「えーっと、小学生のころに… 違うな」
ある放課後、いつもの部室で俺はパソコンを前に思案していた。 何をかというと…
「おまたせー! ってキョン、あんた何やってんの? パソコンとにらめっこなんて気味が悪いわね」
ハルヒがドアを蹴って突撃してきた。 いい加減自動ドアにするように長門に提案するか。
「いや、また機関紙を作れと言われたらかなわんからな。 今のうちに作っておこうと思ってな」
といっても出だしをつまずいてるんだがな。 1人称で書くのも結構難しいもんだ。
「ふぅーん。 で、どういうジャンルにしようとしてるの? ラブコメ? 純愛?」
お前は何が何でも恋話を書かせたいみたいだな。 残念ながら少し不思議な学園物だ。
「学園物? まぁいいんじゃない。 あと出来上がったら必ずあたしに見せること。 いいわね」
そう言ってハルヒはいつもの団長席に座った。
中々出だしが決まらないうちにドアがまた開いた。
「……」
長門と、
「すみません、掃除当番が長引きまして…」
古泉の野郎と、
「す、すみませんー、進路指導で遅れましたぁ」
マイスウィートエンジェル朝比奈さんだ。 三人同時なんて珍しいな。
「三人同時なんて珍しいわね」
ハルヒも同じ感想のようだな。
とりあえず俺は朝比奈さんが着替えるであろうから部室の外に出ることにした。 さ、古泉出るぞ。
外に出てドアを閉めたところで俺は古泉に頼みごとをした。
「古泉、悪いんだが……………」
本当ならコイツに頼みごとなんてしたくないんだがな。 いかんせん他に話が無い。
「僕は別にかまいませんが、それを見て涼宮さんがどう反応するかですね」
長門によると俺経由の情報は信用しないらしいしな。 何とかなるだろう。
「そうですか。 まぁ僕には止める権利は無いですがね」
古泉は肩をすくめて笑った。 いつものニヤケじゃなく、始めて見るこいつの本当の笑顔だろう。
「もういいわよー」
ハルヒの20キロ先からでも聞こえそうな声がし、俺たちは部室に入った。
例によって長門は定位置で古代楔文字のような文体の本を読んでいる。 考古学者にでもなる気か?
俺はさっきの席に戻り、のっけから詰まっている文章をにらみつけた。
そうしているうちに朝比奈さんが、
「はぁい、キョンくんどうぞ。 今日は番茶ですよ」
という具合にお茶を置いてくれた。
朝比奈さんはお盆を持って離れようとしたが、無論朝比奈さんにも言とかないといけないだろう。
「朝比奈さん、ちょっとお願いがあるんですが…」
「ふえっ、なななんですか?」
「ちょっと大きい声じゃ話せないんで、ちょっと耳を…」
朝比奈さんがやわらかそうな耳を近づけてきた。 甘噛みをしたい所だが、その衝動を抑えて朝比奈さんに例のお願いを伝えた。
「えぇ! ででででも、そんなことしたら… 」
「大丈夫です。 長門も俺からはバレないと言ってますし」
「ふみぃ… そうですか。 それなら…」
「こらー! キョン、みくるちゃんに何言ってんのよ!」
朝比奈さんのパニクりようから俺が怪しいことでも言ったと思ったんだろう。 ハルヒがアヒルのような口になっていた。
「ふえぇ、なんでもないですよぉ」
「そうなの? でも変な事言ってきたらあたしに言いなさい。 そん時はバニーを着せてグラウンドを逆立ちで10周させてやるから」
それは勘弁してもらいたいな。 と思ったところで長門がパタンと本を閉じ本日の活動終了。
俺は帰ろうとしている長門にあわてて声をかけた。
「長門、ちょっといいか?」
「なに」
当然長門にも言っておかないといけない事があった。 さっき古泉と朝比奈さんに言ったのと一緒なんだがな。
「少し話があるんだ。 少しここで待っててくれないか?」
「わかった」
長門がはっきりと分かるように頷いた。 その目はなぜか輝いているように見えた。
「有希、分かってるわね。 襲われそうになったら大声を出しなさいよ。 すぐにでもすっ飛んでくるから」
とハルヒが念を押して退室。 そこで俺は長門に歩み寄る。
「実は話というのはな…」
俺は今日3回目になるお願いを長門にも話した。
「そう……」
心なしか長門の視線が外れたように見えたが気のせいか。
「用件は分かった。 だけど危険」
へ? 前は俺からは大丈夫とかは言ってなかったか?
