五限の授業にハルヒは来ていなかった。  
今にして思えば、それは俺の奇妙で長い一日の、最初の兆候だったと言えるかも知れない。  
そして、すでにその時、それは密かに始まっていたんだ。  
 
 
『キョンの長い長い一日』  
 
 
もちろん、ハルヒが授業をサボるなんてことは、ある意味、日常茶飯事であり、俺はそんなことは全然気にしちゃいなかった。  
どーせいつものようになんか疲れることを思い付いたんだろう。  
まてよ、ひょっとしたら、朝比奈さんのコスプレの新しいやつが見られるのかもしれん。  
そうと決まれば、スタコラサッサだ。俺は授業が終わると教室を出て、部室に向かった。  
部室に向かう途中で古泉を見つける。なんだか神妙な面持ちだ。おい、部室に行かないのか?  
「おや、あなたは今……なるほど、いや、何でもありません。部室ですか…今日は止めておきましょう。」  
いつもの爽やかスマイルがないな。例のバイトか?  
「そんなところです。」  
ハルヒがいないのはそのせいか…。嫌なことでもあって部室でふててるんだろう。じゃあ、俺は行くぞ。  
「待って下さい。」  
やけに真剣な声だった。なんだ?  
「こんなことをあなたに言っても仕方ないのは分かっています。しかし…  
…時々やりきれなくなるんです。自分の無力さにね。」  
エスパーの台詞とは思えんな。  
「こんな力……何の役にも立ちませんよ。結局のところ、何もかも最後はあなた頼みなんです。  
もっとも、これは長門さんや朝比奈さんも同じなのかも知れませんが…。」  
そんなことない。おまえはSOS団に不可欠な副団長だ……と、ハルヒなら言うだろうさ。  
ようやく古泉は笑って肩をすくめた。  
「頼みますよ、涼宮さんと…世界を。」  
やれやれ。分かってるさ。せいぜいハルヒの機嫌をとっておくよ。  
 
古泉と別れて部室棟に行く途中、長門に出くわした。よう、長門。  
「……。」  
いつもの長門だ――と思いきや、いきなり長門は俺を壁に押し付け、ブレザーのボタンを外し始める。お、おい、こら、長門!  
長門は俺の胸を露出させるといきなり心臓辺りににキスをした。なんだ、この展開は?  
「敵性情報を遮断……崩壊因子を仕込む。」  
さっぱりわからん。  
「…少し屈んで。」  
えーと、こうか?なんか、長門と同じ顔の高さって照れるな…んぐっ!?  
長門はいきなり俺にキスをした。  
「ぷはっ……長門!一体これは――」  
「改変情報の修正因子。……これで完了。」  
長門はしばらくぼんやりと俺を見ていたが、おもむろに口を開いた。  
「…あなたには感謝している。  
あなたの助けがなければ、私は私ではいられなかっただろう。」  
…それはこないだの世界改変の時の話か?  
長門はわずかに首を振る。否定の仕草。  
「あなたのしてくれたこと、全て。  
……白雪姫は知ってる?」  
ハルヒのことが頭をよぎる。ひょっとして、また―――  
「今度は、私が、白雪姫。」  
え?  
俺が聞き返そうとした時には長門はこちらに背を向けて歩き去っていた。  
俺は、長門の小さな背中が角を曲がって消えるまで見続けていた。  
 
 
「おーい、キョン君っ!!」  
「おわっ、鶴屋さん!」  
いつのまにやら神出鬼没の上級生が俺の後ろに立っていた。いつもの倍は楽しそうだ。  
「いやいや、三倍は楽しいにょろよ?いやー、参ったよ。まーさか三つ子とはねっ!皆合わせて可愛さは三百倍だっ!!」  
へ、なにがです?  
「んー?ははーん、なるほど…そのうちわかるさっ。じゃねっ。」  
……なにが何だかわからん。さっきから、皆よくわからないことばかり言う。  
まあいい。ハルヒのところに行けば、全部分かるんだろうさ。  
俺は部室のドアをノックする。  
返事がないな…。朝比奈さんは来てないのか?  
俺はドアを開けた。  
そこにはハルヒがいた。椅子に座って、すやすやと寝息をたてている。やれやれ。  
「おい、起きろハルヒ。」  
 
