きっかけは、SOS団活動中にうっかり放った大失言
それに気付いたのは安息の地である我が家にたどり着いた時
「あ、キョンくんおかえり〜」
ただいま妹よ
周りにいる小さい女の子達は新しいお友達かな?
初めまして、妹の兄です
「お? キョン兄おっかえりーっ♪」
ただいま、すごく髪の長い子。初対面でそのアダ名はやめて欲しいかな
「キョンお兄ちゃんおかえりなさ…ひぁっ」
おっと大丈夫かい、可憐な美少女さん。平らな廊下で転ぶとは器用だね
「おかえりなさいキョン兄さん、うふふ…」
う…なんか凄い殺気を纏ったお嬢さんだね。可愛い笑顔が剃刀のようだ
「やっと帰ってきたわねバカキョン! さっさと宿題教えなさいよ!」
ははは、やれやれ。ハルヒも小さい頃はこんなだったのかな
……………
WARNING! WARNING! WARNING!
脳内で緊急警報をMAXボリュームで鳴らしつつ台所に駆け込む
廊下でオーブンレンジのように『構って熱光線』をジリジリ浴びせる少女達を
全速ダッシュで振り切って、だ
バタン!
「な、な、な、長門っ!! 何だこの状況は!?」
「…お帰りなさい、『あなた』」
そ、そうきたかーっ!?
つまりこの世界は、俺の親しい女性が妹になってる世界だと言いたいんだな?
「世界改変が起こったのは14分前。 原因は涼宮ハルヒ。 きっかけは…」
ああ、それは判ってる
俺が学校で迂闊に口にした言葉だろう?
――「正直な話、妹が増えたように感じてます」――
なんでこんなセリフを吐いたのかの理由は良く覚えてないんだが
確か、珍しく鶴屋さんが部室に遊びに来ていて
朝比奈さんの入れたお茶を楽しみつつ、皆で談笑してる時に
「団員の女の子たちをどう思ってるにょろ?」とかなんとか聞かれたような…
「あなたはあの場で最も当り障りの無い受け答えをした筈だった、だが
涼宮ハルヒにとってあの単語は魅力的かつ刺激的なトリガーだった」
つまりハルヒは常々俺の妹に何らかのジェラシー的感情を持っていた、と
「……概ねそう」
なるほど、しかしハルヒが自分だけじゃなく他人も巻き込んだのは何故だ?
「恐らく涼宮ハルヒは、関係者の中であなたに最も近しい存在が誰なのかを
全員同じ立場において見極めたかったのだと予想する」
ふむ、大体納得したんだが… 長門よ…
俺にはお前だけ妹というカテゴリーから外れているように見えるんだが
「……」
元々身体が小さいのを考慮したとしても、お前だけは他のメンバーと違って
外見的には高校生のままだ。
しかも制服の上にヒラヒラフリルの純白エプロンで、俺のことを呼ぶ時の
『あなた』も、いつもと微妙にニュアンスの違う『あなた』だった気がするぞ
詳しく説明するとカタカナの「アナタ♪」みたいな
おい、こっち向いてくれ長門
「……全員が改変された世界の住民になってしまった場合、
あなたが元の世界に戻りたいと願った時、協力できない可能性を考慮して
涼宮ハルヒの世界改変に強制的に改竄データを割り込ませた」
「有希ちゃん! カレーおかわり!」
ああハルヒ、口の横にカレーが…米粒も飛んでる…
「…はい、熱いからこぼさないで。 今回の改変はあまりにも急速に進行した。
だから私自身には簡単な情報設定を施す事しか出来なかった」
そんなに早かったのか
「ふぇ…熱いよぉ〜」
「ほらほらみくる、ふーふーしてあげるっさ。ふーっふーっ、はいあ〜ん」
小さくても仲良いですね2人とも、とっても微笑ましいです
「にゃぁ? キョンくんとユキちゃん何のお話してるの?」
「うふふ…、さあ、何のお話かしらね? 子供の私にはわからないな」
物を食べながらしゃべるんじゃありません、本家妹
あと朝倉、お前実は改竄されて無いだろ
「え〜? 難しい事を子供の私に聞かれてもわからないなぁ〜」
くそ…。
で長門よ、何となく予想はついてるんだが、お前の正確なポジションは何だ?
「……」
こっち向きなさい長門、怒らないから言ってみなさい
「……あなたとは生まれたときからの幼馴染で、隣に住んでいる同級生。
中学までずっと同じクラスで、お互いに兄妹同然の存在と認識していた。
だが高校に進学し、初めてクラスが分かれたことから、互いを異性と意識し
始め、同時に兄、妹以外の感情も芽生え始めた。
そして夏休みの『とある事件』をきっかけに、私はあなたの家に頻繁に
上がりこむようになり、家事や妹達の世話等をこなし、あなたとの距離が
徐々に縮まり始めた。 ← ……今ここ」
めちゃめちゃ細かいじゃないですか! 『とある事件』てなんですか!
