「急に進路指導中止なんてなー」  
放課後、俺はSOS団の部室に向かいながら誰ともなしにつぶやく。周りから見たら怪しいやつに見えるかもしれないな。  
実は今日、進路指導なんていう正直くだらんミニイベントがあるはずだったのだが、先生の方になにやら急用ができたらしく中止になったのだ。  
一応ハルヒには今日は遅れると言ったのだが、ハルヒのことだ、「そんなの知ったこっちゃないわ!」とか言って何か罰を俺に与えるに違いない。  
ホント、理不尽な団長さんだよな……  
そんなことを考えている間に部室前に到着した。古泉が廊下にいないということは、中で朝比奈さんが着替えをしていることはおそらくないのだろう。  
まあ念には念をだ、ノックはしておこう。  
そう思い、ノックをしようとした瞬間、  
 
「会議よ」  
 
といういつになく真剣なハルヒの声が部室から聞こえた。  
不意をつかれてあげた手が止まってしまった。  
……なんだ? 会議? 今日そんなものがあるなんて俺は聞いてないぞ。まぁ今までに前もって聞いていたことがあったかどうか怪しいもんだが。  
なんか入るタイミングを逸してしまったような気がする。しかしどんな会議をするのかも正直少し気になる。  
……よし、ここは気づかれないようにドアを少しだけ開けて様子を伺おう。そこ、変態とか言うな。  
中にはハルヒ、長門、朝比奈さん、ついでに古泉がテーブルを囲んで座っていた。  
 
「これは綿密なる計算と繰り返しの実験が必要よ。キョンが進路指導から帰ってくるまでにすべてを完璧にしなくちゃならない」  
「そうですね、急ぎましょう」  
 
ん? なんだ? 実験? 俺が帰ってくるまでに? どういうことだ?  
次々と浮かんでくる疑問をよそにハルヒは続ける。  
 
「それじゃあまず、キョンが部屋に入ったら頭上に鉄球を落とすわ」  
 
……………………はい?  
 
「これを入り口に吊るしておくわ」  
 
今気づいたが、ハルヒの足元には鎖付きの鉄球が置かれてあった。直径50pくらい。うん、こんなん喰らったら軽く死ねるね。  
 
「タイミングが命ですね」  
 
古泉、殴るぞ。  
 
「でもキョンはこのくらいはよけるわね」  
「そうでしょうね」  
 
無茶言うな。  
 
「この作戦はキョンがよけてからが本番よ! キョンが鉄球をかわして前方に飛んだその位置に落とし穴を掘ってあるわ!」  
 
……………………  
 
「しかし大丈夫ですか? 後ろか横に飛んだりしませんでしょうか?」  
「鉄球をいつ、どういう角度で落とすかよね。よし、キョンが戸を閉めてから落としましょう!」  
「……横から振り子のように落とせば逃げ場は前しかなくなる」  
 
長門……  
 
「なるほどね、さっすが有希! よし、さっそくワイヤーの調節ね。みくるちゃん、そっちもって」  
「あ、は、はい!」  
 
朝比奈さんまで……  
 
「そしてキョンが落とし穴に落ちたら、爆竹と電流を同時にぶちかますわ」  
「す、すごい仕掛けですね〜」  
「ふふ〜ん、密かに一カ月がかりで作ったのよ!」  
「さすが、涼宮さんですね」  
 
……………………  
 
「そしてびっくりしているキョンの上にはなにかの紐があって、引っ張ると大量のみくるちゃんコスプレ写真がくす玉から出てくるの!  
これが『びっくりさせられたけどみくるちゃんコスプレ写真いっぱいで±0のドッキリ作戦』よ!」  
 
…………………………………………  
 
「そそそそんな写真いつのまに撮ったんですかぁ!」  
「そんなこと気にしないの! じゃあ早速リハいくわよ!」  
「わかりました」  
「ぅぅぅ……は、はぁい……」  
「…………(コク)」  
 
……とりあえずここから離れるとするか……  
 
ズドン!!      バリバリバリバリ!!!!!!  
  パンパンパンパンパーン!!!!!!  ドン!!!!  
 バキバキッ!!!!    ドゴッ!!   バリバリバリ!!!!  
 