 
わからん。  
 
ハルヒは起きた途端に泣き出した。キョン、そこにいるの、本当に?なんて言うから、頭を撫でて言ってやった。ちゃんとここにいるさ、夢でも見てたのか?  
ハルヒはしゃっくり上げながら言う。うん、嫌な夢を見てた。嫌な嫌な夢を…。すごく怖かった…。  
子供みたいな奴だな。俺はハルヒが泣きやむまでハルヒの震える体をを抱いていた。  
閉鎖空間の原因はハルヒの夢か。だったら、なんで古泉はあんなに落ち込んでたんだ?  
長門の行動も意味不明だし、鶴屋さんの発言も訳がわからん。  
ハルヒに会えばつじつまが合うんだと思っていたのだがな。  
 
その夜のことだ。天使が伏線の回収に降臨した。  
 
『キョン君、いますぐ部室に来てくれませんか。』  
へ、朝比奈さん?こんな時間に電話なんてどうしたんです。今から学校に忍び込むんですか?もう九時ですが…。  
『お願い、世界が改変されてしまうかも知れないんです。』  
世界の改変?  
俺は家を飛び出した。  
少なくとも、ひとつのピースがはまろうとしている。  
おそらく、そのピースには、『長門』と書いてある筈だ。  
 
部室に到着した俺を、ひどく真剣な顔をした朝比奈さんが出迎えた。  
「長門が…また世界改変をするんですね。」  
朝比奈さんはコクリと頷いた。  
「長門さんは…今度は緊急脱出プログラムを組んでくれませんでした。」  
なぜですか?  
「彼女が…最初にやったのが、自分の能力を消すことだったからです。」  
それじゃあ…長門だけが変わったんですか?だったら世界は改変できないんじゃ…  
「長門さんも、そのつもりだったと思います。だから、これは彼女の誤算でした…。  
長門さんが無力化したとき、緊急バックアップ・プログラムが働いたんです。  
このことは、長門さんも知らなかったはずです。」  
バックアップ・プログラム。  
「朝倉、涼子です…。」  
 
俺は朝比奈さんと一緒に今日の昼休みに時間遡行した。  
朝比奈さん、俺が長門のところに行く間、何処にいるつもりですか?  
「鶴屋さんに…書道部の部室でかくまってもらいます。」  
なるほど。  
 
「鶴屋さん、こちらは朝比奈みちるさんです。」  
「あーっ、いつぞやのみくるの双子ちゃんだなっ!久しぶりっ、元気にしてたにょろか?」  
「ふぇ、は、はぁい。」  
俺が、朝比奈さんには秘密にして、みちるをあずかっていて欲しいと伝えると、鶴屋さんはあっさり頷いた。  
「だれしも事情ってやつはあるさっ。」  
感謝しますよ、鶴屋さん。  
 
俺は書道部を出て、我がSOS団の部室に急ぐ。  
長門に会うために。  
今度こそ、長門に辛い思いはさせたくないからな。  
 
俺は文芸部室に飛び込んだ。本を読んでいた長門が驚いて椅子から立ち上がる。  
だが、その白い顔には―  
眼鏡がかかっていた。  
宇宙人でもアンドロイドでもない、無口で恥ずかしがりの文芸部員。  
ハルヒが消えたあの世界の、長門有希がそこにいた。  
 
「…長門。」  
俺の言葉に、はっきり分かるほどに長門は肩を震わせた。  
怯えているのだろうか。  
「おまえを責めようなんて、これっぽっちも思っていないんだ。」  
だけどな。  
「おまえが普通になりたいって思った気持ちも、よくわかる。」  
ほんとだ。  
「だが――」  
そう俺が言いかけた時だ。二つのことが同時に起きた。  
ドアを開ける音。  
俺の胸に突き当たる、冷たい金属の感触。  
膝から力が抜けた。俺は部室の床に倒れ込む。その一瞬、ちらりとドアが見えた。スカートの下に伸びる足。  
――誰だ?  
胸にナイフを突き立てられ倒れる俺を見て、長門が声にならない悲鳴を上げた。  
そして――  
薄く笑いを浮かべた朝倉涼子が、俺を見下ろしていた。  
 
