「ねえキョン……やっぱり私、おかしいのかな…? 高校に……高校生になっても諦めきれない私が、変なのかな……?」
膝の上の湯飲みの水面をじっとみつめて、ようやく泣き止んだ後に、ハルヒは、ぼそりとそう言った。
たしかに、それに対し、「そんなことないよ」とは、口が裂けても言ってやれないだろう。
ハルヒが俺を信じているからこそ、甘い囁きだけを耳に入れてやればいいというものでは、余計に、なくなってしまうのだ。
この日本にそれを旨とするクラブ・研究会は数あれど、彼女ほど真剣に、
倦みを知らずに「宇宙人」だの「未来人」だのを追い続けている少女は、おそらく二人といないのだろうから。
「……かもな」
全ての意識はハルヒに向けて、しかし視線だけは他所を向いたままどうでもよさげにそう答えると。
「……っ!」
せっかく湿度を落としたハルヒの瞳が、みるみるうちにかき曇る。
俺は、ハルヒのどんな顔も好きだ。
控えめな笑い。真摯な横顔。
驚いた丸い瞳。そして、泣き顔。
あんがいこいつを苛める馬鹿ども全員、無意識にであれその脅えに強く惹きつけられているからこそ、何度も、何度でも繰り返すのかもしれない。
ガキでもあるまいに、好きな子ほど苛めたくなるでは、どうしようもないとわかっていても。
「……ふっ……ふぅっ……ふぇっ……うぅ……うっ……うっ」
ぽろぽろと、透明な雫がスカートに落ちる。その姿。
ずっとずっとでも眺めていられるが、あまり長く苛めると後を引くので、フォローに入る。
「いや、悪口じゃなくてな」
「……?」
赤くなった目元と鼻を、袖でこすってハンカチを取り出し。
その途中で上目遣いに見てくる可愛らしさに、内心床を踏み鳴らしながらも澄ました顔で、続ける。
「俺は、お前のそういう珍しいトコ嫌いじゃないぞ」
そんなお前だから好きなんだ、とは流石に、どの口が腐っても、言えたものではありえない。
だがその裏の意味は正確に伝わってしまったようで、ハルヒの顔が、みるみる内にトマトのように真っ赤に熟す。
「……あ、ありがと……」
鳴いたカラスがもう笑う。長いまつげが伏せられて、よっぽど注意しないと見えない微笑み。
泣き顔に咲くそれがあらゆる男の庇護欲嗜虐欲をそそって止まないと、自覚は絶対無いのだろうが。
このでかいテーブルが邪魔だ。これさえなければ、今すぐ抱きしめて唇を合わせ胸元を嗅いで、思う様肺を暖め合うのに。