結果についての原因…なんてのは、因果だかなんだかその辺の道を極めたとされる
お釈迦様にでも聞いてみたら良いかと思うが、とにかく結果だけいうと、
俺は今とある女との結婚準備をするのに追われていた。正確には結婚式の式場に居た。
相手はだれかだと?うむ、それは良い質問だ。ヒントは、相手は高校時代から縁のある女である事。
朝比奈さん?ああ、実に魅力的な仮説だが、それはない。
朝比奈さんなら今は、その花嫁の付き添いで花嫁の控え室に居り、
今はケープをその女の頭にかけている頃だろう。
その後でその女に「何か」させられる事になるかもしれん。
それはSOS団として、その女および朝比奈さんに長年付き合った俺の経験則だが。
長門?うーむ、惜しいと言えば惜しいのだが、それもまた違う。
今、長門は、「祝い事のスピーチをするための心得99箇条」という、そのノウハウ物としては
異常なまでの分厚さの本を外の椅子で読んでいるみたいだ。おそらくそれを踏まえたスピーチをするんだろうな。
人類の歴史のそもそもから説き起こすような、あまりの長さにグイン・サーガも真っ青な長大なスピーチになるのか、
はたまた「そう」で終わるような、あまりの短さに星新一も墓場から悔しさのあまり蘇る史上空前の短いスピーチになるのか。
それは分からん。実はちょっとだけ楽しみだ。
では鶴屋さん?阪中?あー、どちらも無い。
その二人は、今はチャペルの友人席に座っているはずだ。
古泉とか考えた奴、一歩前に出ろ。俺直々にギャラクティカ・マグナムを食らわせてやる。
見開きで"DOKOOOM"と言う擬音と共に宇宙の果てにすっ飛んでいくと良い。
そいつはこの俺の付き添い役だ。いまはどっかその辺に居るはずだ。
その上、こいつときたら場所の手配から、道具やら、神父の手配までも整えやがった。
それに関しての一切は、何でも「個人的好意」だそうだ。機関のインチキ権力は使わなかったらしい。
ま、結婚指輪だけは自分の薄給の三か月分から捻り出したがな。
さて、候補としてはこんな所か。もうここまで言えば、普通大体見当が付くだろうが、
相手は、ハルヒだ。
一年前の俺にこのことを聞かせたら、とりあえずロシアンマフィアを経由したトカレフだか、
あるいは香港の蛇頭辺りから入手した実弾が出るように改造されたモデルガンとかで
頭をぶち抜くところなんだろうが、今の俺はもはやそんな事は思わなくなっていた。
…いや、もう何を思うか、とか何を考えるか、なんてのは割とどうでも良い。
俺は正直な所、長年付き合ってきたハルヒに慣れた。ただそれだけの事だ。
…やれやれ。
さて、そういうわけで、今俺は母と最後の…といっても、どうせ近場に新居を設けるので、
今生の別れというわけではないのだが…挨拶をしている。
「高校生のとき、あなたが何人か女の子を家に連れてきたときは、誰を選ぶのかしら…
と思ったんだけどね、やっぱりあの娘だったの?」
断言しよう。その頃の俺には、そんな思惑や未来予想図Uなど決して無かったであろうことを。
「さて、どうかしら?ふふ、そうね、あなたには、これを見せておきたいと思ったのよ」
そう言うと、母はとある縦長でかつある程度の厚みのある、一般的には写真を収納している本、
いわゆるアルバムを俺の前に出した。
過去を振り返ろうとでも言うのだろうか。それならば結婚式の披露宴ででもやってくれると助かる。
そのための時間も設けてあるはずだ。
「まあ、ここを見て御覧なさいよ」
そういうと、母は一枚の写真の辺りを指差した。
そこには小学生に上がったか、上がらないか位の頃の俺が居る。
なにやらその当時から人生を達観した様な、クソ生意気な顔をしており、
それはそれで実に懐かしいが、まあそれは良い。
この際重要なのは、その写真の隣の写真である。
そこに、俺とおんなじ位ちみっこいハルヒが、口をへの字にして写っている事だ。
…えーと、実はハルヒと俺が、生き別れの兄妹とか…そんな落ちは無いですよね、お母様。
「ふふふ、その発想は無かったわ」
…良かった。日本では三親等以内の婚姻は禁じられており、そうなるとこの婚姻は当然無効である。
そんなバッドエンドだけはなんとしても避けたい!
…って、何を俺は慌てているんだろうな。
本当は実の妹以外に、新たに無茶苦茶手の掛かりそうな、あの傍若無人の核弾頭つきの団長様が
仮にでも妹であったなら、それは一生涯に渡る人生の混沌、それを意味している所為だ。
ただそれだけの事だ。断じてそれ以上でもそれ以下でもない。
「この写真はね、伯父さんが撮ってくれたものなのよ」
伯父さん?ああ、あの人か。アーセナルだかアルパだかジナーだか、
シーガルだかミノックスだかライカだか…とにかく写真機に生涯を捧げているような伯父が俺には居る。
おそらく、レンズやら本体やらアクセサリやらに、既に一財産をつぎ込んでいるんじゃないだろうか。
その奥さんはもう諦めたようで、家に来ちゃあ妹であるウチの母親に愚痴をこぼしている。
「その伯父さんがね、新しい写真機を買ったから…ってことで、家の近くに色々撮りに来た事があったの」
まああの人ならやりかねないな。
ついこの間は、なんでも1台新機種を買ったため、2連休に富士登山を単独敢行し、
二日がかりで富士山頂にて御来光を数枚撮っただけで下山し、次の日は疲れも見せずに平然と出社した程の人だ。
写真に関する行動力だけならハルヒにも匹敵する。
「それでね、家の家族は全員撮ってもらったんだけど、一枚フィルムが余ったんだって。
だから、近くに居た可愛い女の子の写真を撮らせてもらったそうよ」
…アブねえな、ウチの伯父。時代が時代なら、ロリペドとして通報されてもおかしくは無かったぞ。
寛容だった時代と、相手がハルヒであること、そしてそいつがその時通報しなかった事、その三つに感謝だな。
「で、それがこの写真。ね?分かるでしょ」
と、言うと、母は俺にニコッと笑いかけた。何を言いたいのやら。
とにかく一つだけ言える事はある。
結局の所、俺とハルヒとは、けっして「偶然」なんかでは無く、よく分からん「縁」とやらで最初から結ばれていたらしいな。
終わり
おまけ
追記しておくと、その写真を見たハルヒは、取り立てて驚いた顔をしなかった。
理由は…さて、なんでだろうね?
男には分からん、女の感ってのがあるのかもな。