「凄いわ…、彼を殺せば情報爆発が起きるものだとばかり思ってた。  
限定された空間で情報密度が飛躍的に増大するなんて…いま、正に世界を創り直しているのね。ふふ。」  
朝倉涼子は、その冷たい笑顔を、言葉を失った長門に向ける。  
「大丈夫よ。あなたの大事なキョン君は、ちゃんと再構成してあなたに忠実なペットにしてあげるから。  
そのまえに、二、三回ほど殺させて、ね?  
あなたの記憶も消しておくから安心して…。ふふ、それとも、一度殺して再構成してあげようかしら。」  
そこまでが、俺の我慢の限界だった。  
俺は起き上がると、胸に刺さったナイフを引き抜く。傷は一瞬で塞がり、ナイフは光る砂に変わった。  
朝倉涼子は驚愕の表情で俺を見ている。  
「なんで…確かに心臓を…」  
説明する義理はないな。だが、これだけは言っておくぞ。  
「バックアップ・プログラムなのに、長門を殺すだって?」  
朝倉の足元が砂になって崩れ始める。  
「うそ…崩壊因子を仕込んでいたの!?いつ、どうやって…。」  
構わずに続けた。  
「とんだ欠陥プログラムだよ、お前は。」  
朝倉は目を閉じ、怒りに肩を震わせたが、その肩も消え―  
朝倉涼子は光る砂になって崩れ、消滅した。  
 
 
俺は長門に向き直る。長門は青ざめ、唇からは血の気が引いている。  
小柄で眼鏡をかけた内気な少女はただ震えていた。目の前で起きたことが全く理解出来ないのだろう。  
俺は長門を抱き寄せる。長門は抵抗しない。俺の胸の中でしゃくりあげ始めた。  
ずっと、抱きしめていたいと思った。  
だが――  
俺は、長門の言葉を思い出していた。  
白雪姫。  
「長門。」  
長門が顔をあげる。うるんだ瞳から、涙がこぼれている。  
俺は長門にキスした。  
 
顔を離すと、長門の眼鏡は消えていた。  
おまえなんだな、長門?  
「…そう。修正プログラムが発動した。」  
これで…良かったのか?  
長門は微かに頷いた。  
「朝比奈みくるの異時間同位体があなたを待っている。…行ってあげて。」  
ああ、行かなきゃな。  
「ごめんなさい。」  
俺は首を振った。  
「おまえが謝ることなんて、何もないさ。」  
そうだろ?  
 
俺は書道部に向かい、ドアの前で待っていた朝比奈さんと合流した。  
 
 
彼が出て行ってから、しばし長門有希は部室に一人立っていた。  
――口唇部および体温の温度上昇を確認。冷却を…  
やめた。長門有希は暫く熱くなった唇をそのままにしておいた。  
部室を出て、少し歩くと彼が近づいてくる。「よお、長門。」  
彼に口付ける。私の口唇部の熱は彼に伝わるだろうか、と考えると、心臓の拍動頻度が増した。  
「…白雪姫は知ってる?」  
「おい、それって――」  
「今度は、私が、白雪姫。」  
私は、あなたの口付けで、目を覚ますから。  
 
 
俺と朝比奈さんは、夜の部室に戻って来た。さて、そろそろ全部話して下さい。  
「これで終わりじゃないでしょう?俺には、まだ分からないことが残っている。古泉と、ハルヒです。  
始めは、ハルヒが嫌な夢を見て、そのイライラで閉鎖空間を作ったんだと思ってました。違うんですね?」  
「…ええ。涼宮さんは、あなたが朝倉涼子に刺されるところを偶然に見てしまったんです。」  
ドアを開ける音、スカートの下に伸びる足。朝倉涼子の言葉。  
やはり、あれがハルヒだったのか。  
「あなたが死んでしまったと思った涼宮さんは、この世界から消えたんです。…いつかの時のように。」  
俺とハルヒが初めてキスをした時。確か、古泉はあの中にはうまく入れなかった…。  
俺の中でピースがつながっていく。  
「行きましょう、朝比奈さん!」  
ハルヒは一人きりで待っているんだ。  
おそらく、俺のことを。  
 
