どうしてこんなことになっているんだろうね?  
 
人は来そうにもないひっそりとした廃屋。いや、正確にいえば、人は「来ることが出来ない」だな。  
そんなところに俺は寝そべっている。  
寝そべっている?いや、こんなところに好き好んで寝るのは、ホームレスかよっぽどの変わり者だ。  
寝ているのではない。押し倒されているんだ。  
目の前で妖艶な笑みを浮かべている長門。  
コイツのこんな顔は、流石に初めて見た。  
俺の上で馬乗りになっている長門を見ながら、俺はこれまでの経緯を思い返していた。  
 
 
「遅い。集合何時だと思ってるの!?」  
いつもの駅前。ハルヒが仁王立ちで俺をにらみつけた。  
「9時だろ?お前こそ、今何時だか判ってるのか?」  
「8時45分よ。でも、一番最後だったから罰金!」  
……いつもの通りの、俺の奢り。  
大体、この暇人どもは一体何時にここに来てらっしゃるんだろうか?  
一度試しに6時頃にでも来てみるかね?  
それで誰かいたら、俺はそいつに金メダルでもあげたくなるな。  
ため息を一つ吐き、最早SOS団御用達となった喫茶店に向かう。  
また財布の中身が軽くなりそうだ。  
 
「コーヒーと、ストロベリーパフェと、アイス盛り合わせ、ガトーショコラになります。」  
ウェイターが運んできたものを見て、俺は本日2度目のため息をついた。  
どうして小遣いが無くなりそうなときに限って、こいつらは高いものを注文するんだ?  
コーヒーの小泉はまだいい。つーか、今回ばかりはお前に謝意を贈ってもいい。  
目の前に座っている、女子三人組。  
左から、3色アイスを次々と食べていくハルヒ。一番高かったんだぞ、それ。  
ストロベリーパフェを小さな口に運んでいく朝比奈さん。ほっぺたにクリームが付いているところが微笑ましい。  
最後に右端。黙々とガトーショコラを制覇していく長門。  
俺が見ているのに気がついたか、チラッと上目遣いでこちらを伺う。  
そして俺しか気がつかないぐらいの、瞳の奥の感情の変化。  
すまなさそうにするぐらいなら、高いのを注文しないでくれ。  
思っていることが伝わったのか、長門は笑う。  
いや、実際笑っているわけではないのだが。雰囲気が笑っている。  
 
こいつと―――長門と俺は、いわゆる「付き合っている」という関係だ。  
もちろん表には出してないから、誰も知らないのだが。  
ここにいるSOS団メンバーですら、気がついてない。  
ぶっちゃけ「オトナの関係」とかいわれるものにもなっているのにな。  
しかし、最近はご無沙汰だ。かれこれ2、3ヶ月ぐらい。  
何故かというと、最近ハルヒが土曜も日曜も、この恒例の不思議捜しを計画しているからだ。  
要するに、2人きりになる時間がない。  
いや、くじ引きで長門と二人っきりになることはある。  
だが、流石にキスまでで止めておくしかない。  
痕が残ってハルヒに見られたら、それこそ俺は死よりも悲惨な状況に追い込まれるな。  
それ以前に、探す範囲は外だし。青姦する勇気はない。  
そんなわけで、欲求不満の夜を持て余してたりする。  
しかし、さらに問題発生。  
1ヶ月前あたりから、長門の機嫌が何というか……おかしい。  
俺の方をジーッと見ているかと思ったら、唐突にどこか行きやがるし。  
朝比奈さんのお茶をありがたく頂戴していたら、あのぶ厚いハードカバーの本で殴ってきたこともあった。  
かと思えば、俺と二人っきりの時は無言でものすごく甘えてきたりする。  
その結果、俺はこいつの機嫌が気になり、おろおろするばかりだ。  
くそ。女の機嫌取るような男にだけはなりたくなかったのに。  
それもこれも全て、ハルヒのプライベート無視の計画のせいだ。  
財布が薄くなっていくのも……  
三度目のため息を、俺はついた。  
 
「今日は、探索範囲を広めましょ。というわけで、午前と午後での組み替えは無し!」  
アイスを完食したハルヒが、声を上げる。  
卓上から爪楊枝を5本。ボールペンで2本に印を付ける。  
「じゃあ、くじ引くわよ!」  
まずは俺から。  
引っ張った爪楊枝の先。印付きだ。  
小泉は無印、朝比奈さんも無印だった。  
最後に長門。ジッとハルヒに握られた爪楊枝を見据える。  
そして左を引いた……印付き。  
「じゃあ、あたしと小泉君とみくるちゃん。キョンと有希の組み合わせね。集合は4時!いいわね!?」  
やる気のない返事を返し、長門を見る。  
今日はどうやら機嫌がいいらしい。  
でも何故か今日の長門の視線は、突き刺さるような感じで冷や汗が出る。  
……何か企んでなければ、いいんだが。  
 
