あたしは走った。途中で誰かにぶつかり、物にぶつかり、何度も無様に転びながら、それでも走った。  
行き先など決めちゃいない。心臓はとっくの昔から警音を鳴らし続けている。それでも、足は止まらない。  
いっそのこと心臓なんて破裂してしまえ!そうすれば、止まるでしょう!  
そんな考えが浮かんだ頃、あたしの足はとうとうあたしの意思に反してもう限界だとばかりにその動きを止めた。  
 
「ハアハアッ…ゼッゼッ…」  
あたしは無我夢中で走った。どれだけ走ったかわからないが、その行き着いた先は、私が生まれ育った自宅であった。  
夢中で走った私が、逃げ場として選んだ場所が家。なんなんだ、この普通すぎる行動は?  
これでは、まるで普通の人間と同じではないか。あたしが最も忌み嫌っているツマラナイ人間と。  
 
「ああ、そっか…」  
あたしは長年解けなかったファルマーの定理を解いた数学者のように、  
今まで答えがあったのに決して解けなかった答えを悟った。  
「あたしもツマラナイ人間だったのね」  
その後のことは、よく覚えてない。気づいた時には家に上がり、服を着替え、部屋で布団にくるまっていた。  
さっき、あんなことがあったばかりなのにあたしは、いつも通りのことができるのね。  
そんなことを考えてたら情けなくなった。  
 
「私の思い通りになる世界か…」  
あたしは、さっきの部室であったキョンたちの会話を思い出していた。  
正直、聞き耳を立てていた当初はまったくちんぷんかんぷんだった。  
だけど、途中からは、不思議と「ああこの話は本当なんだな」って気付いた。  
そう考えれば、自然と納得できる事が多すぎたからだ。  
 
「あ…、ということはSOS団の2回目のミーティングであいつが言っていたこと本当だったんだ」  
あたしはあの時、この馬鹿はなにを笑えない与太話を語ってるんだとぐらいに思ってたが、  
そもそも本当のことだったんだから笑えないのは当然か。  
「ああ、じゃあ騙したなとか酷いこと言っちゃたかなぁ………でも、今まで隠してたんだから結局同じよね」  
 
あたしは誰もいない部屋でぶつぶつと独り言を呟いていた。  
いけないな。やっぱり、まだ混乱しているようね。  
でも、仕方無いよね。今まで、信じてたものが偽りだったんだ。少しぐらい落ち込むのは勘弁してほしい。  
 
(『ただの人間には興味ありません。この中に、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、  
  あたしのところに来なさい。以上』)  
(『SOS団の活動、それは、宇宙人や未来人や超能力者を探し出して一緒に遊ぶことよ!』)  
 
あたしは、今までのあたしのセリフを思い出していた。それは、あたしが切に願っていた事だった。  
私がいればいいなと望んだからか。そっか、もうとっくに私の願い事なんて叶ってたのね。  
それなのに、あたしはいつまでも宇宙人、未来人、超能力者を探し続けていたのか。  
…まったく滑稽ね。すぐ、後ろに答えがぶらぶら付いてきてたってのに気付かなかったなんてね。  
まるで、ピエロね。  
 
「SOS団か…」  
 
みくるちゃんも今まで、コスプレを嫌々と言いながら着ても次の日にはまた部室に来た。  
でも、それは私を監視しないといけないから。  
有希は、考えてみればあたしが持ち込んだトラブルの数々を文句も言わずに、  
処理してくれてたけど、きっとそれもしょうがないからやってたんだよね。  
古泉くんは、あたしの言うことに異議を唱えるということをほとんどしなかった。  
でも、それはあたしの機嫌を損ねないようにしてたんだろう。  
キョン…キョンはどうなんだろう?話を聞いた限り、キョンは普通の人間らしい。  
だとしたら、もしかしたらキョンは私の味方かもしれない。SOS団を存続させたいようだったしね。  
…いや、キョンも違う。もし、キョンが普通の人間ならあたしのことなんか無視すればよかったんだ。  
無視できない理由があったのかもしれないけど、そんな理由があるならますます、この関係には不信感を持っていたはずだ。  
それなのに、SOS団にいたのはやっぱりあたしを騙すためだったんだろう。  
 
あたしは、自分でも理解できるほどの疑心暗鬼に陥っていた。  
何も信じられない、何でこんな思いをあたしがしなきゃならないのか。  
…そうよ、この世界があたしの思いどうりになるってのなら変わりなさいよ。  
何で、こんなにあたしがつらい想いしなくちゃならないのよ。  
 
