古泉の奴め、何であいつが俺の、中学時代の女友達のことまでことまで知っているんだ。と問うのも愚問か。  
何せあいつは機関なんていう、工作組織だか、探偵事務所だかわからん組織の一員だからな。俺の過去ぐら  
い知っていても不思議じゃねえ。あいつの前にはプラバシーなんかあったもんじゃないな。  
 
 そういやあいつは、今どうしているんだろうな。年賀状では市立高校で元気にやっているようだが・・・。  
それにしても、俺と付き合ってたなんてのは、馬鹿馬鹿しい戯言だが、国木田までが勘違いしていたのは、業腹だ。  
まあ、仲は悪くなかったし、よくつるんで掛け合い漫才のような事をやってたからな。ああ、変な女というのも的確  
な人物評だ。なんせあいつはハルヒとは違ったベクトルで、とんでもなくハイテンションで、ぶっとんだ女だったのだ。  
 
 
──あれは俺が中三になってまもなくのことだった。俺はとうとう受験という、人生の中でも5本の指に数えられる  
ような、苦難の一年を否応なく迎えてさせられていた。  
 新学期が始まると、ただ隣の席だと言うことだけで、俺は彼女と知り合うことになった。最初は、なかなか機知  
に富んだ会話をする奴ということで、すぐにうち解けるようになった。気も合ったのだろう。  
 
 だが、仲がよくなるに従って、あいつが本来持つ、底知れないエネルギーを炸裂させるようになっていた。  
 ある日のこと、彼女が教室に入ってくるやいないや、俺の席までやって来て──  
「キョンくーん、キョン君キョン君キョン君キョン君キョン君。さて、わたしは何回キョン君と言ったでしょう?」  
「知らねーよ。5回ぐらいじゃねーの?」  
「ざんねーん。正解は7回でした。じゃあ不正解だから、ひろしくん人形は没収しまーす」  
「そんなのはねーよ。つーか、いつのまにそんなの賭けてたんだよ?」  
「さっきだよ。キョン君、そんなことを言ってたら、一流の回答者にはなれないよ。草野さんも草葉の陰で泣いてるぞ」  
「一流の回答者なんかになりたかねーよ。その前に、草野さんを勝手に殺すな」  
「大丈夫。キョン君。わたしが児玉さんに替わって、キョン君を一流の回答者に育ててみせるから」  
「さっきと人が変わってるだろ。児玉さんて誰だよ」  
「知らないのキョン君?あの有名な児玉さんを。あ、言っとくけど児玉源太郎じゃないよ」  
 何で一女子中学生が明治の軍人を知ってるんだよ…。  
 俺は突っ込むのにも疲れて、こめかみに人差し指を当てていた…。  
 
 これはほんの一例に過ぎないが、いつもこんな風だから、二人は付き合ってるなんて噂が流れたんだろうか?確かに  
しょっちゅう一緒にいたような記憶があるが…。だが、待てよ。そう言えば、ある時からあまり冗談も言ってこなくなったな。  
 
 あれは2月の初め頃か──たまたま俺は彼女と途中まで一緒に下校していた。俺にはいつもと変わらないように見えたが、  
それでもいつもより、口数が少ないようなのような気もした。それでも彼女は口を開くと、いつもの調子で、  
「キョン君。2月のイベントって何か知ってる?あっ、言っとくけど、建国記念日というのは、なしだからね!」  
 ボケる前に先に言われてしまい、どうボケようか迷っていると、  
「バレンタインデーって知ってるよね?」  
 そりゃ、俺も男だからな。重要なイベントの一つとして認識しているが、と答えると、  
「キョン君は今年もらえる当てはあるの?」  
 と、彼女に問われた。どういう意図があって、こんな質問をしてくるのか俺にはわからなかった。いや、今になっても  
わからないんだが…。  
 俺はこう答えた。  
「あてと言われてもな。妹と母親ぐらいからはもらえるだろうが、後は別にないな。もらえるもんなら誰から  
でもいいけど、まあ、別に好きな女子がいるわけでもないし、俺を好きでいてくれる女子もいないだろうしな」  
「じゃあ、キョン君。わたしが…」  
「ああ、俺こっちだから。お前も急がないと電車が出ちまうぞ」  
「そ…、そうねキョン君。じゃあまたね」  
「ああ、またな」  
 
