どうもこんにちわ。
SOS団副団長の古泉一樹です。
突然ですが、最近皆さんに疎まれているような気がします。
誰にですって?SOS団の方々と、教室のクラスメイト、そして『機関』にですよ。
『古泉くんの憂鬱』
始まりは、一週間前からでした。
涼宮さんの精神に変化が生じたのを感じたのです。
それは閉鎖空間を発生させるようなものではありませんでした。
監視員の報告によれば彼との接触中に発生したようです。
内容は告げられませんでしたが、また喧嘩でもしたのでしょう。全く、素直じゃありませんね。
直後に『機関』から連絡がございまして。
「古泉、あなたには一週間の間帰還することを禁じます」
そう、一方的に電話を切られたのです。
愕然としましたね。あの場に彼がいなくて本当に良かったです。何と言われていたか。
そして翌朝のこと。
SOS団の方々が私に対して妙な距離感を取っていたのです。
朝比奈みくるさんは非常によそよそしい笑顔。
長門有希さんは私と全く視線を合わせてくれませんし、
涼宮さんに関しては反則ですが、心の揺らぎが読めてしまいますので。ええ、ハッキリと。
拒否されている、とわかりました。
正直これにも大きな衝撃を受けましたね。
いえ、ひょっとしたら『機関』のとき以上の悲しみだったかもしれません。
顔に出すことはなかったはずなのですが。
私の居場所は力を得たあの瞬間、『機関』にしか存在しなくなっていました。
あのときの孤独感、不安、恐怖、寂しさは忘れることができないでしょう。
あれから3年の月日を迎え、私の心にはもうひとつの居場所が生まれていたのです。
ですが、それは全て勘違いだったのでしょうか?
私には、あの苦しみしか残っていなかったのでしょうか?
そして今日。
私は教室のクラスメイトたちを一眺し、気付きました。
私はどんな顔をしていたのか自分で全くわかりせんでしたが、
やはり笑っていたのかもしれませんね。ピエロのように。
廊下で鶴屋さんと出会いましたが、私はどんな顔をしていたのでしょう?
放課後。
私はSOS団という活動を蚊帳の外で眺めていました。
こうして改めてみるとよく分かるものです。彼へと送られる視線が。
決して叶えられないことを知りながら、願わずにはいられぬ真摯な眼差し。
かつてない感情に満たされることを望んでいる、無垢な眼差し。
秘めた思いを全力で込めた、愛する者への眼差し。
その全ては、あなたに向けられている。
正直、嫉妬していますよ。
放課後、彼に呼び止められました。
後でお会いしたい、と。
「・・・遅かったな。こっちだ」
いつもの駅前で待ち合わせした私たちは、静かに歩き始めました。
無言。
彼がたまらず口を開く。
「・・・最近の涼宮はどうなんだ?」
「安定していますよ。ずっと・・・ね」
嘘をついた。
そうか、とつぶやいた彼。
秘めていた感情がふつふつと沸き立つのを感じる。
気付いたとき、私は皮肉を込めた本心を喋っていた。
「以前にも言いましたが、あなには正直嫉妬していますよ。涼宮さんとあなたの、深い繋がりをね」
彼はこういった話には耳を貸さない。
わかってはいるのですが、つい口に出てしまうのです。
涼宮さんがあなたに、あなたが涼宮さんに送る眼差しを見ているとね。
「朝比奈さんや、長門さんに対してもそうです。あなたは強い信頼を勝ち得ている」
あなたが羨ましいです。ホント。
「・・・お前はどうなんだ?」
「・・・」
言葉が出なかった。
「何を考えてるのか知らんが、お前の思い込みだ。
俺もお前もハルヒにとってただのSOS団の一員で、それ以上のものは何も」
「っそんなはずはありません!」
歩みを止める。彼も私に振り向き、驚いている。
「涼宮さんにとって、あなたはその程度のはずはありません」
私とあなたが彼女にとって同じ価値なはずが
「ありえません」
ない。
「あなたと出会うまでの涼宮さんは、今のように心を安定させることはありませんでした」
あなたが傍にいることで不安定にさせてしまうこともありましたが。
「あなたがいなければ、彼女はあのように笑うことはなかったでしょう」
彼はただ黙って聞いていました。
「あなたの代わりになれるものなど、誰もいません」
「僕がいなくても」
この言葉を吐くまでは。
ドサッ。
気付いたとき、私は殴り倒されていました。彼に。
私とて『機関』の一員。それなりの訓練は受けていたのですが。
それほどまでに動揺していたのでしょうか。
「・・・」
仁王立ちのまま私を睨んでいる。
「・・・」
返す言葉が無い。
何と、自分らしくない。
私はきっと、笑顔を忘れていたでしょう。
「行くぞ」
ポツリと、振り向き際に言い捨てながら歩き去っていく彼。
立ち上がることもできず、呆然と遠ざかる様子を見つめていた私は、
沈黙を破るメロディーがどこから流れたのか気付くのに、時間がかかってしまいました。
携帯を開くと、宛名不明のメール。
何の感慨もなく文章に目を。
『23:47 鶴屋』
『やっほーっ。鶴にゃんだよっ♪
お昼はめがっさおっ疲れだったねっ!
お姉さん心配で、ついつい古泉くんのクラスメイトに
アドレス聞いてメールを送っちゃったさっ!
多分今のままの古泉くんじゃあ、めがっさめがっさ
アリガタすぎてハートがおっつかないだろうから
みんなには悪いけど、お姉さんが先にネタ晴らししちゃうにょろっ!
ごめんねっ!
お誕生日 おめでとうっ!!』
・・・。
どれくらいそうしていたでしょうか。
メロディー。
『00:00 中村』
『00:00 佐藤』
メロディー。
『00:01 稲垣』
メロディー。
『00:03 須々木』
メロディー。
メロディー。
いつの間にか、私は声を上げて笑っていました。
顔も笑っていたのか、泣いていたのか。
作りものでないことは確かなのですが。
本当に、
私はどうかしていたんでしょう。
今自分の座っている場所が、
北高の通学路なことに気付かないだなんて。
・・・さて。行かなくては。
恐らくあの縁起を担ぎたがる団長殿は、
零時の鐘ちょうどに私を祝えなかったことでご立腹でしょうから。
今度の週末は、私が奢らせて頂かなくてはね。
その後はその後で、常に笑顔の割に
ぶっきらぼうなあの女性のおもてなしを受けなければいけませんしね。
新川さんの特製ケーキも今から楽しみです。
忙しい一日になりそうだ。
だけど、これだけは譲れませんね。
涼宮さんはあなたがいたから笑顔でいられるのです。