12月26日―
私は東中に向かっていた。
相変わらずずさんな警備ね。前と何にも変わって無いじゃない。
昔と同じ方法で学校に入って、グラウンドに向かう。
私が今日ここに来たのは、ある思いにけじめをつけるため。
そう、ジョンへの思いを―
あれ?グラウンドに誰かいるわ。こんな遅くにこんな所にいるなんて普通の人じゃないわね。もう少し近付いてみましょう。
あれは―キョン?
キョンがなんでここに?あいつの中学はここじゃないはず。
まあいいわ。後ろから声をかけてちょっと驚かせてみようかしら。
キョンに気付かれないようにそっと接近する私。
考え事をしてるみたいで、キョンは私に全く気が付かない。
そういえば、キョンのこんな表情はあまり見た事がないわ。いつもと違ってなんか新鮮。
こうして見ると、キョンってやっぱそれなりに顔は整ってるわね。いつも間抜けな顔しか見てないからわかりにくい―って何考えてるのよ私!
私は余計な考えを頭の外に追いやり、空を見上げているキョンに声をかけた。
「キョン、あんたこんな所で何やってんの?」
「っと、驚かすな。というかなんでお前がここにいるんだ?」
「私?私は、その、暇だったからなんとなく来て見ただけよ。あんたは?ここに来る理由なんてないんじゃないの?」
「いや、あるんだよこれが。ここは俺にとって・・・大切な場所だ。ここでの出来事があったからこそ、今の俺がいるんだ」
「ハルヒ。俺が頭を打って意識不明の時にずっと付いていたそうだな。全く、学校はどうしたんだ?他の人に迷惑がかかるだろうが」
ぶっ倒れて入院したあんたには言われたくないわね。
「だけど―ありがとう」
・・・。今、あんたなんて言った?
「意識がない時、恐ろしい夢を見てな。それこそ今までの価値感や考え方が変わってしまうほどの。
その夢から帰って来て、お前の顔を 見たら安心出来たんだ」
「べ、別にお礼を言われるような事じゃないわ。団長が部下の心配をするのは当然でしょ!」
私は動揺していた。
まさかキョンにお礼を言われるとは思ってなかったのもあるけど、その時キョンが見せた顔が一番の原因。
文化祭の時のような、いや、それ以上の笑顔。
顔が真っ赤になりそうだったから、思わずプイとそらすしかなかった。
「そうだ。キョン、あんたちょっと手伝いなさい」
「まさか、またあの変な記号みたいのを書くとか言わないよな」
「そのまさかよ。でも、今度は前とは違うのにするわ!」
「やれやれ。見つかる前に終わらせるぞ」
ジョン。私はあなたに感謝してる。
あなたがいなかったら、私は退屈な日常を過ごしていると思う。
北高に入る事もなく、SOS団も出来なかった。
あなたがいたから、みくるちゃんと有希、古泉君に会えた。
今思うと、これが初恋だったのかもね。
でも、それは今日でお終い。何故なら―
「お、雪が降ってきたな」
「そうね。う〜、ちょっと寒い。ん、そうだ」
「お、おいハルヒ。腕にくっつくな。歩きにくいだろうが」
「別にくっつきたくてくっついてるわけじゃないわ。あんたでもカイロがわりにはなるでしょ。文句を言わない。
さ、このまま私の家に行くわよ」
「おい、お前何を考えてるんだ」
「あんたは夜中に女の子を一人で帰すの?それに、この私をエスコート出来るんだから感謝しなさい!」
「やれやれ、わかったわかった」
もっと好きな人が出来たから。
今はまだ素直になれないけれど、いつかきっと―
え、グラウンドに何を書いたかって?仕方ない、特別に教えてあげる。
さよなら―ジョン。