俺はそわそわしていたらしい。
らしいというのは、俺は普段通りに振る舞っていたつもりだったからだ。
そう指摘したのは古泉だったが、奴以外は気づいてはいないはずだ。
俺が舞い上がっている理由は、これからある場所へ行って、ある女性
とデートすることになっているからだ。
その女性とは、文化祭当日、朝比奈さんクラスの喫茶室で、俺たちに
焼きそばを給仕してくれた、朝比奈さんに負けず劣らず容姿端麗で、
かつグラマラスな女子生徒だ。
俺は、彼女から3日前に告白を受けた。愛の告白というやつである。
だが、俺は彼女のことはほとんど知らなかった。それに俺の脳内に
SOS団3人娘の映像が再生されるに至ってしまい、俺はぬるくも友達
からでいいですかと答えてしまった。
彼女はそれを承諾してくれた。多少残念そうではあったけれど…。
だが、すぐに気持ちを切り替えたようで、俺をデートに誘ってくれた。
場所は、いつもSOS団が待ち合わせに使用している、北口駅前の公園だ。
時間は今日、土曜日の午前10時だ。ああ、心配しなくとも、SOS団の
市内探索は、明日日曜日だから大丈夫だ。
俺は約束の場所へ急行すべく、準備を整えていた。
と、その時突然電話がかかってきた。しばらくすると、電話を受けた妹が呼びに来た。
相手はハルヒだった。
俺は言いようのない不安を感じていた。子機を受け取って耳に当てると、
「キョン、SOS団の市内探索は今日に変更になったから。でも絶対来なさい。
来なかったらゆるさないわよ」
予感的中。さらに待ち合わせの時間を聞いて、俺は卒倒しそうになった。
顔面蒼白になり、背筋を冷たいものが流れ落ちる。
俺は、断頭台に連れて行かれる、死刑囚のような面持ちで、ママチャリを
発進させた。
俺は競輪選手も真っ青の、猛烈な勢いでペダルを回転させている。
わずかでも早く到着したかったが、ハルヒの掛けてきた連絡が出発ギリギリ
だったため、絶望的だ。
そこで、はたと気づいた。
ハルヒは俺にだけギリギリに連絡したのではないかと。理由は考えたくもないが…。
俺の今の心境は、お化け屋敷で、お化けが出ないことを祈る、臆病な少年のようだった。
北口駅前のビル横の駐輪禁止区域に、チャリンコを止めて公園に急ぐ。
この光景を見たら、大抵の人間は羨望の目差しを向けるだろう。
美少年美少女が5人も公園に集結していた。男が1人に、女が4人である。
そう、残念ながら、デートの待ち合わせ相手である上級生と、俺を除いたSOS団全員が
鉢合わせしたしまったのである。だが、結構楽しそうに談笑している。
これは何とか切り抜けられそうか。
「キョ〜ン〜?」
「キョン君」
「キョンさん」
「………」
[フッ…」
前言撤回
「どういう事か説明してくれるかしら?事と次第によっちゃ、あんた生きて帰れないわよ」
故郷の父さん、母さん。先立つ不幸をお許しください。