒが跳ねた。これ以上ないほど大きかった筈の心臓の音が、  
そろそろ壊れるんじゃないかというぐらい更に激しくなっていく。だが、それは俺も同じだ。  
 
「このまま、最後までやっちゃって良いか」  
 
どっちがどっちの心臓の鼓動か、とっくに分からなくなっている。分かるのは、  
二人とも何の躊躇もなく胸を触れ合わせているという事。それをお互い受け入れているという事。  
 
さっきまで散々ハルヒの首を舐め回していた癖に、喉も唇も気が付いたら乾いていた。  
俺は顔を上げて、ハルヒの目を見つめた。いつもより、ほんの少し強張った俺が映っている。  
綺麗な瞳だと、素直に思えた。ハルヒも俺の目を見つめている。瞬きをする暇も惜しんで見つめ合う。  
後は、もう一言口にするだけ。実際「やっちゃって良いか」なんて後の話だ。そう、そんな事よりも。  
 
「好きなんだ」  
 
ハルヒは、やっぱり動かなかった。動かなかったけど、その言葉を待っていたかのように。  
 
「うん」  
 
と答えた。修飾も何もない、とても簡潔な言葉。それでも俺には十分過ぎる。  
ただただ、満たされるような感覚だった。ひょっとしたら、いや、きっとハルヒも同じなんだろう。  
目を潤ませながら、幸せそうにハルヒは微笑んだ。そう、微笑んだ。それは初めて見る表情だった。  
俺はまだ、ハルヒの事を少ししか知らない。だけど、ハルヒはこういう笑い方も出来ると今知った。  
幸せ、などと言ったら大袈裟だろうか。それでも。これ以外に当てはまる言葉なんか、無い。  
 
「…大好き」  
 
好きを通り越して大好きとまで言ってくれた。ああ、やっぱり幸せなんだろう、俺は。  
だから俺はそれに答えなくちゃならない。ゆっくりと顔を近づける。ハルヒが瞼を閉じた。  
さっきのように強くはなく、俺を受け入れるように。小さく「有り難う」と呟いたのは俺か、ハルヒか。  
 
唇が触れ合った。それは俺の知らない感覚だったが、真っ先に「柔らかい」と感じた。  
甘くもなく、しょっぱくもなく。ただこれが「ハルヒの味」なんだと思うと、もっと貪りたくなる。  
 
 
ハルヒが音を立てて俺の唇を啄ばむ。触れ合わせているだけではまるで足りないと主張している。  
俺も同じようにハルヒの唇を吸った。絡み合うように、揉み合うように、貪り合う。  
足りないのはむしろ俺の方だ。やっぱり、最後までやっちまいたい。だけど、唇ももっと欲しい。  
 
舌で、ハルヒの唇を突付いた。ビクンと身を竦ませたハルヒだったが、すぐに唇を割ってくれた。  
開いた唇から舌を進入させて、まず前歯をなぞる。唾液を多分に含んで送り込む。  
そのまま口を大きく開けさせて、頬の裏まで舐め取った。蹂躙しているような気分だ。  
 
「ん…ぐ……えっ…ぁ……」  
 
思いの他ハルヒは舌に対して消極的だった。俺が押し込んだ舌におずおずと触れる。少しだけ、苦い。  
ペチャペチャと何度か俺の舌の周りを行ったり来たりを繰り返し、ようやく俺の方へ踏み込んで来た。  
これでもうどっちの唾液かなんて分からない。ただ透明な粘液が俺とハルヒの間を行き来している。  
 
息苦しくなって唇を離した。だらしなく、犬のように舌を垂らしてしまう。ハルヒは大きく口を開け、  
俺の口から垂れ流された生温い混合液を、やはり俺と同じように大きく垂らした舌で受け止めていた。  
それを口をすすぐように頬に含んだ後、ゴクリと音を立てて飲み込んだ。  
 
「――」  
 
ハルヒはやはり、笑っていた。ゾっとするが不快ではない。むしろこっちこそ笑い出してしまいそうだ。  
こりゃあ不味い。歯止めが利きそうにない。いつからか、いや、そんなの最初からだったか。  
 
既に俺の下半身は充血し切っている。ぐい、とそれをパジャマ越しに、ハルヒの局部に押し付けた。  
恥じらいなど何を今更といった話だ。「んっ」と小さく声を出すハルヒ。だが、それだけに留まらない。  
ハルヒは局部を俺のそれに擦り付けた。何度も何度も、自慰をするように。いや、真実それは自慰だ。  
パジャマを通して、そこが熱を帯びていく。切なそうな目で、ハルヒは俺に媚びた。欲しい、と。  
 
「…し……」  
 
して、と。一線を越えようと、ついにそう呟こうとしたハルヒが――青ざめた。  
 
「ん?」  
 
何だ? ハルヒは俺の後ろに目を向けている。あがーと阿呆みたいに口を開けている。どうした一体。  
後ろに何か居るのか。そう思って俺は振り向き――そいつが、いつの間にか居たという事を知った。  
 
「……」  
「…長門?」  
 
 
この沈黙。日頃SOS団の部室で良く感じるそれは、いつの間にかいつも通りの表情をしてそこに居た。  
何故だ。何故居る。何故そこに居る。何故お前は当たり前のように俺の布団の中に潜り込んでいる。  
ああ待て。良い。それはまぁ良い。いや良くはないがその前にだ。お前……いつからそこに居た?  
 
