バシッ!!  
 
痛い。  
何?あたし、今、何されたの?  
 
「いい加減にしろ!」  
 
ああ、キョンに叩かれたんだ、ビンタ。  
でも、でも何でキョンに叩かれたんだっけ?  
 
「新しい服だか何だか知らねえが、朝比奈さん泣かせて!」  
 
ああ、そうだ。  
あたしがみくるちゃんに新しい服を着せてあげようとしたら、みくるちゃんが嫌がって泣いちゃったんだ。それで・・・  
 
「しかも何でそれでおまえが怒って朝比奈さんを殴るんだ!」  
 
何で殴ったかなんてわからない。  
何故だか今日は泣き出したみくるちゃんに異常に腹が立って・・・  
ううん、今日だけじゃない。最近ずっとそうだった。  
みくるちゃんだけじゃなくて、有希にも、そして鶴屋さんにも腹が立ってた。  
何で?  
 
「朝比奈さんはおまえのオモチャじゃねえんだぞ!」  
 
思い出した。  
キョンが最近みくるちゃんや有希、鶴屋さんとばかり話しているから。  
何故かそれが無性に腹立たしくて。  
あたしと話すときには一切笑顔なんて見せてくれないのに。  
みくるちゃん達と話すときはすごい楽しそうに笑うのに。  
 
「だいたい朝比奈さんは・・・」  
 
ほら、今だってそうじゃない。  
みくるちゃんのことばっかり庇って。  
あたしに見せるのは呆れた顔や怒った顔だけ。  
 
「朝比奈さんはいつもおまえに・・・」  
 
そんなにみくるちゃんのこと庇うんだったら、そんなにみくるちゃんのことが好きなら、そう言えばいいじゃない。  
そんなにあたしのこと怒鳴るんなら、そんなにあたしのこと嫌いなら、そう言えばいいじゃない!!!  
さっきからずっと朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん朝比奈さん!!!  
 
 
「朝比」  
「・・・さい・・」  
「ん?」  
「うるさい!」  
 
側にある湯呑み等をしまう食器棚を思い切り叩く。  
叩いた所はガラス戸だったみたいで、派手な音をたててガラスが割れた。  
手がその破片で切れたみたいだけど、結構痛いけど、かなり血が出てるけど関係ない。  
 
「ハルヒ・・・」  
 
キョンは慌てているのか、ビックリしているのか、凄い顔で私を見ている。  
今まで見たことのない顔だったけど、やっぱり笑顔じゃない。  
 
「うるさいのよっ!さっきから朝比奈さん朝比奈さんって!何で?何でよ!そんなにみくるちゃんが大事なわけ?」  
「大事も何も・・・。それよりハルヒ、手、見せろ。今はそっちが先だ」  
 
キョンはアタシの質問に答えない。というか、アタシの顔すら見ていない。  
アタシがこんなにも叫んでるのに顔すら見てくれないわけ!?  
キョンがアタシの手を取ろうとする。  
 
「触るなっ!」  
 
綺麗なキョンの手をあたしの血にまみれた手がはらいのける。  
それに驚いてあたしを見るキョンにあたしは言う。  
 
「アンタのせいよっ!」  
「・・・は?」  
「みんなアンタのせいよ!あたしがこんなに苦しいのもみんなアンタのせい!」  
「な、何だって?」  
「キョン!アンタさえ、アンタさえいなければ!」  
「お、おい、ハルヒ?」  
「アンタなんか、アンタなんか・・・」  
 
最後のセリフを叫ぼうとするとみくるちゃんと古泉君、それに有希までがこっちに走ってきた。  
何でかはわからないけど、きっとあたしのセリフを止めようとしてるんだろう。  
 
「涼宮さん、止めて!!」  
「それだけは言ってはなりません!!」  
「・・・ダメ!!」  
 
でももう遅い。  
 
「アンタなんかいなくなればいいのよ!」  
 
力の限りそう叫んでから、あたしの意識は途切れた。  
倒れる間際、強い光と振動を感じた気がした。  
 
 
 
「・・・」  
 
目を覚ますとあたしは部室のイスに座っていた。  
こういう時って、普通は窓から夕日が射し込むものだけど、今は何の光も射し込んでこない。つまり、今は夜らしいわね。  
長い時間イスに座ってたのかしら?少しお尻が痛い。  
 
