俺は絶句した
唐突すぎるだって?そりゃそうもなるさ
いつも通りにマイスウィートエンジェルの着替えと赤面を
やや期待しながらノックなしに部室のドアを開けた時
【週刊 影の噂! 隠された都市伝説】
という黒のオカルトチックな雑誌を手にしてるハルヒを見た
しかも顔を恒星のように輝かせながらとまで言えば、理由としては十分だろう
長門はいつもの読書人形のごとくそのまま鈍器として使えそうな分厚い本のページをめくっている
一方朝比奈さんは、ハルヒの斜め後ろで、ひぇっ とか ひゃっ とか可愛らしいお声をあげてらっしゃる
大丈夫ですよ、俺の見てきた映画やアニメじゃ美少女ヒロインは死なない設定です
だ、だめよ。どうせ皆殺されちゃうんだわ。とか言い出さない限り200%大丈夫でしょう
「たまには遠出もいいわね、倒産した大きな会社の地下とか潰れた病院とか
そういう人の来ないところに不思議はダベってるのよ!」
そんな不良みたいなもんか、不思議ってのは
しかしながらコイツが期待しているものが、イメージ通りにポンポン現実に現れてきたら相当やばいかもしれん
町の下水道に巨大な白いワニとか、某ネズミランドの地下に巨大賭博場くらいなら、もう既にあるかもしれないな
だが人面犬や口裂け女といったものが町に蔓延るところを想像すると思わず鳥肌が立った
「ハルヒ、都市伝説ってもんはな、大抵が大袈裟に誇張した話や
"もしかしたら"起こった"かもしれない" というデマが多いんだぞ」
「ちょっとキョン!被害者のほとんどはアンタみたいな話を馬鹿にした奴が多いのよ!
……ははぁん、信じていないから襲われないって逃げようとしたって無駄よ!相手はそんな容赦はしてくれないわよ!」
完璧に感染してやがる
こうなったら我らがノートン先生でも止められないだろうな
「ふん!まあアンタみたいな奴だったらわざわざベテランが出なくてもザコで十分でしょうけどね!」
是非その縦社会の構図を教えてもらいたいね
──とまあ、こんなやりとりが終わった後
後から来た古泉といつもの白星量産ゲームをしていた
───有希!アンタは大人しいんだからこういうのに絡まれやすいわよ!
ほら!これ読んでしっかり対策しときなさい!
そいつなら妖怪やらが一個師団で攻めてきても心配ないだろう、逆に殲滅しそうだ
こんな感じで今日も本を閉じる音を俺の耳がキャッチし、今日の俺の部活を終えたわけだ
俺の携帯が久々に真夜中に鳴ったのは、その夜だった
夜に携帯が鳴って吉報を伝えてきたのは俺の記憶にはない、ということは
あの3人の誰かが俺の顔が青くなるような事を言い出すんだろうと思っていたのだが
「非通知……?」
あの3人以外に真夜中に電話をかけてくるなどありえるんだろうか?
若干の嬉しさと不安を持ちながら俺は携帯を手にとった
「……たし……さん、今駅…るの!」
本日再び絶句した
寝ぼけていてよく聞こえていなかったが、俺の頭を覚醒させてくれたのは確かだ
クソッ!誰だよザコが来るって言ったのは!語りつくされた大御所じゃねえか!
防空壕から顔を出した瞬間タイガー戦車を見たような兵士の気分になりながらも
「……駅前ならまだ時間がある、長門なら」
そう思い当たり手にしている通信機で増援を呼ぼうとし──
「あたし……さん!今あな……後ろにいるの!」
タイガーがワープした
どう考えたって反則だろ!もっとジワジワ来るから恐怖を感じるもんじゃないのか!?
と、ここまで考えてようやく自分の置かれた立場に気づいた
相手はもはや伝説と化している"アレ"だ
ということは俺の背後に今立っているこの気配はまさしく───
「……」
「……」
「……長門、何やってんだ?」
読書人形ならぬフランス人形がそこにいた
ピンクづくめのフリフリのドレスを着た少女は
そのままドールショップに出荷できそうな可愛らしい外見だった
「……資料によるとこの姿は代表的な都市伝説である"メリーさん"と呼ばれる物の姿を模したもの」
それは分かる、けどそうじゃなくて何でお前がそれになってるんだ?
「……資料によると普通都市伝説によって起こる現象は普通一つ、複数が同時に起きることはない
先刻の涼宮ハルヒの発言によって貴方に危険がふりかかると予想し、先に手を打っておいた」
確かに複数同時に起こったという話は聞かないな
さっきも言ったがコイツなら口裂け女が現れてもいつもの情報なんたらで美少女に変えてしまいそうだ
……ん?
「ちょっと待て、俺はもう寝るんだが。 もしかして一晩中一緒にいるのか?」
こくっ、と約5度くらいで肯定した
マジかっ
「大丈夫、あなたに迷惑はかけない」
いやそういう事じゃなくてやっぱり男女が同じ部屋で一晩を過ごすというのは色々問題あってだな……
と言いかけて余計空気をまずくしないために、俺は「そうか」とだけ言ってベットに潜り込んだ
2、3分が経過した
……ん?
なにやら背中に気配が
ぴとっ
「うおっ!?」
びっくりして振り返るといつの間にかベットに入り込み
両手を俺の背中に当てている長門の頭が見えた
「メリーさんというものは背後に現れる、と書いてあった
よって常にあなたの背後にいれば大丈夫」
いやいやその前に俺の精神が大丈夫じゃなくなるぞ
背中に2つの温かみを感じているこの状況じゃ───
「……?」
……手が震えてる?
あの長門が?核をゼロ距離射程で発射されても瞼一つ動かさないコイツがか?
「……これは体温の変化に伴う肉体的なもの」
まだ何も言ってないぞ
「……決して緊張や恐怖によるものではない」
……そうか
いや、何も言わん。長門がそう言ってるならそうなんだろう
もう春だというのに長門だけ宇宙人特有の冷え性でも来たんだろ
うん、そういうことにしておこう
「ところで、いつ間まで俺の背後にいるんだ?」
「……人の噂も、七十五日」