「状況は変わってきている。 今ではあなた経由の情報も信じてしまう可能性がある」
じゃあ止めとくか。 と言おうとした瞬間、
「でもあなたを信じる」
…長門さん、それはOKととってよろしいのでしょうか?
「そう」
長門が今度は数ミリ単位でクビを縦に振った。
サンキューな長門。 今度図書館でも行こう。
「分かった」
そう言って長門が退室。 何か怒ってるようにも見えるんだが、俺、何かまずい事言ったか?
とりあえず家に帰ったものの、俺の家にはパソコンなどという高価な代物はなく、記憶中枢からさまざまな思い出を巡らせることしか出来なかった。
まぁ、次の日だ。
授業が終わり、おれは部室に走った。 別にハルヒに追われてるわけじゃなく、あれをすぐにでも書きたかった。 まぁ、忘れることは無いだろうがな。 というか忘れてたまるか。
ちなみに言うとハルヒは都合よく進路指導だ。 岡部よ、また粘ってくれよ。
部室に入ると、もうハルヒを除く3人が集まっていた。 とりあえず今は無視で文章を書き出した。
途中、朝比奈さんがお茶を持ってきてくれたが、飲む暇も無いくらいすんなりと書けた。
………
……
「よし、完成だ」
ふと時計を見ると、短針が4と5の間にあった。 この時間になってもハルヒは来ない。 流石に粘りすぎだろ。
なぜこんなに早く書き上げれたかというとだ、まぁ秘密だ。 まさか後ろの方はある程度書けてたとか言いたくも無いね。
「ほう、完成しましたか」
「見せて…」
「キョンくん、見せてくださいね」
三者三様に集まってきた。 まぁ、見せるつもりだったんだがな。
流石にプリントすると何十枚にもなりそうなのでパソコンの画面のまま読んでもらう事にした。
「ふえぇ、こんなこと書いちゃっていいんですかぁ?」
とは朝比奈さんの感想である。
「まぁ、一応フィクションとしてですからね、問題無いでしょう」
「ですがこれを涼宮さんに見せるのはちょっとまずい気もしますが。 この最後の場面なんてどうやってもバレますよ」
古泉が呆れた顔で肩をすくめた。 流石にまずいか。
せっかく苦心して書き上げたものをどうするべきか考えていると、長門がなにやら雑誌を持ってきた。 そんなものまで読んでるのか。
「その内容だと、これに出すのが懸命」
記述によると、結構有名どころの賞らしい。 まぁ、ダメ元で送ってみるのもアリか。
とりあえず名前はっと… これでいいか。
「キョン。 でもよかったんじゃないですかぁ?」
朝比奈さんが不思議そうに尋ねてきた。 そんな俺が出したと一発で分かる名前を使ってたまるか。
「まぁ、いいですが、この内容だとあなたが書いたと丸分かりですがね」
まぁ、どうせ落ちるに決まってる。 そう心配することもないだろう。
「とりあえず僕が出しておきましょう。 あなたが出すと涼宮さんに見つかりそうですからね」
と古泉が持ち出してきた。 そうしてもらえるとありがたいね。
ここで下校時刻になり解散。 結局ハルヒはこなかった。 後日聞くと、6時までグダグダと続いてたらしい。 流石に気の毒だな。
そして次の日である。
「ねぇ、キョン! 一昨日の小説は書けたの?」
ハルヒが真夏に咲くハイビスカスのような笑顔で話しかけてきた。
「あぁ、悪い。 結局ネタが思いつかなくてやめることにした」
とりあえず嘘を言っておく。
「ふぅーん、そうなの? まぁ、いいわ。 アンタに実体験以外でかけるとは思ってなかったしね」
まぁ確かにそうなんだがな。
「でも少し読んでみたかったかな。 だってSF学園物なんて面白そうじゃない」
お前が読んだら面白いどころじゃないんだがな。
そこで岡部が登場。 いつもの日常に戻るわけだ。
まぁあの小説もハルヒに読まれることは無いだろう。 俺よりも文才のある奴は賽の河原の小石ほどにゴロゴロいるだろうし、受賞したとしてもそうそう大きく取り上げられんだろう。
ん? どんな内容か知りたい? まぁ、最初の一文だけ教えてやる。
『サンタクロースをいつまで信じてたかなんてことはたわいもない世間話にもならないくらいのどうでもいいような話だが、それでも俺がいつまでサンタなどという想像上の赤服じーさんを信じてたかというとこれは確信を持って言えるが最初から信じてなどいなかった。』