「あたし、あれからどうしたんだろ・・・」  
 
ボサボサになってしまった髪を手で直しながら、記憶を探ってみた。  
 
「アンタなんかいなくなればいいのよ、か・・・」  
 
怒りという感情にまかせて、好きという感情にウソをついて、思いっきり叫んだそのセリフ。  
本当はそんなこと、これっぽっちも思ってない。  
今まであたしはいろんなことをやってきたけど、いつも側にはキョンがいた。  
笑顔じゃなくて、面倒くさそうな顔をして、時には怒りながら、それでもキョンはあたしの側にいてくれた。  
今のあたしはキョンがいるからやっていける。キョンもあたしといるからやっていける。これはきっと自惚れなんかじゃないわ。  
だから・・・  
 
「あたしの方から謝った方がいいわね、今回は・・・」  
 
考えてみればあたしはキョンに打たれたけど、それでも今回はあたしが謝ろう。  
キョンのことだもの。  
あたしの方から謝れば100%許してくれる。  
そして、映画の時みたいにまた仲直りできるはずよ!  
 
「そうと決まったら今日はもう帰りましょ!」  
 
落ち着いて考えてみれば、キョンや他のみんながどうしてあたしを置いて帰ったのか、すごく気になるけど、それは仲直りした後に問いただそう。  
 
「んっ!!」  
 
立ち上がる時に右手に痛みが走った。  
そういえば右手、ケガしたんだっけ。  
でも、そんなことは関係ない。  
今は早いとこ家に帰ってまた寝ましょう。こんなキズ、一晩眠れば治るわ。  
 
「明日が楽しみだわ!」  
 
月に向かって叫んだ後、全速力で家に向かった。  
 
 
翌日、あたしは普段より一時間ほど早く目が覚めた。  
昨日謝ろうと決めてから、テンションは最高潮。  
寝ようとしても寝れないし、寝ても早く起きちゃった。遠足を翌日に控えた幼稚園児より酷かったわ。  
とにかくせっかく早く起きたんだし、普段はしないシャワーを浴びて、いつもより身だしなみには気をつかって、早いとこ学校に行かなくちゃ。  
 
家を出て、やっぱり全速力で学校に向かった。  
キョンが文句を言っていたあの坂も一気に駆け上がる。  
 
「さ、さすがにこれは応えたわ・・・」  
 
肩で息をして、靴を履き替え教室に向かう。  
中にはそれなりの数の人間がいたけど、その中にキョンの姿はなかった。  
荷物を置いて自分の席に座って、前の席のキョンが来るのを待つ。  
さぁ、キョン。さっさと来なさい!!  
 
 
 
「・・・遅い」  
 
HRの5分前になってもキョンは来る気配を見せない。  
一体何やってるのかしら?  
谷口のアホに聞いてみると、「今日はまだ見てねえな」だって。アホな上に使えないわ。  
 
「風邪でもひいたのかしら・・・」  
 
結局HRになってもキョンは来なかった。  
 
 
ガラリと教室のドアが開いて、担任の岡部が入ってきた。  
なんでかしら、顔が暗い。辛気くさいわね、うっとうしい。  
ま、あたしには関係ないけれど。  
 
「みんなに悲しいお知らせがある」  
「?」  
 
朝一番の台詞がそれ?まったく人の気分を悪くしないでほしいわ。  
それにしても悲しいお知らせ?  
何かしら。誰か転校でもするのかしら?  
もしそうなら、朝倉さんの転校と関係がないか、またキョンと捜査してみましょう。  
まぁ、そのためにも早くキョンに謝らなくちゃいけないんだけど。  
さっさと来なさいよ!  
 
「昨日、××××(キョンの本名)が」  
 
ドクンッ  
キョン?何でキョンの名前が出てくるのよ。  
 
「下校途中に」  
 
ドクンッ  
何?この胸騒ぎ?やだ、何これ?  
 
「横断歩道を歩いていたところ」  
 
ドクンッ  
ウソ、まさか。大丈夫よね。何にもないわよね?  
 
「信号を無視したトラックに」  
 
ドクンッ  
キョン、来るわよね?ちゃんとあたしの前に来るよね?  
 
「はねられて」  
 
い、いやよ  
 
「亡くなられた」  
「いやあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」  
 
 
 
「いやあああああぁぁぁぁぁ!!!!!」  
「す、涼宮!?」  
「うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ、うそだ!適当なこと言ってんじゃないわよ!」  
「うそじゃない!誰がこんなウソをつくか!」  
「ついたじゃない!キョンが死んだって!キョンが死ぬわけないないじゃない!キョンは、キョンは!」  
 