朝比奈さんを書道部に届ける。朝比奈さんの生き別れた三つ子の妹で、朝比奈みはるさんだと紹介すると、鶴屋さんは目を丸くしてから爆笑した。  
「まっさか三つ子とはねっ!まいったよ!!」  
まったくです。  
俺は文芸部室に向かった。  
SOS団と書かれたプレートが見えたとき、ハルヒの後ろ姿が見えた。  
「ハルヒ――」  
そう俺が叫ぶ一瞬前にハルヒはドアを開け、目を見開き、  
消えた。  
俺は絶句する。今、部室の中には、長門とナイフを突きたてられた俺がいる。  
そして、朝倉涼子も。  
再び怒りがわいた俺は、部室に入りかけたが立ち止まった。  
今俺がすべきことは、部室に行くことじゃない。  
俺がすべきことは――  
超能力者の力を借りることだ。  
そうだな、古泉?  
一年九組、古泉のクラスへ行かなきゃならない。  
 
「どうしたんです?息を切らせて。はて、僕に何か御用事でしょうか。」  
閉鎖空間の発生が分かるか?  
古泉は驚いた顔になって、眉をひそめる。  
「…確かに、閉鎖空間が発生しています。なぜ、あなたに言われるまで気が付かなかったのか…。  
ここではなく、人気のないところに行きましょう。」  
俺と古泉は屋上に向かった。  
 
「…侵入できません。ただの閉鎖空間ではありませんね。これは――」  
古泉が真剣な顔で俺を見つめる。  
「中には涼宮さんがいるのですね?」  
そうだ。  
「とすれば、今、僕たちがいるこの世界は、崩壊直前ですね…。こんな時に、閉鎖空間に入れないとは。」  
僕の力も役立たずですね、と自嘲するように古泉は呟く。  
そんなことはないさ。  
俺は古泉の肩をつかんだ。  
「古泉、俺を閉鎖空間の中に送ってくれ。俺がハルヒをこの世界に連れ戻してくる。」  
古泉はしばし呆気にとられていたが、意を決したように頷いた。  
 
「お願いします。」  
 
 
屋上の古泉樹は、ぼんやりと下の景色を眺めていた。  
機関から連絡がひっきりなしに入るが、さっきから無視している。  
いずれにせよ、もう自分に出来ることはない。  
彼は閉鎖空間に行った。だが――  
自分が閉鎖空間に入れないのは、涼宮ハルヒの意志の現れだろう。  
涼宮ハルヒは拒絶しているのだ。彼以外のもの全てを。  
時々、やりきれない気持ちになる。  
そんなとき、彼の口癖をそっと真似してみる。  
「…やれやれ。」  
世界と涼宮さんを頼みますよ。  
 
 
灰色の空。遠くで破壊の限りを尽くす青く光る巨人たち。  
俺は閉鎖空間にいる。  
ハルヒはどこだ?屋上であたりを見回す。  
――と、息を飲んだ。  
 
手すりの前に、そいつは膝を抱えて座っていた。  
 
「ハルヒ。」  
ハルヒはゆっくりとこちらを振り返る。  
「キョン…。」  
こっちを見るうつろな目。ぜんぜん似合わない。こいつの目は、もっと強烈な光を放っているべきなのに。  
「待ってた。ここなら、あんたが来ると思ってた。」  
 
俺はハルヒの隣に腰を下ろした。  
なあ、ハルヒ…元の世界に帰らないか?  
「嫌よ。」  
ハルヒは膝に顔を埋める。  
「あっちのあんたは死んじゃったもの…。そんなとこに居たくないわ。ここなら、あんたに会える。  
……見てよ。」  
ハルヒは神人のほうにあごをしゃくった。  
「あの変なの、前も二人で見たよね。夢でだけど…。今、ここにいるのも夢ね、きっと。」  
ハルヒは俺の肩に頭をもたせた。  
「でもいいの。」  
ハルヒが続ける。  
「ここに居たい。夢なら覚めたくない。…萌えキャラも無口キャラも謎の転校生も要らない。あんたがいればそれでいい。あんたと、あの変なやつを眺めていればいい。」  
 