「…最初から」  
「……」  
 
お前、お前それ、ちょ、おま、俺とハルヒが宜しくやっていた所を眼前で見ていたのか!?  
 
「そう。正確には、あなたの背中にしがみ付いていた」  
「だから何やってんだお前!」  
 
じゃあ何か!? 俺がハルヒに後ろから色々やっている時はハルヒの反対側に居て、  
俺がハルヒを押し倒してからはずっと俺の上に乗っかっていたのか!?  
気付けよ俺! 後ハルヒ! あーでも長門の事だから例によって宇宙パワーを使ったんだろう、  
またそうでなくともこいつの気配遮断は一級品だから俺もハルヒも気付かないだろうなと、一通り  
軽い現実逃避を済ましてから、しかし聞かないのも何なので念の為長門に何をやったのか尋ねてみた。  
 
「重力制御」  
 
んなアホな力こんなくだらない事に行使すんな…と叫ぼうとして、さっき一度叫んでいた事に気付いた。  
そう、既に叫んでいた。現状、起きているのは俺とハルヒと長門。いやしかし。先の言葉を思い出そう。  
俺はさっき「分かったから怒鳴るなっ、これで他の奴らを起こしちまったら元も子もないっ」と言った。  
だが現状はどうだ。叫んだのも怒鳴ったのも正しく俺であり、つまりこの状況が示す物とは…?  
 
「……キョン…くん? それに、涼宮さん?」  
「――」  
 
朝比奈さんが、起きていた。窓側の方に目を向ければ、顔を真っ赤にした朝比奈さんが居た。  
「ふぇー」と呟き、熱暴走した頭から熱気を吹き出そうと口にしていた。が、しかし。  
熱暴走しそうなのもやっぱり俺であり、しかして俺より暴走が早いハルヒは当然の如く。  
 
「うっきゃあああああああああ!」  
 
俺の首を掴み、長門を乗せたまま、朝比奈さんの方へ向かって凄まじい速度で転がり始めた。  
当然俺も長門も巻き込まれる。目が回るがハルヒの目は俺の倍ぐらいの勢いで回っている。  
これは結構ヤバいんじゃないだろうか。世界改変起こすんじゃないのか? 閉鎖空間はどうなる?  
それ以前に俺の明日からの生活はどうなってしまう? SOS団は? ハルヒは俺の恋人なのか?  
 
 
「ふみぃっ!」  
 
俺達はそのまま向こうの布団まで転がり続け、朝比奈さんに突撃した。悲鳴を上げる朝比奈さん。  
長門は長門で勢いを殺せずに振り落とされ、そのまま窓まで転がって行った。ごつん、と良い音が鳴る。  
 
「こうなったら乱交よ、即乱交パーティーよ!」  
 
良い感じに不味い事になっているハルヒ。踏み潰された朝比奈さんを脱がしに掛かっている。  
恨めしそうな顔でこっちを見つめて来る長門にスマンと言いつつ、取り合えず俺はハルヒを押さえた。  
わいのわいのぎゃーぎゃーぴーぴー。誰でもいい、この状況をどうすれば収拾出来るのか教えてくれ。  
 
ふと。視界の隅で、誰かがムクリと起き上がる気配を感じた。  
 
「……」  
「古…泉?」  
 
誰か、と言うまでもない。この部屋には5人しか居ない訳であり、4人起きているなら残りは一人だ。  
古泉である。奴は布団を被ったまま上体を起こしていた。その表情を伺う事は出来ない。出来ないが。  
何でだろう。現状で既に危機的状況なのに、あいつがその上を行くような気がしてならない。  
 
古泉がゆっくりと布団を払い除けた。奴の顔は――いつも通り、ニッコリしていた。  
 
「!」  
 
ニッコリしていたが故に、俺のお陰様で鍛えに鍛え上げられた第六勘が悲鳴を上げた。  
ヤバい。奴は何をする気だ。よせ、止めろ。こっちに来るな、近づくな。何で迫って来るんだお前。  
だからやめろって。来るな、よせ、よせっつーの。何だその顔。何なんだその顔。だから笑うなって…!  
待て! こら、お前! 何で布団の中入って来るんだよオイ! おま、ふざけ…え、何? 何だって?  
 
「冒ー険でっしょ♪ でっしょ♪」  
「う、うわあああああああああああ!」  
 
真に遺憾ながら、ついに俺は古泉の大冒険を止める事は出来なかった。  
そして戻って来てまた俺の背中に引っ付いた長門も巻き込み、俺達の夜は明けて行ったのだった…  
 
 
 
「で、だ」  
 
翌朝。一睡もせずに迎えたその日。俺達はちゃぶ台に並び、朝食を取っていた。  
 
実際、昨日の夜は結局何があったんだかね。朝比奈さんが脱がされ長門が脱がされ古泉が脱いで  
ハルヒが脱いで俺が脱がされ揉みくちゃにされた。えっちな事はしてないぞ、一応。多分。  
全く、酒なんぞ欠片も入ってないのに途中から何にも覚えちゃいない。  
 
取り合えず、俺が覚えているのは。  
 
「頂きまーす♪」  
「あの、涼宮さん…? 朝からこれですか…?」  
「材料があって助かりました。いやいや、実におめでたいですね」  
「……情報を再構成して作成しもごっ」  
「あ、おう、頂きます! いや旨そうだなこれ!」  
「当然よっ! 私達の門出を祝う料理が不味い訳ないじゃない!」  
 
今日の朝飯が、赤飯になっている理由ぐらいだ。  
 
 
 
完、とな。  
 

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