最後の方は何を言ってるのか自分でもわからなかった。  
岡部があたしの方に近づいてくる。  
 
「落ち着け、涼宮!」  
「うるさい!落ち着いてるわよ!」  
「いいか?××××は死んでしまったんだ!俺だって最初は信じられなかったよ!だけど、ちゃんと見てきたんだ!」  
「何をよ!」  
「アイツの死体だ!病院で、確認してきた・・・」  
「!!!」  
「信じたくない気持ちもわかるが、アイツはもう亡くなったんだ・・・」  
 
あたしだってバカじゃない。そんなことはわかってる。でも信じたくなかった。  
キョンがいなくなるなんて。まさか死んじゃうだなんて。  
 
「とにかく今は座れ」  
 
何が「とにかく」なのかよくわからない。  
岡部が座らせようと呆然と何もできないあたしに手を伸ばしてくる。  
反射的にその腕を払おうとして  
 
「あたしにさわ・・・」  
 
突然、昨日のことが頭をよぎった。  
昨日、あたしを心配してくれたキョンの手をあたしは払いのけた。  
少し暴走したあたしに手をかけて止めてくれたキョンはもういないんだ。  
昨日のあれが最後になっちゃった。こんなことになるなんて予測できなかったとはいえ、あたしはキョンの最後の手を払いのけてしまった。  
 
(俺、実はポニーテール萌えなんだ)  
(いつだったかのお前のポニーテールはそりゃもう反則なまでに似合ってたぞ)  
(おい、ハルヒ。この映画は絶対成功させよう)  
(俺は夏休みにだされた宿題を何一つやってない。それをしないと、俺の夏は終わらないんだ!)  
(ハルヒ、ヨダレを拭け)  
(心配かけたようだな。すまなかった)  
(長門がやっぱり転校するとか言い出したり誰かに無理矢理連れて行かれようとしてたら、好きなように暴れてやれ。その時は俺もお前に荷担してやる)  
(猫耳属性の持ち合わせはねえよ)  
 
現実の中で、夢の中で。  
怒った顔で、笑った顔で、呆れた顔で。  
時に優しく、時に激しく。  
なんだかんだであたしを気遣ってくれたキョン。  
もういないんだ。キョンは・・・いない。  
 
キョンはいないと思えば思うほど、あたしの頭の中はキョンで一杯になった。  
そしてついに、あたしの中のキョンとの思い出が形となって溢れ出した。  
 
「キョン、キョン・・・。うぅっ、いやよ、そんなの・・・うあああぁぁぁ」  
 
涙が止まらなかった。  
周りのことも気にせずにあたしはその場に泣き崩れた。  
もしかしたら泣いてるあたしを心配して、どこかからキョンがまた手を差し伸べてくれるかと思ったけど、当然そんなことはなくて。  
改めてキョンがもういないことを実感して、さらに涙が出た・・・。  
 
どれくらい泣いてからだろう。  
ある願望があたしの中に現れてた。  
 
「・・・いたい」  
「ん!?どうした?何だ」  
 
急に泣き出したあたしに驚いて、ずっと立ちっぱなしだった岡部があたしに聞き返す。  
 
「会いたい・・・」  
「誰にだ?」  
「キョンに・・・」  
「だから、涼宮」  
「一目でいいわ・・・。お願い、キョンに会わせて・・・」「・・・」  
 
あたしの声は震えていた。  
しばらく岡部は黙ってあたしを見ていたが、何か決心したのか、あたしにむかって口を開いた。  
 
「※※※※病院」  
「・・・え?」  
「※※※※病院だ。そこでアイツは寝ている。酷かもしれんが、どうしてももう一度会いたいというなら、それしかない」  
「※※※※病院・・・」  
「授業は出席扱いにしてやる。行くんだったら、さっさとしろ・・・」  
「っ!!」  
 
あたしは立って走り出した、※※※※病院にむかって。  
教室をでるとき、目の端におかしな人影が見えたが、今はそれどころじゃない。  
もっと言うと、その人影はあたしを見て笑っていた気がしたけれど、やっぱり今のあたしには関係なかった。  
あたしはただ、※※※※病院を目指して走るだけだった。  
 
 
 
