長門を後ろに乗せて、自転車を家に向かって走らせる。荷台に横座りした長門は俺の腰に手をまわして、頭を俺の背中にこつんとのせた。
「……ありがとう」
図書館のことか?
「……全部」
苦しいほどに長門が愛しくなる。長門を抱き締めてやりたい。髪の毛をクシャクシャに撫でてやりたい。ハンドルを握る手に、自然と力が入った。
「俺もおまえに礼を言いたい……ありがとうな、長門。」
おまえに会えて良かった――というセリフは恥ずかしくて言えなかったが。
「……そう」
微かにだが、嬉しそうに長門は呟く。
不意に長門は荷台に立ち上がり、俺の首に細い腕をまわした。長門の体温が心地よい。長門は屈みこんで、俺の耳を軽く噛む。
ちゅぷっ、と耳を舐めて、熱い息を首筋にもらしながら囁いた。
「あなたが欲しい」
俺のこめかみがどくどくと脈打つ。
「……図書館では結合できなかったから」
どんな表情で長門はこのセリフを言うのかね。見てみたいが、生憎、長門の顔が視界に入らない。きっと頬を染めているのだろうが。
次第に長門の息が荒くなっていく。心なしか、体温も高くなっているようだ。長門は左手で俺にしがみつきながら、右手は自分のスカートの中に滑らせた。
くちゅ……
ひょっとして濡れてるのか、長門?
「あなたのせい」
長門は俺の背中にもたれかかる。熱い体。微かな胸の膨らみを感じる。
「……スイッチが入っている」
反射的にポケットの中のリモコンを探るが、間違いない、スイッチはOFFのままだ。
「違う。私のスイッチ……」
……ああ、そうか。
「ONのまま。切れない。切りたくない……」
「……切る必要なんてないさ」
そうだろ?
長門が、軽くコクンと頷くのが分かった。
だが――
長門の体が震えだすのを感じて、俺は戦慄した。微かに聞こえる押し殺した嗚咽。
「……泣いてるのか?」
「多くを望むつもりはない……あなたのそばにいたい。それだけでいい……」
俺は……応えてやれるのか?長門に、長門の優しさに。誰よりも優しく、俺を愛してくれる長門に……
そして、俺は長門を残して時間遡行する。朝比奈さん(大)の指示した場所にいかなくてはならない。部屋で俺を待つ長門の姿を思い浮かべると、胸が酷く痛んだ。この時間で俺に出来ることは、もうなにもないとしても。
元の時間に戻ったら、真っ先に長門に逢いに行こう。
俺のスイッチも入ったままだ。切るつもりもない。
そう伝えたい。
おわり