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やっつっつぁっぱり りっぱりらんらん
て(っ)きたり りんらん てぃちたんどぅら
りぺたびだんら るっぱてぃるぴらん
これかん こっかや きりがんぐ
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憂鬱な梅雨の雨の下、俺の前のPCからは、陽気なポルカが流れている。
さっきからループさせているが、それでも面白い。
単調的な音楽に見えて、実は音程の変化、アカペラの合わせ方、意味は分からんが
…逆にそれだから良いのかもしれないが、非常にノリの良い歌詞。
ネットで爆発的に人気になり、それをバックグラウンドに作られた映像が
あっという間に世界中に広まったというのも分かる気がする。
さて…
* * *
最初にこれを見つけてきたのは当然ハルヒだ。
「ちょっと、これ面白いわよ!」
イヤホンを付けたハルヒは、なぜかネギをまわしているフラッシュを見ている。
正直、同じフレームを繰り返しているようにしか見えないフラッシュの何がそんなに面白いのだろうか。
「この面白さが分からないの?全く、だからキョンはキョンなのよ」
なにがだ。そんな某ガキ大将の様な自己言及によって悪口が成立するほどのものだろうか。
俺のアダ名というものは。だったらとっとと破棄したいものだが、朝比奈さんの「キョンく〜ん」
だけでも許せる気がするのでやはりそれは却下する。
「いい、スピーカーにつなぐからね」
…
俺は気が付いていたら、たっぷり3回位はループした。
ハルヒもタマには有益なものを見つけてくるものだ。
「ね、面白いでしょ!」
ああ、確かに今回は同意する。だが、これは面白いというより、どちらかといえば、
延々と続くループ感が良いという「中毒的な」物に属する気がするが。
「でね、あたしはこれを歌えるようになりたいの!」
そうか。ならば歌うが良い。去年の学芸会でお前の歌声ならお墨付きだ。
「何言ってるの?SOS団全員で歌うのよ!元の歌声は男二人、女二人何だから…
メインボーカルは当然私、裏に有希、男二人分は古泉くんとアンタで何とかしなさい。
みくるちゃんにはそれに合わせて踊ってもらいましょう!
ね、私たちで何とかなるわ!」
…おい。おれはアカペラ等やったことも無い。練習せよというのか。
そこからやらなければならないのか。
朝比奈さんの踊りについては、全く持って異論は無いが。
どうせなら、ついでにネギを回す鶴屋さんを加えたらいかがだろう。
「と、言うわけで、これの元歌のmp3は取って置いたから、その歌詞をとっとと書き取ること!」
…この何語とも分からん歌詞をどうやって書き取って、さらに歌えるようにせよというのだ。
…とりあえず、耳コピでメインフレーズだけは何とか冒頭のようにひらがなにした。
Windows media playerにスロー再生機能がついていることを教えてくれた、コンピ研部長その他。
感謝する。元のスピードでは書き取ることも不可能だった。
だが、裏にどういう歌詞が載っているのかまでは分からん。
幾つか書いてみたが、細かいところまでは把握し切れん。
まして音程までは正直無理だ。俺の音楽の成績は良くも悪くも無い、中間って所だ。
中流家庭であるウチが、幼い頃の俺にピアノの英才教育を施してくれたわけでもない。
んで、しかたなく俺は何度も聞きなおして居る所で最初に戻る。
* * *
「…」
うお、びっくりした。後ろに立つときは頼むから椅子から立ち上がる気配位見せてくれ。
「急に長門が来たから」などとは言いたくは無い。
「…?」
首を傾げる長門。意味不明なのだろうか。俺も正直ハルヒの命令とはいえ、自分が何をしているのか意味不明だ。
同士だな。
「あー、どうした?」
「…これ」
と、長門は歌が流れている画面を指差す。
なんだ、またカマドウマが出現するサインでも作ってしまったのだろうか。
いや、この歌自体はハルヒ外の産物だから、それは無いか。
しかしハルヒが歌うと何かを召還してしまうのかもしれないな。一応聞いておこう。
「何かあるのか?」
「…私も聞きたい」
ああ、そうか。俺はイヤホンで聞いていたんだったな。
そもそものハルヒもそうだが、何故パソコンから音を出さないのかというと、この部室のすぐ傍には演劇部がある。
そこの邪魔になる…かもしれないから、らしい。ハルヒによれば。その命令はコンピ研にも通達済みらしい。
ハルヒにそれだけの思いやりがあったとは意外だ。出来ればそれを内部、特に俺や朝比奈さんにも向けて欲しい。
まあ、ちょっと前に隣のコンピ研から女性の嬌声が唐突に聞こえ、思わず飲みかけていた天上の甘露、
朝比奈さんのお茶を吹いてしまったことが有ったため、その決定自体には文句は無い。
…あれ、ハルヒがそれを言い出したのはその直後だったか?