 この日を境に、彼女が俺に話しかける頻度が徐々に少なくなったんだ。ああ、バレンタインデーには一応やけに装飾を施した  
義理チョコをもらったがな。  
 
 
 
「キョン。いつまで部室でぼうっとしてるの!ほら早く帰るわよ」  
 ハルヒのその一声で、俺は我に返った。どうやら俺は、他の3人が帰ったのもにも気づかずに、惚けていたようだ。  
 ハルヒの方はと見やると、すでに白のダウンジャケットを着込んでいた。帰る準備は万端だ。早くしないとハルヒ団長閣下  
の怒号があがるだろうから、俺はいそいそと、ハンガーラックに掛けているダッフルコートを取りはずし、身につけた。  
 
 下校途中、ハルヒは何かこちらを伺うような目をしている。俺が怪訝そうに見返すと、途端にあわてて、あさって  
の方向に目をそらした。何だ、気持ち悪い。ハルヒらしくねえな。  
「おい、ハルヒ。なんか聞きたいことでもあんのか?」  
「別にないわよ!ただ、あんたが珍しく部室で考え込んでいたから、どうしたのかなって思っただけ!」  
   
 別にないことないじゃねえか。それなら。つーか珍しくはよけいだ。俺だって考えることぐらいあるんだよ。  
「へえ、初耳だわ。ひょっとして進級できたことでも考えてたの?それなら、あたしが家庭教師をしてあげたおかげだから、  
あたしに感謝しなさい。なんなら感謝の品でもいいわよ。今なら絶賛受付中だからどんどん贈りなさい」  
「そのことなら感謝しているが、考えてたことはそれじゃねえよ」  
 成績の怪しかった俺は、団長の提案のもと、無料の家庭教師を受ける入れる羽目に・・・。もとい、ありがたくも教えを  
受けることに。  
 
 まあ、その成果が出たおかげか、華厳の滝のごとく落下し続けるだけだった俺の成績は、川を這い上がる鮭のように  
上昇し、多少の余裕をもって進級できることになった。ついでにハルヒはなぜか俺の母親にはやけに愛想よく、また、  
よそゆきの態度を取って、妙に仲良くなってしまった・・・。いや、それはいいんだが、  
「じゃあ、何を考えてたの?」  
 と、ハルヒが尋ねてきた。  
 いや、実はな・・・と言いかけて、俺はためらった。国木田に俺の中学時代の彼女だと、勘違いされている女の事をハルヒに  
言ってしまっていいものか・・・。  
 
 いや・・・まずいな。──また余計な誤解を生みそうな予感を、ひしひしと感じる。  
 ハルヒに誤解されたからって、どうだというんだ、と思うが・・・。よそう、深く考えるとよけいなことを考えてしまいそうだ。。  
 俺は相手が女だとわからないように、あたりさわりなくハルヒに答えた。  
「ふうん。あんたにそんな友達がいたなんてね。ところで今はどうしてるの?そいつ」  
「ああ、どうやら市内の高校で元気にやっているみたいだ」  
「そう。でも打てば響く漫才師ってのもおもしろそうね」  
 おいおい、他人の友人を勝手に漫才師にしてくれるな。まあ、ベクトルは違うが、ある意味お前に近い存在かもな。  
「ますますおもしろそうね」  
 ハルヒは喜色を満面に湛えてそう答えた。  
 