「ハルヒ、前から言おうと思ってたけど、おまえの事が好きだ。」  
「あたしも。キョンの事が大好き。」  
愛してる、とハルヒは付け加えた。  
「だから、ずっとここに居たい。ここであんたと二人で。他は何にも要らないから。」  
だめ?とハルヒは聞いた。  
俺は溜息をついた。ハルヒ、おまえはそんな風に何かを諦めたり、満足しちまうような人間じゃないんだよ。俺は知っているさ。  
 
「ハルヒ、夢はいつか覚めるもんだ。  
それにな、俺は死んでない。ちゃんと生きてる。  
あっちの世界でおまえを待っている。求めている。愛している。  
俺だけじゃない。古泉も、朝比奈さんも、長門も、みんなそうだ。」  
帰ろう、ハルヒ。  
俺はハルヒを抱きしめる。  
「ハルヒ、俺は生きてる。信じてくれ。  
だから、帰ろう。」  
ハルヒは小さな声で言った。  
「もう一度――愛してるって言って…。そしたら、信じてあげてもいいわよ。」  
俺はその言葉を囁いた。  
「信じるわ。キョン。」  
俺はハルヒに口付けをした。  
瞬間、世界がハルヒに飲み込まれていくような気がした。周りの風景がハルヒの体に流れ込んでくる。  
俺は固く目を閉じ、ハルヒの体を抱きしめた。  
そして―  
俺達はいつもの部室に居た。  
長門は…もういないみたいだ。  
俺はハルヒの顔を覗きこむ。  
やれやれ。  
ハルヒはすやすやと寝ていた。  
 
 
寝ているハルヒを椅子に座らせる。こいつ、全然起きないな。  
後のことは、過去の俺に任すさ。長門にキスされたり、鶴屋さんに話しかけられたりしながらこっちに向かっているはずだ。  
そろそろ行かなきゃな。俺はドアを開け、振り返ってハルヒを見た。  
無防備なハルヒの寝顔に向かって呟く。  
「ハルヒ…、また明日な。」  
俺はドアを閉めた。  
 
 
俺はドアを開けた。  
なんだ、ハルヒのやつ、五限をサボったと思ったら部室で寝ていやがった。  
やれやれ。  
俺はハルヒの頬を軽く叩く。  
「おい、起きろハルヒ。」  
「んんん…。」  
ハルヒが目を覚ます。  
 
「キョン、キョンなの!?」  
そうだ、悪いか?――と言いかけて、俺はギョッとした。ハルヒが涙をぽろぽろこぼしている。冗談じゃない、こいつが泣くとこなんて見たことないぜ。  
「キョン、そこに居るの?生きてるの、ホントに?」  
ああ、生きてるさ。当たり前だろ、大丈夫か?  
俺はハルヒの頭をくしゃくしゃと撫でてやった。ハルヒがしゃっくりあげる。  
と、いきなり俺の胸に飛び込んできた。とたんにハルヒはわんわん泣き出す。  
慌てて俺はハルヒを抱きしめた。  
怖い夢でも見たのか?  
「えぐっ、うん、嫌な夢を、ひくっ、見た。い、嫌な、嫌な夢。  
ひくっ、あんたが、死んじゃう夢だった…。」  
怖かった、といってハルヒは震えている。  
俺はハルヒを抱く腕に力を込める。なんか言わなきゃいけない、ハルヒを元気付けたい。  
「ハルヒ、俺は生きてるさ。ここにいるから、ずっとずっとここにいるから。」  
ハルヒが泣き止むまで、俺はそんな言葉を繰り返し繰り返し言い続けた。  
 
そう、俺はここにいる。  
涼宮ハルヒのそばに。  
 
終わり  
 
 

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