部室に着くとそこにはすでにハルヒがいた。正確に言うとハルヒしかいなかった。
つまり今日の罰ゲームは残り三人のうちの誰かに課せられるってことだ。
助かった。すでに季節は春に突入しているというのに、俺の財布の中だけは未だに寒波に襲われているからな。
これ以上防寒具たる物を奪われたら凍死しかねない。
しかし定位置に座っているハルヒの表情を見て、その安堵感は一瞬にして吹き飛んだ。
ハルヒの目が悪巧みを思いついたときのような煌めきを放っているのだ。
「あれ? 他の皆は?」
確認までに訊いてみる。
「みくるちゃんはクラスの用事があるから来れなくて、有希は体調が悪くて病欠。古泉君はとにかく急用だって」
「あー、つまり今日は皆休みなわけだ」
ここで今は春休み中じゃないか? とか、
長門が体調が悪いなんてことがあるのか? とか、
古泉だけやけに理由が曖昧だな?
なんて突っ込んではいけない。
「そうね。今日はあたしとあんたの二人っきり」
ハルヒは先程まで踏ん反り返っていた団長専用いすから立ち上がると、俺の目の前にやってきた。
すうっ、とハルヒの手が伸びてくる。
しかしそれは俺に触れることはなく後に向かっていった。
僅かな金属音を立ててドア施錠される。
「何のつもりだ?」
「解ってるくせに……」
ハルヒは距離を縮め、両手を俺の背にそえた。
顔を胸にうずめているので表情をうかがい知ることは出来ないが、
きっと良い感じに紅潮してるだろう。
こいつから伝わってくる鼓動がそれを教えてくれる。
「若い男女が密室に二人っきりでいたら何をするかぐらい、いくら鈍感なあんたでも解るでしょ?」
うむ。しかしそれをするには大事な要素が一つ欠けてるな。
「何よ?」
ハルヒは俺を見上げて訊いてきた。どうでもいいけど顔真っ赤だぞ。
「お前、解ってて訊いてるだろ?」
「そんなの超能力者じゃあるまいし解るはずないでしょ。ちゃんと言いなさいよ」
おい、自分の言動に責任を持て。さっきお前も同じようなこと言っただろうが。
「うるさい! さっさと質問に答える!」
こんな至近距離で怒鳴るな。
「うるさいのはどっちだよ」
俺は肩をすくめた。
その所作が気に入らなかったのかハルヒはなおも抗議を叫ぶべく口を開いた……が俺はその声を出させなかった。
顔を寄せ、口を開けたハルヒに熱烈なキスをあびせてやる。いきなり舌を使った激しいディープキス。
その口撃のあまりの突然さにハルヒは報復も忘れ、ただ俺の愛撫に身を任せていた。
口内の感触を堪能し唇を放す。
「こういうことさ」
「答えになってない!」
ここまでされて解らないのか? 鈍感だな、お前も。
「〜〜っ!」
ぷるぷると肩を震わせて悔しさを滲み出させる。
ハルヒはしばらくそうしていたが一つ大きな息を吐くと、諦めたような口調で、
「ちゃんとキョンの口から聞きたいの……言って」
だからさっき口で……。
これ以上のボケをハルヒは許さなかった。
「もう焦らさないで、お願い」
と、上目づかいで一言。
ぐあっ! こいつ男心を解ってやがる。これで墜ちないやつはゲイだな。
「好きだよ、ハルヒ」
言って軽くキス。
やっぱり二人の気持ちが通じ合ってないとな。
さあ、ハルヒの番だぜ。
「ふっ」
かすなか呼吸音の後、小内刈り。視界が九十度回転する。
おい! いきなり何すんだ。危うくドアに頭をぶつけるところだっただろうが。背中も痛ぇぞ。
「さっきの仕返しよ! キョンのくせに調子に乗っちゃって……
あー、もう腹立つ! 今日はあんたになんてやらせてあげないんだからね! あたしがあんたを犯しつくしてやるっ!」
「まあいいがその前に言うことがあるだろ?」
「そんなもんない! もう始めるわよ!」
おうっ! いつの間に俺の下半身を露出させたんだ?
小内刈りってそんな技だったか?
そんな俺の疑問をよそにハルヒによる凌辱が始まった。
結局俺はこいつには勝てないってことか……いや、まだ時間はあるさ。
俺は戦い続けるぞ。いつか勝利を掴むその日まで。
ま、一生かかってできるかどうかだろうけど。