まあいい。というわけで俺は自分のイヤホンを、長門に渡した。
「…」
長門は無言でそれをつけると、再生を押した。
しかし、いくらイヤホンの長さが短いとはいえ一寸近すぎないか。
こんなに近寄られたらその、なんだ、困る。
長門の居る位置上、立ち上がることも出来ない。
「あててんのよ」とか言わないことを祈る。…いや、長門はそんな事は言わんか。
一周した所で長門はイヤホンを俺に返した。…体温が残っているな。
いや、俺にはそんな変態的趣味、属性はない!あれだ、耳の体温は他より高くてだな…
…って俺は誰に言い訳してるんだろうな、おい。
「把握した」
「何をだ?」
イヤホンを受け取った俺は、そのまま耳につけるのがためらわれたので、そのまま手に持っていた。
「この曲。再現可能」
おお、当然とはいえ流石だな。やはりあの超絶ギターや、あのハレ晴レダンスの振りを
一発で覚えきっただけのことは有る。
「…聞きたい?」
…聞きたいな。うん。長門の歌声はあんまり聞く機会が無い…と言うか、聞いたことがないからな。
「じゃあ」
♪Nuapurista kuulu se polokan tahti
jalakani pohjii kutkutti.…
あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
「長門が普通に歌うかと思っていたが、いつのまにか訳の分からん言葉の原曲を4人分で再現していた」
な…何を言ってるのか わからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった…
頭がどうにかなりそうだった…
以下略。
「この言語はフィンランド語」
いや、そんなことを聞いているのではない。
まずだ。歌うなら、四人分歌うなど、どこぞやのアンプみたいなことをしないでくれ。
「…?」
ああ、もう首を傾げている。
「普通はだ、一人は一人のパートだけを歌う物なんだ。
ハルヒによれば…長門の担当は二人目の女性ボーカルだな。
そこだけを歌ってくれ」
「了解」
…えっとだな。私が聞きたいのは再現ではなく、長門、お前の声なんだ。
何故原曲からその女性ボーカル部分だけを抽出する。
「歌う、とはそう」
やや不服そうな…俺には分かる…無表情でそう返す。うん、やっぱりそこらへんは苦手分野なんだな。
ふーむ…長門には珍しく、今回は俺が教えてやれそうだ。よし。
「いいか、歌ってのは声に当人の思いが乗るもんなんだ。
だから、『お前の声』で歌えば良いと思うぜ。俺も聞いてみたい」
「…そう」
まあ、結論だけ言おう。どうせ、俺の表現力では歌の雰囲気等は、そのまま表現できないしな。
文章に音を載せられないのは残念だ。
結局その時俺は、サブだけではなく、その後でメインフレーズも歌ってもらった。
その歌を歌う、長門の声は、俺の贔屓が多分に入っているとはいえ、良い声だった。
ハルヒも選択を間違えることってあるんだな。
おまけ
「なあ、長門」
「何」
「さっきみたいに、耳コピでパートの分離、抽出ができるなら、それを書くことってできるか?」
「可能」
「じゃあそれをちょこちょこっと書いてくれないか?」
「…」
「…長門、率直に言って良いか」
「何」
「読めん。何語だこれ」
「フィンランド語と五線譜」
「…分かった。でもせめて歌詞は、カタカナかひらがなで頼む」