あたしは、あいつらのことなんて知らない。SOS団なんて最初からなければいい。  
そうすれば、あいつらだってあたしの顔色なんて伺わなくていいし、もっと楽しい時間も遅れただろう。  
あたしはもう知ってしまった。そんな、あたしがこれからもあいつらと今まで通り接することはできない。  
そう……こんな記憶も訳の分からない力も知らなくていい。そして、あいつらも…そう……、  
 
 
   『なにも知らない世界へ…』  
 
 
(…キョ 君……お てよ…)  
( …ョン  たら  …)  
 
「…むー」  
「…キョンく〜ん!もう朝だよ起きて〜!!」  
「…うぐっ!?」  
「キョン君、早く起きてったらー!」  
ベシベシ!  
む〜、妹がその小さい手で俺の頭を容赦なくはたいてきやがる。  
 
「んー…わかった。起きる、起きるから早く俺の布団から降りなさい」  
「ほんとぅ、起きたー?」  
「あー、はいはい。起きましたよ」  
「はーい。じゃあ、早く下に降りてきてね?朝ご飯の用意終わってるってさ」  
「わかったよ」  
「あ、そうだキョン君。えっとね、ん?えーと、あれ、あれれれ、何だっけ?」  
「なんだ、どうした?」  
「んーとね、何かキョン君に借りようと思ってたんだけど忘れちゃった」  
「何だ、その年でもうボケたのか?ボケるのはまだ早いぞ。前みたいに、またハサミじゃないのか」  
「ぶうっ〜違うもん。キョン君のいじわる!」  
 
そういって、妹はズダダーッと階段を降りていった。  
まったく朝から元気なものだ。それにしても兄を起こすのにフライングニーを使用するとは、  
何を考えとるんだあいつは?  
まあ、目覚ましをかけても起きれない俺が一番悪いのだろうが、そう少しは優しくゆすって起こしてくれても  
いいんのではなかろうか?「お兄ちゃん、起きて」とかな。  
やばい…妹相手にキモイ想像をしてしまった。起こされるなら、朝比奈さんのように優しい  
天使のようなパーフェクトメイドさんに起こしてほしいものだ  
って違う!違うだろ俺!俺って、病んでるのかもな……。  
 
………!って、そんな下らないこと考えてる場合じゃないだろ俺!?  
昨日ハルヒがあんなことになったんだ。もしかしたら、この世界はあいつが作り変えちまった後の  
世界かもしれないんだ。それを何暢気に妄想なんてしてんだ。  
 
取りあえず、俺は自分の記憶、昨日までの出来事やSOS団のみんなのことを思い出した。  
よし、昨日の昼飯のおかずまではっきり覚えてるぜ。  
いや、まだだ。まだ、安心するな。いつぞやのように、俺だけ改変された世界に取り残されたという線も否定できん。  
俺はベッドから起き上がり、枕もとの携帯で昨日の日付から一日しか経ってないことを確認し、  
素早く制服に着替え部屋から飛び出て行った。  
 
「あれ、キョン君そんなに慌ててどうしたの?ごはん食べないの?」  
「悪いな、今日は抜かせてもらうぜ。いってくる」  
妹の出送りの言葉も聞き終わらないうちに、俺は家を飛び出し自転車を渾身の力で漕ぎ学校へと向かった。  
「また、俺だけ仲間はずれの世界なんてごめんだぜ?なあ、ハルヒ」  
 
その後、俺が登校するのには早すぎるということに気付いたのは、駐輪場に自転車を置き、  
朝の定番となった強制ハイキングコースのコースレコードを塗り替え、わがクラスの扉を開けたときだった。  
「…朝食食ってくるんだったな」  
俺が教室へと見事一番乗りを果たした時刻は、時計の針がいつもよりまだ四分の三程早い  
時刻を指している時だった。  
 
「ま、突っ立てても仕方ない」  
そう自分に言い聞かせて、俺は昨日まで俺の席だったところに座った。  
うむ、多少心配だったが俺の机だ。机の中に、漬物石の替わりにでもなりそうな量の教科書が詰ってるから間違いない。  
 
