「いくさがたな」
「………」
それがある日の部室での俺と長門との会話だった。
紛らわしいので一応言っておくと、謎の言葉を言ったのが長門で三点リーダで答えたのが俺だ。
あー、もしもし長門さん。
俺の記憶違いでなければ『長門にとって俺はどんな存在か』と尋ねたつもりだったんだが。
長門は頷き、そしてもう一度告げてくる。
「いくさがたな」
どうやら聞き間違いではないようだ。
いくさ……がたな。俺の知る漢字を当てはめるなら『戦刀』ってあたりか?
それにしても……戦刀とはまた大層な例えだ。
俺からみれば長門の方こそ戦刀って感じなのだが。
「あなたがいるといないとでは、わたしのポテンシャルが変化する」
どういうことだ。
「あなたはわたしにとって、魂のような存在」
あぁ、なるほど。それで戦刀ね。
日本刀は武士の魂と昔の人は言ったものだ。
「戦刀……か。聞いたこと無いが、良い言葉だな」
「当然。従来の日本語ではなく、わたしの言葉」
長門の造語なのか。それはますます貴重な事だ。
もう一度だけ言ってくれるか。折角だからお前の言葉で記憶できるようにさ。
長門は二度ほど瞬きをすると小さく頷き、言葉を紡いだ。
「いくさがたな」
「へぇ、面白いね。『いくさがたな』って表現するなんて」
あけて次の日の昼休み。
相変わらず国木田と谷口と三人で昼を食べながら、俺は例の言葉について話題にしてみた。
長門が俺に告げたという事実は伏せ、何かの本で読んだ事にしている。
「面白いか? 俺にはさっぱり意味がわからん。一歩違えば電波っぽいしな」
谷口は相変わらずアホな受け答えしかしてこない。
まぁ、確かに言葉だけじゃその真意まではわからないよな。
「ははっ、電波じゃないよ。この言葉は、とっても意味が深いんだ」
何だか妙にベタホメだな、国木田。一体お前の何処にヒットしたんだ?
背景を全く知らないはずなのに、何で意味が深いとかまでわかる?
「アレ? 良い言葉とかいってたくせに、キョンも気づいてなかった訳? 僕はてっきりキョンからのクイズだと思ってたのに」
クイズだと? 一体どういうことだ。
「んーとね、自分で気づいた方が面白いと思うよ。確かアハ効果だっけ?」
何だ何だ何だ? 国木田曰く「戦刀」には何か隠された意味があるって言うのか。
俺と谷口は顔を見合わせ考える。
「全然わかんねぇ。飯の時間ぐらい頭休ませろ」
しかし谷口がすぐに手を上げ降参すると、国木田はヒントだけといって教えてくれた。
「ヒントはね、逆再生だよ」
そのヒントを聞いたとき、俺はなぜか朝倉の事を思い出していた。
宇宙語なのか知らんが、長門も良く唱える謎の呪文を、朝倉が長門に対して唱えてきた姿を。