まあでも『精神的に妹』という設定ではあるのか…、マニアックだな長門
「…カテゴリー妹というジャンルは基本パターンも多く、状況、環境、関係等で
様々に分岐し、多種多様なニーズに応える事が出来る万能ステータス」
めちゃめちゃ詳しいじゃないですか! ガチ予習済みじゃないですか!
こっち向いてくださいよ長門さん!
「……とにかく涼宮ハルヒを満足させる事が最も早く、かつ安全な解決法」
満足させるって…どうやってだ…?
自慢じゃないが俺は妹を満足させた事なんて一度も無いと思うぞ
というか、世の妹を持つ兄達に聞いても殆ど同じ答えが返ってくるだろうよ
そんな事を出来るのはよほどのスーパーマンか、極度のシスコンだ
妹というのはそれほどの存在なんだぜ?
「朝比奈みくるの場合と違い、涼宮ハルヒの初動対処法としては
あなたが受身である事が今までの数々のパターンから見ても望ましい。
何か事が起こってからの対処を重視すべき」
まあ確かにSOS団絡みの事件では「そこから解決法が始まる」事が多いな
とりあえずハルヒがアクションを起こすまで待つしかないって事か
どうせなにが起こるか予想なんて出来ないしな、ハルヒ相手じゃ…
「なによバカキョン、私の顔に何かついてる?」
ええもう本来食べるべき物か顔中にべったり
ほら、足もバタバタしない
「……ただし、他のメンバーもあなたに対しアクションを起こす可能性大」
なに? そりゃまたどうして?
「……皆、同じスタートラインという公平さが涼宮ハルヒの中で設定されている
つまり、フラグイベントも公平」
なるほどな
え? ちょっとまて、鶴屋さんや朝倉や本家妹も含まれてるのか!?
「……もちろん」
な、なんだってー!?(AA略)
あー…なんだろう…、身体も思考もグッタリだ…。
こういうのを鬱と言うんだろうな。
おかしいなあ。
今はこの家に、ご町内トップクラスの美少女が集結してるというのに。
しかも全員何かしらのイベントフラグを俺に立ててるのに。
設定が『妹』ってのがな…。俺はシスコンじゃないしな…。
どんなに美少女でも妹は妹以上には見られん。
長門オンリーの特殊設定『精神的妹』も、実を言えばあまり有効とは思えん。
実際に今までSOS団関係者を「そう見ていた」わけだしな。
飯を食い終えてからそそくさと部屋に戻り、
ベッドの上でうだうだしながら愚痴り三昧。
二ケタ台に突入して久しい溜息カウントをもうひとつ+。
…コンコン
「キョン兄〜。入っていーかいっ?」
「…はぅ〜ん」
そうこうしているうちに、どうやら1stイベントに遭遇したらしい。
『 五女 朝比奈みくるさん(7才)& 長女 鶴屋さん(11才)の場合 』
お風呂上りらしいしっとりした髪をキラキラさせながら、
お揃いのウサ耳フード付きパジャマで手を繋ぎつつ
部屋内にフレームインするお二人。 Oh so Cute!
なるほど一番上の妹と一番下の妹か。仲良し設定ではありがちだな。
とりあえずこの2人なら、道徳的に問題があるようなイベントを俺の元に
持ち込んだりしないだろう。ササっとCGを回収して終るとしよう。
「だれに向かって話してるのかな?」
独り言。で、お兄ちゃんに何か用かな? とか、
ちょっと大人ぶってイスにふんぞり返ってみたりする余裕すらあるぜ。
「んーと、実はキョン兄にお願いがあるのさっ」
「や、やめようよ〜」
ん? どうしたのかな? なんかまずいのかな?
「だーめだってばさ、みくる〜。こういうことはちゃんとしないと〜」
「で、でもぉ〜」
朝比奈さんはどんな年齢のときもウルウル目がトレードマークですね。
あ(大)はちょっと違うか。それでお願いって何かな?
「実はキョン兄に、みくるのファーストキスを貰ってほしいのさっ!」
…What?
「だ・か・ら。みくるのこの可愛いくちびるにブチューっと!」
「ふぇ〜ん、ひゃめてへぇ〜」
「めがっさあっついキッスを!」
いまどき『キッス』て…
いやあのですね… 確かに小さくて可愛い唇なんですが、
何故そんな甘酸っぱい思春期大作戦を、『現設定が実の兄』である俺に?
そういうのはクラスの好きな男の子とするのがモアベターでは?
まあ、麗しのマイエンジェルがどこの馬の骨ともわからない男子生徒と
そんなことしようものなら、バケツどころかホースで水をぶっ掛け続けて
街中を追いまわす鬼兄貴に大変身しますがね。
…あれ? これシスコン発言?