「しかし、大丈夫なのかねえ…」  
俺はまだ俺一人しかいない教室で、昨日ハルヒが去った後のことを思い出していた。  
 
 
―――――――――――  
 
俺たちはハルヒの去った後、部室でずっと黙りこくったままだった。  
 
「…困ったことになりましたね」  
俺たちの中で最初に、解凍したのは古泉だった。今はこいつの憎たらしい声も、この閉鎖空間を破るためなら大歓迎だぜ。  
「ああ、そうだな。でも、ハルヒが事実を知るってのはそんなにまずいことなのか?」  
俺はハルヒが出て行った後も、今のところ、この冷え切った空気以外には違和感を感じるところはない。  
「大変まずいでしょう。現在、涼宮さんは大変な興奮状態にあると思われますが、  
 それがいつ力の引き金になるか分からない状況です」  
「引き金って、それが引かれたらどうなるんだ?」  
「はっきりしたことは、わかりません。しかし、今いつこの世界が消えてもおかしくはない状況だとは言えます」  
そんな、マジかよ…。さっきまで普通にお茶飲んでたんだぜ、それが世界滅亡?  
くそっ、頭がどうにかなりそうだぜっ。  
 
「長門さん、どうですか?涼宮さんはなにか行動を起こしましたか?」  
古泉が長門にハルヒのことを聞いている。俺も気になるぞ長門、頼む教えてくれ。  
「涼宮ハルヒは現在、時速12〜14キロの速度で移動している。スピードに統一性がないことから  
 おそらく走っていると思われる。目的地は、おそらく彼女の家」  
ほっ、取りあえずまだ馬鹿げたことはしていないようだな。  
 
「それだけか、長門?他にはなにか起こってないのか?  
 例えば、閉鎖空間が発生したりとか…」  
「それはないでしょう。もし、閉鎖空間が発生すれば僕にはすぐわかります。  
 現在は、発生していませんしその兆候もまたありません」  
古泉が質問に答えてきた。そうか、こいつはあのトンデモ空間が発生すれば勝手にわかるんだったな。  
 
「古泉一樹の言うとおり閉鎖空間は発生していない。ただ…」  
「ただ?ただ、なんだ長門?不安になるから黙らんでくれ」  
「…涼宮ハルヒが自分の力を認識し、この部屋から出た瞬間、膨大な量の情報フレアが観測された。  
 これは、3年前の観測の時と比べても引けをとらない」  
「それは、どういうことなんだ?」  
「つまり、弱体化していた涼宮ハルヒの力が完全に復元したものと思われる。そして、一つ以前とは違う点がある。  
 今の涼宮ハルヒは、高確率で力を自覚し、自在に使いこなせるようになっているはず」  
 
ハルヒが力を使いこなせる?ということはだ。  
「あいつが、この世界を消そうと思えば、いつでも消せるってことか」  
「そう。今の涼宮ハルヒは鎖が解かれた状態。思い描いたことを自在に生み出し、消すことが出来る」  
「そんな。どうにかならないのか?例えば、あいつにこれが夢だと思わせるとか」  
「現時点では不可能。もう、今の涼宮ハルヒには誰も干渉できない。  
 力を自覚した涼宮ハルヒは、情報統合思念体よりも上位の存在となった」  
「でも、前に俺があいつにばらした時は、こんなことにはならなかったぞ?」  
「その時は、彼女はあなたからの情報を重要視していなかったから変化はなかった。  
 しかし、今回は違う。彼女は自分の力、状況、立場をすべて理解した状態。前回と今回では、仮定が違う」  
長門の冷静な返答が、俺にことの重大さを十二分にわからせてくれた。  
 
「とにかく、これ以上ここに居ても仕方ないでしょう。僕も機関から呼び出しがかかってきましたからね。  
 ここは、いったん解散としませんか?」  
「…はい」  
「わかった」  
古泉の解散の言葉を受け、朝比奈さんと長門は短く返事を返し、部室から出て行った。  
上手く考えがまとまらない。俺も帰らせてもらうとするか。  
そう思い鞄を背負った俺に一人だけ残っていた古泉が話しかけてきた。  
 
「お待ちください」  
「…なんだ?」  
「僕たちは、今夜恐らく徹夜覚悟で涼宮さんの作った閉鎖空間の処理に回ることだと思います」  
「…………」  
「しかし、もしかしたらあなたに力を貸して頂く事態に陥るかもしれません。  
 ですから、今夜は決して携帯を手元から離さず持っていてください」  
「……わかった」  
俺は、やっとこさそう返事を出した。古泉も俺の返答を聞きいつもの0円スマイルから  
元気を4割減させたような笑顔を残して、帰っていった。  
 