「きゃあ!」  
「うわっ!」  
「大丈夫!? 古泉くん、みくるちゃん!」  
「はいっ」  
「な、なんとかぁ〜」  
「……」  
「みんな、頑張るのよ、頑張りましょう……そうすればもうすぐキョンの驚く顔が見られるのよ……」  
 
最後にそんなやり取りが聞こえた。やばい、こいつら、マジでマジだ――  
 
 
 
 一時間後――  
 
ああ……結局戻ってきてしまった……  
俺は再び部室前に立っていた。本当はあのまま家に帰ろうとも思ったのだが、そうしたらそうしたで後で更なる地獄が待っているかもしれないと考えたからだ。  
覚悟を決めるんだ俺! ただし死ぬ覚悟じゃない! 生き抜く覚悟をだ!  
深呼吸をして俺はドアをノックした。  
 
「はぁい」  
甘ったるいエンジェルヴォイスが聞こえる。しかし俺は知っている。そこは天国ではなく、地獄であるということを――  
最後にもう一度深呼吸をしてドアを開けた。  
そこにはわざとらしいほどの笑顔をした(実際わざとなのだろう)ハルヒ、いつもの嫌な微笑を携えた古泉、顔の引きつった笑いをしている朝比奈さん、そして無表情の長門がいた。  
全員どことなくぼろぼろのように見えるのは見間違いではないはずだ。  
「ずいぶん遅かったわね」  
平然とそんなことを言うハルヒ。  
「ああ、悪い……」  
そう返事をし  
俺は  
ドアを  
閉めた  
 
刹那、かつて感じたこともないようなプレッシャーが俺の右から迫ってきた!  
いや、俺はこの感覚を知っている。これは朝倉に殺されかけたときと似――なんて回想してる場合じゃねえ!  
「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」  
今まで出したことのないような雄叫びをあげながら、俺はとにかく前にジャンプした。  
それこそ立ち幅跳びの世界選手権があったら六位入賞はできるくらいの勢いで。  
『ブゥーン』と重い風が、俺が一瞬前までいた場所を通ったのが感じられた。マジ危ねぇ……  
そして無事に俺は着地をした。何の変哲もない床へ。  
 
 
……あ、あれ?  
どうやら落とし穴が掘られた床を跳び越したらしい。  
そぉっと目の前に座っている四人の顔を見る。  
ハルヒ、古泉、朝比奈さんは口をあんぐりと開けていた。信じられないようなものを見る目で……古泉のこんな顔はレアだな。ちなみに長門はやっぱり無表情。  
いや! そんなことよりもどうする! この空気! 俺にはどうすることも……  
否! 答えなんぞ最初からわかっている! やるしかないんだ!  
「う、う、うわあすべったァアア!!!!」  
言うが早いか、俺は後ろに向かって飛んでいた。そう、落とし穴に向かって!  
 
ズドォン!!!!  
 
今度こそ俺は落とし穴にはまっていた。さらば、我が人生!  
「うわあーーしびれるーー!!!! 爆…ばく…ば…あ、あれ?」  
電流が走り、骨が透けて見える体になるかと思いきや、何も起こらなかった。  
しかし俺の足元にはちゃんとそれっぽい装置が置かれている。  
つまり、これは  
不発――――――  
「…………あ……こ、これなんだ?」  
完全に固まっている三人(+一人)を一瞥して、目の前に垂れていた紐を引っ張る。すると上にあったくす玉が割れ、中から二十枚はある朝比奈さんのコスプレ写真が出てきた。  
「うわー! 朝比奈さんの写真がいっぱいだー! こりゃびっくりしたけど嬉しいから±0だー! うわはははは、は、は……は…………」  
「……………………」  
「……………………」  
「……………………」  
「……………………ユニーク」  
 
 
 
         ど完  
 
 

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