ある日の放課後。  
俺はいつものように部室の前に行き、ドアをノックした。  
トントン  
「………………」  
「なんだ、誰もいないのか?」  
そんなことをぼやきつつ、俺は部室のドアを開けた。  
するとそこには――――  
人形のような服を着た長門有希がいた。  
 
「………………」  
「………………」  
お互い無言。俺は驚きで、長門はいつもどおり。  
そりゃそうだろ、長門が制服以外を着てるんだから。  
朝比奈さんがいつも制服を着ていないのは当たり前だが、いや、それもおかしいのだが。  
まああの人は被害者だからしょうがない。  
だが、それが長門となると訳が違う。  
長門は学校どころか、普段も制服を着て過ごしている。  
「服を着替える」ということに関心がないからだ。  
そんな長門が違う服を着ている。現実とは思いがたい。  
と、とりあえず平常心、平常心。  
「よ、よう、長門」  
「………………」  
本を読んでいた顔を上げてこちらの顔を見てくる。若干上目遣い。  
「その格好は?」  
「…涼宮ハルヒ」  
「ハルヒが?長門に着せ替えを?」  
コクリ、と長門がうなずく。  
 
まあいい、とりあえず状況を確認しよう。  
「ハルヒは?」  
「私を着せ替えた後、朝比奈みくるを探しに行った」  
ということは朝比奈さんは今日ここにはまだ来ていないということか  
古泉は……どうでもいいか。  
とりあえずお茶でも飲みながらこっそり観察してみるか。  
こんな長門を見られるのは今日ぐらいかもしれないから、脳に焼き付けておかないとな。  
 
うむ、自分で入れたお茶は不味い。俺も舌が肥えたものだ。  
さて、俺の目に褒美を与えてやるとするか。  
ううむ、いい。小悪魔的な妖しさがある。  
白黒のハイソックスが、その上からほんの少しだけのぞく太股が  
フリフリとしたスカート部の白と黒のピンクの調和が、キュっと締まったウエストが  
胸は……だが、それがいい。まて、負けるな俺の理性。  
と、ここまで見たところでふと顔を上げると、こちらを見ている長門と目があった。  
「………………」  
「………………」  
しまった、自分ではこっそり見ていたつもりだったがおもいっきりばれていたらしい。  
「す、すまない」  
「いい。気にしない、好きにすればいい。」  
……情報統合思念体とやらは、長門にちゃんとした感情は与えられなかったのか。  
「好きにすればいい」なんて言われたら「見る」よりも深い所までしたくなるじゃねえか。  
……って、がんばれ、俺の理性。本能に負けるな。よし、その調子だ。  
とそのとき長門が持っていた本を落とした。落ちた本が俺の近くに滑ってきた。  
中身は………え?  
 
中身は恋愛小説だった  
 
「………………」  
「………………」  
 
三度目の沈黙。そりゃそうだろう。長門が堅苦しそうな本以外を読むなんてのは  
地球が時計回りをし始めるぐらいありえないことだと思ってたからな。  
しかも恋愛小説を読むなんてのは想像どころか妄想すらしたことがなかった。  
そんなことだから何と声をかけようか迷っているうちに、長門の方から話しかけてきた。  
 
「あなたの事を考えると謎のエラーデータが蓄積されていった。そのデータを構築している  
ものに一番近いものとして『恋』と呼ばれる感情があった。理由は不明」  
長門は淡々と続ける  
「それの理解のために読んでいた」  
「でも、わからない」  
 
長門の顔に滅多に出ない表情が出た。困惑している。  
「長門、それはな……」  
ここまで言って言葉に詰まった。自分でこんな事を言うのは恥ずかしすぎる。  
誰かに録音でもしていたら俺はそいつを殺す自信がある。それくらいの言葉だ。だが言うしかない  
 
「それは、俺が好きだってことじゃないか?」  
やばい、顔から火が出そうだ。今だったら顔で目玉焼きが焼けるかもしれない。相当赤くなってそうだな。  
「……わからない。だが、その可能性は高い」  
 