 
 後日、俺はハルヒにこんなことを言ってしまったことを、後悔することに・・・。  
 
 
 3日後、早速効果が現れた。  
 そう、国木田と中河いわく、通称『変な女』は、3学期も後残りわずかにもかかわらず、わが県立高校に転入してきた。  
 どう考えてもおかしいだろう。引っ越しをしたわけでもないのに、市立高校から、わずか数キロ北上したにすぎない、  
県立高校にやってくるなんて・・・。もちろん言うまでもなくハルヒの力だ。あいつの変態パワーが彼女を転校させたに違いない。  
 後ろの席に座る女──ハルヒのことだが──が俺の背中を突っついた。  
「ねえ、キョン。ひょっとしてあの子があんたの言ってた友達?」  
 いつもの声音だが、少しトゲがある。  
「ああ、どうやらそのようだな。しかし、こんな時期に転入してくるなんて珍しいな」  
「そうよね。あんたの言い分じゃ、市内の高校だったわよね。どうしてこんな近いところへ転入してきたのかしら?」  
 それはお前のやったことだろ。ハルヒ。そう言いたかったが、しかし言うわけにもいかない。  
「ひょっとして、誰かを追いかけてきたんだったりしてねぇ」  
自分がやったくせに勝手に誤解するな。  
「まあいいわ。貴重なお笑い要員だし。後で、SOS団に連れて行きましょ」  
 
 
自己紹介がつつがなく終了し、彼女は俺を一瞥すると、担任の指示に従って、昨日、急遽このクラスに運び込まれた席  
に腰掛けた。  
 
 昼休みも含めてその日の休み時間には、彼女の机の周りを男子女子ともどもが群がり、俺たちと話をする暇もなかった。  
しかし、しきりにこちらをちらちらと振り返っていた。俺たちは会話に参加することはできなかったが、彼女は中学時代の  
明るさを振りまいているように見えた。  
 しかし、彼女の視線がしきりに俺に向いていることが気に入らないのか、ハルヒは始終アヒル口をつくり、  
不機嫌オーラを醸し出していた。  
 
 やがて、すべての授業が滞りなく終了すると、ハルヒはすっくと立ち上がった。  
「キョン、行くわよ」  
 と言って有無を言わさず俺を引っ張り、彼女の席へと向かった。  
「よう、久しぶりだな」  
「ヤッホー、ひっさしぶり。キョン君」  
 と、約1年ぶりに交わした挨拶もそこそこに、  
「あなたもちょっと来て」  
と憲兵隊よろしく、ハルヒに連行されてしまった。  
「ええっ、ちょ、ちょっと、どこに行くの?」  
 俺は、あきらめめてくれ、と彼女に目配せをするのがやっとだった。  
 
 
 廊下には、まだ橙がかった陽が差し込んでいないようだった。俺はハルヒに引きずられながら、日が長くなりつつ  
あるということをしみじみと感じていた。  
 
 ハルヒは、SOS団兼文芸部部室のドアの前で立ち止まると、このドアに何か恨みでもあるのか、という勢いで開け放った。  
「みんなー、待った?」  
 なんでお前は、そんなに無駄なまでにエネルギーを撒き散らしているんだ、と独りごちた。しかし俺は、今日1日中感じ  
続けていたオーラが、霧散したようで安心していた。  
「みんな、喜びなさい。今日から我がSOS団に入団してくれる転校生ちゃんよ」  
 なんだよ、転校生ちゃんて。ちゃんと名前で呼んでやれよ。  
「あの転校生ちゃんって…?わたしにはちゃんと名前があるんだけど…。それに入団って、ここ文芸部じゃないの?」  
「いいからいいから。まあ、気にしないで。あたしも気にしてないから」  
 いや、お前は気にしろよ。って聞いてねえ。  
「聞いて驚きなさい。実はこの娘、名うての漫才師なの。キョンとは中学時代に、漫才コンビを組んでいたんだって」  
 誰が漫才師だ。その紹介は著しく間違っている。しかも俺が漫才の相方を務めたつもりはねえ。  
「あらそう?じゃあどういう関係だったのかしら。ずいぶん仲がよかったそうだけど…?」  
 その瞬間、部室の気温が下がった。俺の背筋に冷たいものが走る…。このために彼女を部室に連れてきたんじゃない  
だろうな。このままじゃつるし上げを食いそうだ…。俺は身の危険を感じていた。  
 
