曜日ごとに違う髪型をする女。  
それが後ろの席の涼宮ハルヒだ。  
とんでもない美人だが、思考もある意味とんでもない。  
毎日変えるのはオシャレのつもりか知らんが、さすがに度を越してないか?  
そんな思いを毎日見かけるたびに思っていたのだが、ある日それに法則があることに気が付いた。  
いつ気付いたのかは特にどうでもいいことだ。オレ以外の誰も気付いていなかったのは不思議に思ったけどな。  
 
涼宮ハルヒの髪型七変化。  
いつしかそれはオレの曜日判別のカレンダーとなり、毎日かかさずチェックするようになった。  
土日も気になってチェックしたのだが、これはなかなか大変だったな。  
ああ、土日の髪型はストレートに流したままだった。別のところは変化していたけどな。  
 
GWの明けた週の水曜日、HR前になんとなく気になったオレは話のネタとして涼宮ハルヒに話し掛けてみた。  
会話が成立するとは全然思っていない。  
したらいいな程度だ。  
いつかのように「時間の無駄」と会話を一方的に一刀両断されるとばかり思っていたからだ。  
 
「曜日で髪型変えるのは宇宙人対策か?」  
このセリフにも特に意味はない。  
頭のネジがちょっとトンデルこいつなら、このくらいのことはやるだろうとの失礼な偏見から出た言葉だ。  
「いつ気付いたの」  
ゆっくりと顔をこちらに向け、いつもの興味なさそうな視線で見つめてくるハルヒ。  
口調も何気ない。  
特に驚いた様子もないな。………外したか?  
「んー。ちょっと前」  
「あっそう」  
ハルヒは頬杖をついて窓の方を向き、気だるげに  
「あたし、思うんだけど、曜日によって感じるイメージってそれぞれ異なる気がするのよね」  
何やら理由らしきことを喋り始めた。  
当たりかどうかはわからないが、ハルヒの興味を惹くことに成功してオレ自身軽くサプライズだ。  
いつも「うるさい話しかけるな」という対人拒否バリアで自分を覆っている涼宮ハルヒと初めて会話が成立しているのだ。  
まさかこいつと会話ができるとはな。  
「色で言うと月曜は黄色。火曜が赤で水曜が青で木曜が緑、金曜は金色で土曜は茶色、日曜は白よね」  
何となく分かる気もする。土曜以外は。  
「髪飾りやリボンの色が毎日違うのもそのせいか」  
ドアノブのようなお団子頭を指差してやる。  
今日は水曜だから青だ。  
「………そこまで見ていたの?」  
まあ席も近いし、毎日髪型が変われば自然と目に入るさ。  
それと、もう一つ気付いたことをがある。  
「……もう一つ?………何かあったかしら……?」  
ハルヒは心当たりがない様子で、不思議そうな顔でオレを見つめてくる。  
 
本当のことを言うと今日はなんとなくで話かけたのではない。次のことを本人に聞いてみたかったのだ。  
 
少し呼吸を整えてから、  
「涼宮。下着の色まで上下毎日イメージカラーに揃えるのも同じ意味があるのか?」  
オレはハルヒに言った。  
 
何に気付いたのか興味深そうにこっちを見ていたハルヒだったが、これは予想外だったらしい。  
しばらく鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた後  
頬杖を解き、肩にかかる黒髪を片手で払った後、  
「…………………説明しなさい」  
ドスの聞いた重低音の声で凄み、ものすっごい目つきで睨んできた。  
うわ、やっぱ気付かれてたか。  
どうやらこの話題の選択は失敗だったようだ。この話題はもうやめて適当にごまかすとしよう。  
 
「いや、ほら。曜日ごとの色ってさっき言ってただろ。それにリボンと下着の色が丁度合致するんだよ」  
だが、オレの口はまだ会話を続けるようだ。  
ハルヒは一変して不機嫌モードになって、ただいま状況イエローだというのに。  
さすがに仲の良い間柄でもないのでこの話題はまずかったようだ。  
いや、ハルヒならそんなことは気にしないだろう。………やっぱり気付かれていたのか。  
話題を修正しないとマズイと思い、必死にフォローの言葉を探すオレ。  
「いきなり男子の前で着替えだした時は赤系の下着だったし、それ以降も毎日覗いてたからわかるぞ」  
オレの意識を無視して勝手にヤバい話題を続けるオレの口。  
気温が一瞬にして五度ほど下がった気がするね。  
目つきも先ほどよりも怖い。  
「ちなみに今日は青の下着だったな。オレとしては中間の白と水色の縞々だと最高に萌えたんだが、やっぱり縞々は無しなのか?」  
そして口は止まらない。しかも人のシークレットをバラすなんて何て勝手な口だ。  
いや、これがオレが話したい事ではなくてだな。  
 
ハルヒはオレの問いかけには答えず、(当たり前だ)素晴らしく凶悪な目つきで睨んでくる。  
目つきがどんどんヤバイ人になっていくのが実によく分かる。というか目の前だし。  
今の会話の中で何か癇に障ることでもあったか?……心の中ですっとぼけてみても無理なようだ。  
視線を刃物に例えると最初はカッターだったのがどんどん凶悪になり、今や果物ナイフになってきたように思える。  
 
