「涼宮ハルヒのGS」  
 
今日も今日とて我らがSOS団は不思議探索。  
絶好の小春日和だってのに俺たちは一体何をしてるんでしょうね?  
だれかわかり易く三行程度にまとめて欲しい。  
 
本来なら普通の高校生らしく、運動に、恋愛に、勉学にと励むべきなんだろうが、  
俺たちがしているものといったら、一応部活動の名は付くとは言え、  
正体不明のものを探す正体不明の集団だ。  
 
正体不明の集団と自分たちのことを形容するのに若干不満が無い訳ではないが、  
宇宙人、未来人、超能力者とそれだけで大三元が出来そうな手牌に、  
古泉曰く『神』まで居るのだからこれはもはや大三元四暗刻が天和で出来上がっているようなトリプル役満である。  
ああ、少なくとも俺は違う。どう考えても役の一つも付かないクズ牌だ。  
せめてドラの価値位はあってほしいなあ、と思った時期も俺にはあったが、もうそれは過去のことだ。  
 
さて、今日の不思議探索は某遊園地である。  
…おい、こら、そこ、なんだ、普通の高校生が遊びに行くような場所だなと言う顔をしない。  
何でも、ハルヒによれば、この遊園地は設立当初から、企画者を始めとして  
管理責任者から整備担当者からぬいぐるみの中の人まで、関係者の死が相次いだ、  
その筋では無茶苦茶有名な、「心霊遊園地」…らしいのだ。  
 
「その筋」が何なのかは俺には知らん。どうせハルヒのことだから、  
某大型掲示板のオカルト板辺りにあったガセネタでも引っ張ってきたのだろう。  
事実、そんなことがあったら客足が途絶えそうなものなのに、  
実に休日らしい家族連れ、カップル、仲良しグループなどでにぎわっている。  
 
有る意味において浮いているのは俺たちだろう。  
ある種のアトラクションと勘違いされそうな、朝比奈さんの巫女さん姿と、  
どっから調達してきたんだか分からんが、  
どう見ても神父さんです。本当に有難うございましたな装備をする古泉…  
明らかにどっかの漫画から影響を受けたのだろう、お札やら精霊石っぽい首飾りやら神○棍を持っているハルヒ。  
腕には「所長」という腕章が輝いている。  
 
…うん、一般人たる俺は他人の振りをしたいな、これは。  
 
「涼宮さんは、あれをやってみたかったようですよ」  
「あれって何だ」  
「あれ、知らないんですか。まあ最近の子供では知らないかもしれませんね」  
お前は幾つだ。少なくともお前だけは俺と同じ年齢だと思っていたのだが。  
「実はですね、我々の調査によると、彼女は先週からGS○神という  
まあ、悪霊を華麗に退治する漫画にはまっているらしいです」  
んでそれをやりたいからこうなった…というわけか。変なものを呼び出さなければ良いが。  
「それについては大丈夫です、『機関』は、場所がここに決まった時点でそれなりのものは一応用意しましたから。  
適切な時刻に適切に演出をしますよ」  
…なら大丈夫かもしれないな。アイツに地獄の門を開かれても困る。  
 
まあ、ハルヒはまあなんつーか、その格好は確かにはまっていたが、  
その格好はお盆にお台場辺りで開かれる一大イベントでやるべきだろう。  
TPOっていう概念はアイツには存在しないのか。  
それに確か原作どおりならば長門も連れて来て、ミサイルやらをなにやらを打つ娘になるべきなんじゃないのか。  
「なーんだ、やっぱり読んでいるんじゃないですか」  
まあな。伊達にブック○フの常連じゃあないぞ。  
だが額にバンダナをつけてビー玉を出すのだけはゴメンだ。  
「でも確かに今日、長門さんが居ないのは少々不自然ですねえ、『機関』も不審がっています」  
 
そう、今日のSOS団の集会に、なぜか長門だけは居なかった。  
不思議探索を長門が休むと言うのは珍しい。  
ハルヒによれば、体調を崩したとのことだが、あの戦艦長門が体調を崩すということがあるのだろうか。  
…あるかもしれないな。とっとと切り上げて、お見舞いに行ってあげるべきだろう。  
正直な所、何を見舞えば良いのかは分からんが。メロンを持っていってもしょうがない気がする。  
まだしもカレーの方が良いような…いや、アンチウイルスソフトでも差し入れるべきなんだろうか。効果があるかは分らんが。  
 
「ほら、そこの二人!男同士でこそこそ何やってるの!とっとと行くわよ!」  
所長、いや団長様のお達しだ。俺たちは話を早々に切り上げて、ボディコンGSとお供の浮遊霊の格好をしている  
二人の方へ向かった。  
「ふへえええええ…皆見てますよう…」  
「いーじゃない、怪しげな自縛霊!呪われし遊園地を取り仕切る悪霊!  
それを華麗に、極楽へ送ってあげるわ!これでこそSOS団の一大イベントね!」  
…もう何も言うまい。被害者が一人減っていたことはむしろ幸運と考えるべきなんだろうな。  
「そうねえ…でも有希が来たら、これを装備させようと思ってたのにねえ…残念だわ」  
と言いながらハルヒが出したのは、特徴的なアンテナだった。  
選りにも選って、ハルヒなどとアイデアが被るとはな。  
 