「※※※※病院・・・。ここだわ」  
 
学校を飛び出してから30分。  
あたしは岡部に言われた病院の前に立っていた。  
 
「キョン・・・」  
 
もう死んでしまったとわかっていても、もう一度キョンに会いたかった。  
もうあたしに話しかけてくれることはないとわかっていても、もう一度キョンに会いたかった。  
 
病院に入り、受付にいた看護士に事情を説明し、キョンの場所に案内してもらった。  
その看護士によると、キョンの家族は今は病院を離れているそうだった。  
 
「ここです」  
 
人気のない廊下の奥、ある扉の前で看護士は足を止めた。  
 
「ありがとう」  
「それでは・・・」  
 
あたしがお礼を言うと、看護士はさっさと来た道を戻ってしまった。  
 
「・・・」  
 
ドアに手をかける。  
ドアノブを回すと、重たい扉がゆっくりと開いた。  
 
「・・・キョン」  
 
暗い部屋の真ん中で、キョンはねむっていた。  
白い布をかぶせられて、線香の匂いに包まれて、本当に眠っているかのようだった。  
 
ゆっくりとキョンの体に近づいて、キョンの手を握る。  
 
「冷たい・・・」  
 
前のキョンが持っていた暖かさはもうなかった。  
 
「なに勝手に、死んでんのよ・・・」  
 
当たり前だけど、あたしの問いに対してキョンの唇が動くことはなかった。  
 
「せめて、仲直りくらいしたかったわ・・・」  
 
眠るキョンの頬に手を添えてつぶやく。  
 
「だから、もう意味がないかもしれないけど、一応謝っとくわ。ごめんなさい」  
 
あたしは淡々と独り言を続ける。  
 
「お詫びもいろいろ考えてたんだから。でももうほとんど無駄になっちゃたわ・・・。死んだアンタにできるお詫び・・・。そうね、ありきたりでつまんないけど、アンタの分まで生きてあげるってことぐらいかしら」  
 
そうよ。いつまでも悲しんではいられない。  
突然終わってしまったキョンの人生。その分まであたしは強く生きてかなくちゃならないわ。  
なぜならあたしはキョンが所属していたSOS団の団長、涼宮ハルヒなんだから!  
 
「キョン、あたしはもう行くけど、最後に・・・」  
 
眠ったキョンの顔に自分の顔を近づけて。  
 
「大好きよ」  
 
あたしはキョンの唇にキスをした。  
現実世界、キョンとの最初で最後の口づけは冷たい死の味がした。  
 
「死体とキスだなんて。涼宮さん、あんまりいい趣味とは言えな」  
 
「誰!?」  
 
キョンの唇から離れて、後ろを振り返った。  
 
「お久しぶりね、涼宮さん」  
「朝倉、涼子・・・?」  
 
そこにいたのは朝倉涼子だった。  
一学期に引っ越し先も告げず、急に姿を消した委員長。  
それがなんで今、こんなところにいるのよ。  
 
「元クラスメイトの悲報を聞いて戻ってきた・・・じゃ、ダメかしら?」  
「そういう言い方をするってことは違うんでしょ」  
「ええ、違うわ」  
 
あたしを見下したような笑顔が気にくわない。  
朝倉は腰まで伸びる長い髪を揺らして、あたしの方に近づいてきた。  
 
「確か引っ越し先はカナダだったかしら?」  
「へぇ、あたしってカナダに行ったことになってたんだ」  
「あんたの父親が電話したんでしょ?」  
「あたしの父親!?父親かぁ・・・、おもしろいわね」  
 
くつくつと朝倉は笑っている。ますます気にくわない女ね。  
キョンとの最後の時間を邪魔した上に、わけのわからない事ばっかり言うし。  
はっきり言って付き合ってらんないわ。  
キョンとの別れはやっぱり悲しいけど、そろそろこの部屋から出ないと。  
 
「まぁ、何が目的かは知らないけど、後は勝手にやって。あたしはもう行くから」  
 
朝倉に背を向けてドアに向かおうとする。  
 
「あら、それはダメよ。あなたには今からいろいろと付き合ってもらうんだから」  
 
ドアがなくなっていた。  
 
「え!?あれ?ウソ、なんで?」  
 
何?何よ、これ。  
何であたしの入ってきたドアがないのよ!  
何で壁しかないのよ!  
 
「まあまあ、涼宮さん。少し落ち着いてよ」  
「落ち着くって、あんた・・・。外に出らんなくなってんのよ!」  
「あたしが今、ここにいる理由はね、あなたに良い事を教えてあげようと思ったのよ」  
「いいわよ、今はそんなの。今、大切なのは・・・」  
 
慌てるあたしのセリフに耳を貸さず、朝倉は言った。  
 
「キョンくんはね、あたしが殺したの」  
 
初めは何を言ってるのかわからなかった。  
朝倉がキョンを殺した?  
ウソをつくなら、もっとましな、それも笑えるものにしてちょうだい。  
 
「ウソじゃないわよ。あなたの大好きなキョンくんを殺して、あなたがどう出るか調べたかったの」  
「何言ってんのよ。キョンの事故はトラックの信号無視よ?赤信号の時にキョンが急に飛び出した!みたいな事故だったら、背中を押すとかいろいろ方法もあるでしょうけど、今回の場合は・・・」  
「あたしがトラックを操ったのよ。あたしにかかれば、そのくらいの事はなんてことないわ」  
「あんたね、この緊急事態にあたしを怒らせないでくれる?くだらない冗談はやめろって言ってるのよ、あたしは!」  
 
