キーンーコーンーカーンーコーンー♪  
 
六時限目の終了を告げるチャイムがようやく鳴り始めた。  
俺はいつも通り1から6時限目までの授業の内容をきれいさっぱり忘れ去ると、  
後ろの席のあいつをふり返かえる。  
 
「ハルヒ。お前掃除当番だろ。先に行ってるぞ。」  
 
しかしハルヒは窓の外を眺めたまま微動だにしない。どうした?また憂鬱か吐息か  
動揺か?また陰謀って事はないよな?  
しかし夢見る乙女のまなざしって感じではない。どこか一点を凝視している。  
そう、まるで獲物を狙うハンターのような視線だ。  
 
そのうちハルヒは窓の枠に手をかけると身を乗り出すと手を目の上にあてがって  
海賊船の見張りのように校庭の方を凝視しはじめた。  
 
「やっぱり、見間違いじゃない!ねえ、キョン。何かしら、あれ?」  
 
俺は校庭を目をこらしてみてみるが何も見えない。  
何もないじゃないか?  
それとも幽霊が見えるってか?  
 
「ちがう!ほら、ちょうど校庭の角のほう。黒い四角い何かが落ちてる。  
 ほら、あそこに見えない?」  
 
俺はハルヒの指さす方向を良くみてみた。俺も目はいいほう何だけどな。  
それでも言われなければ何となくあるようにしか見えない小さな黒い物を俺は  
ようやく認識した。  
四角いなんてまったくわからんぞ。お前はアフリカの原住民か何かか?  
 
「行くわよ!キョン!」  
 
ちょっと待て、お前は掃除当番……  
 
「谷口!あんた替わって!」  
 
谷口スマン。ハルヒは誰にも有無を言わせることなく、俺のネクタイをつかんで  
加速装置を得た韋駄天のごとく、亜光速でかけだした。  
 
 
 
「ちぇ、何か事件のにおいがしたんだけどね。ただの古びたノートだなんて。  
 誰よ、こんな所に捨てたのは!  
 ここまで走ってきた分の労力の損害賠償を請求してやる!」  
 
そんなもん、裁判で勝訴しても微々たる額しかもらえないだろうよ。  
俺は、何気なくそのノートを拾い上げて、ひっくり返してみた。  
 
       【HARUHI NOTE】  
 
確かに、その古びたそのノート表紙にはそう書いてあったのだ。  
 
やれやれ、自分で捨てたノートに自分で文句言うんじゃねーぞ。まったく。  
 
「何これ?あたしこんなノート知らないわよ。」  
 
そういいながらも、俺からノートを奪い取るとハルヒは中をぺらぺらっとめくった。  
最初の1ページに英文で何か書いてある以外あとは全くの白紙だった。古ぼけた以外  
何の変哲もない普通のノートにしか見えない。  
 
ハルヒは、最初の1ページを開くと、その英文を読みはじめたのだった。  
 
「これは、ハルヒのノートです……。はあ?なによこれ?!  
 このノートに書かれた願望は全て叶うですって?……ぷっ……バカみたい。」  
 
ハルヒはそこまでで飽きてしまったように、ノートをぱたんと閉じると辺りを見回し  
はじめた。  
 
「谷口のアホかそのへんのいたずらね。どこかで隠れてみてんじゃないかしら。  
 頭にくるーーー!!もう!部室行くわよ!キョン!!」  
 
そういうと、ハルヒは俺にノートをなげ付けて、さっさと一人で部室に向かいはじめ  
たのだった。何だ?このノートは?何か妙に嫌な予感がする。  
いつぞやに感じた嫌な感覚だ。大体この感は外れた事がないのだが……。  
俺はノートを丸めると、後ろのポケットにつっこんでハルヒの後を追いかけた。  
 
 
部室に付くとまだ誰もいないようだった。  
長門も今日は掃除当番だとか言ってたっけか?あいつにこのノートを分析して貰おう  
と思ったんだが、まあいい、俺の考えすぎだ。もうゴミ箱に捨て……  
 
「あんたまだ持ってたのそのノート?まさかあんたのいたずらじゃないわよね?」  
 
俺をアホの谷口と一緒にして貰いたくないですね。俺がやるならもっと高度ないたずら  
を考えますよ。と、古泉を真似てそういってみたが、ハルヒはまったく聞いちゃいなか  
った。それどころか、またあの何か悪巧みをしているいたずら小僧のような無邪気な  
笑みが浮かびはじめたのだ。  
 
「ねえちょっと試してみない?」  
 
「何をだ?」  
 
「だからそのノート。何でも願望が叶うって書いてあったでしょ。」  
 
ハルヒは俺のポケットからサッと奪い取ると、ノートの一ページ目をもう一度読み始  
めた。  
 
「なるほど、名前を書いて、40秒以内に望みを書くと、40秒後に願いが叶う。  
 ってふんふん、あとは……。」  
 
俺の制止も聞かず、ハルヒは2ページ目をめくると団長席据付のマジックペンで、何か  
を書き始めた。  
 
おい、このノートがマジモンだったらどうすんだ!  
まさかとは思うが、このノート自体がハルヒの能力の具現化した物だとしたら……  
 
文字を覚えたての子供が何かを書くのが楽しいようにハルヒの目の輝きは異常なまで  
にランランとそして煌々と輝き、そして何か一文を書き上げたようだった。  
 
 
40秒後、何も起こらなかった。  
 
「なにも……起こらないわね……」  
 
 
俺は何とこの上なく安堵し、「まったく、やれやれ」と言おうとした瞬間  
突然、部室のドアが開いた!  
 