 
で、予想は的中し、今に至る。  
店を出るなり、嬉しそうに俺の腕を引っ張りここまで走ったのだ。  
そして空間閉鎖だか、情報制御だかをして、この廃屋を閉鎖しやがった。  
「なが……」  
声をかける暇もなく押し倒され、このざまである。  
「今日なら4時までここにいられる。」  
先ほどまでの笑みが嘘のように消え、いつもの無表情に戻る長門。  
しかし、今のこいつの周りに漂っている雰囲気は、なんつーか淫らである。  
「それに、ここは人には見つからない。」  
言うなり、俺の頬を両手で挟み、濃厚なキス。  
「ん……」  
うねうねと俺の口腔に進入を試みる長門。  
押し返そうと伸ばした舌も絡め取られて、ちゅうと吸われる。  
やべ。久しぶりだからディープキスだけでも気持ちいい。  
流石にマズイと思い、長門を押し返そうとするが……  
「!?」  
体が動かない。何故だ!?  
ぷはっ、と口を離した長門が、銀の糸を口の端からたらしながら言った。  
「あなたが逃げることは、許さない。」  
 
「な……長門!?」  
ジッと俺を見つめる黒い瞳の奥に灯る炎。  
「わたしにも、限界というものはある。」  
そう言うと同時に、下半身に訪れる開放感。  
―――いつの間にか、ズボンが無くなっていた。  
驚く間もなく、シャツをまさぐられ俺の胸が露出する。  
それを手でしばし撫でた後、俺の肌を吸いながら長門が下へと下がっていく。  
えーっと……つまり、どういうことだ?  
ここは隔離されていて、俺は動けない。  
早い話が、長門に犯されてるってことか?  
これはおいしいのか、そうでないのか判断がつけにくいところだ。  
ってか誰か代わってくれ。頼む。俺は冷静に考え直したい。  
俺の肌の上のペロペロとなめていく長門の頬は、うっすらと染まっていて扇情的だ。  
前言撤回。代わらなくていい。その代わり、動けるようにしてくれ。  
犯されてるというのは、男にとって少々屈辱的だ。  
そんな俺の願い虚しく、長門は元気いっぱいの息子までたどり着く。  
繊細な指に撫でさすられて、思わず声が出そうになる。  
それを満足げに見つめて、長門は舌を出してペロペロとなめ始めた。  
「うっ……」  
チロチロ、チュパチュパと唾液の音が廃屋に響く。  
小さな口を開けて、俺のものを包み込んだ。  
「ちゅ、ちゅる……ちゅぅっ……ぺろ、はぁ……」  
トロンとした目がすごくそそるな。うん。  
動けないのが惜しいね。  
……にしても、何故長門はこんなことを?  
そういえば、「わたしにも限界はある」とか言ってたな。  
つまり、長門は性欲を我慢していて、それが我慢出来なかったと―――  
「うぅっ!!」  
カリの部分を舌でくすぐられ、思考が途切れる。  
 
「む……はむ……んっ、ちゅ…ぺちゃ……」  
音は止まない。止まらない。  
口に含んだまま、唾液を塗るように舌を絡ませ、口腔の空気を抜いて密着させてくる。  
そして頬にすりつけるように頭を前後させる。  
「ぐっ……やめろ、長門……」  
これまでに俺が教えてきた弱点を、ぎこちないながらも的確に責められている。  
さらに、いつも受動的で無表情、無感動な長門がここまで積極的だということのギャップもあって、俺はすでに限界だった。  
俺の息子はガチガチに固まり、いつ歓喜の白い涙を流してもおかしくない。  
もう本当にダメだ、と俺が諦めてきたその時、下半身に感じる風。  
「……?」  
長門が俺を責めから解放する。  
嬉しいような、悲しいような。  
まあ、俺の息子は不満たらたらで、ビクビクとのたうち回っているんだが。  
ほっと一息つく。  
しかし、俺はまだ完全に解放されたわけではないようだった。  
 
視線を長門に移す。見えたのは雪のような白い肌。  
……って何で、服が無くなっているんだ!?  
脱いだ形跡も、むしろ服が散らばっている様子もない。  
俺の服も、今気がついたが、いつの間にか消えて無くなっていた。  
まあそれについては何も言うまい。  
不思議なことは嫌と言うほど経験したおかげで、悲しいかな慣れてしまった。  
問題は長門だ。  
その肌は何処までも白く、ほのかにピンクに染まっていて。  
桜のようだな、と我ながららしくないことを思ってしまう。  
頬は赤く、潤んだ目元がどこか色っぽい。  
控えめなふくらみが揺れ、頂点が必死の自己主張。  
切ない吐息が、心の琴線に触れる。  
きっと俺が動けたならば、間違いなく押し倒していた。  
くそ〜。可愛い上に、色っぽいとは。理性なんて吹き飛んじまうぞ。  
「あなたが悪い。わたしをこんなにしてしまった、あなたが……」  
呟き、俺の上に跨る長門。  
俺のものに手が添えられ、それだけで背中に電流が走る。  
ゆっくりと腰を下ろしていく。  
にちゃ……と音がして、先端が長門に触れる。  
俺の先走りだけじゃない。長門の愛液も確かに混ざって。  
少しずつ、入っていく。  
「んっ……ぁ……あぅ…ん、あ……ぁっ……!!」  
沈んでいき、俺の上にぺたりと女の子座りのように足を曲げ。  
ついに、肌と肌が密着した。  
中がひくひくと、蠢動しているのがわかる。  
はぁ……と長く、熱いため息を吐き、長門は潤んだ目を俺に向ける。  
涙が一粒流れるのが見えた。  
しかし、とろけた表情に浮かぶのは悦び。  
はっきりと浮かんでいる訳じゃない。でも確かに笑っていた。  
 