至極当然ながら、悪霊などと言う物騒なものが出るわけではなく、午前中の俺たちの探索行は一切無駄に終わった。  
「つまんないわねえ…何で出てこないのかしら」  
「まあそうそう幽霊なんて出てきませんよ」  
いつものニヤニヤ顔も、神父の格好をしてると妙にそれなりの説得力が増すな、おい。  
「そうですよう、せっかく遊ぶ所に来たんですから、普通に遊びませんかあ?」  
朝比奈さんはもうすっかり慣れてしまったか吹っ切ってしまった様で、  
格好は別として、少なくとも表情は周りの雰囲気には溶け込んでいた。  
 
しかし、ハルヒはそこでぱっと頭を上げた。  
「そうよ、それだわ!」  
何が分かったんだ。まるで黄金と銀の比重の違いを発見した古代ギリシャ人のような表情をしやがって。  
 
「考え方が間違っていたわ!確かにこれじゃあ見つからないわけね、やっぱり発想が良くなかったのよ」  
「いや、間違っているのはお前の頭だろう」  
「キョン、うるさい。いい、こういう風な場所に出てくる幽霊ってのは、普通に楽しく遊んでいるパーティなんて前には  
出てこないものなのよ!むしろ、うん、例えば単独行動ね、そういうことをしているときにやってくるものなのよ!」  
すると永遠のイエスマンたる古泉は、それに同調した。たまには反対意見も出したらどうだ。  
「なるほど、そのような発想は盲点でした」  
…しかしこいつ、バイオ○ザードにまで影響を受けていたのか。  
正直ゾンビに追い回されるのだけはゴメンだぞ。地獄の盆踊りを踊りたいなら一人でやれ。  
「と、いうことで一時解散!4時まで自由行動で、何か面白いものを見つけたら即座に私に連絡すること!  
いいわね!」  
ハルヒの一声で、我らSOS団はソロ活動を行うことになってしまった。  
個人的には朝比奈さんとのコンビ活動がベストだったのだが、所長の命令とあれば仕方ない。  
 
知っている人は知っているかもしれないが、遊園地で一人で歩くというのは実に味気ない物だ。  
周りには家族連れや、カップルやカップルやカップルなど…  
 
…いかんな。SOS団の中では唯一その系統の扮装をしていないのに、発想が「そいつ」に近くなってきている。  
とりあえず、妹に買って帰るべきお土産でも探すか、とお土産屋に足を向けたところ、  
後ろから何かに引っ張られるような感覚がした。  
 
…この感覚、長門か?  
 
瞬時に振り返ると…誰もいない。  
まさかハルヒのトンでもパワーで、本当に「何か」が呼び出されたんじゃないか、  
とか思ったとき、視点よりやや下にぺルシアンブルーの髪が見えた。  
なんだ、やっぱり長門じゃないか…っておい!  
 
俺が目測を誤ったのも無理はない。あいつの身長が、通常比20%off位にちんまりとしていたからだ。  
もともと長門はちみっこいイメージがあるが、今の長門はそれ以下だ。  
まさかバーゲンで値下げとか言うんじゃないだろうな。  
 
えーと、たぶん長門さんだと思うのですが、あなたはいったいどちらのお子さんでしょうか?  
「あなたの推測は誤っていない。私は長門有希」  
…ではなぜそうちみっこくなっているのでしょうか?  
「リソースの不足」  
「私は常に膨大な情報を処理する必要があるため、常に多くのカロリーと、情報統合思念体からの補給を受けている」  
そうか、あの大食いにもきちんとした理由があったのか。まるでwindows xpだな。  
「だが、情報統合思念体からの補給が18時間ほど前から途絶気味」  
きちんと仕送ってやれよお父さん。  
「やむをえず、省エネルギーモードへと移行、かつ涼宮ハルヒの観察を続けてきた」  
「それが、私がここにいる理由」  
まあ理由はいささかエキセントリックながら分った。では聞くが、なぜお前は俺に今マンマークしている?  
「涼宮ハルヒには現在別のインターフェイスがフォローに回っている」  
ほう。  
「原因は、彼女が個人行動になり、周りに注意を払い始めたため、本来存在しない私が発見される危険性が生じたため」  
なるほど。だが俺がマンマークされた理由が分らんままだぞ。  
「あなたは涼宮ハルヒの鍵」  
「ゆえに、マークの対象は自動的に重要度順に移行し、観察対象としてあなたが選ばれた」  
…そうか。  
「そして、私と言う個体も、あなたと行動をともにしたいと考えている」  
……  
まあ嬉しいと言うわけじゃないが、長門(小)相手では最大限譲歩して見ても、仲のいい兄妹にしか見えない。  
「わたしはかまわない。あなたがそれでよければ」  
 