「やあ、遅れてすみません。」  
 
古泉ががそういいながらと長門と朝比奈さんを引き連れて部室になだれ込んできた。  
驚かせるんじゃねーぞ。この野郎。  
 
「ねえ、みんな見てよこれ。変なノートひろったんだけどね。  
 ただのいたずらだったみたいなのよね。」  
 
ハルヒは、そういうとノートをばさばさと振った。  
 
「なにですかぁ?そのノートは?」  
朝比奈さんがまるで生まれて初めて虹を見たようなキラキラしたその大きな目で  
ノートをみている。不肖このわたくしめがあなた様のために詳しーーーく説明  
致しましょう。  
 
俺の説明を聞いて、長門の無表情な目から一瞬何か鋭い光を発したような気がした。  
が一瞬でいつも通りの長門に戻ると、いつものパイプ椅子に座って本を開いた。  
 
「そ、それで、そのノートに、涼宮さんは何を書かれたんですか?」  
 
そうハルヒに聞く、古泉の様子もなにかおかしい。  
 
「決まっているじゃない。あたしの一番の願望はね!  
 宇宙人、未来人、超能力に出会って、一緒に遊ぶ事よ!」  
 
アニメなら、どっぱーーーーんとバックに波しぶきでも立つんだろうな。  
ハルヒが勢いよく啖呵を切ったその瞬間に俺は何となく理解した。  
 
このノートはやばい。  
この上なくやばい。  
とてつもなくやばい。  
 
なんとか、このノートをハルヒから取り上げて、早急に処分しなければ。  
 
「そうだ、一度だけじゃ何かの間違いって事もあるから、  
 キョンあんたも何か願望、書いてみなさいよ。」  
 
そういって、ハルヒは俺にノートを放り投げた。  
 
ま、まずいぞ。ハッキリ言って下手な事は書けない。  
 
おれだって、朝比奈さんとあんな事やこんな事になってみたいとか、大金持ちになり  
たいとか、世界一の大企業の社長になってみたいだとか、そういう願望はある。  
だが、もしそれを書いた事で、ハルヒの力が具現化されれば、いったいどういう事態  
が引き起こされるのかも、俺はこの一年間で十分に骨身にしみている。  
 
俺は助けを求めるように、長門をちらりと見た。  
長門もこちらをちらりと見た。明らかに何かを伝えたそうだが、あいにく俺にはテレ  
パシーってものがない。ただ何となく、「あなたに全てを任せる」そういているよう  
な気もしたのだが……  
 
 
さて、どうすればいいのか……  
 
 
俺は意を決して、ノート一ページにデカデカと書いてやった。  
あー書いてやったとも、もう半ばやけくそだ!  
 
俺が書いた文を見ると、ハルヒは「バッカじゃないの?あんた。」と言って、鼻を  
フンと鳴らして俺を侮蔑の目で見る。うるせえ、男ならほとんど誰でも  
――ハルヒ曰く5%以外――は一度はそう願うだろうさ。  
 
そして、40秒後、予定通り何も起こらなかった。  
 
「あーもう、やっぱりただのいたずらね。  
 もういいわ!  
 キョン!そのノートむかついたから私の見えないところで適当に処分しておいて!」  
 
ハルヒはそういうと、団長席にどっかと腰を下ろして、朝比奈さんにお茶を出すよう  
に言った。  
 
そして、いつも通り、散々宇宙人と未来人と超能力者とあとごく普通であるはずの  
一般人と遊んだあと、「今日は解散!また明日!」というとハルヒはさっさと帰って  
いった。  
 
ハルヒが帰ったあとで、俺たち4人はノートを部室内で――火気厳禁ではあるが――  
焼却処分したのだった。  
 
たぶん世界は救われたんだと思う。俺の手によって……たぶん……  
まあ、とにかくハルヒが新世界の神とかにならなくてすんだという事だけは確かだろう。  
 
 
ところで、俺がどうノートに書いたかだって?  
決まっている、俺が書いたのは俗物だが、男なら誰でも持っている普遍的な願いだ!  
 
「美人の彼女と毎日楽しく遊びたい!」  
 
俺の願いは叶っているという事なのかね?誰か教えてくれ。  
 

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