暫し時が流れ、長門が俺の胸に手をつく。  
そして軽いキス。  
思わず貪りそうになった俺をかわし、ゆっくりと前後左右に揺さぶりをかけてきた。  
「ん……ふぁ……はぁ…あっ……」  
ねっとりと絡み付いては、俺をそっと撫でていく。  
擦れる膣壁の感触がたまらん。  
頭の中で、何かが弾けていく。  
長門の動きは、腰をゆっくりと回すようなものに変わってきていた。  
ぐりぐりと、先端が子宮を押し込んでいるのがわかる。  
時折、ひくっひくっと震え、きゅうと締め付けられる。  
俺の胸から手が離れる。その手は長門自身の胸に添えられ。  
「……あっ!…くぅん……はっ、はっ……あうっ……」  
長門の手が艶めかしく轟く。  
ふるふるとふくらみが揺れ、先端はつままれたり、捏ねられたり。  
意志に従っているのか、反しているのか、長門自身を自虐していく。  
上下運動も加わって、長門の目が虚ろになっていく。  
動くたびにきゅうきゅうと絡み付き、締め付ける。  
気持ちよすぎて、もう限界のはずなのに。  
何故か頭のどこかが冷静で。  
俺に跨り腰を振る、長門の狂乱した姿を見つめていられた。  
「ん……く、あ、あぅ……うっ……はぁっ、はぁっ……っ!!」  
こんなに乱れた長門は初めてだった。  
何度かしたことはあった。  
それでも長門が乱れるなんてことは、ほとんど無かったに等しい。  
焦点の合っていない瞳の奥が、寂しそうに見えた。  
胸がギュッと締め付けられる。何故か切ない気持ちになる。  
それに反するように体は熱く、長門の息と、俺の息。その両方が荒くなってきた。  
昇華の時は目の前だ。  
「あ、あ……はぁっ……キョン……キョンっ!!」  
ギュッと強く締め付けられる。長門が恍惚の表情を浮かべる。  
その顔が、あまりにも淫らで、美しくて。  
それと、初めて呼んでくれた俺の名。(といってもあだ名だが)  
それが嬉しいのもあって、俺も長門の中に思いっきり注ぎ込んだ。  
「ふぁっ……ぁ……あつっ……あ…ぁ……」  
 
 
 
「……ごめんなさい。」  
終わった後の、長門の第一声がそれだった。  
ちなみに俺もその時すでに動けるようになっていた。  
「長門らしくないな。」  
「……ごめんなさい。」  
「いや。……というか、なんでだ?」  
「……わからない。ただ、我慢出来なかった。」  
それもあるかもしれんが、それだけではないだろう?  
ただ、性欲が我慢出来なかったというだけで、お前があんなに乱れるとは思えん。  
それに、あの寂しそうな瞳。何があった?  
問うと、返ってきたのは意外な答え。  
「……あなたは、わたしだけのもの。」  
「……は?」  
思わず、聞き返したね。  
長門がそういうセリフを吐くとは思えなかった。  
「涼宮ハルヒでも、朝比奈みくるでも、他の誰であっても、あなたは渡さない。」  
「……どういうことだ?」  
「あの人達と、仲良くしないで欲しい。私だけを見ていて欲しい。」  
……嫉妬、ですか。  
まさか、長門に嫉妬心が湧くとは思っていなかった。  
確かに考えればそうだ。  
コイツの機嫌が悪くなるときは、決まって俺がハルヒか朝比奈さんを見ているか、関わっているときだった。  
その上に最近はご無沙汰で、愛を確かめる行動が少なかったから、長門は拗ねてたわけだ。  
なるほど、合点があった。  
俺は少し笑って、長門を抱き寄せる。  
その甘い匂いを思いっきり吸い込んで、俺は言う。  
「心配するな。俺が好きなのは長門有希、お前だけだ。」  
あ〜ガラにもないセリフだ。顔が熱い。  
だけど効果はあったようで、長門の顔が緩む。  
雰囲気だけじゃない、ぎこちないけど顔に浮かんでいる微笑み。  
ちくしょー。かわいいじゃねぇか。  
こんな風に、俺の行動で笑ってくれたり、拗ねてくれたりなんて……  
今度は長門からじゃない。俺から、こいつを押し倒した。  
 
 
 
ちなみに長門のマーキングが功を奏し、ハルヒ達に関係がバレて白い目で見られるのはこの丁度数時間後のことである。  
 
(終わり)  
 

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