「…俺も帰るか」  
俺は部室の鍵を閉め、家路に着いた。  
 
 
―――――――――――  
 
 
「結局、古泉からの連絡は無かったか…」  
ということは、閉鎖空間以上の出来事はなかったのか、何も起こらなかったのか、  
もしくは、連絡する暇もないような出来事が起こってしまったのかのどれかだろうな。  
「…最後のだけは勘弁してほしいものだな。」  
 
と、俺はかなり長い間、考えに耽っていたらしい気付けばもう何人かのクラスメートが教室に来ていた。  
ハルヒは…まだ来てないか。くそ、早く来い。気になるじゃなーか。  
もしかしたら、また光陽園学院に行っちまったんじゃないだろうな?  
と、その時…  
 
「……ハルヒ」  
来た…もしかしたらと少し心配もしたが、制服も昨日と同じ、髪も長くない、いつもの不機嫌顔を貼り付けた団長様だ。  
そうして、ハルヒはズカズカと教室に入ってきて自分のつまり、俺の後ろの定位置に座った。  
 
「なによ?」  
「?」  
何だ突然?疑問文を投げつけてきても俺には何がなんだかわからんぞ。  
「さっきから何よ、ずっとあたしのこと見つめてきて。何、なんか言いたい事でもあんの?」  
どうやら俺は、だいぶ長い間こいつのことを見つめてたらしい。  
「いや、何でもないんだ。すまん」  
そう言うとハルヒはフンッと鼻を鳴らし窓の外に目をやり続けていた。  
 
しばらくの間、俺はどうハルヒに話しかけるか迷っていたがこのまま考えていても仕方ない。  
俺は決心を着け、ハルヒに話しかけた。  
「ハルヒ」  
ハルヒがこちらに不機嫌そうな顔を向けるが俺は構わず続けた。  
「昨日の話の事なんだがな、あれは、そのだな…。どう言えばいいやら…」  
俺が昨日の事をどう説明したもんかと考えあぐねていると、  
「あんたなに、あたしのこと呼び捨てにしてるわけ?あたしわね、あんたなんかに呼び捨てで呼ばれる覚えはないわ」  
俺は今なんと言われたのか理解できなかった。こいつは今何て言った?  
「ハ、ハルヒ…」  
「呼び捨てにするなって言ってんでしょ、馴れ馴れしいわね。それに、昨日の話って何よ?  
 あたしにはね、昨日あんたなんかと話した記憶なんてないわよ。わかったらもう話しかけないで」  
ハルヒはそう早口で告げ、また窓の外に顔を向けてしまった。  
俺はハルヒの言葉を受けてしばらく呆然としていたが、しばらくして教師が入ってきて  
結局そのまま1時間目の授業へと突入してしまった。  
 
俺は授業中ずっとさっきハルヒの台詞を思い返していた。  
俺に呼び捨てにされる覚えはないわか…。つまり、ハルヒが昨日の事に怒り演技をしてるとかでなければ、  
ここは昨日までとはまったく違う世界になっちまったわけか?  
ハルヒが昨日の事に拗ねてるだけであんなことを言ったんだとしたらまだいい。  
土下座でもなんでもして許してもらえば、それで済む。  
しかし、世界を作り変えちまったてのならそれは大問題だ。なんせ、あの長門をしてハルヒには手を出せない  
って言わしめたんだからな、俺だけの手に負えることじゃない。  
だが、さっきのあのハルヒの顔は、とても演技とは思えなかった。不機嫌顔はいつものことだが、  
さっきのあれはまるで、高校入学初期の頃の雰囲気そのものだった。  
とにかくもう一度確認しないとな、俺がそう考えた時、都合よく1限終了の鐘が鳴った。  
 
よし、もう一度話してみよう。  
「…ハ、」  
って、いねえ!ってもうあんなとこにいやがる!授業が終わったと同時にあいつは教室から出て行こうとしてした。  
くそっ、させるか!と俺が思い、追いかけようとしたところでアホ面を標準装備している谷口が話しかけてきた。  
「おい、キョン。さっきは涼宮に話しかけてただろ?何話してたんだ?」  
ああ…この馬鹿が話しかけてきたせいでハルヒはとっくにいなくなっちゃたじゃないか…。  
「…別にどうでもいいだろ」  
「ま、そうだがな。でも、あいつに話しかけるのは止めとけって前に言っただろ?悪いことは言わないからあいつだ…  
俺は谷口の言葉が終わる前に、谷口のネクタイを掴み強引に引き寄せてこう言った。  
「あいつのことを教えろ!」  
谷口もそのすぐ後ろにいた国木田もクラスメートも俺の剣幕に驚いているようだったが関係ない!  
「早く教えろっ!」  
その後、『こいつ大丈夫か?』と言いたげな目をした二人から聞いた内容は、なかば予想していたとはいえ、  
俺を愕然とさせるには十分すぎるものだった。  
その内容とは、ハルヒは入学初期とまったく変わらない行動を今でもしていること。  
友人と呼べるものはいなく、もちろん俺とも入学以来ずっと親しくない。  
多くの部に仮入部しているが、SOS団という名称の活動内容不明の部活には入部していない。  
そもそも、SOS団なんてものは北高には存在していないということだ。  
そして、これは意外なことだが一つ予測不能な事態が起こった。それは、  
「俺はSOS団の団員じゃないのか…」  
「何言ってんだ?お前は文芸部だろ。キョン、ほんとに大丈夫か?」  
と、いうことだ。  
 
