「おや、珍しいですね。あなた一人ですか」  
「ああ。そうらしいな」  
「長門さんはどうしたんですか?」  
「知らん。ホームルームが長引いてるんじゃないか」  
「じゃあ、涼宮さんはどうなさったんです?」  
「それも知らん。気付いたらいなくなってやがった」  
「まあ、落ち着きの無い方ですからね。ということは、朝比奈さんもまだいらっしゃってない、と」  
「この華の無い部屋を見ればわかるだろ」  
「いやはや、おっしゃるとおりですね。我々二人だけでは、いつも煌びやかなSOS団の部室も、ただの埃っぽい部屋にしかすぎません」  
「ああ、まったくだ」  
「あなたでなくても、ため息の一つぐらいつきたくもなりますよ。……ところで、僕にもお茶をいただけませんかね」  
「そのぐらい自分で淹れろ」  
「おや、相変わらず手厳しいですね。折角二人っきりなんですから、お互いの友好を深める意味でも一杯ぐらい」  
「断る」  
「……にべもなし、ですね」  
 
 
「……三人とも遅いな」  
「そうですね。どうします? 電話でもしてみましょうか」  
「止めとけ、年頃の娘を持った過保護な親父じゃあるまいし。あいつらだっていい大人  
「でしたらどうでしょう。暇つぶしがてらに、一つ賭けでもしてみませんか」  
「……何のだ」  
「そうですね……、次にこの部室の扉を開けるのは誰か、何てどうでしょう」  
「言っておくが、俺には未来なんてもんは見えんぞ」  
「わかっていますよ。今更あなたが凡人であることを疑っているわけではありません。単純に確率の話でも、というところです」  
「……何を賭けるんだ」  
「ジュース一本、なんていかがですか?」  
「ま、妥当だな」  
「それでは、乗るという事で」  
「ああ、構わん」  
「重畳です。……さて、始めに候補を挙げていきましょうか。まず考えられるのは、涼宮さん、長門さん、朝比奈さんの団員メンバーですね」  
「というか、その三択で間違いないだろう」  
「いえいえ、そうでもありませんよ。我々はここ一年で、ここの扉を叩いてきた色んな方々との関わりを持ってきた筈です」  
「好むと好まざるに関わらず、だけどな」  
「ええ、おっしゃるとおり。まあその中で学校にいる方、といえば大分限られてきますけどね」  
「そうだな……鶴屋さんとか、阪中とか、あのペテン師生徒会長とか、コンピ研なんてのも有りかもな。隣だし」  
「喜緑さん、なんていう線もあるかもしれませんが、大体そんな所でしょうね」  
「……意外とわからんもんだな」  
「ええ。ですが、僕はもう決まりましたよ」  
「ほう。誰だ」  
「割と大穴狙いで鶴屋さん、ですね」  
「へえ、何でまた」  
「なに、ただの勘ですよ……というのは嘘で、実は昨日廊下でお会いした時、近いうちにまた遊びに行くっさ、という旨を涼宮さんに伝えておくように言われたので」  
「それなりに根拠はある、ってわけか」  
「もっとも、それが今日と決まったわけではないですし、やっぱりただの勘といった方が正確かもしれませんね。あなたはどうです? 決まりましたか?」  
「…………ああ、決まった」  
「では、お聞かせ願いましょうか?」  
「多分、ハルヒだろうな…………おい、古泉。何笑ってんだ」  
「いえいえ、予想通りというか何というか、ついつい微笑ましくなってしまいまして。お気に触ったのでしたら申し訳ありません」  
「別に俺はただ一番可能性の高そうな奴を冷静に計算してだな……お前な、ちょっと笑いすぎだぞ」  
 