…結局、俺は長門(小)と二人で遊園地を回った。  
長門が楽しんでいたかは分らん。少なくともお化け屋敷はつまらなそうだったし、  
体感シューティングでは当てすぎて逆につまらなそうだった。  
長門が最も興味を示したもの、それは昔のその遊園地の発行したフィルム映像だった。  
某ネズミのドタバタ。まさかそんなものが好きだとはね。  
 
んで、もう少しで約束の時間だが…  
「長門、お前は最後に乗りたいものとかあるか?」  
聞いてみた。一通り乗り物は試してみようとも思ったが、列の長さからこの時間、一つに絞るのが得策だと  
考えていたからだ。  
「…あれ」  
長門はジェットコースターを指差した。  
正直に言おう。俺はそのような絶叫系は苦手だ。なにが悲しくて金を払って命の危険を感じなければならん。  
だが、長門が乗りたいと言うなら話は別だ。俺たちは、おとなしく列の最後尾に並んだ。  
 
時間帯が良かった為、俺たちの順番は30分後に回ってきた。  
 
しかし、お前らも見たことがあるだろう?  
ジェットコースターのような乗り物には、安全のため、入り口に「この高さ以下の子はだめだよ、ごめんね」  
というやたらファンシーなたて看板がある。  
 
まあ、ここまで説明すれば分ると思うが、長門(小)はここで引っかかってしまった。  
 
へこんだ長門。これを想像するのは困難だろうと思うが、是非想像してみてほしい。  
外見上の変化はただ首を五度程下げているくらいだが、長門の表情専門家たる俺は分る。  
 
長門は結構本気でへこんでいる。…親父さん、仕送りはまだですか。  
 
結局、コーヒーカップに乗って、俺が力いっぱい回すことで妥協したが…それでも。  
「…」  
「いつまでも仕送りが滞っているわけじゃないだろ?」  
長門は目に見えて落ち込んでいた。  
そのため、俺は後から考えれば、我ながら大胆な提案をしてしまった。  
「いずれ、回復したら、また連れて来て乗せてやる。それでいいか?」  
長門は少し驚いた顔をした。少なくともその様に俺には見えた。  
その表情を見て、俺も気が付いた。  
うん、これはどう考えても再デートとかその辺の誘いだ。しまったな。長門は嫌かも知れない。  
しかし、長門の場合、イヤとかは言わないで、無言で拒否とかその辺だろうな。やれやれ。  
 
「…」  
そう考えた矢先、思わぬ反応速度で長門の首がミリ単位で瞬間的に上下した。これは驚きだ。  
気のせいかもしれないが、積極性すら感じさせたぞ、おい。  
 
と、ポケットの中の携帯が振動を始めた。  
相手を確認した俺は、念のため出力機の方から少し頭に距離を置いて電話に出た。  
「おう」  
「『おう』じゃないわよ、バカキョン!とっとと集合場所に帰ってらっしゃい!」  
案の定、周りに響き渡るような大声が音声出力から発生した。  
耳を近づけていたらやばかったな。鼓膜の一つは破壊したかもしれん。  
あー、ハルヒさん?たしかもう少し集合時間には余裕があったように思うんですが?  
「そんなことは知らないわよ!とにかく、あんた以外はいるから、すぐ集合すること!」  
 
はあ。やれやれ。一つ嘆息を付いた後、俺は長門に向き直った。  
「というわけだ…じゃあ治ったら、俺に連絡をくれ。団の活動がない日曜なら基本的に暇だからな」  
ブンブンという効果音つきのような気がするくらい、長門の首が激しく上下した。  
 
結局、俺は最後に来たことを理由に、お茶代全員分のおごりを命じられた。  
「ところで古泉。『仕掛け』はやったのか?」  
俺は少し気になって聞いた。やはり好奇心の一つ位はあるからな。  
「いいえ、特には。どうも、今回の涼宮さんは、結局のところ、皆で遊びたいというのがメインだったようですね。  
あの後も、なんだかんだで朝比奈さんと合流してたみたいですし。  
おかげでエキストラの人々にはそのままお帰り願いましたよ」  
そうか。それならそうと、素直に言えば良いのにな。長門のように…  
俺はボディコンを当たり前のように着こなして、隣の浮遊霊をいじっているハルヒを眺めていた。  
 
 
 
次の日。学校に来た長門は、元の大きさだった。仕送りはうまく戻ったらしい。  
 
放課後、SOS団に戻った俺に、長門は本を手渡した。  
まあ、建前上は文芸部である以上、たまには本を読んでみてもいいか、そう思った俺は本を広げた。  
すると、俺はその本の最初の方にしおりが挟んであるのを見つけた。  
 
「来週日曜、午前10時、同じ地点にて待つ」  
 
終  
 

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