これは告白なんじゃないか?そう思い返事を返すべきか悩んでいると、  
俺の身体に何か暖かい物体が抱きついてきた。  
 
長門だった。  
「ちょ、おい、長門」  
「エラーデータを消滅させたい。協力して欲しい」  
「は?」  
「エラーデータはあなたの愛を求めている。愛を与えればおそらく消滅する」  
そこで長門は一瞬顔を伏せた。その顔に若干恥ずかしさがあったのは気のせいか?  
「私を、愛して欲しい」  
 
上目遣いでそんなこと言うなよ長門。服との対比でめちゃくちゃ色っぽいじゃねえか。  
だが俺は少し突き放したように言う。どうしても知りたかったからだ。  
「長門自身の意志はどうなんだ?俺はそれを知りたい」  
だが長門は俺の予想と違い、はっきりと言った。  
 
「今回のエラーデータは私の意志が生み出したもの。つまり、これは私の意志」  
 
頭がクラクラしてきた。汗も出てきた。  
確かに今までの話を総合するとそうなるのだが、簡単に返事をするわけにはいかない。  
 
だけどな、よく考えて見ろよ、俺。あいつは今まで誰にも頼らず陰から問題を解決へと持っていってたんだ。  
感情を表に出すことも無く、一人で。  
その長門に出た初めての感情が俺への『恋』だったなら、それを受け止めてやるべきだ。  
それに……俺も、長門のことを放っておけなくなってるんだからな。  
 
俺は返事を返す代わりに、長門の体を軽く抱きしめた。  
長門の体が少しピクリと反応する。細いが、やわらかい体が。  
そのまま何十秒か経った後、ギリギリ聞こえるぐらいの小さな声で長門が言った。  
「もっと強く……抱きしめて欲しい……」  
「それは長門の意志?」  
俺がからかうように言うと、顔を赤くして、コクリ、とうなずいた。  
 
緊急報告緊急報告、俺の理性軍が追いつめられています。  
長門のゴスロリパワーと滅多に見せない感情のコンボは強烈すぎます。  
理性復活ぷろぐらむ、Ready? O.K.  
 
「長門……」  
そういうと俺は長門の顔をクイッと俺の方へあげた。若干頬が赤くなっているのがかわいすぎる。  
そのまま俺は長門にキスをした。  
 
長門の唇はやわらかくずっとキスをしていたくなる。  
最初はただ唇を重ねるだけのキス。それだけでも心臓がドキドキしてくる。  
だがそれ以上に俺の中の理性が溶けていくのがわかる。  
やべー、ぷろぐらむ作動失敗、逆方向に作動。  
 
それから俺はただのキスから次の展開へ移るべく、舌を動かして、長門の口の中に進入させた。  
最初は拒んでいた長門も、長門の舌に絡ませるようにすると次第に俺の舌を受け入れ始めた。  
お互いの舌を絡ませあい、お互いを確認しあうように抱き合う。  
夕日で赤く染まった部室の中で、俺達は一つになった。  
 
静まりかえった部室の中に響くのは、二人が唇を貪り合うクチュクチュという音と  
長門の「……んっ………ん…」というくぐもった声だけだった。  
 
この時がこのまま続けばいい。そう思っていた俺の思考をぶったぎったのは  
甘ったるい空気をぶち壊しにする大声だった。  
 
 
「有希ー、その服の着心地はど………」  
しまった、途中からハルヒの事なんか冥王星軌道ぐらいまで飛ばしてしまっていた。  
慌てて長門から離れたが、今までのキスの名残のように唇と唇を唾液の橋が繋いでいた。  
部屋の体感温度が急激に低下、ハルヒの周囲を除いてだが。むしろ急激に上昇してる。  
「この………」  
 
 
  「ヘンターイ!!!」  
何と思われてもイイや、今すごく幸せだし。  
そんなことを思いながら俺の意識はそこで途絶えた。  
 
追伸 それからしばらくの間、ハルヒどころか朝比奈さんにも口を聞いてもらえなかった  
 
            HAPPY END?  
 
 

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