 
「ったく」  
「いやあ、失礼いたしました。こう見えても反省してますから、そう臍を曲げないで下さいよ」  
「にやけ面のまま反省してるなんて言われても説得力が皆無だぞ。もう一度機関とやらに戻って訓練し直してきたらどうだ」  
「これは手厳しいですね……ですが、実際どうなんですか?」  
「…………何が」  
「涼宮さんですよ。彼女も大分落ち着いてきたようですし、どうでしょう? この辺で一つ、あなたの方から告白でもしてより彼女の精神状態を」  
「それ以上言えば長門に頼んでお前の口を水星あたりに移植させる」  
「……では、止めておきましょう。長門さんは最近あなたの言う事を何でも聞きますからね。本当に実行されかねません」  
「人の事を無垢な少女を誑かす下劣な詐欺師野郎みたいに言うな」  
「ですが、事実ですよ。もっと言うなら、朝比奈さんもあなたの事を大変信頼しているように見受けられます。まったく、男の僕からしてみたら、あなたはいつ刺されてもおかしくないぐらい羨ましい人ですよ」  
「…………」  
「僕は立場上、あの二人とは微妙な関係と言わざるを得ませんからね。と言っても、もちろん個人的にはお二人とも大変好ましく思っていますよ。一度だけ、というあなたとの約束だって、守るつもりです」  
「……当然だ」  
「しかし、いくら好ましく思っていても、僕には彼女たちと腹を割って話すことなんてできませんからね。それは向こうも同じなんでしょうが」  
「そんなもんかね」  
「そんなもんです。ですから、あなたが羨ましい、というのは嘘偽り無い僕の本音だと思っていただいて構いませんよ」  
「…………」  
「口を滑らせついでにお話しておきますが、実は最近僕にも夢ができましてね。ああ、機関とかは関係ない、僕自身の夢ですよ」  
「…………」  
「いつかもし誰も何も隠さないでよくなった時が来たら、また五人揃って旅行にでも行ってみたい、何ていうちっぽけな夢なんですけどね。いやあ、我ながら小市民的な願いです」  
「……古泉、お前」  
「と、いうわけで、夢実現の第一歩としてあなたと涼宮さんに一刻も早くくっついてもらわないと困るわけです。ですからこの辺で一つ……」  
「それ以上言ったら、朝比奈さんに頼んでお前をジュラ紀に置き去りにしてやる」  
「まさに人類創生の父になれそうですね。その時代にイブがいるのかどうかが気がかりですが……おや、電話が鳴っていますよ」  
「あ? ああ、本当だ。……もしもし。ああ、ハルヒか? お前今どこに……」  
「…………」  
「は? 何でまた……わかった! わかったから耳元で叫ぶな!」  
「……やっぱり自分で淹れても、あんまり美味しい物ではありませんね」  
 
 
「……はいはい、じゃあすぐ行くから。ああ。後でな。……ったく、あの万年天気予報不的中娘め」  
「涼宮さんは、何と?」  
「何やら新入生向けのオリエンテーションに乱入するつもりらしい。今すぐ体育館に来いとさ」  
「さすが涼宮さんです。相変わらず大胆な事を考えますね」  
「笑い事じゃないっての。後ろから小鳥がすすり泣くような声が聞こえてたんだぞ。どうせまた変な衣装を着てディズニーも真っ青の派手なパフォーマンスをやらかす気に違いないだろ」  
「いつもの事じゃないですか」  
「アホ。朝比奈さんの美しいお姿を入ってきたばっかのガキどもに無料で見せるなんて勿体無い事できるか! 何としても阻止するぞ、古泉」  
「僕としましては、涼宮さんが良ければそれで良いんですけどね。ですがまあ、あなたの言う事も一理あります」  
「いいから行くぞ。茶はそのまま置いときゃいいだろ」  
「そうですね、では早速…………ああ、この場合賭けの方はどうなるんでしょうか。やはり無効ということで」  
「いや」  
「……?」  
「一年に一回ぐらいは、俺が奢ってやるさ」  
「……毎週奢ってもらっているような気もしますがね」  
「やかましい」  
「いやいや、冗談です。身に余る光栄だと思ってますよ。本当にね」  
「……さっさと行くぞ」  
「ええ、参りましょうか。皆さんきっと、お待ちかねでしょうしね」  
 全くもって、身に余る光栄です。  
 

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