イライラして声を荒げたあたしを見ても、終始笑顔の朝倉。  
それに何ですって?トラックを操った?  
今時そんな妄想は幼稚園児ですら言わないわ。  
 
「まだ信じないの?じゃあ、そうねぇ・・・」  
 
朝倉はそう言うと、腕を組んで何か考え始めた。  
時々わざとらしく「う〜ん・・・」とか言ってる。  
ムカつく。  
 
「決めたわ」  
 
あたしの体がイライラによって震え始めた頃に、朝倉は動きだした。  
 
「あたしがそういう力を持ってることを証明してあげる。実際に見せてあげるわ」  
 
何よ、マジックでもやってくれるわけ?  
 
「そうね、確かにマジックかも。ただし、消えたものは二度と戻ってこないけどね」  
 
あっ、そう。で、一体何を消してくれるのかしら?  
まさか、あたしとか言うんじゃないでしょうね?  
 
「それもいいけど、そんなことしたらあなたをここに閉じこめた意味がないわ」  
 
あたしは朝倉のその言葉に疑問を覚えた。  
 
「閉じこめた?じゃあまさかドアが消えたのは・・・」  
「そう、あたし。あ、証明する前にわかってくれたかしら?」  
 
ハキハキと喋る朝倉の言葉が耳に入らなくなった。  
朝倉には力がある。超能力みたいなものがアイツにはある。  
ということは、さっき朝倉が言ったことは・・・  
 
「・・・殺したの?」  
「ん?何?」  
「あんたがキョンを殺したのか、って聞いてんのよ!!!」  
「だからそうだって言ったじゃない。話、聞いてた?」  
 
悪びれる様子もなく、朝倉は言った。  
 
よくニュースで聞く「頭がカッとなった」って言うのはこういう事なんだろう。  
頭に体中の血が昇っている気がする。  
 
「許さない!あんた!絶対許さない!」  
「すごい、すごいわ!彼を殺しただけでここまでの数値を出すなんて!もう3年前の数値を越してるわ!やっぱりあたしの予想は当たってたんだわ!」  
「わけのわからないことを言うなああぁぁ!!」  
 
あたしは朝倉に向かって突進した。  
後先考えず、とにかく今は朝倉をぶん殴りたかった。  
 
「ふふ、じゃあ、もっと怒らせたらどうなるのかしら?」  
 
走り出したあたしに気付いているのかいないのか。  
朝倉はまだ何か言っている。  
 
「コレ、消しましょう」  
 
そう言って、朝倉はキョンに手をかざした。  
 
「!!!や、やめろ!!!」  
「殺された上に消されるなんて。大変ね、キョンくんも。ま、火葬代とかかからなくていいかもね」  
「やめてえええぇぇぇ!!!」  
 
叫んだときにはもう遅かった。  
朝倉の手とキョンの体が光ったかと思うと、キョンの体はきらめく砂になってなくなっていた。  
 
「キョオオオォォォン!!!」  
「あははははは!すごいすごいすごい!もう3年前の5倍の数値だわ!あははははは!」  
 
キョンの名を叫んだ後、あたしには突進する気力もなくなっていた。  
足がもつれて無様に転ぶ。  
 
「っくぅ!」  
「あら?情報爆発が止まった・・・。でもこれだけの数値を記録すれば十分ね。あとは・・・」  
 
ゆっくりと朝倉が倒れているあたしに近づいてくる。  
あたしにはもう立ち上がる気力すら残ってない。  
あたしを見下ろしている朝倉を、ただ見上げることしかできなかった。  
 
「あなたを殺したらどうなるか調べるだけ」  
 
気付くと朝倉は手にナイフを持っていた。  
 
あたし、キョンの分まで生きるって決めたばっかりなのに。  
こんなの、こんなの・・・  
枯れたと思っていた涙がまた出てきた。  
 
「さよなら、涼宮さん」  
 
 
 
ピキッ  
 
 
その瞬間、部屋全体にひびが入った。  
 
「な、何!?」  
 
そして一点の壁が完全に割れて、そこから何かが入ってきて、あたしと朝倉の間に立ちふさがった。  
 
「ハルヒ!!!」  
 
・・・え?  
この声、この声は・・・  
 
「すまん、遅くなった!」  
「キョン!!」  
 
死んだはずのキョンがそこに、あたしの前に立っていた。  
 

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