「実はみくる、クラスの男子にいじめられてたんだよ〜」
え〜っとバット、バットはどこだったかな…。
別に怒ってないですよ〜、怒ってないからそいつん家はどこだ!
「ああ大丈夫大丈夫。私がちゃ〜んとそいつの手首外しておいたから、
きっとイジメ自体はもう起らないよっ」
よし。偉いぞ、お兄ちゃん鼻が高い。頭ワシワシしてやろうな。
…って怖えええええええええ!!
その年齢でどうやって関節を外したかは聞かないで置こう。
で、そんなコック大活躍的報復劇からどう展開したら
実妹のファーストキスを奪う青色珊瑚礁的物語に?
「男子の女子へのいじめの殆どの理由は、その子のこと気になるからっさ」
まあそうだろうな。
「そんなことされて、好きになるわきゃないってーのにね〜」
まあそうだろうな。
「で、今回はなんとかしたけど、いつでもみくるを守れる保証はないよねっ?」
まあそうだろうな。
「だから誰かにイタズラされる前に、キョン兄が合意の下で先にイタズラ
しちゃえばOKってことさっ♪」
超展開!
しかもキスとかそんなLVじゃ無い!
いいかな? 鶴屋さん…いや、あえて妹鶴屋と呼ぼう。
なんと言うか、それは根本的にイジメ対策方法ではないだろう?
と言うかそれもう小学6年生の発想じゃないぞ。
「そ、そうだよぉ〜、なんかへんだよお姉ちゃ〜ん…」
「何言ってるのさ! みくるだって好きでもない男子に体を好き放題されたら
嫌だろう?」
「そ、それはイヤだけどぉ〜」
妹鶴屋よ。むしろこの兄も、通常その『嫌』の範囲内だと思うんだが。
「キョンお兄ちゃんはイヤじゃないよ! …あっ… 」
…うわあ、もの凄い顔真っ赤ですね、朝比奈さん。
かなりキュンときました。
「あの…、でも、そういうのはほんとうにすきなひととするものだって…
だから、その…キョンお兄ちゃんには…す、すきなひとがいるかもって…」
その小さいおててでモジモジされると、お兄ちゃん顔がふやけます。
かいぐりかいぐりしたくなる可愛らしさです。
…話を戻すと。とりあえず好きな女の子ってのは現在いないわけなんだが、
兄妹でそういことってのは、世間的に問題があるのだよ妹鶴屋。OK?
「でもキョン兄、いま好きな人いないって言わなかった?」
ん、まあそういう対象はいない。が、だからといって誰彼かまわず
してもいいっていう行為でもないんだぞ?
みくるなら判ってくれるよな?
…あ、あれ? えーと、現在俺の妹になっている筈の、朝比奈みくるさん?
なんでこっちに熱視線を送ってらっしゃるのかな…?
「わ、わたしがすきなひとなら… しても、いい…の?」
いや、なんか、ちょっとまってくれ。話が全然関係無い方向にずれてる。
今はイジメ予防策と青っぽい珊瑚礁の違いの話をですね。
「キョンおにいちゃんは… みくるのこと…きらいですかぁ…?」
うわ、ズッギューンときた。これ反則だ。
直面して考えるとエロゲって凄い世界なんだな。
心臓鷲づかみされたかと思った。
「ほれほれキョン兄〜♪ みくるはOKだって言ってるよっ? GOGO♪」
…まだだ、頑張れ俺の兄としてのちっぽけなプライド! 相手は妹だぞ!?
うわ! 朝比奈さんすっごい目が潤んでるっ! なんか唇うっすら濡れてる!
「強情だなぁ… 今なら私のファーストキッスもおまけでついてくるよっ?」
こ、こら妹鶴屋さんまで! 自分を安売りするんじゃありませんっ!
な、並んで目を閉じるんじゃありません!!
くちびるを突き出すんじゃありませんってば!!
― 父さん、母さんへ ―
俺は何かダメなスイッチを入れてしまいました。
妹みくるのくちびるは、小さく震えておりました。
妹鶴屋のくちびるは、楽しげに弾んでおりました。
妹みくると妹鶴屋も、流れで接吻しておりました。
ニ人から漂う、ほのかな石鹸のかほりが
禁忌であるはずの兄妹接吻を、優しく優しく包んでおりました。
嗚呼、
明日も晴れると良いのですが。
息子より
「おやすみキョン兄♪ いい夢見なよっ?」
「…お、おやすみなさい…お兄ちゃん…」
顔を赤らめつつ、手を繋ぎながら2人の妹が退室…
「おっと、そうそう。お風呂あいてるからねっ! おっやすみ〜♪」
…退室しました。
パタン。
1stイベントからこの調子で、果たして俺はどこまで畜生道に落ちるのか。
そして運良くこの世界から脱出できたとして、
世間様から俺がどういう目で見られるのか… 請うご期待だ…。