部室に朝比奈さんと二人きり、なんていう夢のような状況は、この学校の男子であれば誰もがうらやむシチュエーションであり、しかもこの愛らしい上級生が、完璧なメイド姿に身を包んで、俺にお茶を入れてくれるとくるのだからたまらない。  
あのやかましいハルヒは掃除中のはずであるし、驚天動地のことではあるが、部室の初期設定に含まれるべき長門もまだ来ていない。まあ、俺はそのことに深く思いをめぐらすでもなく、真剣な表情でお茶を入れている朝比奈さんの横顔を眺めていた。  
朝比奈さんは少し上気したような顔でお茶を注いでいる。もしかして、俺と二人で意識しているとかはないよな。  
「キョンくぅん、お茶です。新しいのに挑戦してみましたぁ…味わって飲んでね。」  
朝比奈さんがうやうやしく湯のみを持ってきてくださる。いやあ、すいませんね、朝比奈さん。  
俺がお茶に口を付けようとしたそのときだ。  
「おくれてごっめーん!!」  
バーンと盛大にドアを開けて団長殿が入ってきた。くそ、いまいましい、こんな至福のときに。  
「あー、喉渇いたっ。あ、キョン、それ頂戴!」  
おいこらやめろ!俺の制止も聞かずにハルヒは湯のみを奪い取り、一口で飲み干した。この野郎、朝比奈さんが入れてくれたお茶を――あれ、朝比奈さん?固まってしまってどうしたんですか?そんなにショックだったんですか。  
「プッハー!そうそう、みくるちゃん、お客さんよ。鶴屋さんが来てるわ。」  
「やっほー、みくるっ!ちょっと来てくれるかなっ、クラスの出し物について相談だっ!!」  
朝比奈さん、そう俺とハルヒを交互に見つめて震えないでください。クラスの用事なら仕方ありませんよ。いいな、ハルヒ。  
「ま、しかたがないわ。鶴屋さん、一時みくるちゃんを貸しとくから、あとで返してね。いってらっしゃい、メイドのカッコのままでいいから。」  
いや、よくないだろ。  
「ふえぇ……でも……その……うぅ、……裏目にでましたぁ。」  
怯えた目をした朝比奈さんは、メイド姿のままで鶴屋さんに連行されていった。  
 
部室には俺とハルヒが残された。  
やれやれ、こうなったら長門か古泉でも来ないものかな。ハルヒと部屋で二人きりという状態は、この学校の男子であれば誰もが全力を持って回避しようとするだろうシチュエーションだろう。  
俺は何の気なしに、真剣にパソコンの画面に向かうハルヒの横顔を眺めた。ハルヒは少し上気したような顔でクリックをしている。  
……ってあれ!?なんで上気してるんだよ、ハルヒ。おい、心なしか呼吸が荒いぞ、目がトロンとしているのはどういうことだ?  
「キョン……なんか変……体が熱いよ……。」  
おい、こっちくんな、なんなんだよ、なんで鍵をかけるんだ、ハルヒさん。  
「んん……だまりなさいよ……もう……キョンのばか。わかってるくせに……。」  
何をだ?ケインズ理論をか?俺は何も知らんぞ。  
「あたしの、きもち。」  
ハルヒが飛びついてきた。ハルヒの体が熱い。ギア・セカンドに入ってやがる。心臓の鼓動が伝わってくる。やばい、これはやばいぞ、落ち着くんだ。  
「ま、まてハルヒ。俺が茶を入れてやるから、それ飲んで落ち着け。」  
俺は大至急湯飲みを二つ用意し、急須からお茶を注いだ。心を鎮めてお茶をすする。ハルヒもぼーっとした顔でお茶を素直に飲んでいる。  
しかし、やはり朝比奈さんが入れてくださるお茶のほうが7倍は旨いな。  
ふうっ、と息を吐き出す。なんだか体が熱いな…。風呂上りみたいにほてってきた。ハルヒの方を見てみると――  
すんげー美少女がそこにいた。  
まあ、つまりハルヒのことだ。俺だって、ハルヒが美人だってことは承知してるさ。  
だがな、俺の目の前にいるのは、ハルヒであってハルヒでない。ハルヒAAプラスというか、マジに谷口ランキングを大変動にさらしてしまうような美少女なわけだ。  
こいつ、こんな可愛かったっけ?やばい、恋に落ちそうだ。くらくらする。  
「ふぅ。」  
ハルヒは甘い吐息をつき、目を軽く閉じて片手で胸元に風を送っている。やばい、可憐だ。  
そんな美少女と二人っきりで部室にいるのか、俺は。しかも、ご丁寧にドアには鍵がかかっている。心臓の鼓動が速まる。どくどくとこめかみが鳴っている。  
暑いのか、ハルヒ、俺も暑いな。俺はブレザーを脱ぎ、ネクタイを緩めた。ハルヒはそんな俺をじっと見つめる。赤く染まる頬と、切なく俺を見つめるハルヒの大きな二つの瞳。  
「キョン…。」  
ハルヒの声が俺の耳を通って脳みその大事な部分を直撃する。色っぽい、艶やかな声だな。名前を呼ばれただけなのに、すげえ興奮する。  
ハルヒは鞄をごそごそと弄っていたが、そこからゴムを取り出して、あろうことか、ポ、ポニーテールにしてやがる。は、ハルヒ。それは……。  
「好きなんでしょ?ポニー。だから――」  
大好きです。正直、たまりません。  
 
土俵際で驚異の粘りを見せていた俺の理性も、そこでこと切れた。さよなら、俺の理性。本能くん、こんにちは。俺はハルヒを床に押し倒していた。もどかしくハルヒの胸をまさぐる。ハルヒが潤んだ瞳でこっちを見る。  
「だめ……。」  
うん、それ無理。いまさら止まらない。俺の手は、別の生命体が寄生したみたいに勝手に動いている。  
と、一瞬だけ、理性の光が差した。  
やばい、ハルヒは嫌がってるのに。これじゃレイプだ。最低だ。外道だ、卑怯だ、畜生道だ。  
「……さきにキスして。」  
再び理性という名のヒューズが飛ぶが、直る予定はなさそうだ。直すつもりも無い。俺はハルヒと口付けする。お互いに唇を求め合い、離そうともしない。だんだん頭に血が集まる。うっ、やばい、窒息する。  
「ぷはっ。」  
ぜいぜいと息をしているのはハルヒも一緒だ。今だ、ここで言わなきゃならん。  
「ハルヒ、大好きだ。おまえのことが世界で一番好きだ!」  
「キョン……あたしも大好き、キョンが大好きっ!!愛してるわ!」  
二人で愛してると言い合いながら服を脱がしあう。裸になった俺たちは、お互いの体を求め合った。  
息子はとっくにきかんぼうだ。ハルヒのもすっかり受け入れ態勢が整っているようだった。  
なまなましいので、以下は長門風に送ろう。  
 
情報結合開始。  
当該対象の接触を確認。  
閉鎖空間に侵入開始。ブロックされた。  
ブロックを突破。(――血が出てるぞ。――若干の出血、問題ない。)  
閉鎖空間と通常空間の狭間で往復運動を始める。  
閉鎖空間に射出された。  
当該対象の再構成。(――立てるか?――大丈夫。)  
情報の再結合開始。  
以下、ほぼ同内容につき省略。  
情報の再々結合開始。  
以下、ほぼ同内容につき省略。  
 
血液中の媚薬成分の消失を確認。  
理性的思考能力の復元。  
 
 
「あれ、あ、あたし……、な、なんでキョンなんかとっ!!」  
「ああ…………やれやれ。」  
 
 
おわり  
 
 

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