休み時間が終わり、谷口たちは席に戻り、ハルヒもいつのまにか定位置へと戻っていた。  
そして、俺は授業開始前に相変わらず不機嫌そうにしているハルヒに最終確認をした。  
「なあ涼宮。SOS団という言葉に聞き覚えはないか?」  
「何よ話しかけんなって言ったでしょ。それに、あたしはそんな変な言葉知らないわ」  
「…そうか」  
…決まりだ。もしかしたらと思い、一縷の望みに期待してみたが、  
ちくしょうめ…どうやら俺は腹を括らなくてはならないらしい。  
確定だ、ここは昨日まで俺がいた世界とは違う。それも、前回の時と変わり今回はハルヒが作り変えた世界ってことだ。  
 
しかも、この世界では、俺とハルヒの関係はまったくなかったことにされてるらしい。  
ハルヒも当然、SOS団を作る前の行動とまったく同じ行動を入学から今でも繰り返してるらしいしな。  
理不尽な経験はSOS団に入って何度も体験したが、今度のも一筋縄じゃいかないだろうな…。  
ふー、やれやれ。まったく、最後のだけは勘弁してほしいっていっただろ古泉?  
 
俺は授業が過ぎ去るのを今か、今かと待っていた。俺が待っているものそれは、昼休みだ。  
谷口は俺が文芸部だと言った。ならば、部室には少なくともあの文芸部の付属品…いや、  
SOS団が誇る最強の無口キャラ型インターフェイスであるあの長門有希がいるはずだ。  
俺はそう考え、じっと机に張り付き、終了の鐘が鳴るのを待っていた。  
 
キンコーンカンコーン…  
午前中最後の授業の終了を告げる鐘が鳴り終わると俺は、教師の終了の合図も途中に教室から出て行った。  
向かうは文化系部の部室棟つまりは旧館、我等がSOS団の拠点でもある元文芸部の部室だ。いや、今は現か。  
おっと、そんなことはどうでもいいな!今は一秒でも早く長門に会わなければ!  
 
俺は教室から部室までのタイムラップを大幅に更新させ、我がSOS団の部室に辿り着いた。  
だが、俺の手はドアを握る寸前で止まった。  
そうだ、ここは、ハルヒの作り変えた世界だ。長門がいるとは限らない。  
いや、仮にいたとしてもそれは俺の知っている長門ではないかもしれない。  
ハルヒが何を思っていたのかはわからないが、俺には昨日までの改変されてない記憶が残っている。  
しかし、他の団員も俺と同じ状態だといった確信を俺は持てない。  
 
俺は、あの消失した世界で出会った長門有希という女の子を思い出した。  
相変わらず無口なのは変わらないが、とても恥ずかしがり屋で気が弱く、だが、確かに普通の人間の女の子だった長門を。  
ここに入ってあの時のように問い詰めればまた、脅えさせてしまうかもしれないな…。  
「…でも、それでも俺は会いたいんだSOS団のみんなに」  
俺は掴もうとしていたドアノブから手を離し、ドアをゆっくりとノックした。  
「頼む、いてくれよ…!」  
 
俺が数回ノックをした後すぐ、中から返答があった。  
「入って」  
ただそれだけの簡潔極まりない言葉、しかしこれは俺が待ち望んでいた長門の声だった。  
「いてくれたか…」  
ほっと胸を撫で下ろし、呟いた俺は部室へと入っていった。  
 
「お待ちしていましたよ」  
そして、俺を出迎えてくれたのは長門、朝比奈さん、古泉という俺とハルヒを除いたSOS団の仲間たちだった。  
 

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