 誰か救いの神はいないかと、視線を他の3人に目を向けてみた。俺の心のオアシスであり、SOS団のマスコットでもある  
メイド姿の朝比奈さんは、何かを抑えているようだった。しかし抑えきれないでいる感情が、ジト目で睨む、という表情  
として表れていた。  
 長門はいつもの無表情だが、あきらかに視線が冷たい。まるで瞬間冷凍されたマグロのようだ。しかも、かすかに  
怒っているようにも見える。  
 古泉はというと、奴のトレードマークであるイカサマスマイルを振りまいていた。しかし空気を読み取ってか、いつのまに  
やらパイプイスを窓際に寄せて座っている。まるで空襲をさけて疎開している資産家のようだ。  
 おい古泉、なんで窓際なんかに逃げてやがる、と俺が目配せすると。僕は中立を保ちますので存分にやり合ってください。  
とでも言うかのように、微笑みながら、肩をすくめて両手の平を持ち上げた。  
 ハルヒはハルヒで、引きつった笑みをこちらに向けている。俺はひどい既視感にさいなまれた。こんな状況で俺が無事で  
あったためしがない。  
   
 しかし、後ろで控えている彼女は、意外にもガタガタ震えるといったこともなく、むしろこの状況を楽しんでいるかの  
ようだった。  
 だが、俺はそんな気分になれるわけもなく、呻吟しつつ、  
「ええとだな…」  
 と、答えに四苦八苦していた。  
 すると彼女が突如口を開いた。  
「涼宮さんだったっけ?そうよ、あなたが想像しているとおり、わたしとキョン君は中学時代付き合ってたんだ。  
そうね、ラブラブだったといってもいいわ」  
 零下10℃とも思えた部屋の温度が、彼女の発言と共に、一挙に沸点まで到達した。なんてことを言うんだ、この  
女は!  
「へえ、そーう。キョン、あんた、なんでこんなこと黙ってたの?団長に内緒にするなんて、許し難い暴挙だわ。  
そうね、あんたには罰ゲームが必要だわ。あんたパンツ一丁で麓の女子校に忍び込んで、エウレーカーと叫びんで  
校庭を一周してきなさい」  
 そんな恥ずかしい補導歴を俺の過去として刻むつもりか。つうか、なんで自分の過去の恋愛模様を団長に話さなきゃ  
ならんのだ。しかもまったくのデタラメときている。と、ハルヒを見るが、顔が笑っていない。引きつった笑みすら  
忘れている。  
 
──こりゃだめだ、ハルヒは頭に血が上りすぎて、自分が何を言ってるのかもわかっていないらしい。  
 
 2人の女子団員は見るのも恐ろしい…。いや、見なくてもわかるさ。朝比奈さんの視線に込めた力はさらに強まった  
ように感じられるし、長門に至っては、この前に生徒会室で見せたものに匹敵するほどに、あのすさまじいオーラを  
噴出させていた。  
 隅で傍観している古泉はどうでもいい。  
 
 すると、この部屋を大混乱に陥れた張本人が、やおら口を開くと、  
「なんちゃって!ごめん、ごめん。今の全部うそだから」  
 あっさり撤回した。  
「キョン君と仲がいいのは確かだけど、私たちのは強敵と書いて、心の友と読む。お前のものは俺のもの。俺のものは  
俺のもの。欲しがりません勝つまでは、っていう関係だから、心配しなくても大丈夫だよ」  
 どんな関係だよそれは…。ああ、いつものあいつだ。確かに変な女だ。だが、ハルヒを手玉に取るとは侮れん。  
「そう、そうよね。あたしも甲斐性なしのキョンが、女の子と付き合うなんてあり得ないと思ってたわ」  
 嘘をつけ、あんなに動揺してただろうが。  
「でもあなた、なかなかユーモアのセンスがあるわね。さすがあたしが見込んだだけのことはあるわね」  
 
 彼女は晴れて5人目の団員になった。  
 
 しかし、俺は、ハルヒがあんなにうろたえた姿を、一生忘れることはないだろうな。  
 
   
終わりです  
 
 

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