「金曜日の色に気付いた時は思わず心の中で突っ込んじまったんだぜ?そんな色どこで買ってくるんだ!ってさ」  
お笑い芸人がよくするように手首のスナップを利かせて笑顔で裏拳っぽいツッコミジェスチャーをするオレ。  
ハルヒはまったく表情を変えなかったが、オレの笑顔が乾いていたせいだと思いたい。  
どんどん墓穴を掘っている気がするのは気のせいだよな。うん。  
……気のせいにしておきたい。  
 
「そ…それに土曜日の茶色は下着の色として正直どうかと思うんだ。覗いた時はマジでビビったぞ。あの色はよくない」  
ていうか、今はあんな色の下着も売っているのか?  
机の上に置かれたハルヒの両手が小刻みに震えている。  
誰かオレの口をふさいでくれ………考える前に当時そのまま思った本心が正直に飛び出してしまう。  
「土曜はオレのイメージとしては黒なんだよ。土曜の下着の色は黒にしないか?」  
その方が大人っぽいし、目の保養にもなる。  
……口は勝手に語りだすのをまだまだやめないようだ。  
 
ハルヒはまだ俯いている。耳も真っ赤だ。おそらく顔も真っ赤だろう。問題は手にすごく力が入っていることだが。  
それが恥ずかしさから来てるってことだとイメージと違って可愛い感じでいいんだがなあ。  
あり得ない妄想で現実逃避をしていると  
 
「あんたの意見なんて誰も聞いてない!!」  
ハルヒがクラス全体に響く大声を発しながら立ち上がった。  
全員の注目がオレとハルヒに集まる。  
ハルヒは両手をぶるぶると震わせながら  
「学校にいる時も家に帰る途中でも、休日は家でも、ずっと、ずーーっと!後をつけたり、いやらしい視線を感じると思ったら、アンタだったのね!」  
声には紛れもなく怒りがこもっている。というか、激怒寸前……?刃物レベルは日本刀に達したかもしれない。  
 
一応、(絶対に無駄とわかってはいるけど)弁明してみる。  
女子の目もあるわけだし、ここでフォローしておかないと後々マズイことになりそうだ。いや、もう遅いかもしれないが。  
 
それは髪型七変化と下着の色の関連性を調べるためだ(最初はたしかにいたずら半分だったさ)  
いやらしいなんてとんでもない。ちょっとした研究だ(ちょっと研究に熱中しすぎたのは認めるが)  
ああ、勘違いしないでもらいたい。お前自身には興味はないし、手を出したりもしないから安心しろ(今のオレでは釣り合わないからな)  
そんなのはこっちから願い下げだ。むしろ頼まれてもイヤだ(オレは告白は自分からするタイプだ)  
ああ、でもな。先月終わりの日曜日に穿いてた白いのはとても可愛かったぞ(服もお嬢様っぽくてすごく可愛かったぞ)  
丸一日その記憶しかないってのは自分でも驚いた(思えばあの時からかもな、お前のことが本当に気になりだしたのは)  
レースのフリフリってのも似合うんだな(オレ以外にも見てたヤツもいるんだぞ?お前は可愛いくせにそういうの気にしないから心配だ)  
あ、でもその日のブラのサイズはちょっと合ってなかったみたいだったな(きつそうな顔してたときは声かけようか迷ったな)  
お前も風呂場で気がついたみたいだったな。あれから新しいのは買ったか?(………きれいな体だったな。やべ、鼻血出そうだ)  
…買ってないのか?(……将来はオレが買ってやる。って言えたらいいんだがね)  
身体測定から今日までに2cmは大きくなってたじゃないか(これ以上スタイルよくなると変なの寄って来そうで心配なんだよなあ…)  
これからどんどん大きくなるんだろうから早めに買っておけよ(むしろオレが大きくして、オレがその都度買ってやる)  
 
……ああ、フォロー失敗。口から出たのは予想通りに当時のオレの嘘偽りない本心だった。  
だけど、所々ハルヒに伝えるのに不適格なことばかり喋ってなかったか?  
全て伝えても結果は変わらないのが目に見えてるが。むしろ悪化するな。  
それはそれとして、現状は墓穴を掘っている以外のなにものでもない。  
女子の視線が時間経過でどんどん冷たくなっていくし、ハルヒの震えはさらに激しくなっていく。  
男子連中は笑いを堪えているヤツらばかりだ。……谷口、お前は笑いすぎだ。  
 
 
 
気付いたとき、オレは空を飛んでいた。  
いや、正しくは宙を飛んでいた、だ。  
まだ窓からダイブしたくなるほど人生に悲観してはいないし、次の授業もグラウンドではない。  
さすがにハルヒだって空を飛べとは言わないだろう。  
 
何が起きたかって?体は反応できなかったが、目はしっかりと反応していたからよく覚えているぞ。青だった。  
じゃなかった、回し蹴りだ。それも上段のな。おかげでチラリとだがへそとブラまで見えた。肉を切らせて骨を絶つ、か。  
吹っ飛びながらそんなしょうもないことを考えていたが、床に落ちて意識を失う前に堅く決意したことが一つある。  
もうこの際ヤケだ。明日からは縞々を是非勧めてみよう。ということだ。  
 

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